殲滅戦争   作:Libro

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第62話

 

 ──戦場。その遥か上空。そこに一団が居た。

 ぎぎゃぎぎゃと奇怪に不快な泣き声をまき散らす異形の集団。

 巨大なハゲワシから翼の生えただけの人間まで。多種多様な者達。

 共通るするのは翼が付いているという飛行能力を持っているという一点のみ。

 

 若い男女の背に翼が生えただけの下級魔族。蝙蝠に人の足を生やしただけの下級悪魔。

 甲羅から翼が生えた亀等の魔族と悪魔の混合軍だ。この中に≪不可解な者≫(アンノウンズ)は居ない。≪不可解な者≫(アンノウンズ)は別の仕事を任されている。

 

 総数千体。魔王軍の別動隊が空の彼方に居座っていた。

 

「さて、私の仕事をしますかね」

 

 軽く腕を振るい、異形の集団の中でも異質なものが声を漏らした。

 

 甲殻類の様なモノに覆われた体を持つ者。大悪魔ウード。

 

 彼──あるいは彼女か。性別という概念が正しく機能しない悪魔であるウード率いる空襲部隊。それが戦場の遥か上に待機していた。

 高度約六千メートル。地上の人間が豆粒の様に見える程の高い場所。

 これだけ高い所となれば高山病や酸素濃度。冷気等の問題が異世界とはいえあるがウード達悪魔と魔族には関係ない。

 呼吸は必要無い為酸素等無くても問題なく。冷気など魔力を纏えば無効化出来る。

 唯一の問題は地上から流石に遠すぎることか。魔族達も人外の視力を持っているがそれでも六千メートルという規格外の距離は戦場まで遠すぎる。

 だが最上位の悪魔であるウードにとっては問題にならない距離だ。視力を強化すればどれだけ遠くのモノであろうと視認できる。

 それは地上の英雄級の実力なども同じことが言えるが地上は現在魔王軍と戦闘中。空を見る余裕は無い。

 

『随分と。悪趣味な軍勢ですね』

 

 ウードの脳裏に声が響いた。

 頭の中に直接入る奇妙な声。思考を遮る声に不快感を抱く。

 声の主は何処だ、と頭を動かすまでも無く。その答えが上から振って来る。

 

 やって来たのは弾丸。人の小指程度の小さな物が何百。あるいは何千と降り注ぐ。

 

 各々防御魔術を使うも防ぎきれない。肉体を強化しても貫かれ障壁を張っても貫通される。

 

 

「……やってくれましたね」

 

 弾丸の雨の後。無傷のウードがやれやれと手を振るう。

 一人だけ空間転移で射程圏外に逃げたウードは兎も角その他は悲惨だ。腕を貫かれ翼をもがれ死屍累々となった。

 

『さてはて。何故あなたがこのような所にいるのか。非常に気になりますね。ウード』

 

 この惨状を作り出した者。最高位の魔術師として名を馳せる少女──クレールが空からウードの元まで降りてくる。

 

 その姿は少々奇怪だった。

 服装はこれまで通り少女が着るようなワンピースのそれ。だが本来無いはずの腕の部分には巨大な腕が付いている。

 腕だけで大人と同等のサイズ。手のひらの部分だけ歪に大きく、機械の様にケーブルが出ている様は義手にも見える。

 

 古代の遺産(アーティファクト)なくしものの義腕(ロスト・プロステティック・アーム)。クレール愛用の一品。

 

 古代の遺産(アーティファクト)というのは魔道具の上位品として扱われるが魔道具とは大きく違う点が幾つもある。

 例えば使用者を選ぶ。ある者にとっては全てを切り裂く魔剣でもある者には何もきれない鈍らと化す。

 あるいは使用に一定の条件が必要だったり。処女や童貞等の清らかな身であるのが条件の道具があれば一定以上の人間との性行が必須であったり、使うのに血を消費したり等。

 

