殲滅戦争   作:Libro

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第6話

「行くぜぇ! 野郎ども! 俺たちの力を! 魅せてやれ!」

 

「「ウォォォォォ!」」

 

 冒険者たちの声が遠くまで響き渡る。

 大人数での魔力を込めた叫び(ハウリング)は魔物達に微小なダメージを与えるが、獣の魔物はそんなの知ったことかと突っ込んでくる。

 

「俺に続けェ!」

 

 戦闘の狼の獣人──ヴァン・フントが城壁を駆け降りる。

 狼の獣人である彼は、他の人間よりも──同族よりも速い。

ヴァンに続き他の冒険者たちも城壁を駆け降りたり、普通に落下していくも誰も怪我一つしない。

 夜の闇の中、獣人としての種族的能力で闇夜を昼の様に見える彼は迷いなく魔物に接近する。

 

「ウォォォォォ!」

 

 叫びながら突っ込んできた狼型の魔物を素手で殴り飛ばす。

 走りながら放たれた拳は直接殴った魔物以外にも周囲の魔物を拭き飛ばす。

 

「流石ヴァンさん! つえぇぇ!」

「俺たちも続くぞ!」

 

 エルフの弓使いが。人間の剣士が。獣人の魔術師が。

 

 各々違う特殊な武器古代の遺物(アーティファクト)を振るう。

 弓から放たれた矢は上空で分裂し、百に分かれた矢は全て魔物に命中する。

 

 剣士が放った斬撃は魔力を纏い空を走り何処までもーー何十体の魔物を切り裂き最奥の巨大な魔物(ゴーレム)にぶつかってようやく止まる。

 他の獣人が小手から放った魔術は巨大な獣の爪の形に変化し、魔物を跡形もなく吹き飛ばし、大地に癒えぬ傷を与える。

 しかし先陣の獣型──狼、猫、豹等の魔物は知ったことかと突っ込んでくる。

 冒険者もそれに負けじと戦いに赴く。

 

 

 古代の遺物(アーティファクト)

 この国の産業でもある迷宮から産出される特殊なアイテム。魔道具やマジックアイテムと違い人の手では再現できない力。

遥か昔。人類が文明を得る前から存在する力の総称。

神々が地上にいた頃からのーー世界が楽園だった時の力の残滓。

 数百年前──冒険王の時代より取られづづけるアイテムは尽きることなく人に当たえられ続ける。

 そのどれもが強力無比で唯一の力(オンリーワン)。たった一つの本が戦局を左右できる程に強力。神々が残した神器に次ぐ力。

 

「ヒーハー! ただの肉団子じゃねぇか!」

「ウォォォ! イケイケェ!」

 

 

 この街の冒険者の大半は各々古代の遺物(アーティファクト)を所持している。

 それが全体の戦力の底上げになり、魔物相手に無双していく。

 数百年前の人間同士の『大戦』ではこのアンファングから採掘された魔剣や盾、魔術書が戦況を分けたという証拠もある。

 他の迷宮に比べ、このアンファングという都市の古代の遺物(アーティファクト)は一線を画すのだ。

 

 数千の魔物の軍等、普通は誰もが逃げ出す事態だが誰もが逃げなかったのはこれのおかげだ。

 無論それ以外にもありはするが──

 

(──何故魔物が逃げない?)

 

 

 冒険者がこっちが有利だと叫び、脳死で魔物に特攻する中、たった一人ヴァンが考える。

 

 

(普通こんだけ不利だとわかりゃいくら魔物でも逃げ出すはずだが──)

 

 

 この世界における魔物は邪悪なる神々が生み出した眷属であり、先兵だ。

 魔物は本能で人を襲うように創られている。

 故に魔物が人を見つけ襲うというのは普通だが魔物とて知恵はある。

 自身が不利だと悟ったりすれば逃げる程度の思考力はある。

 そもそも魔物が群れること自体が異常。

 魔物は本来単独で動く。群をなす魔物もいるがそれらは同系統でしか群れることはない。

 このように多種多様な魔物が群れることはぞれこそ──

 

(魔族でも現れたか?)

