殲滅戦争 作:Libro
荒野。そこには異形の軍勢が居た。
角の生えただけの人間からでっぷりと太った二足歩行する蛙まで。大小さまざまな異形。
中には四メートル程の一つ目の巨人さえ存在する。
総数四千二百。魔王が作り出した軍勢であった。
「いいな。実にいい」
にやり、とその軍勢を見た男──ディロンが笑った。
「これまで滅ぼした村々の人間を材料にした軍勢です。私の力も合わせれば相当なモノになるかと」
片膝を付き。緑色の渦の塊──魔王が魔神に忠誠を誓う。
「これだけ用意できたの、私が居たからということ忘れないでくださいね?」
カチャカチャという金属に似た音を鳴らしながらウードが呟いた。
魔神と魔王が素晴らしいと共に笑う。
ウードの仕事は転移による輸送だ。
滅ぼしたドワーフの都市からは勿論。それ以外の人間の都市等からも物資を運びだした。
物資と言ってもその内容の殆どば武具だ。人間が作った魔道具やルーン武器を四千もの兵全員が装備出来る程に集めた。
人間の武器を利用するのは単に魔族は武器を作れないからだ。
その爪は敵を裂く為に存在し、その足を幼子をけり殺す為に存在する。武器を作るという行為そのものが魔族には出来ない。
変異種ともいえる魔物から魔族に成りあがった者は例外として作りうるが作ったところで魔道具やルーン武器には成らない。ならば最初から人間から奪った方が効率がいい。
作れないだけで魔道具でもルーンでも好きに使えるのだから。
更にこの軍勢の殆どは魔王が作り出した魔族だ。人を殺す為だけに知性を持つ怪物達。
武器と知能。人と魔族の差はこれでほぼ無くなっただろう。
『こちらの軍勢は凡そ八百といったところか。そちらには圧倒的に劣るが質では上回る』
ケントニスの紹介と共にウードが転移を使いディロンが作り上げた精鋭兵である
魔王が作り出した魔族と違い
中にはドアイラクやトーベンという単機で街一つ滅ぼしうる個体もいるがそれらとて避けれない──というよりは上位の者ほど致命的としか言えない欠点。
最悪そこらの剣を持った農夫にすら倒されうる欠点。故にケントニスは
ただ現状では解決策は見つかってはいる。それをするのに多少時間がかかるだけだ。
『さて、ここからの計画を放そうか』
ケントニスがそう言い。自身の体──本から一つの巻物を取り出す。
取り出したのはユーカリの地図。かつて冒険王が世界を踏破した証明。
念力の魔術を行使し起用に地図を広げる。
『これが今から攻め落としに行く都市。商業都市シュテーレンだ』
ユーカリの地図に映るのは一大商業都市であるシュテーレン。その詳細にも程がある地図だ。
地下下水道の地図や領主しか知らないはずの隠し通路。地下にある盗賊ギルドの本拠地と闇市場。
更には違法闘技場等の本来知りえない情報や冒険者がせっせと作っている塹壕や城壁等の戦略的価値の非常に高いモノまで。
ユーカリの地図は一度登録した場所の情報すべてが常時手に入る。対抗策などありはしない。
『故に。部隊を三つに分ける
一つは本陣。魔王率いる軍勢。二つ目は遊撃隊。ウードの転移能力を使い空から奇襲してもらう
三つ目こそ本命だ。ディロン本人にはここを攻めてもらう』
本から触手を出し。起用に地図上を示す。
「ここはなんだ?」
示された場所は攻め落とすと言った街から遠く離れた地だ。川を一つ挟んだ向こう側の地。
『ここは単なる街だが、シュテーレンからの避難民が集まっている。ディロンにはここに行って貰い、虐殺してもらおう。あぁ、勿論全員殺すなよ? ある程度は残さなければ計画の意味が無い』
「わかってるわ」
『さて。作戦の全容だが──』
■
「さて。今回の対魔族戦だが……誰が指揮を執る?」
商業都市シュテーレン。その領主の館。
赤い机が目立つ会議室にて、街の重要人物が集っていた。
異世界より呼び出されし勇者藤原と同じく出雲。
シュテーレン領主であるミヒャエル・オーゲン・シュテーレン。
衛兵隊隊長のローザ・フィーメル。
クリセルダ将軍ガレス・セント・ウォーレン。
仮面乃人の子孫。今尚大商人として国外からも一目置かれるマティアス。
勇者の仲間にして最強の冒険者であるネボと魔術師クレール。
この都市の顔役たる者が一か所に集まり会議を開いていた。
その中。現勇者元高校生である勇者の二人は会議に多少緊張する。
既に異世界に来てから一年以上過ぎている為この程度ではガッチガチに緊張等はしないがそれでも慣れない。最初のころの様に諸に顔に出るようなへまはしないが。
「指揮ならば将軍でいいでしょう。この中で一番慣れているのはあなただ」
ネボが最初にそう提案し、さも当然とガレスが胸を張る。
ガレスは単純な戦闘力ならばこの中では下から数えた方が早い程度には弱い。だが個の戦闘力と指揮能力は別物だ。
一人ではそこらのオークといい勝負が出来る程度でも、指揮する立場になれば駆逐できる力を持つ。
「えぇ。私に任せてください!」
大きな声で、自信満々にガレスが叫んだ。
会議は進む。次にどうするか、誰かが口を開きかけた時。
こんこん、という優しいノックが部屋に響いた。
■
数日後。シュテーレン。
「来たぞぉ!」
