殲滅戦争   作:Libro

63 / 87
第63話

 

 

 

 商業都市シュテーレン。そこは今戦場であった。

 怒号が飛び交い人の血が舞う戦場。

 魔族の血は飛ばない。飛んでも数秒で灰に変わり消えるからだ。

 残るのは人や獣人等の定命の者たちの死体のみ。異形の魔族の死体は残らない。

 だからこそ、冒険者たちは自分たちの損傷具合を正確に把握していた。

 

「ひぃはー!」

 

 その中。戦場で男が叫んだ。

 

 叫びと共に剣を振り落とし、襲ってきた魔族の頭をカチ割る。

 魔族となれば頭が割れただけでは死にはしない。それをわかっている冒険者は横に飛び、背後の仲間の魔術の射線から逃れる。

 

「フレイムバレット!」

 

 他の女冒険者の魔術が発動し炎の弾丸が魔族を撃ち抜く。

 技名を言ってるがこれはノリと勢い等ではなく純粋に意味がある。

 魔術の行使において必須なのは要するに気合だ。ならば技名を叫ぶという行為にも意味が生まれる。

 ……根本的には"技名叫ぶとテンション上がる"というだけだが。

 

 他にも魔術師が多種多様な魔術を放ち。弓兵が矢を放ち。拳で魔族に抵抗する。

 敵も味方も入り混じった大乱戦。こうなれば指揮を執ることも出来ないだろう。

 元々冒険者は個人プレーの集団だ。迷宮等で一時共闘等はすることがあるがこのような平原で千単位での共闘──戦争となると日頃の鍛錬が物が言う。

 そして冒険者に集団戦の知識も経験も何もない。だが冒険者程対魔族に特化した者もいない。故に苦肉の策として集団戦という名の個人戦をさせることになった。

 

 その様な魔術が飛び交い剣が混じり矢が飛来する戦場にあって。静寂の場があった。

 其処は城壁の側防塔。魔術師が結界術を扱うことにより飛び道具や魔術を防いでいる。

 何時もはランタンしかないはずの場所は。急ピッチで作られた砲台の残骸によって狭苦し場所となっていた。

 砲台だけで側防塔の半分以上を埋め尽くし、残りは勇者二名と一人のアイドルとこの戦の総指揮官を任されたガレス・セント・ウォーレンが埋めている。

 

 その側防塔で。ガレスは部下の報告を受け戦況を正確に把握していた。

 ただでさえ狭いのに部下がたった一人来ただけでも狭くなり、部下は報告を終えると同時にさっささと降りてしまった。

 その背を見ながら。ガレスは戦場について思考を巡らせた。

 

(戦況はこちらが有利か。だがこちらも相手も手札が残っている。どちらが先に切るかの勝負になるな)

 

 極端な話。この戦いで他の冒険者──Bランク以下の者が全滅しようがこの戦争──人類全体の大局には影響はない。

 こちらには勇者とBランクの冒険者二名。更に正式にAランク冒険者として認められたタリが居るのだ。ならばこの勇者パーティ一つで他の雑兵は潰せる。

 そしてそれは敵も同じだ。敵側の将軍相当である上位魔族や頭である魔神一人で残りの冒険者など皆殺しに出来る。

 

 であれば、この戦争は雑兵同士の戦い。大局に影響などないいわば茶番劇だ。

 そのことに。ガレスは違和感を抱く。

 

(何故この様な無駄に兵を消耗する戦を仕掛けた? 前例──二百年前の戦争の記録ではこのような戦争も起こらなかった。あるのは敵の将軍とこちらの英雄の戦いだ。

 兵は村々を襲わせるのに適している。だというのに何故冒険者にぶつけて消耗させる? 狙いは何だ?)

 

 弱い魔物や魔族は村々に散り散りにして飛ばすのが最も最適で有効な使い方だ。

 

 英雄級の実力者──勇者等は魔神や魔王が対処し残りの人間は魔物に対処させる。それが常識。

 地球における戦争は数が物を言うがこの世界の戦争は数ではなく質だ。たった一人で何億という単位の殺戮が可能である以上このような戦争は茶番に過ぎない。

 本当に冒険者を殺したいのならばとっとと魔神が表に出て殺せばいい話なのだから。

 

 故に、意味の分からぬ戦争という形態をとって来た魔族に対し疑念を抱く。

 

 無論これはケントニス・ヴィッセンの計略だ。ケントニスが扱う予定の儀式魔術において必要なのは勇者やその仲間に対する勝利ではなくその他冒険者たち(・・・・・・・・)への勝利だ。

 それが最優先。

 

 そして。この戦いは既にケントニス・ヴィッセンの勝利が確定している。

 