 

魔族。魔物の上位種。

知性無き魔物と違い言葉を喋り、魔法を行使してくることもある異形の者達。

獣人やエルフと同じように神々に作られた生命とは異なる物。邪悪なる神々が世界に放つ災厄の具現化。

確かに魔族ならば魔物の使役能力を持つ。だがそれにしても。

 

(ただぶつけてくるだけ。戦略の欠片もねぇ)

 

そこが疑問。

魔族というのは知恵が回る。

このように大軍率いてやってくるのならば戦略なり計画なり建ててくるはずだ。

純粋な戦力ならば魔族は人間に劣る。これだけの数用意するのも手間がかかるというのに消耗するだけというのは余りに可笑しいはずだ。

如何に魔王という切り札があったとしても。

 

 

「うわぁぁぁぁ!」

「なんだあれ?!」

「でけぇしはえぇ!」

 

 先陣を切った冒険者の叫び声に思考を戻す。

 みれば巨大な──十M以上のサイズを誇る巨人が歩いてくる。

 どしどしと、地面を揺らしながらの徒歩。

 走っているわけではないが、単にサイズがでかすぎて歩くだけでも結構なスピード。

 

「趣味わりぃな、おい」

 

 そうして近づいてくる内に相手がわかる。

恐怖に顔を歪めた人間。緑色の皮膚と人を越えた巨体を持つ魔物ーーオーク。

緑色の肌と人間の子供程度のサイズしかなく、鼻が異様に長いゴブリン。

多種多様な魔物と人間の融合体。動く肉人形(フレッシュ・ゴーレム)か。あるいは別種の存在か。

 

微かな腐臭に顔をしかめながら、ヴァンは冷静に相手を観察する。

 

(ーーどうやってあれを作った?魔物の融合なんてあり得ねぇ。考えられるのは狂気を司る神(ヴァーン・ズィニヒ)か?)

 

考えても仕方がない。まずはこの状況をどうにかするのが先だと叫ぶ。

 

「数分稼げ! 俺がどうにかする!」

 

 

 おう、任せろと冒険者が叫ぶ。

 

「『オルカ―ン・ハイレン──狩の神よ 偉大なる我らが祖よ 狩人にして英霊の力をわが身におろしたまえ』」

 

 降霊の奇跡。

 オルカ―ン・ハイレン。

 狩と治癒を司るという善なる神(ハイリヒ)の一柱を信ずる者のみ使える力の一つ。

 獣人たちの祖であるとされるかの神の力を用い。祖先の英雄の力を借り受ける力だ。

 奥の手として使える力だが無論デメリットもある。

 祖先の英霊を身体に下す以上体一つに魂二つという本来生命の許容を大きく超える。

 単純な肉体への負荷のみならず。下手すれば下した魂に人格が汚染──最悪自分の魂を潰され死ぬ可能性もある。

 グングンと体が肥大化。筋肉が膨張し、単純に体のスケールが二回り程上がる。

 そのせいで元々小さい服がパツパツになってしまうが、気にすることはない。

 巨大化と言ってもたかが二回り程大きくなった程度なので眼前の巨兵には遠く及ばない。精々が300cm強と言ったところだ。

眼前の巨兵は凡そ10m以上。サイズでは負けている。

 

 

「ウォォォォォ──!」

 

 叫ぶ。自身の恐怖を押し殺し、味方を鼓舞するために。信ずる神に勝利を捧げるために。

 ただの魔力も籠っていないただの叫びが地面を割り、周囲の冒険者をも吹き飛ばす。

 更には巨兵も揺らすも、ただの叫びでは揺らすのみ。ダメージにはなり得ない。

 

巨兵がヴァンを殴り殺そうとこぶしを振るうも体の動きが鈍い。

無理矢理にーー魔術の知識の無い者が作ったゴーレム擬きは緩慢な、蠅も止まりそうな程に遅い。

それもそのはず。魔物は本来死ねば灰となって消える。無理矢理押しとどめることなどできず材料にされた魔物は死に灰に変わっていく。

しかし遅いことと威力が違うことは別のことなのか、巨兵が足を踏み込めば地面に罅が入り、それだけで周囲の冒険者を圧倒する。

その力を目のあたりにしてなお、ヴァン・フントはーー人間より劣るはずの獣人である彼は己を奮い立たせ、巨兵のこぶしを受け止めた。

 

