殲滅戦争   作:Libro

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第61話

「うぉぉぉ死ねぇぇ!」

「ぶっ殺すぶっ殺す!」

「ひぃーはぁー! 金がやって来たぞぉ!」

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……!」

「おめぇ既婚者だろ」

 

 

 商業都市シュテーレン。その郊外は戦場となっていた。

 魔王率いる軍勢と冒険者たち。その戦場に。

 この場に騎士は居ない。騎士は対人戦特化の者達だ。この場に来させても邪魔になるだけ。騎士たちは避難民の護衛をしている。

 

 単純な戦闘能力ならば。この世界では騎士よりも冒険者が勝る。

 例えるなら地球における軍人と警察の様なモノだ。常に戦い続ける冒険者と対人というよりは犯罪者の対応ばかりで命を懸けた戦い等未経験な者が多い騎士や衛兵では練度に天と地ほどの差がある。

 

 後は装備品。既製品で統一された武具しか許されない騎士と自作可能で曰くつきだろうと利用できる冒険者の武器もまた差がある。

 

 

「うおらぁ!」

 

 一人の冒険者が魔族に対し大剣を振るい。そのまま両断する。

 魔族の強靭な皮膚もドワーフの武装も関係ない破壊力。暴力をもって解決する。

 

「雑兵だな」

 

 着物を着た男は刀を振るい。魔族を粉微塵に斬り刻む。

 それにかかった時間は一秒。瞬きする間に敵を葬り去る。

 

 他にも蛇人が棍棒を振るい。女戦士が槍で戦い。魔術師は好き勝手に魔術を放つ。

 

 集団戦──というよりは個々人でのプレイ。

 

 戦争における戦略もクソも無い。集団と集団が勝手に戦うだけの光景。

 これがこの世界における一般的な戦争風景。

 またある程度は地球における戦争と似ているとも言えるだろう。地球では科学技術の発達により郊外での戦闘等ほぼ無く大体が市街戦だったりするが。

 地球の中世程度の時代の戦争もこれと似たよなモノだろう。集団と集団がぶつかって戦うだけだ。

 違うのはこれに計画性があるか否か。

 

 情報伝達手段が発達してない──というよりは発達できない異世界では一度戦闘が始まれば連絡など出来る訳がない。

 声を出しても戦闘の音でかき消されるし、下手に叫べば敵に殺される可能性も高いし、その叫び声が致命的な隙を作るかもしれない。

 地球においては戦争にもある程度のルールがあるが異世界にはそんなものはない。まさに何でありの無法地帯。

 

「さて。そろそろか」

 

 そこに。一人の男が歩いてくる。

 

 まるで散歩にでも出かける様な気楽な歩み。戦場ということを考えれば不自然に思える。

 そのままゆっくりと。緩慢にも思える動きで魔族に近づき。

 

「ほへ?」

 

 バッサリと。魔族を両断する。

 何時の間にか男の手には剣が握られていた。

 柄に宝石が一つ付けられただけの、他に特徴等無い普通の剣。

 腰に差していた訳でも背中に鞘がある訳でも無いというのに。先ほどまで無手だった男は剣を手にしている。

 

「さて。殺戮劇(ジェノサイド)と行こうか」

 

 男──最強の戦士として知られるタリは気さくに笑った。

 

 そこから始まるのは宣言通りの殺戮劇。抵抗等出来ぬ虐殺。

 剣を振るおうが槍を突き立てようが盾を構えたところで無駄無意味。最強の戦士であるタリの前にはあらゆる技能は意味を成さない。

 一方的に殺されるだけならば。突撃する意味等無いように思えるが──魔族にそれは許されない。

 魔族とは人類の敵。人類を滅ぼすだけの存在だ。ならば目の前に人類が居るというのに、逃亡は出来ない。

 いわば本能──というよりは生まれ持っての機能とでも言うべきモノだ。眼が何かを見る為にある様に。耳が音を拾う為にあるように。魔族は人類を滅ぼす為だけに存在する以上。その機能からは逃げられない。

 何事にも例外はある。創造主である邪神やそれに近い命令権限を持つ魔王等から何かしらの命令が下ればそれが優先されるが命令が来ない以上人を殺す以外の行動は出来ない。

 

 故に。一歩的に殺される。

 

