殲滅戦争   作:Libro

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第66話

 

「蛆虫がぁ!」

 

 叫び。斬られるのも構わず両こぶしを握りまたも地面に叩きつける。

 

 

(ワンパターンだな)

 

 ネボはディロンの拳を回避し攻撃によって生じた土煙の中に潜む。

 

 こうして戦うこと体感時間にして三十分以上。ちまちまちまちま攻撃を浴びせ続けて来た。

 

 ネボとディロンは体感時間を極限まで圧縮し、普通の人間では目にも見えない世界で動いている。

 現実での一秒は二人にとっては一時間以上となる。スローモーション知覚。あるいはタキサイア現象と呼ばれるそれを意図的に引き起こすことが出来るからこその圧縮世界。

 体感時間を極限まで圧縮すればそれはもはや時間停止のそれに近い。ディロンが大陸外まで飛行して飛ぶのに体感十分かかるとして、現実時間では一秒もかからない。

 

 こうしてディロンが腕を振るっても一般人やその他の冒険者では何が起こっているのか目で追えない。そもそも目で見える範囲に一般人等が来たら余波でミンチより酷いことになるが。

 

 そんな二人だけの時間。何物も入れぬ領域に一人──あるいは二人が近づいていた。

 

 

 土煙が途端に晴れる。

 

 自然現象としては余りにも不自然な速度で煙が消えたことにネボは違和感を抱き──ついでディロンが視界内に居ないことに気づいた。

 

 ぼご、とネボの眼前で土が盛り上がった。

 

 それを認識すると同時にディロンが地面から飛び出しネボに向かって拳を打ち込む。

 ネボは咄嗟に剣を構えることで直撃を防ぐも──ディロンの一撃は余りにも重くそのまま吹き飛ばされる。

 時速何百キロか、あるいは何千キロという頭の悪い速度でネボは飛ばされる。

 高速での移動によってソニックブームが発生しネボの体を傷つけ始める。本来ならばなんてことない余波の影響であっても不意打ちで受けてしまったことで対応に遅れる。

 そうして空の旅をすること数秒。射線上の山をも貫き続け遥か彼方の大地に着弾させられた。

 

 地面に打ち付けられ、息を吐くと同時に舌打ちをする。

 無様に地面に転がされ、鎧が砕ける。

 何とか耐えれたのは即座に剣を構え拳との間に置いたから。でなければ即死していた。

 飛ばされたことによって生じたソニックブームにも何とか耐えるも体が衝撃波で刻まれる。体の肉がはじけ飛び眼球が蒸発する。

 その端から、壊れる傍からネボは体を再生させることで絶命を回避。体を何とか持たせる。

 眼球の再生が終わると同時に。眼前にまで移動を終えたディロンが足を振り上げているのをネボは見た。

 

「な──」

 

 驚愕するネボを他所に。ディロンはそのまま右足を振り落とす。

 咄嗟に転がることでネボは足を避けるもディロン本気のスタンピングは大地を揺らし衝撃波だけで周囲の生命を終わらせる。

 

(体勢を──)

 

「随分と鈍くなったな!」

 

 にやり、と不敵な笑みを浮かびディロンがネボの頭部を掴んだ。

 本来ならば避けるか防ぐか出来た挙動。だが一撃受けてしまい肉体的なダメージと精神的な動揺が重なり回避が出来なかった。

 

(しまっ──)

 

「死ねカス!」

 

 圧倒的語彙力の無さ。単純な罵倒と共にディロンはネボの頭部を掴んだまま地面に叩きつける。

 一度だけでなく、二度、三度と。連続して叩きつける。

 

 子供がオモチャを投げ捨てるがごとく。狂気的な笑いと共に叩きつける。

 

 頭を掴んだまま、異形の膂力をもってディロンはネボを持ち上げる。

 

「随分と悲惨な姿になったな」

 

 嘲笑う。己の攻撃で悲惨な姿となったネボを。

 

 歯は砕け。顔面は血で塗れ。骨が有らぬ方向に折れて曲がった冒険者を。

 

「ハッ」

 

 ディロンの嘲笑に対し。ネボは鼻で笑った。この程度なんてことないのだと。

 

「あぁ?」

 

 鼻で笑われた事実に。ディロンが憤怒を抱く。転移特典(チート)の全意思疎通の力でその行為が本当にこちらを嗤っているモノだとわかり。

 怒りで顔を歪め──

 