「ウォォォ!」

 

 ガン、と両腕から全身に強い衝撃が走る。

 奇跡を使っていなければ確実に潰されミンチになっていただろう。

 事実衝撃を受け止めきれずに地面が陥没している。

 

「ぬん!」

 

 気合を込め、巨兵の拳に自身の拳をぶっ挿す。

 その勢いのまま持ち上げる。

 腰に力を入れ、巨兵ごと回転する。

 ブン、ブンという風切り音が周囲に響く。

 

「ウオラァ!」

 

 回転の勢いがついたまま、奇跡を解除。

 体のサイズを小さくし、突き刺した拳がすっぽ抜ける。

 

 巨兵が遠く──と言っても精々数十M程度遠くに飛ぶ。

 そのまま落下し、自重で崩壊。

 丁度落下地点にまで来ていた数十の人型の魔物──オークやオーガを下敷きにする。

 

 やった、流石だと周囲がほめたたえる。

 そんな声に紛れて何かが抉れる音がする。

 自身の息の上がった声で気づきづらかったが、何処か──地面から音が消える。砂利を踏みつぶすような音だ。

 

「足元に気をつけろ! 何か来る!」

「え? なにが──」

 

 来る? という言葉は遮られた。

 足元から土事丸のみにしてきた魔物によって。

 喰らわれたのは一人だけでなく二人程回避が間に合わなかった冒険者が食われている。

 

 

 足元から突き出た魔物は一層奇怪なフォルムだ。

 蛇のように細長く、オークのように太った肉は緑色であり気色が悪すぎる。

 緑色の肉がぴくぴくと独立して動き、まるで肉塊一つ一つが動いてるかのように振舞う。

 肉からは葉っぱや草、小さい木が突き出ており動くたびに付着した葉や獲物の食べ残し(人肉)がぽろぽろと落ちる、

 先端には目も鼻もなく、大きく円形に開いた口と外側に突き出た獲物を仕留める為の牙。

 

 

森の大ミミズ(フォレスト・ワーム)?! 森の魔物が何故ここに!」

 

 

 森の大ミミズ(フォレスト・ワーム)。名前の通り森に居る魔物。

 あくなき食欲を持ち、森の獣や木を、更には同族たる魔物も喰らうこともある。

 森の探索時には気を付けるべき魔物として有名な魔物。

 そして同時に森にしか生息しない魔物。

 

 

 ぐちゃり、と捕食し終えた森の大ミミズ(フォレスト・ワーム)がこちらを見る。

 それは眼等ないはずなのに、こちらを認識しているかのように口から涎を垂らしてくる。

 

「上等だ! こっちが食ってやる!」

「育ちすぎのミミズが! 森に帰れ!」

 

 喰われた男のパーティが(かたき)だと叫び、それに続くように冒険者が騒ぐ。

 

「よし、俺たちもーー」

「待て!他にも来るぞ!」

 

追加で、森の大ミミズ(フォレスト・ワーム)を援護するように四足で動く人型の魔物ーーゴーレムがやってくる。

一体一体は魔物よりも脆弱。だが数は非常にーー視界を埋め尽くす程に多い。

 

「うぉぉぉ魔物かなんか知らんが死ね!」

「俺がこの前拾った古代の遺産(アーティファクト)の錆になれ!」

「彼氏に振られた恨み!お前らで晴らしてやる!」

 

「お前ら! やる気があるのはいいが、突っ込みすぎるなよ!」

 

 

 おう、わかってると戦いながら返事をする冒険者達。

 

(さぁ、時間は稼いだぞ──後はどうにかしろよ、リーダー(ヴェター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異形の軍と人間が戦う中、奥で待機させた円形のゴーレムの上から戦場を眺めていた不破は顔を歪めた。

 

「雑魚共が……!雑兵にすらならんのか……!」

 

ぎり、と歯を強く噛み締める。

 

(ちっ。これなら旅人に扮して迷宮に来た方が良かったか?ーーいや駄目だ。なんでゴミ虫(異世界人)と同じことをしなければならん……!虫唾が走る)

 

不破泰二の目的は迷宮の踏破。かつて冒険王が見つけたという遺産を見つけ出すこと。

それなら確かに、軍を送り込む必要はないだろう。だが。

 