声を拡散する魔道具を使い、見張り兵が叫んだ。
視力強化の魔道具を使い、視認した先に現れるのは魔王の軍勢。
人型の狼。人型の豚。蛙、鶏。ペンギン。
多種多様な魔族で構成された軍勢だ。
最も有名でポピュラーな緑色の肌と子供程度の身長を持つゴブリン。巨大な体に豚の顔を持つオーク。三メートルの巨躯に一つ目のサイクロップス。
その中において、異質なモノ達が居た。
全長凡そ五メートル強。人間を無理やりくっつけた様な紫色の巨人。
交易都市を襲ったのと同じ
その巨兵を守るかのように。
二足歩行の人型。三メートルの体。頭部には眼も口も無い。その手には自身の身の丈ほどもある大剣、斧。弓と一個体ずつ別の武器を持っている。
魔王が作り出した軍勢が。魔神が作り出した兵が一つの軍となり。人を滅ぼすべくやって来た。
ごくり、と誰かが唾を飲んだ。
これだけの軍勢等。二百年以来だ。人類同士の戦争等無いし魔族が群れるということも無かった。この現実に誰もが恐怖する。
伝えられた情報では敵数凡そ四千。魔物というならばまだしも魔族という魔物の上位種。一般兵には絶望を与えるには十分な戦力。
兵の恐怖をかき消すように。一人の男が大きく息を吸い込み、叫んだ。
「放てぇぇぇ!」
男──この戦いの全指揮権を持つガレスの声が戦場に響いた。
魔道具や魔術ではなく純粋な声量からなされる怒号は城壁の上に待機する兵達が動く。
人よりも大きい巨大なレバーを力よく引き、城壁上に付けられた砲台を起動する。
歯車が動き、ルーンで補助された機構が回る。
砲台が起動し即座に砲弾が放たれる。
砲弾と言っても余りにも巨大すぎる。全長三メートルという巨大な砲弾は一直線に飛翔し
そのまま
遥か彼方──城壁からは遠い八百メートル先で着弾と爆発を起こす。
それだけ離れているはずの城壁の上にも暴風が届き、土や小石が飛んでくる程の爆発。
即座に魔術師が防壁を張り防ぐ。
この爆発は科学的現象。魔力等を用いた魔術や魔法ではない。この世界の錬金術師が作り出した──地球の知識を元に捜索・制作を成した数少ない技術の一つである液体火薬。
特殊な薬草と鉱石を一定量。一定時間接触させることにより爆発するという異世界らしい火薬の一つ。
地球におけるニトログリセリン等の様に少量で爆発を起こせず、最低でも500mlと100gの鉱石が必須という特異性のせいで銃などには使用できない火薬はその量に見合った爆発を引き起こす。
更に砲弾に搭載された量は驚異の一リットル。また砲弾を放つと同時に内部から液体を鉱石に浸透させる機構を使うことで着弾と同時の爆発を実現した。
結果──着弾地点の周囲の魔族が死ぬ。
灰となり消えるのには多少の時間差が存在する。その短い間に破片は周囲の魔族へと牙を向き傷を与える。
中には致命傷を負い、そのまま消えるのも居るが全てが倒される等ということはない。魔王の力で強化された兵ならばこの程度の攻撃の余波で容易く死にはしない。
被害は
爆発によって起きた煙が晴れ、戦場が見えやすくなり魔族が侵攻を再開する。
一歩、二歩、三歩──とゆっくりと歩き始める。
そうして十歩目かそこらで。また爆発が起こる。
砲台ではない。砲弾のサイズからしても装填に時間がかかる兵器を使うことは出来ない。
ならば何か、と言えば地雷だ。
一定以上の衝撃を受ければ爆発する物理的トラップ。国の錬金術師を総動員して作り出させた爆薬。
上位の魔族には一定以上の魔力が籠っていない攻撃を無効化するのもいるが──今回の敵はただの魔族だ。だから通じる。
「……凄い爆発」
城壁の上で藤原がそう呟いた。
これだけ用意周到に準備出来たのにはもちろん理由がある。
それは、エルフの国とドワーフの国。両方からの情報提供。
エルフ達が何処から来るかを。ドワーフ達が魔王軍の戦闘手法を提供。
結果、魔族たちに対する対策を十分に出来る時間があったという訳だ。
そしてそれを知らないケントニス・ヴィッセンではない。
これらすべて想定通り。ユーカリの地図を用いれば人員の移動や兵の移動等全てが丸わかりだ。城壁の強化や塹壕の生成等、地形に影響を与えることもわかる以上あらゆる戦略は筒抜けになる。
だから、次の手も想定通りに過ぎなかった。
「行くぞ! 冒険者共! 魔族を打ち倒せ!」
隠れる様に、地雷原の向こう側──街の程近い位置にある塹壕から冒険者たちが次々と飛び出し武器を手に叫ぶ。
武装は冒険者らしく統一感が無いが、一つだけ奇妙にスカーフを付けている。
腕に付けられたスカーフは形こそ同じだが色が違う。赤、青、黄色と幾つかの種類に分けれている。
全員が違う色という訳ではない。ある程度──塹壕から飛び出した者同士で色は統一されている。
はてさて、これはどういうことかとケントニスは戦場の遥か上空で頭を捻る。
そして、冒険者が雄たけびを上げ突進するのに合わせ、魔王軍の最奥からも声が上げる。
移動用の
黒い肌に鱗の生えた体という人外の姿のモノは叫ぶ。
「行け! 魔族たちよ! 我が僕たちよ! 冒険者共を食い殺し、人間共を薙ぎ払い、我らの楽園を作り上げようぞ!」
かくして人間と魔族の戦いが始まった。