「……もうあの人一人でよくね?」

 

 その光景を見ていた冒険者が。ポツリと言葉を零した。

 

 そして事実。この程度の軍勢ならばタリ一人で事足りる。

 いや。それどころかネボやクレール一人で殲滅出来るだろう。英雄級の実力者とは英雄以外全員殺せるからそう呼ばれるのだから。

 だが、それをさせない為の戦力も存在する。

 

「む」

 

 怒涛の勢いで。軍の奥から複数の魔族──あるいは魔物が接近する。

 眼にも止まらぬ速度とはまさにこのこと。周囲の魔族を引き潰しながらの高速移動。

 

 それに対しタリは冷静に。何処からか盾を取り出し構え突進を防ぐ──と同時に魔術を行使し複数来ている敵を吹き飛ばす。

 敵はそれに即座に対応し空中で一回転。衝撃を散らし着地する。

 

「成程。雑魚とは違うようだな」

 

 にぃ、とタリは笑った。

 

 盾を虚空に消し。剣を取り出し構える。

 古代の遺産(アーティファクト)無限の収納箱(インフィニティ・ボックス)

 名の通り無限の収納を可能にする最悪の古代の遺産(アーティファクト)。使用に一定以上の魔力を持っている必要があるというだけの簡単な条件に対しその能力は極悪。

 無限に収納が出来る。あらゆるモノを。

 流石に生物相手には同意が無いと収納できないという制約こそあるがそれ以外は一切ない。やろうと思えば広大な湖だろうと山であろうと。国であろうと(・・・・・)収納できてしまう。

 更には形状変化も容易。腕輪や指輪にも変えれるし、武器の形にも変えれてしまう。

 現状タリは無限の収納箱(インフィニティ・ボックス)を指輪にすることで携行している。

 

 正しくタリにとってはこれ以上に無いほどに相性がいい古代の遺産(アーティファクト)。弓であろうと槍であろうと斧であっても使いこなせるタリならば。即座に相手に対して最も相性のいい武具を取り出せる手段は鬼に金棒。

 

 武具の持ち運びはこの世界でも旅々問題に上がる。卓越した魔術師であろうと異次元収納の様な持ち運び手段が無く。運ぶには地球と同じようにバッグに入れるなり背負うしかない以上嵩張る。

 それらの問題が一切なくなる無限の収納箱(インフィニティ・ボックス)は強力無比。

 

 ドン、と魔物が地を蹴った。

 

 跳躍。疾走というよりは地面を蹴ることによる連続移動。

 長身──三メートルの体。となればそれ相応に手足も長い。長い足での一歩は常人の10歩以上になる。

 

 更に異形の脚力。その速度は常人の視認を許さない。

 

 だがタリは常人ではなく。人外の領域に片足どころか両足どっぷりと浸かっている英雄。難なく反応する。

 人外の膂力で振るわれた戦斧をタリは取り出した片手剣で防ぐも衝撃までは殺せない。地面が陥没する。

 

「いいな。燃えて来た!」

 

 瞬時に後ろに下がり魔物の斧から避け、瞬時に足に力を籠め蹴り疾走。

 超高速疾走。最もAランク(化け物)に近いと称された男の力は絶大。素の身体能力は勿論何時かの農業都市の時と違い全盛期の装備を纏った今の状態のタリならば音速に匹敵──ないしは超える速度を叩き出せる。

 無論地上で音速など出せば衝撃波等で自身も周囲も吹き飛ぶがここは異世界。都合のいいように多少の衝撃波で人と魔族が吹き飛ぶだけに終わる。

 

 取り出したるは愛剣。名も無き名剣。

 優れた戦士は同時に優れた魔術師であり。優れた魔道具制作者でもある。

 魔術とは才能の世界。究極的には"出来ると思えば出来る"のが魔術だ。子雑多らしい理論やら精神論など要らぬ。出来るから出来るのだ。逆に一度出来ないと思えば出来なくなってしまうが。

 ならば自身の肉体を強化し超高速移動や飛ぶ斬撃等の超常現象を起こせるならばそれは魔術の領域だ。故にタリは最強の戦士であると同時に最強の魔術師とも言えるだろう。

 ただ取れる手段──行使する魔術の種類や知識はクレールには劣る。戦士を自称するように魔術を専攻している訳ではないから。

 余談になるが優れた魔術師が優れた戦士になるとは限らない。動体視力や反射神経などは魔術で強化できても本人の気質的に戦士が出来ないという者は多い。

 