 ここから何がどう転んだとしてもケントニスの──ディロンの勝利だ。この戦争、冒険者と魔族の戦争が開幕した時点で勝ちが決まっている。

 

 それをガレスは知らない。何故このように兵を消耗するのかということに疑念を抱くだけで止まる。

 

「……妙な奇跡でも使われなければいいが」

 

 既にこちらはネボとクレールとタリ。三つも手札を切り相手側の頭である魔神と幹部級二体を相手させている。

 先に切ったのはこちらだ。ならば次は相手が手札を出すのを待つ番だと。ガレスは思案した。

 

 

 ■

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 戦場にて。一人の女が息を切らして走っていた。

 若い女だ。恰好は最近流行りのバトルドレス──機能性と実用性を兼ね備えたとある工房が作っているそう罅んだ。

 最近の冒険者は上位に成れば成るほど装備品を自作する。下手な店売り品よりも自分で作った魔道具などの方が余程いいからだ。

 だから女が店売りの装備を着ているということは初心者か中級者程度だと、走る女を見た他の冒険者は思った。

 

「おい、あんた大丈夫か?」

 

 その女に。一人の男の冒険者が近づいた。

 同じように店売りの装備を着ている冒険者でまだ若い男は気軽に声をかける。

 女の見た目が良く、明らかに消耗しているからだ。"異性相手にいいところを見せたい"という下心があるのだろう。

 

「魔力を、消耗してしまって……」

 

 戦場において魔力の管理というのは重大だ。魔術師は勿論。戦士であっても。

 魔力を消耗し無くなれば冒険者はただの人間に戻る。変異で下手な猛獣より高い身体能力は発揮できるが音速レベルの移動や山を消し飛ばす斬撃などは全て魔力があるから出来る。失えば力は八割以上失う。

 男はそのことを聞き、大変だと声を上げた。

 

安全地帯(セーフエリア)まで案内しよう。着いてきて」

 

「ありがとうございます」

 

 男の声に従い。女は戦場から離脱する。

 

 向かう先は城壁の外のテント。冒険者たちが休める場として神官達が作った休憩所だ。

 如何に冒険者と言えど無限に戦える訳ではない。肉体的な疲労は魔道具でどうとでも出来ても魔力の消耗や傷を治すのには時間がかかる。

 戦場での一時的な補給地点。魔力の回復を安全に行ったりポーション等による治癒や即座に治せない重傷者を一時的に置いておく為の簡易拠点。

 そこまで距離は離れていなかったからか。男と女は数分の移動でたどり着いた。

 

 テントの扉を二人は潜る。

 

「怪我の程度は?」

「ありません。少し休ませてください」

 

 挨拶も無しに。テントの中の神官が問いかけた。

 

 赤い神官服を纏った老婆だ。特徴と言えるのはせいぜいが頭にサークレットを付けている点だけか。

 赤い神官服は光と浄化を司るフランメ・ロイヒテンという女神の神官であることの証だ。

 この安全地帯(セーフエリア)の結界の奇跡を使っている神官だ。神官というのは神の奇跡を扱う存在だ。冒険者と致命的に相性が悪い関係でもある。

 何かしらの組織的な不仲がある訳ではなく純粋な相性。善なる神々(ハイリヒ)の奇跡と邪悪なる神々(ゼーベ)由来の魔力を扱う冒険者の力は反発しあう。

 多少の力。それこそ神官側と冒険者側の力がそこまでない、雑兵程度の力ならば併用も可能だが冒険者として一人前と認められるレベルならば人を癒すはずの神の奇跡は冒険者にとっては猛毒となる。

 故に出来るのは錬金術師が作り出したポーションの服用による治癒。これは単なる薬物治療の一種に過ぎない。

 

「ありがとう……ございます」

 

 女はそう礼をいい。がば、と口を開けた。

 

「え?」

 

 横に。大きく口が開かれる。頬を裂いて。

 

 何事か、と男と神官が状況を正しく理解出来る前に。女冒険者は本来の姿を晒す。

 それは口だけの怪物。魔神が作った眷属にして配下の一体。≪不可解な者≫(アンノウンズ)

 

 瞬く間に肥大化し口を開く怪物に。安全地帯(セーフエリア)は破壊された。

 

 

 ■

 

「なんだぁ?!」

 

 前線で戦っていた冒険者の一人が後ろから聞こえる轟音に驚き声を上げた。

 

 声を上げたのは一人だがそれ以外にも轟音に気になり振り返る冒険者が多数。

 そして彼らが見たのは安全地帯(セーフエリア)の中から魔物が現れる光景だった。

 テントを突き破り、城壁まで届かんとする巨体。入れ歯だけで構成された異形の人型。

 入れ歯が折り重なる様に積み立てられた怪物が雄たけびを上げる。

 

「AGYAAAA!」

 