 瞬間。爆発。

 

 苛つきに思考を乱された一瞬で。ネボ(・・)が爆発する。

 ディロンの皮膚の表面を焼く爆発。咄嗟に手を離して放り出してしまう。

 

「……最後っ屁か?」

 

「なわけねぇだろ」

 

(後ろに──)

 

 高速移動。再生がままならず。傷だらけの体で無理くりネボは動く。

 力を振り絞り。剣を握り。ディロンの首を斬り落とさんと振るう。

 

 それを。ディロンは眼で追い。体をずらし。歯で受けた。

 

「は?」

 

『そうなんども。同じ手が通じるか』

 

 口を閉じたまま。言葉を──意思を発する。

 転移特典(チート)である全意思疎通は相手の意思を読み取り、自身の意思を伝える力。口が使えなかろうが消し飛んでいようが関係ない。

 

 剣を咥えたまま。顎に力を込めて、噛み砕く。

 

 氷を砕いたような、あるいはガラスが粉砕される様な音が響いた。

 

「これで──」

 

 あっけに取られているネボに、ディロンが拳を振りかざす。

 

「終わりだ」

 

 ディロンの拳がネボに当たる寸前。一センチ以下まで近づいた瞬間。

 

 空から槍が落ちて来た。

 

「は?」

 

 ディロンの丸太の様に太い腕を貫いて。地面に刺さった。

 槍その物は大した装飾なども無い、単純な槍。

 唯一違う点を上げれば──黄金色に輝く炎を纏っている。幻想的な炎を。

 

 咄嗟に。槍に恐怖を感じた。

 

 己の身を削られるような、ゴキブリを直視してしまったような、黒板をひっかく音を聞いたような──言いようのない、生理的な嫌悪と恐怖。

 

 途端、無意識化で後ろに飛んで逃げる。

 

 腕が槍に貫かれている状態で後ろに飛べば──腕が裂ける。

 

 ぱっくりと、バターをナイフで斬るかの如くあんまりにもあっさりと腕が横に裂けた。

 

 そのことを意にも介さず、ディロンはただただぼぉっと、槍に目を奪われている。

 

 ──そして。空から女が降りてくる。

 

 

 互いに因縁が多少はある相手。かつて一度は己を殺しかけ、いつか殺すと憎悪を誓った人間。

 

 上空から降りたにしては衝撃を散らすことなく、羽のごとき軽さで大地に降りたった。

 褐色の肌。赤い瞳に赤き髪。大陸に住まう人間とは違う人種。

 女性として平均的な身長と、鍛え上げられた体を隠すことなく晒すビキニアーマー。

 前と違うのは──背中から天使を思わせるこれまた黄金色に燃える翼が生えている点か。

 

 ヴェター・ヴェーステ。『砂漠の戦士』『人類最強』『邪竜殺し』『邪神の化身を打破せし者(ゴットスレイヤー)

 

 かつて幾多の異名で呼ばれ、恐れ、畏怖された最強の冒険者が現れた。

 

「クソ女ぁ……!」

 

 ディロンはヴェター・ヴェーステの名前を知らない。それでも、かつて己を追い詰めた人間の顔は覚えていた。

 

 己を追い詰めたもの、殺しに来たゴミムシ。嬲って縊ってぐちゃぐちゃに出来ればどれほど痛快か。

 

 裂けた右手を、左手で掴む。

 押し付ける様に握りこみ、腕をくっ付ける。

 

 ぐじゅぐじゅと。奇妙な音共に肉が膨れ上がり再生する。

 ぶくぶくと肉が膨れ上がったかと思えば、両断されたはずの腕が元に戻る。

 

(──あ?)

 

 腕に違和感。

 外見上は元に戻り、拳を作ることも出来る。

 だが、力が入らない。

 

 風邪を引いた時のような、弱って力を籠めることが出来ない感覚。

 

 

(まぁ、いい)

 

 殺すだけだと、ディロンは強く、強くヴェター・ヴェーステを睨んだ。

 

 

 

 

(さぁーて。ここからどうすっか)

 

「立てる?」

「ああ、すまない」

 

 ヴェターがネボに手を貸し、立ち上がらせる。

 ネボの体はボロボロだ。肉が焼け、髪が燃え、骨がぐちゃぐちゃにされている。

 それでもなお立ち上がるのは冒険者としての意地か。剣が割れて鎧も砕けたというのになお闘志を募らせる。

 