 その分魔道具などよりも余程強大なモノも多い。下手な古代の遺産(アーティファクト)一つで国一つ文字通りに消しうる程に。

 

 ただそれほど強力なのは冒険王の時代以降ほぼほぼ国が管理しているが。

 

 そして今。クレールが使っている古代の遺産(アーティファクト)もまた強大無比。条件があったのか無かったのか。使えた者が一人しかいない為詳細は分からない古代の遺産(アーティファクト)

 クレールただ一人だけが起動に成功した古代の遺産(アーティファクト)を装備し、戦場にやって来た。

 

『では。死になさい』

 

 何時もの間抜けな話法ではなく。クレールが何時に無く真剣な声で告げる。

 それと同時に飛行。速度を更に上げまだ生き残っている群れに突っ込む。

 それを魔族たちは認識できない。あるいはしても行動が間に合わない。

 

 なくしものの義腕(ロスト・プロステティック・アーム)。それをクレールは雑に振り回す。

 自身を中心にベーゴマの様に回りに回る。腕を横に広げ、少しずつ自身から離すことで暴風と化す。

 

 起こるのは惨状。ミキサーに入れられた肉の様に魔族や悪魔が粉々になっていく。

 

 それを視認したウードは即座に転移。戦場から遠く離れる。

 

「落ち着け! 相手は一人。遠距離から魔術を放て!」

 

 一人、遠くに居た魔族が冷静に声を上げ、魔術を放つ。

 放ったのは単純な炎の塊。炎は遮られること無く着弾するも無意味。上位の冒険者である彼女には下級魔族や悪魔の攻撃は意味が無い。

 

 嵐となったクレールから遠く離れた地に転移し、その虐殺が終わったころに再度転移して戻って来たウードはその惨状に目を覆いたくなった。

 

「まったく。随分と暴れてくれましたねぇ」

 

 はぁ、とウードはため息をつく。

 それに対しクレールは可笑しなことを、とほほ笑む。

 

『この程度。損害でもなんでもないでしょう?』

 

「……まぁそうですが」

 

 パチン、と長い指で器用に指を鳴らす。

 それと同時にウードの背後に亀裂が現れる。

 蜘蛛の巣のようでも。ガラスに罅が入った様にも見える亀裂から。異形が湧き出る。

 

 げぎゃげぎゃと、げたげたと下品な声を上げ、魔界より悪魔が来訪する。

 

 

『"憤怒の大悪魔"ウード。司るは空間。自身の支配領域である第一層から悪魔を呼び出すことが出来る……やはり厄介ですね』

 

「あなた無駄に博識ですね。一応訂正する箇所を言うのならば私は第一層に住んでいるだけというのと、憤怒の名を名乗った覚えはありません。あなた方が勝手にそう呼びだしただけです」

 

 

 ──悪魔。魔界に住まいし住人。元精霊。

 かつて世界を管理するべく作り出した精霊を、邪悪なる神々(ゼーベ)善なる神々(ハイリヒ)に対する嫌がらせ目的で配下へと改造した者達。

 だが元が管理者。人類の敵へと変貌させるのに成功はしても管理には失敗し全ては善なる神々(ハイリヒ)が作り出した魔界に追放された。

 魔界とは善なる神々でも邪悪なる神々の領域でもない完全な異空間。世界と世界の狭間。言うなれば世界の果てともいえる。

 その魔界は七つに分けられている。第一層こそがウードが支配する領域にして現世に最も近い箇所。

 だがその程度だ。最奥にいる悪魔が最も強い、等ということは無く精々が住む領域に応じて悪魔の性格が変わる程度。

 第一層の悪魔は悪食。第二層は残虐、という程度の違いしかない。

 

 そしてウードは空間を自由自在に操れるモノ。となれば世界に最も近い第一層から悪魔の群れを呼び出す程度造作もない。

 ただし呼び出す程度。使役は出来ない。

 