 疾走。風となり戦場を駆ける。

 

 すれ違いざまに雑兵の魔族を斬り倒しながらタリは進む。

 

「魔王様からの命令だ! あいつは無視して他の冒険者(雑魚)をぶち殺せ!」

 

 その中。突如一体の魔族が叫び武器を構え冒険者の方に突撃を始める。

 魔王の固有能力。遥か遠くに離れていても命令を下せるという戦略的に見ればこ上に無いほどに最悪な力。

 魔族達はタリに眼もくれず。一目散に冒険者へ駆け寄る。

 

「うぉぉぉ! こっちに来やがった!」

「こいや魔族! てめぇらなんかこわかねぇ!」

 

 己のうちの恐怖をかき消すように叫び。冒険者たちも武器を構え突撃する魔族を迎え撃つ。

 

「いい声だ」

 

 にやり、とタリは笑った。

 練度も武装も申し分なく。更にはこちらはまだ切り札が一つある状態だ。順調に行けばこちら(人類)側の勝利は硬いだろう。

 

(不確定要素は度々目撃されたという例の魔神と本か。それさえ無ければ勝ちだな)

 

 

 そう思った矢先。魔物の動きが変わる。

 魔物──≪不可解な者≫(アンノウンズ)。魔神がそう呼称する怪物が動き出す。

 

 地を蹴り疾走。その速度は並みの冒険者では視認が出来ない高速移動。

 

(速い!)

 

 剣を片手に突撃する≪不可解な者≫(アンノウンズ)

 左右には槍を持った≪不可解な者≫(アンノウンズ)が続き。タリを包囲するように走りこむ。

 

 正面から来た≪不可解な者≫(アンノウンズ)が剣を振るい。その剣をタリも剣で迎え撃つ。

 それと同時に≪不可解な者≫(アンノウンズ)が左右に移動。同時に槍を突き出す。

 

「いい連携だ!」

 

 そう叫びながら即座に腕に力を入れ正面の≪不可解な者≫(アンノウンズ)を吹き飛ばし跳躍。槍を持った≪不可解な者≫(アンノウンズ)は勢い余ってお互いに槍を突き出してしまう。

 

 そこに。空を駆けて来た≪不可解な者≫(アンノウンズ)が斧を振るってきた。

 

(本命はこいつか!)

 

 気づけなかったタリはそのまま。回避することも防ぐことも出来ず斧をその身に受ける。

 めき、という少し嫌な音と共に吹き飛ばされ空を舞い、遠く離れた地面に叩きつけられた。

 すかさず他の≪不可解な者≫(アンノウンズ)が各々武器を手にタリに襲いかかる。

 

「舐めるなよ」

 

 タリは叩きつけれた姿勢から不自然に直立姿勢に戻り剣を振るう。

 

 槍を突き出して来た≪不可解な者≫(アンノウンズ)の槍を斬り落とし頭部を斬り裂く。

 斧を振るってくるモノにはその斧を片手で受け止め。握力を込めて斧を粉々に破壊する。

 剣を振るって来たモノには剣で打ち返しバラバラにする。

 

「どうした魔物共! どんどんかかってこい!」

 

 怒声を上げ。タリは冒険者と≪不可解な者≫(アンノウンズ)両方を威圧する。

 

 剣を片手に戦場を駆け。≪不可解な者≫(アンノウンズ)を破壊して回る。

 

「……ほんとあの人だけレベルが違い過ぎない?」

 

 魔族相手に懸命に。剣で撃ち合い魔術を撃ち合い戦闘を成立させている冒険者がポツリと呟く。

 最初こそ≪不可解な者≫(アンノウンズ)と戦闘が成り立っていたがもう成り立っていない。これではただの虐殺。一方的にも程がある。

 

 そして、ふと誰かが気づく。

 三メートルの長身。歪に長い手足を持つ魔物──≪不可解な者≫(アンノウンズ)の一体が不自然にその場から動いていないことに。

 

 最後の一体以外破壊しつくしたタリもまた気づき、剣を構える。

 

(奇妙だな……何故あれだけ動かない?)