 立ち上がると同時に武具の修復。ボロボロにされた鎧が直り剣もまた鋭さを取り戻す。

 外見だけは直っても。中身はこれまでとは程遠い。

 体も再生させるも消耗した魔力は回復しようがない。自然回復以外では回復しないのが魔力だ。

 外見こそ取り繕ったが先ほどまでの力は発揮できないだろう。

 

 

『面倒なことになったなぁ。ディロン』

 

 そこに。空から本がゆっくりと降りてくる。

 

「ケントニスうぅぅぅ……」

 

 怨みを込めて。ディロンが名を呼んだ。

 何故もっと早くこなかった。とっとと自分を助けろという何処までも自分よがりな思いを込めて。

 

『その様な声を出すな。今の私ではお前の動きについていけないのだから仕方が無いだろう』

 

「記憶と記録を司る邪神……なんでそれがこんなのに……」

 

 本に対して名を呼んだディロンに。得心を得たとネボが呟いた。

 何故あれだけの魔物を用意できたのか。何故これまで進軍してきたのにその痕跡が無かったのか──全ての答えが邪神の化身(アヴァターラ)ということで解決する。

 

 

「……久しぶりね。ケントニス。今度はそいつに支援するの?」

 

『久しいなヴェター・ヴェーステ。契約してまでこちらに来るとは。いやはや何が君をそこまで突き動かすのか……』

 

 そして──ヴェターはケントニスに話しかけた。何処か親しげに。

 

「……ケントニス。お前この女と知り合いだったのか」

 

 ディロンの問いに。ケントニスはああ、と答えた。

 

『二百年前の内乱。この大陸では史上初となる人間同士の大規模な戦い──戦争時に私はこの女に……武王側に加担したのだよ。いやはや懐かしい』

 

「加担したと言っても、こっちに有利になる様に武器やら魔法書やら書類やらを都合よく置いて行かれただけだけどね」

 

 関与に気づいたのも、全てが終わってからだったしと最後に付け足した。

 

「都合よく? ……おい、それは──」

 

 そしてディロンは気づいた。自分もまた、都合がよかったと。

 

 かつて召喚された王城で都合よく禁呪の本を手に入れて。滅ぼした王都から都合よく迷宮都市の情報を手に入れて。

 今考えれば、余りにも変な話だ。何でそんな本をぽんぽん気軽に手に入るのかという。

 

『あぁ。ディロン。お前が気づいた通りだとも。お前がこの世界にやってきてからは。私が支援させてもらっていたよ』

 

 さらりと、何でもないことであるかのようにケントニスは言い、そうかとディロンは短く返した。

 

 考えてみれば。まぁ別にいいか、というのがディロンの見解だ。

 別にどうだっていい。重要なのは己が地球に帰ることのみ。それ以外すべて些事。

 

「かつて人を助けた神が、今度は人を滅ぼすというの?」

 

『私は何時だって人の味方だよ。ヴェター・ヴェーステ。仮に人類が絶滅の危機に陥れば私はそれを全力で回避すべく力を行使するとも』

 

「その男が今、人類を滅ぼそうとしているというのに?」

 

 強く、強く。ヴェターはディロンを睨む。

 

『いいや。ディロンは人類を滅ぼさない。滅ぼす必要が無いからな。そうだろう?』

 

 ディロンはケントニスの言葉に、怒りを抱くも今はそのような時ではないと感情を沈めて思考を回す。

 溜めてから、ため息とともにディロンが答えた。

 

「…………思うところはあるが。まぁ俺の目的さえ達成できればどうでもいい。絶滅しようが繁栄しようが、な。……欲を言えば全員殺しておきたいが」

 

『と、まぁこの通りだ。この大陸の人類は死滅するかもしれないが受け入れてくれたまえ』

 

「矛盾しているわよ。人類が死滅するって──」

 

『するのはこの大陸だけさ。この──タオゼント大陸の人間達だけ。他の……そうだな。エヒト大陸なんぞには用が無いから関わることは無いから普通に生きていくだろうよ』

 

「……ようするにあれでしょ。あなたは人類を弄びたいだけ。だから、一つの大陸から人類が消える程度ならいい──くだらない神の価値観ね」

 

『人と神では根本的に相容れないモノさ。ヴェター・ヴェーステ。運命に流される者よ』

 

「そこら辺もうクソ程どうでも良いわボケ。殺していいか?」

 