 悪魔たちは自身を呼び出した者であるウードに対しても牙を向こうとし──

 

「"従いなさい"」

 

 その一言で。忠誠を誓った。

 

 何も特別な能力を使った訳ではない。単なる存在としての格の違いを見せつけただけ。それだけで大抵の悪魔は従う。

 これが上位の悪魔等となれば話は変わるが呼び出したのは下級程度。支配するのに力はそれほど要らない。

 

「ではでは。仲良く愉快に踊りましょうか」

 

『ダンスは見ての通り苦手なので。お手柔らかにお願いしますね』

 

 ドン、とクレールが空を蹴り飛翔する。

 空を蹴るという意味の無い様に思える行動も魔術として考えれば効果はある。実際に常人ならば視認できない速度でクレールは移動を成す。

 それをウードが転移で避ける。

 

 クレールの高速移動により衝撃波(ソニックブーム)が発生しウードが呼び出した悪魔がバラバラの肉片となる。

 クレールから遠く離れた、ギリギリ視認できる程度の距離まで転移したウードが再度魔界と繋げ悪魔を呼び出す。

 

「地上に降りて人間共を食い殺しなさい」

 

 ウードが指示を出し悪魔を地上へと降下させる。

 

『見逃すとでも』

 

 思念を発するも距離的にウードには届かない。

 片腕を真っすぐに。地上へと降りようとする悪魔たちに向ける。

 ギィン、という奇妙な音と共に腕に熱が溜まる。

 手のひらを開き。その中心の穴が光る。

 

 数秒の溜めの後極太のエネルギー光が放たれる。

 

 

 即座にこれはヤバいとウードは判断し上空から遥か離れた彼方──エルフの森まで転移し逃げる。

 

「うっそーん」

 

 それでも、クレールが放つ光から完全に逃れることは出来なかった。

 地上に転移したのは幸いだった。この大陸──タオゼント大陸の空全てを覆いつくす閃光に巻き込まれることは無かったから。

 クレールが放った光は大陸の空を覆いつくし全ての雲を消し飛ばした。

 雨の地域が晴れとなり。曇りの空は快晴へと書き換わる。

 山脈の向こう側。決して晴れぬ曇り空の魔族の領土でさえも。

 

(まったく面倒な)

 

 はぁ、とため息をつきクレールの眼前まで転移で戻る。

 

 戻った先の空も晴れている。というか雲が一切合切消えたため太陽の光が地上にダイレクトに届く様になった地上も空も大変なことになっている。

 だが人外であるウードは勿論。魔力によって肉体の変異が進む到底人間とは言えない存在となっているクレールにはこの程度障害にはなりえない。

 

『死になさい』

 

 ウードを視認すると同時にクレールが両手を突き出し魔力弾を放つ。

 一つ一つが人間の頭部程度の巨大な砲弾だ。それを連続で射出する。

 

「面倒な」

 

 正確無比に自信を狙ってくる魔力弾をウードは転移で避ける。避ける。避ける。

 時折魔力弾そのものを何処か遠くの地に転移で飛ばすことで対処し、飛翔し距離を取ろうとするクレールに転移で近づいたり飛行の魔術を行使し接近する。

 

(流石にあの規模の攻撃はもうないと見て良さそうですね)

 

 この大陸全土の空全てを覆う規模の攻撃を連射されれば如何にウードとて対処できない。

 チャージに一秒でも時間がかかるのならば転移で別大陸なり一時的に魔界に帰還するなりで対処できるが連続──というよりは掃射され続けられるとウードに対処する術がない。

 更にはウードには火力が無い。

 

 ウードは悪魔でも空間を操る大悪魔。直接的な攻撃力に欠ける。

 

 その爪は鋼鉄を裂く程度。その皮膚は鉄を弾く程度の力。

 

 それに対しクレールはほぼほぼ一撃必殺の魔力弾の連射。古代の遺産(アーティファクト)だとしても火力は十分以上。

 

