殲滅戦争   作:Libro

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第64話

 

 砂漠──人の領域からかけ離れた世界。

 草木一本も無く、サボテンすらない砂だけの世界には真面な動物などいやしない。

 いるのは砂漠の気候に適応した動物たち。下手な魔物よりも凶暴で凶悪。魔物すら捕食することのある怪物達。

 人間が踏み入れていい場所ではない世界に、一隻の小舟があった。

 

「あっつ……」

 

 炎天下の砂漠の船の上。女が一言呟いた。

 

「そりゃ、ここは砂漠ですからね」

 

 その独り言に、男が答えた。

 

 砂漠。かつては死の砂漠と呼ばれ誰もが近づかなかった不毛の大地。

 その砂漠を渡る船が一隻。

 

 そう、船だ。ラクダ等の動物ではなく立派な船であり、魔法・魔術的な力を持っている訳ではないただの船だ。

 サイズとしては小舟程度。大人が四人程度しか乗れない程度の小さな船であり、帆が無く更にオールさえも無い。

 更には木製ではなく岩性の船だ。海ならば航海等出来ないだろうがここは砂漠。海の常識は通じない。

 

 そもそも何故船で移動をしているのかと問えば、理由はこの砂漠にある。

 

 まるで海の海流の様に蠢く流砂。更には砂漠という生命にとっては厳しいはずの大地に適応し、進化した生物たち。

 一昔前のカテゴリーでは魔物とされていた砂漠の巨大蚯蚓(デザート・ワーム)砂漠の鷹(デザート・イーグル)等の凶暴な生き物が行く手を阻む。

 その様な怪物犇めく中に徒歩で移動する等自殺行為に近い。故に流砂を利用する船を使った移動となる。

 流砂と言ってももはや海の海流等に近く一度流砂に足を取られれば砂漠の果てまで流されるだろう。それほどの流砂が蠢いている。

 無論一定以上の実力があるのならば流砂を消し飛ばし怪物をぶっ飛ばすことで無理やり通行しようと思えば出来なくもない。

 がそんなのするより船という移動手段があるのならば船を使った方がいい為女は普通に船に乗っている。

 

 人が生活するのにこれ以上ないほどに適していない場所。それがこの大陸の砂漠。

 

 故に、冒険王が踏破する以前は何も無いとされていた。

 

 一度足を踏み入れれば決して抜け出せぬ流砂。迷い込んだ旅人を容赦なく襲う熱に砂に生き物たち。

 人など暮らせる世界ではないと、緑あふれる大地に暮らす者達はそう判断し碌な調査をしていなかった。

 そもそも調査する必要等無かったというのが正しい。砂漠から脅威に成る魔物や魔族が現れたことなど無いし、資源など幾らでもある。

 ならば人が暮らせるような場所ではない砂漠に調査隊を向かわせる必要も無い。無駄に資源と時間を浪費するだけだと時の権力者はそう思い何もしてこなかった。

 無論興味や探求心に溢れる者が砂漠に向かったことはある。だが帰還者は誰も居なかった。

 

 それを覆したのが冒険王。史上初の砂漠の踏破者。

 

 冒険王に連れられてやってきたのは人であった。大陸の人々と違い褐色の肌に赤い髪と瞳を持つ人間。

 

 冒険王の時代以降だ。砂漠の民との交流が生まれたのは。

 

 それでも砂漠を超えるのは並大抵のことではない。下手をしなくても死人が出る環境だ。

 ぼそぼそとした交流や交易こそあるが大々的な──国家レベルでの交易というのは未だなっていない。

 

 そんな故郷に。女──元Aランク冒険者であるヴェター・ヴューステは思いをはせた。

 

 

 

 

 ■

 

 

「御帰り。わが同胞」

「ただいま、同胞」

 

 

 砂岩で出来た都市で、ヴェターは槍を構えた男に挨拶をする。

 同胞、と言いあった様にヴェター・ヴェーステは砂漠の民だ。帰還するのは何十年ぶりだが。

 

 砂岩で出来た家々。流砂を使った移動経路。砂漠の熱対策のフードを被った人々。

 赤い瞳に褐色の肌を持つ住民がこの砂漠の都市に集っている。

 