 話を横からぶった切り。殺意を募らせる。

 ディロンにとっては二人の関係などどうでもいい。ぶっちゃければヴェター・ヴェーステが生きようが死のうがどうでもいいのだ。感情を抜きにすれば、だが。

 

『あぁ。いいとも。ディロン。戦いを再開しようか』

 

 言うが早いか言い終わるが早いか。ケントニスは即座に魔術を発動する。

 

 "終焉の魔手"

 

 かつてこの地にやって来た魔術学者が行使した魔法と呪いと魔術の融合技術。禁呪に該当する術法。

 

 歪んだ──墨を染み込ませた紙の様な手が虚空から現れる。

 ぐじゅぐじゅと崩れ落ちながらも人間代の腕が幾千も出現しネボとヴェターに襲い掛かった。

 

「どんな魔術だ?!」

「知らん!」

 

 ネボの問いにヴェターは端的に答え、両者とも反対方向に跳躍し距離を取る。

 未知の魔術に対する対応は二つ。避けるか、そんなの知ったことかと力で壊すか。

 

 弱ってしまったネボではそれは出来ず。ヴェターは安定を取って回避を選択した。

 

 如何に本の姿に成ってようとあいては記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)。邪神の一柱。

 かつては冒険王と相対せし偉大なる神。それが行使する魔術が碌なモノである訳がない。

 

 勢いがそのまま減速することなく。幾千の腕はネボとヴェターが先ほどまでいた大地に衝突する。

 そして──大地が黒く染まる。墨を描けた様に、ペンキをぶちまけたの如く緑色の大地が黒く染まり──端から崩れていった。

 

(やっぱ碌なもんじゃない!)

 

 回避して正解だったと、舌打ちと共にヴェターは槍を構える。

 

「死ねカス」

 

 ヴェターが回避した先に。ディロンが先回りし拳を構えていた。

 

(先に私を──?!)

 

 想定外の行動にあっけに取られるも即座に対応。拳と槍が衝突する。

 戦闘のセオリーでは弱者を先に潰すものだ。だがディロンはそんなことを知らない。雑に嬲ることが出来るネボを後回しに、新しく来た者を叩き潰すという発想の元ヴェターに襲い掛かる。

 

(あいつ剣何処に置きやがった)

 

 その姿を。ケントニスは離れた位置から見ていた。

 今一度姿をよく見ればその手に剣は無く。完全な無手。

 素手での戦闘経験のが多いから素手でも良いだろうとでも思ったのだろうがそれは間違いだ。戦闘経験など無いとしてもそのデメリットを上回るのが呪具。

 多少慣れている拳で戦うよりもド素人以下の剣術で戦った方が勝率が高くなる。

 そこら辺の説明が足りなかった、とケントニスは反省し援護に向かう。

 

 再度。触腕を生成しヴェターに向け──そのうちの何百かがネボに斬られる。

 

『面倒な』

 

 煩わしいと。眷属を召喚。異形の姿の怪物が世界に降り立つ──

 

「死ね」

 

 ──その前にネボによって全て斬られた。

 如何に装備品の力が減少したとしてもそもそもが装備無しでBランクに認められる超越者。装備品の破損程度で戦闘が出来なくなるわけがない。

 その全貌を表す前に。全ての異形が斬られ厄介なモノだとケントニスは存在しない顔をゆがめた。

 

『おや』

 

 暴風。世界が揺れる。文字通りに。

 

 ディロンの拳とヴェターの槍が衝突した余波。ただそれだけで世界が震える。

 

 ディロンの拳がヴェターの槍によって溶け始める。

 高温に熱した鉄の如く溶けていく自身の拳を見て今度は蹴りを放つ。

 狙いは槍。武器を失えば力は半減するだろうという甘い考えの攻撃。

 

 結果は──無傷。

 鋼鉄だろうとアダマンタイトだろうと山をも消すディロンの拳はたかが槍一つ壊せなかった。

 

「あぁ?!」

 

 怒りの声を上げるディロンにヴェターが蹴りを放ち空の彼方まで吹き飛ばす下。

 

 

「蛆虫が!」

 

 

 背中から自身よりも大きな翼を生やし対空。ヴェターの元へ飛翔する。

 

 亜音速飛行。地球のどんな航空機よりも速度を出して飛翔し──

 

 ──衝突。

 拳と槍がぶつかり合い。エネルギーが行き先を失い荒れ狂う。

 