(……冒険王しか見つけていないのを真面に攻略して見つかるわけがない。なら数に任せた方がいいなーーうん)

 

冒険王が迷宮を攻略してから実に百年以上。

その間、迷宮都市アンファングは発展を続けた。

今でこそ国そのものが困窮してしまったがーーアンファング自体は影響を受けていない。

 

ということは、アンファングの迷宮はいまだ完全に攻略されていないことの証明になる。

 

掘りつくされた迷宮からは遺産も道具も何も出ない。だがアンファングからは数百年物間ずっと古代の遺産(アーティファクト)が発見され続けている。

ならばまだ冒険王の手記ーー信憑性は非常に低いーーに乗っていたというのも残っているだろうと来た。

 

(そもそも俺は直ぐに地球に帰らなければ……!就活まだ終わってないんじゃボケが)

 

不破泰二は大学生。

日本ではやるべきことがある。

企業へのES提出。友人に借りた漫画の返却。母と約束した夕ご飯の買い出し。

異世界に転移したということに比べればどうでもいいことかもしれない。だがそれでも。

 

勇者でも何でもない。ただの不破泰二にとっては大切なこと。

 

この世の何よりもーーどこの誰とも知らない誰かがいくら死のうがどうでもいい、とっても尊くて大切なこと。

 

一刻でも早く帰還しなければならない。

既に何日も経過してしまった。面接予定の第一志望の会社は既に落ちただろう。友人は「あいつ漫画借りパクしやがった」と憤慨しているだろう。

心配性の母は既に行方不明者として警察に駆け込んでいるかもしれない。

 

帰るのだ。地球に。日本に。家族の元へ。他の何をーーただ生きたかっただけの者を殺してでも。

 

 

「面倒だーー!すべて纏めて"吹き飛べ"……!」

 

 立ち上がる。

今も何故か作れた巨大なゴーレムが破壊され、連れてきたーー追い立てた魔物の殲滅が終わりかけている。

迷宮を攻略ーー数に任せた人海戦術で消費するはずのゴーレムを追加で投入したが殲滅も時間の問題。

ならばもう捨て駒にした方がいい。ゴーレムなど物質があればいくらでも量産できる。土や岩。なんでも材料にできるのだから。

 いくら使っても尽きぬ無限の魔力は、ただ放つだけで地形をも変える。

 造ったゴーレムも、魔物も、全部吹き飛べと魔力を──

 

 

「──あ?」

 

 スパン、と左腕が肘先から切り落とされた。

 ぼとっと、落とされた左腕がゴーレムの上に落ちて肘から血が溢れ出す。

 集めていた魔力が霧散し、空気上に消える。

 それに遅れて、ズドンとゴーレムの上に誰かが降り立つ。

 

(認識できなかった? 切り落とされるまで?)

 

 痛みよりも疑問が先に来る。

 これをしたのは誰だと降り立った者を見れば。

 

「……変態?」

 

 降りてきたのは褐色の肌に下着──フィックションならばよく見るビキニアーマーを纏った戦士。

 赤い髪に赤い瞳。いうまでも無いだろう。ヴェター・ヴェーステである。

 身長は不破に劣る……160後半程度。

 放たれる魔力は先ほど不破が掌に込めた魔力と同等──あるいは上回りうる程。

 強い眼でこちらを睨み奇妙な形の剣。シミターらしきものをこちらに向ける。

 ほぼ大事な所しか隠していない姿は現代日本だと職質案件だな、と不破は軽く笑った。

 

「──あなたがこの軍のトップ?」

「そうだとして、どうした?」

 

 少し魔力を放ち、威圧する。

 遅れて斬られた腕の痛みが走るが、頑張って無視しごそごそと腰に付けたポーチをまさぐる

 相手が少し怯む間に、目的の豪華な装飾が施された瓶を取り出す。

 ガラスでできた瓶は中身が見えており、赤くドロドロとした血液のような物が見えている。

 それを見たヴェターが上級治癒薬(ハイ・ポーション)と叫ぶが不破は無視する。

 