 砂岩で出来た家々は装飾等無い。四角に形を整えただけの、単一の素材で出来た家しかない。

 窓などはガラス等が使われているが大陸中央部の家々と違い木と煉瓦と石──などの多種多様な素材を使った建築は無い。

 これも砂漠である影響。砂しかない世界では家に使う資材などろくにないせいだ。

 

「こんなに遅れて帰ってくることになるなんて、ね」

 

 思わず。ヴェターは独り言を呟いた。

 

 故郷であるこの地から離れ二百年近くの時が流れた。

 本来ならばもっと早くに帰還する予定であったが──内乱だったり戦争だったり色々ありすぎて遅れてしまった。

 

 

「……怒られないといいけど」

 

 

 

 ■

 

 砂漠の都市の奥地。常人が入り込めよう魔道具で封印された地。

 そこには明らかな異常建築物があった。

 ピラミッド。地球においてそう呼ばれる建造物と酷似──否。ほぼ同一の建物。

 違いを言えば中の殆どが空洞であることぐらいだ。地球のピラミッドの中は詰まっているがこのピラミッドは大半が空洞で出来ている。

 

 その様なピラミッドの中をカツカツという足音を鳴らしながらヴェター・ヴェーステが歩く。

 

(ここに来るの何年ぶりだっけ……)

 

 つい昨日にも来たような気がする場所に。ヴェターは思いをはせる。

 幼少期から都市を出るまで毎日。それこそ赤子の頃から通っていたピラミッド。実際に来るのは二百年ぶりだというのに足取りに迷いはない。

 灯り一つ無い暗闇。所々に柱があるだけの空間を歩く。

 

 そうして歩くこと数分。最奥に辿り着く。

 

 最奥には祭壇が一つ。生贄でも捧げるかのような祭壇だ。

 

 ぼっと、最奥の祭壇に火が灯る。

 

 それと同時にヴェターの周囲に炎が生まれ、暗い世界を明るく灯す。

 

 炎の色は太陽を思わせる赤色。何処か優しさを感じる炎だ。

 周囲にあるというのに熱を感じないのはヴェターが炎体制を持っているからではなく炎その物の性質からか。

 

「随分と凝った演出ね?」

 

 ヴェターはため息と共に祭壇の奥を見る。

 

「演出というのは大事だよ。ヴェター」

 

 誰も居ない様に見えた祭壇の奥から声が響く。

 コツ、コツという何かをたたく音と共に老人がぬっと湧いて出てくる。

 

「久しぶりね。グスタフ」

 

 グスタフ──そう呼ばれた老人はくつくつと笑う。

 老人。歳はどう見ても六十以上──八十の大台にすら見える程に老いている。

 髪は所々抜け落ち歯が抜け、皺くちゃの肌をしている。

 赤い髪と赤い瞳。褐色の肌からして砂漠の民であることは一目瞭然。

 

「……随分と老いたわね」

 

 老人を前に。ヴェターは言葉を漏らした。

 如何に久しぶりに会ったからと言っても。老いすぎではないかと。

 

「あれから二百年だぞ。ヴェター、むしろ今を生きていることを褒めてほしいモノだ」

 

「たかが二百年でしょう?」

 

「英雄である君にとっては、な。二百年という月日は部族が滅んでも可笑しくない時だ」

 

「そうかしら?」

 

「そうだよ」

 

 旧知の友人に会ったかのように。二人は会話を楽しむ。

 グスタフという老人はこの砂漠の都市の中でも地位の高い人間だ。少なくとも一般人が気軽に姿を見ることが出来ない程度には。

 その様な人物と親しく話すということは──ヴェター・ヴェーステもまた都市において地位の高い人間であったということだ。

 

 

「懐かしいよ。二百年前のあの日。君が冒険王に感化されて"外の世界に行く"と駄駄を捏ねて、国公認の冒険者となったあの日を」

 

「そうね……けどそろそろ本題に入らない?」

 

 

 すぅと、二人の目が鋭くなる。

 先程までの穏やかな、友人との会話を楽しんでいた表情は何処へやら。敵を見る目へと変化する。

 

「──今更何の用だ。国を捨てた戦士よ。我らが大地に何を欲してきた?」

 

「単刀直入言うわ。不死鳥の槍を寄越しなさい」

 

「──それが何かわかっているのか?」

 

 

 睨み合い。お互いが動かない。動けない。

 そして、グスタフは考える。

 

(何故今更国に戻って来た。外に出たがっていたこいつが今更──本当に二百年ぶりに帰って来た理由はなんだ? 