 

 何かしら別の命令でも受けているのか。はたまた別の理由か。頭を悩ませようとしたタリは相手の動きに注視する。

 

 そして、頭が縦に割れた。

 

「は?」

 

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)の頭部。目も鼻も口も無いはずの頭部が縦に我。そこから牙が生えてくる。

 それと同時に目が生まれ。赤く光る。

 ドン、と強く一歩を踏み出す。

 

「め──」

 

 "面倒そうだ"そう言おうとしたタリは顔面を掴まれ口を閉じられる。

 喋ろうとしていたからか舌を強く噛み口から血がこぼれる。

 

 そんなタリにはお構いなく。≪不可解な者≫(アンノウンズ)はタリの顔面を地面に叩きつけ、そのまま疾走。

 地面にこすり付けながら全力で走る。

 人外の化け物がそれに相応しい膂力で走れば当然周囲はとんでもないことになる。

 大根おろしの様に削られるタリは勿論疾走によって生じる衝撃波(ソニックブーム)によって幾人かの冒険者や魔族が挽肉となる。

 

(調子に乗るな!)

 

 タリは口を閉じられ発生できない為心の中で叫び。魔術を発動する。

 発動するのは単なる暴風を生み出す魔術。威力ではなくノックバックに重きを置いた魔術だ。

 それにより≪不可解な者≫(アンノウンズ)が吹き飛びタリの口元が自由に戻る。

 

「雑魚ばかりかと思ったが、中々いいのもいるじゃないか!」

 

 吹き飛ばされたはずの≪不可解な者≫(アンノウンズ)は既にタリの目前。巨大な戦斧片手に接近していた。

 

 振り落とされる戦斧に対しタリは剣で迎撃。鍔競り合いが発生する。

 

「いいな。もっと力を見せろ!」

 

 斧と剣がぶつかり合い硬い金属音が鳴り響く。

 体躯の差と武器のサイズを考えれば容易くタリの方が吹き飛ばされそうな物だがタリは尋常ではない力を発揮し撃ち合うことを成り立たせる。

 

 

 撃ち合う二人の周囲は嵐。剣と斧がぶつかり合う衝撃により何者も近づけなくなっている。

 縦振りに横振り。突きに回避に正面衝突。

 卓越した戦士である二人の戦いは旗から見れば一種の舞踏にさえ見えるだろう。それほどに洗練された戦いだ。

 

 そうして撃ち合うこと十数分。突如空が晴れる。

 そして、曇る。

 

(何?)

 

 

 上空で戦うクレールとウードの戦いの影響はクリセルダ全土の空に及ぶ。一瞬でクレールが空の雲を消し飛ばしウードがドワーフの国を転移させた影響が地上にも多少は出る。

 当然タリにはそんなことはわからず何が起こったか考えてしまう。刹那の思考。一秒に満たない一瞬動きが止まる。

 

 しまった、そう思った時には既に遅い。

 

 即座にの戦斧の柄が。タリの胸部を貫いた。

 

「がっ──!」

 

 痛みで声を上げる。

 貫かれたのは心臓だ。正確無比に心臓を撃ち抜かれた。

 だがこの程度で死にはしない。最高位の冒険者ならば心臓を撃ち抜かれようが肺を取られようが即死等しない。数秒あれば再生出来る。

 しかしながらその数秒が問題。英雄級の者同士の戦いは一秒が致命傷に繋がる。

 

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)が貫いたまま。柄を動かす。

 内臓を回す……ではなく。そのまま上に動かすことで両断しようという魂胆だ。

 流石に脳まで両断されたら流石に死ぬ。生物として。

 

 がしりと、タリは柄を掴んだ。

 

 ──抜けない。

 

 咄嗟に≪不可解な者≫(アンノウンズ)はそう思考した。

 強く、強く握られている。

 

 心臓を貫かれたというのにあり得ない握力。執念に≪不可解な者≫(アンノウンズ)は咄嗟の判断を誤った。

 

 単純な身体能力(ステータス)で言えば|≪不可解な者≫が勝っている。それは間違いない。

 だが≪不可解な者≫(アンノウンズ)には圧倒的に経験が足りなかった。

 

 タリは剣を高く持ち上げ、柄を抜こうと右往左往する≪不可解な者≫(アンノウンズ)目掛けて振り落とした。

 

 

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