 グビッと、勢いよく飲む。

 片手で不安定になったからか、口から零れ不破が着ている鎧に付着する。

 空になった瓶をゴーレムの上に投げ捨てる。

 結構な勢いで投げたがガラス製の瓶は割れることなくコロコロと転がっているのは特殊なガラスでも使っているのだろうかと関係ないことを思考する。

 

 効果は直ぐに現れ、切り落とされた左腕に異変が生じる。

 少しの痛みと共にドバドバ出ていた血液が一塊になり骨が生成され始める。

 魔力を使う時とはまた違う奇妙な感覚。

 骨ができる傍から、筋肉が形成され。神経が。血管が生まれる。

 最後に皮膚ができ落とされた左腕を形成していく。

 

 

 しかしそれを見のがすヴェターではなく、直ぐに突進してくる。

 先端の部分が異様に大きく作られたシミターは、重心が先端にあり振り回すには苦労する剣だ

 その分、使いこなせば高い攻撃力を発揮するのか、ブンブンと強い風切り音を鳴らしている。

 

 勢いよく振り回され、回避できずに胸の鎧で受け止めた。

 

「回復中に攻撃するなよ」

 

 軽口を言うもこれは結構キツイと顔を歪める。

 これまで見た魔物も冒険者もすべてを凌駕する魔力。

 もはや生命の領域を超えた──神々に次ぐ超越者。

 なんでこんなのがいるんだと嘆きながら、腰に挿した剣を抜く。

 

「勇者みたいな格好しているのに、やってることは魔王ね、あなた」

 

「あぁ”殺すぞ」

 

 強い殺気と共に放つ。

 勇者みたいな恰好、と言われたように不破は服装を変えている。

 と言っても、王都にあった質が良さそうな装備を適当に持ってきた(盗んだ)だけだが。

 

 ダイヤモンドの宝石が付き金の装飾が施された鞘。

 抜いた剣の鍔は黒曜石。刀身はミスリルでできており、国宝級というか国宝そのものの剣。

 

 身に着ける衣服は魔石を溶かして獣の革に染み込ませた一品だ。

 白い服にはこれといった装飾もないシンプルだが、魔石を溶かして染み込ませた服は魔力への高い防御能力を有し下手な魔術や魔法では傷一つ付かない。

 

 服の上からはアダマンタイトの胸当て。

 物理攻撃への高い防御性能を誇る。

 それこそこの世界にはあまり存在しない物理的な銃弾を受けても傷一つ付かない。

 理論上は戦車の一撃にも耐える程に。衝撃は殺せないので実際に喰らえばミンチになるが。

 胸元にしか防具はないが鎧の中心につけられた魔石の魔力で全身に物理防御の魔術が込められている。

 

 つまりは弱い者なら傷一つ付けられないフル装備──魔王城前みたいな最終装備一式である。

 

 

腰から剣を抜き取り。ゴーレムを蹴り加速。

 そのまま剣を首に向かって振るう。

 ヴェターはそれを避けるが、剣先から衝撃波が放たれ、体制を崩す。

 

「"死ね"」

 

 即死の魔法と共に再度剣を振るう。

 しかし即死の魔法は通じず、こちらの剣は防がれる。

 舐めるな、と何度も剣を振るうがそのたびに防がれる。

 かすり傷一つ付けられない。

 

 少し後ろに飛び、対比しようとするが──今度はヴェターが剣を振るってくる。

 先ほどまでの攻撃を防ぐのではなく攻撃的な剣だ。

 どうにか防ぐが、何度も掠る。

 腕に、腹に、首に。

 再生した左腕にもかすり傷が付いてくる。速度もそうだが単純に剣の腕がいい。

 不破は転移で底上げされた身体能力でごり押しするのに対し、ヴェターは何年も積み重ねた技術で攻めてくる。

 大したダメージではないがちょっと煩わしい程度の剣が何度も何度も不破を削る。

 

 

「煩わしい!」

 

 

 叫び、跳躍する。

 その間に一撃胸に貰ってしまうが痛みを無視する。

 

 

 上空から、息を吸い、下を向き叫ぶ。

 

 

「"吹き飛べ"!」

 

 