 それに何故神器を欲する? すでに力はあるだろう)

 

 神器。神々が残した遺産。人に力を与えるべく神が作った遺物。

 古代の遺産(アーティファクト)や魔道具とは違い"神が気に入った人間"にのみ使用が可能な武具。

 

 その分力は強大無比。それこそそこらの子供が神に気に入られ力を使える様になればそれだけでBランク──下手な国を滅ぼせるほどの力を得る。

 

 ならば。既にAランクとして登録されているヴェター・ヴェーステが神器を手にすれば。その力は考えるのも馬鹿らしくなるだろう。

 

(神器という新たなる力を欲する。ならばその理由は)

 

「……お前でも倒せない敵でも現れたのか?」

 

「──そうよ。私一人じゃ勝てない。今の人類でも、ね」

 

 ヴェター・ヴェーステは二百年前の内乱を。それ以前の──冒険王の時代以前を生きていた戦士だ。

 それ故に今の人類の弱体化を強く実感している。

 

 そう。人類は弱体化し続けている。

 確かに種族全体で言えば強大になったのだろう。仮面乃人が齎した技術により"科学"という概念が作られそれによる技術によって人は発展できた。

 その分個の力が下がっている。いや必要なくなったから無くなって来たというべきか。

 力というのは必要だから作られるモノだ。求められるモノだ。

 猛獣に襲われている者が望むのは今をどうにかする力であり猛獣を避ける力ではない。それが求められ続けていたのが二百年前。

 そしてそもそもの猛獣の発生其の物を抑えてしまっているのが今の時代だ。故に個の力が下がり続けている。

 無論完全に無くなった訳ではない。ネボやタリ等の強力な冒険者は今の時代でもいる。

 

 だが二百年前はもっといたのだ。単独で単独で万の兵を切り捨てて山をも斬り飛ばした剣士が。地形を変える魔術を気楽に放つ魔術師が。

 世界を変えようとする邪神教団と全部まとめて消し飛ばさんとする狂人が。

 

 今の時代にはいないのだ。

 

 

 だからヴェター・ヴェーステは冒険者を辞めた。人の力ではなく武具の力を求めて故郷に帰って来たのだ。

 

 

『いいではないか。力が欲しいというのならば与えてやればいい』

 

 

 ──声が響いた。

 風呂場で声を出したような反響した声にも、人でない何かが無理やり人の声を出してるかのような声にも聞こえる奇怪な声。

 それと同時に。炎が生まれる。

 

 太陽の光。そのように見える炎の集合体。

 

 炎が生物の形に変わりゆく。それは巨大な鳥の形へと変わる。

 

不死鳥(フェニックス)……」

 

 ヴェターが言葉を漏らした。

 

 不死鳥(フェニックス)。神獣と呼ばれる今を生きる神話の生き証人。

 神獣という人間ではない存在に証人という呼称はあってるのかわからないが──兎も角神々に次いで永遠を生きている神代の怪物。

 

 

 魔に落ちた獣である魔獣と違い誕生時点で善なる神々の先兵として生まれ落ちたモノ。

 元が愛玩用として創られた存在である人間と違いその能力は戦闘行為を前提に創られている為その力は基本的な人間等比べ物にならない程に高い。

 代表的なのは竜だろう。氷河の竜や人と共に戦った竜など伝承は多い。

 

 そして不死鳥(フェニックス)もまた伝承に語られる存在。砂漠の都市の守護獣として言い伝えられている神獣。

 

 語られる神話ではこの砂漠の大地を作り上げたとも記されている。

 

『契約を』

 

 

 ヴェター・ヴェーステは。不死鳥(フェニックス)の炎に包まれ──

 

 

 

 

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