 その叫びと同時に。空が晴れる。

 

 雲の全てが吹き飛び太陽の光が地上に降り注ぐ。その光景に冒険者達は恐怖する。

 

 雄たけびと同じタイミングでの快晴。冒険者たちは空を晴らしたのはこの魔物だと認識する。してしまう。

 無論これはクレールの古代の遺産(アーティファクト)による攻撃だ。この≪不可解な者≫(アンノウンズ)にそこまでの力は無い。

 正し曇り空を晴れにする力は無くとも、下手な冒険者を虐殺できる程度の力は持っている。

 

「RUKYAAAAA!」

 

 何処か猿にも似た叫び声と共に≪不可解な者≫(アンノウンズ)──マギーが活動を再開する。

 蛇に似た胴体から生えた手もまた異形。無理やり積み重ねた口をした腕は五指の指から分かれている。

 まるで目の無い蛇。ヒュドラの如く分けられている姿は奇々怪々。歯だけの怪物だ。

 

 その歯を遠くの地面に突き刺し、ワイヤーアクションの要領で移動する。

 

 ぐん、とマギーが接近し安全地帯(セーフエリア)へ撤退しようとしていた冒険者パーティに衝突。

 冒険者は回避も防御も出来ず、挽肉となった。

 

「GOOO!!」

 

 更にマギーが叫び、挽肉となった冒険者を周囲の地面事喰らい始める。

 何十という口が開き、啜る。蟻が地面の砂糖に群がる様に。

 

「背後からの強襲?! クソが!」

 

 一人の冒険者が叫び剣を構える。

 前面には魔族の群れ。背後には未知の魔物。

 

「相手は一体。複数でかかるぞ!」

 

 しかし如何に奇襲を受けたにしても冒険者。魔物との戦いのプロだ。即座に立て直し幾つかのパーティが迅速にマギーへ対処するべく前線から離れ、他のパーティが抜けた穴を埋める。

 

「GEHE」

 

 下種な笑い声と共に。マギーが口を開ける。

 

 それと同時に。何十という新しい魔物──悪魔が現れる。

 は、と誰かが間抜けな声を漏らした。

 現れたのは異形の姿をした悪魔達。

 肥大化した成人男性や女性の頭を幾つもくっ付けた体に各口から天使のような翼の生えた個体から人の脊髄だけを濃縮した様な物や純粋に人が不快だと感じる要素のみで構成した物まで多種多様。

 悪魔としての系統で言うならば深淵の悪魔(アビサル・デーモン)と呼ばれる種類だ。共通するのは人間の感性からして醜悪であるというのと、他者への精神汚染能力を持つ。

 

「悪魔?! 何故ここに!」

「どうでもいいだろ今それは! どう対処する!」

 

 冒険者たちが叫び、突如現れた深淵の悪魔(アビサル・デーモン)への対処法を考える。

 相手がマギー一体ならばどうとでも成った。だが護衛かの様に現れた深淵の悪魔(アビサル・デーモン)への対策に頭を悩ませる。

 何処から来たかの問いの答えは勿論ウードだ。空間転移にクールタイムや使用可能時間等という者は無い。0.1秒間の連続転移さえも可能なのだから一瞬で転移して悪魔を召喚しすぐ空の上に戻る程度の芸当は可能。

 この中に視力が良い者──具体的には動体視力が高い者が居ればほんの一瞬。一秒未満の刹那にマギーの隣に|異形の悪魔≪ウード≫が居たことに気づけただろうがこの場にそのレベルの冒険者は居ない。

 

 雄たけびと共にマギーが行動を再開する。

 狙うは他の安全地帯(セーフエリア)。補給地点。

 

「おいあいつ他のとこ行くぞ!」

 

 冒険者が叫んだ。

 

 安全地帯(セーフエリア)の数は多い。戦場にバラバラに設置されている。

 戦場が広大かつ一か所にまとめればそこを襲撃された場合のリスクを考えた結果分散という手を取ったのだ。人材ならば数多いるから取れた手段だ。

 その安全地帯(セーフエリア)を襲撃しにマギーは動き、その姿に他の冒険者は行動を悩む。

 下手に接近したり魔術で攻撃しても相手は未知の魔物かつ、深淵の悪魔(アビサル・デーモン)という精神汚染特化の悪魔。下手に対処しようものなら殺される。

 だがここで動かなければのちに響いてくる。

 

 どうするべきか──冒険者たちが動けない中。空から獣が降って来る。

 

 空中で一回転しながら。拳を構えて降りたち──落下の寸前でマギーを殴った。

 

「AGYA」

 

 殴られたことでマギーが仰け反る。数多の口から涎を零す。

 

「てめぇの相手は、俺だ」

 

 殴った獣──獣人。ヴァン・フントは獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。