 放たれた魔法は、すべてを拭き飛ばす。

 周囲の空気を、漂う魔力を。

 "吹き飛ぶ"魔法と空気によってヴェターとゴーレムが地面に打ち付けられる。

 ヴェターは特に何ともなく耐えるが、ゴーレムはそうは居なかない。

 専門知識等なく、本を読んで適当に組んだだけのゴーレムは端から崩壊していく。

 いくつものくっつけた人間の死体が、バラバラになっていく。

 ばらばらに砕けたゴーレムの残骸がずしんと土煙と共に地面に落ちる。

 

 それを見ながら暴風と共に地面に向かうが、それを見越したヴェターによって防がれる。

 そのまま右足で蹴られ、後ろにかっ飛ぶ。

 地面に何度も打ち付けられながら、コロコロ転がされる。

 何十mも吹き飛ばされたところで、ようやく止まる。

 直ぐに立ち上がり、口を開く。

 

「シ。ガアああア……?」

 

 魔法を発動しようと口を開けるが声が出ない。

 魔法の反動。

 

魔法とは世界に"命令"する力。命令することによって無理矢理にその現象をたたき出す。

その反動をなくすための力が詠唱。これまで不破泰二は詠唱無しに魔法を行使してきた弊害がやってきただけ。

魔法とは"誰が・どこに・誰に・どうやって"を明確にしなければ正しく機能しない。

 本来は長い年月をかけ、修練の元行使される絶対的な力を無理やりに使ってきたつけが来た。

 これまでは勇者としての力(チート)でどうにかなったのが、どうにもできなくなるほど蓄積されている。

 今だ上級治癒薬(ハイ・ポーション)の治癒の力は残っており、喉はいずれ治るだろうが時間が掛かる。

 そしてその隙を見逃すヴェターではなく、止めを刺そうと死体になったゴーレムの上を走りだす。

 

 

 一瞬、まさに刹那の時を動いて数十mを跳躍し剣を振るってきたヴェターを不破が剣をどうにか掲げて防ぐ。

 

 

 ガキンという硬い金属音。

 圧され、あまりの速度を受け止めたからか衝撃波が発生し周囲の土を吹き飛ばす。

 それをどうにか耐えるが腕に力が入らなくなり膝をつく。

 それでも何とか剣を握り耐える。ギリギリと剣の鍔競り合いが起こる。

 

(ここで終わるのか? こんなところで? こんな害虫に?)

 

不破泰二は元は日本の学生。戦いとは無縁だった者。

確かに与えられた力は強大。雑にーー子供のように振り回すだけで周囲を蹂躙できる。

だがそれ以上の力には対応できない。対応するための修練もしていない。

 

だがそんなことは関係ないと憎悪で心を歪めた。

 

 

 許さない。

 許せない。

 許してはならない。

 

 魂から溢れ出す無限の魔力が体を動かす。

 

 

 こんなところで死んでたまるかと。まだ終われないのだと。

 放出した魔力でヴェターが吹き飛ぶ。しかしすぐに体制を立て直し、剣を構える。

 

「オワレナイ……」

 

 今だ治らぬ喉から無理矢理声を出す。

 

「オマエノヨウなウジに──コロさレてたまるか!」

 

 

「蛆はどっちよ──ここで死になさい!」

 

 魔力で増幅した身体能力で突進し、ヴェターに剣を振るう。

 それに対しヴェターも剣で迎撃。カン、カンと剣の音が響く。

 

 剣と剣がぶつかり合う。

 先の技術で攻めてきたのではなく、少し力任せな剣だ。

 剣がぶつかり合う度に衝撃波が発生し周囲を吹き飛ばす。

 馬鹿げた身体能力で音速に近い剣を繰り出せばこうもなろう。

 

ただの余波。近づいてもいないのにゴーレムが吹き飛んだ。

なんだ、と幾人の冒険者が暴風の元に視線を向け、退避と叫び走り出す。

 

力と力の衝突。超越者の戦い。

それは明確に"災害"となって周囲に影響を与える。

少し近い城壁は余波で罅が入り、不破が迎えったヴェターの剣の余波で地形が軽く抉れる。

不破がふざけるな化け物と叫ぼうとし、その隙を狙われ更に傷を負う。

 周囲のゴーレムをこっちに来るよう思念で命令したいが声に出さなければ正確には命令できない。

 そもそもこちらの戦闘の余波で吹き飛びまくっている。

 

(駄目だ、負ける、殺されてしまう!)