「ちっ!」

 

 急に自身が居た場所から炎の渦が巻きあがり即座に転移して距離を取る。

 古代の遺産(アーティファクト)の攻撃と自身の魔術の併用。厄介過ぎる。

 

 更にこちらの手札が割れているのも問題だ。

 

 ウードは空間を操る。つまりは相手がいる空間そのものを圧縮したり消滅させることが出来る。

 

 それをクレールもわかっている。だからクレールは高速飛翔し一秒たりとも同じ空間に居ない様に移動し続ける。

 雲を消したのもウードを見失わない為だろう。雲に隠れそこから周囲一帯の空間を消されれば即死するから。

 

「面倒ですが……都合のいいことに対処法が出来たんですよねぇ」

 

 パチン、と器用に指を鳴らした。

 

 召喚するのは悪魔でも魔物でもなく。物質。

 ディロンが滅ぼしたドワーフの国。その残骸。

 

 高層ビルや石造の家々。それらの転移。クリセルダ王国の空全てを覆う国の残骸だ。

 

 

(……ちっ!)

 

 

 それを視認したクレールは心の中で舌打ちをする。厄介なことを、と。

 

 ウードの空間支配能力は多岐にわたる。

 自分自身の転移。自身の視界内のモノの転移。一度マーキングした対象の転移。視界内の空間の完全操作。一定箇所との空間の接続。

 

 言わば空間と名の付くならば対外何でもできるチート能力だ。その分本体の戦闘能力はこの世界基準では殆どないのが欠点。

 そこらの冒険者のパンチが当たればそれだけで死ぬだろう。

 

 だからこそ。空間支配の力は強力無比にて唯一無二。邪神でさえも完全顕現しなければ使えぬ権能。

 

 

 クレールの遥か上。おおよそ百メートル上からドワーフの国その物を転移で呼び出し落下させる。

 総質量計測不能。その範囲はクリセルダ王国全域とほぼ同等──あるいは上回るそれを。苦も無く転移させる。

 

(馬鹿げているにも程がある!)

 

 だがこれが出来てこその大悪魔。憤怒の化身。

 

 空から降り注ぐドワーフの王国の残骸をクレールは飛翔し回避に全力を費やす。

 時折古代の遺産(アーティファクト)を使い瓦礫を破壊し魔術を使い瓦礫を吹き飛ばす。

 

 そして瓦礫の裏に転移し、隠れ潜み隙を狙いその爪をクレールの首に突き刺す。

 鋭い指だ。悪魔という人外らしい指で正確に狙う。

 だが弾かれる。人の喉に刺したとは思えない硬い金属音が響き指が削れる。

 

「ちっ!」

 

 即座になくしものの義腕(ロスト・プロステティック・アーム)を振り回して来たクレールに対し舌打ちをし転移で再度逃げる。

 

(やはり転移で時間稼ぎに徹した方が良さそうですね。下手に欲をかくとやられそうだ)

 

 悪魔には真に死という概念は適応されない。そもそも死なない邪神と違い特殊な力で死を免れることが出来るからだ。

 だがその一時の死の代償は大きい。故に死を回避し時間稼ぎに徹すると判断する。

 

「まったく。面倒な仕事を押し付けられたものですね」

 

 くい、と指を動かし再度ドワーフの国の残骸を転移させる。

 

 

 落下エネルギーはそのまま。エネルギーを保持した状態で真上に転移させる。

 いわばどこでもドアの様なものだ。真上に落下するという奇妙な現象が起こる。

 真上でだけでなく、右に左に素直に真下にと、転移に能力を割いたウードは縦横無尽に空間を操る。

 

 空から降って来る二階建ての上をクレールは消し飛ばし。下と上から迫りくる巨大なビル擬きをなくしものの義腕(ロスト・プロステティック・アーム)で押し返す。

 

 

(さてはて。きちんと仕事してくださいね。ディロン)

 

 

 

 

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