 

 嫌だ、まだ死にたくないと抗い、剣を振るうも少しずつ押され始める。

 如何に勇者として呼ばれ身体能力を挙げられても。

 如何に転移特典(チート)を与えられようと。

 

 純粋たる努力の元鍛え上げた力には敵わない。

 

 それも当然。無駄に多くの命を散らしてきた者は無駄と断じた命によって散らされる。

 

 

 一瞬の思考の空白。

 

「しまっ!」

 

 ガラスが割れるようなーー違和感を含んだ音と共に剣が砕かれる。

 一秒以下の隙。時間にしてコンマ一秒にも満たない隙。

不和としては即座に素手で殴ろうとしただろう。だがヴェター・ヴェーステにとっては余りにも付きやすかった。

 

「死ね!」

 

 シンプルな罵倒。

 斬撃ではなく、突きとしてシミターが放たれた。

 

 

 ずぶり、と胸に剣が突き刺さった。

 

 

「ああああああ!いてぇいてぇいてぇぇぇぇ!!!」

 

 

 痛い、痛い、痛い、痛い──

 

 不破は本来こんな痛みとは無縁のハズの現代日本の若者だ。

 痛みへの耐性等なくただただ痛いと嘆くのみ。

 左腕を斬られた時はポーションで回復できるとわかっていたし、まだ現実感が無かった。

 ポーションはなく自身が絶対的に有利な状況でもなく。故にこれまで無視できた痛みを不破が襲う。

 更に奇跡か偶然か。心臓を貫かれることなく、腹部を貫通されたせいで苦しみは続く。

 これなら即死の方がよかっただろう。恐らく内臓ーー胃を貫通され背骨も斬られている。

 後ろから見ればシミターの先端が覗いているのが見れる程に綺麗に貫かれた。

 

 

 

 ──物語において、主人公が自身よりも強い敵に勝つ時とは、一体なんだろうか? 

 友情? 努力? それとも奇跡? 

 

 否。

 

 この場における勝利の鍵は──

 

 

 ガシッと、不破がヴェターの剣を持つ右腕を握る。

 即座にヴェターが抜こうとするが、強く、強く握る。

先ほどまで痛いと叫んでいた男はもういない。ここにいるのは。

 

「つ か ま え た」

 

 ニィ、と気色悪い笑顔を向ける。

 目は充血し、口から血が零れている。

たった一夜で都市を滅ぼした男。死とは無縁の筈なのに躊躇いなく女子供を虐殺した者が、そこにいる。

 

 

 主人公が強大な敵に勝つときは、やはり(執念)が重要だ。

 

 

「”死──」

「──アアアア!」

 

 しかし相手も最上位の存在。

 恐怖を感じてもそれを上回る心で凌駕する。

 

 

 ぶちぶちと嫌な音がする。肉を力で引き裂いた音。

 

「──アアアア!」

 

 ぶしゃっと、ヴェターと不破両方の顔に血が付着する。

 引きちぎられた肘から先が不破の腹に残る。

 

 

(自分の腕を捨てやがった!)

 

 

 何と言う執念。発動しようとした魔法も忘れ呆然とする。

不破泰二は何処までも"自分の為"に戦い、ヴェター・ヴェーステは何処までも"守る者の為"に戦っていた。

 れが勝敗を分けた。

 

 

「今だ! 引け!」

 

 

 心に割り込むような。注視せざる負えない声。

 みれば近くまで来てしまっていたのか城壁の上に男が見えた。

 最初に見た、妙な杖を持つ男──サイモン・アンファング・ローグ。

 

 その声に反応しヴェターが一瞬の躊躇もなく飛びのく。

 腕を千切られようと最上位冒険者は一瞬で飛びのく力を彼女は有している。

そして不破泰二は能力こそ高くともそれ以外がない。なんだと疑問を抱く前にサイモンが動く。

 

 ピカりと、サイモンが持つ杖からLEDライトに似た光が放たれる。

 その光がすうっと上に上がり。

 

「……あ?」

 

 

 瞬間。炸裂。

 防ぐことも、避けることもできない空よりも青い光に、不破泰二と周辺は包み込まれた。

 

 

「アアアアアアァァァァ!!!!」

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