 空が爆ぜる。

 

 気づけば何処か遠い──海の上まで飛んで行ったディロンとヴェターがお互いに拳で殴りあっている。

 ただの拳一発で山を消すのを何百、あるいは何千と繰り返せば空の上の瓦礫と雲を消し飛ばし下にある海がエネルギーに耐え切れず蒸発する。

 そのまま何千と拳をぶつけ合い──ディロンがヴェターを蹴り飛ばした。

 

 空が爆ぜた。

 蹴り飛ばした先でヴェターが構え。槍から黄金色の炎のレーザーを放った。

 レーザーに体を焼かれながらも知ったことかとディロンが突進。炎で焼かれた体でヴェターの顔面を掴む。

 握り潰す寸前。横から飛んできたネボがディロンを斬ってまたも何処かへ吹き飛ばした。

 

 空が爆ぜる。

 意味の分からない速度で自身を斬り飛ばしたネボの元まで飛翔して戻り。これまた意味の解らない速度で蹴りを放つ。

 蹴りが当たる直前。自ら後ろに飛んだネボは何とか直撃を避けるも馬鹿げた速度の蹴りの余波までは回避不能。どうにか防御に力を割くことで山々を突き抜け魔族の領域まで飛ばされ大地に着弾。

 蹴り飛ばした直後。背後からヴェターが槍を構えて貫き、人間ならば心臓があるはずの部分が刺される。

 ディロンに心臓など無いため大したダメージには成らず。胸から突き出た槍を掴み体ごと回転。

 回転の勢いを殺さず回り続け、投擲の容量で槍を引き抜き掴んだままだったヴェターごと遠くへ吹き飛ばす。

 

 ヴェターが飛ばされた先には先読みし着弾地点を予測していたケントニスが構えており魔術を発動していた。

 予測に基づいて予め発動しておいた魔術がヴェターを襲う。

 破滅の刃。魔弾乱舞。魔神の閃光──その他多種多様な魔術を行使。

 炎の波が。全てを斬り裂く刃が。触れる者皆殺す魔手が。ヴェターを襲う。

 

「効くかぁ!」

 

 叫び。鼓舞しながら槍を振るうことで魔術を斬り裂く。

 本来ならば抵抗(レジスト)出来ない力量差。邪神の化身とたかが二百年程度生きた人間では埋めようのない実力者が存在する。

 それをヴェター・ヴェーステは契約によって撥ね上げた力で。契約対象たる不死鳥(フェニックス)の力を使い魔術を斬り裂くという芸当を可能にする。

 

「死ね──!」

 

 そして。自身も炎の波に。全てを貫く魔弾に身を撃たれながら──ディロンが接近。

 己の身にかかる傷など知ったことかという超速移動。

 魔神の体であっても同格であるケントニスの行使する魔術。無傷とは行かずダメージは追うが──再生が出来てしまう為問題ないと突き進む。

 

 衝突──タックル。あるいは頭突き。

 何も考えずに突っ込み。殴るよりも突っ込んだ方が早いという脳死戦法でヴェターに突撃した。

 肉が裂ける音と。何かが砕ける音が響かせ、遥か遠くまでまたもヴェターは吹き飛ばされる。

 人間だった頃の癖で目を閉じてしまい。追撃の一手を打つことなく攻撃が一瞬、止む。

 

「次は──」

 

 眼を開き。ヴェターが飛んで行ったことを視認し──次に飛んできたものに目を疑った。

 

「は?」

 

 それは。山だった。

 

 現在。ディロンがいるのは地上から何百──あるいは何千メートルと離れた空の上。

 本来ならば雲があるべき高度にディロンは浮遊している。

 そして雲が無くなったことで透き通ってしまった空だからこそよく見える。山が飛んできているのが。

 比喩表現でもなんでもなく。文字通りに山が飛んできている。

 木々が生え。大地が露呈している、山。

 標高三千メートル以上。総質量不明。

 そもそも山の質量やら重量やらを考える方が間違っている。山は動かすモノではない。

 だが現在ディロンの目に映るのは──何処かの天空の城の如く。空を飛んでくる巨大な山。

 よく見ればバラバラと土と岩と何かが崩れて落ち、逃げれない動物が山の中で右往左往している。

 

 そして──見えた。

 

 魔神の体。異形の視力をもって観測すれば──山の下方に映るは人間。

 吹き飛ばし行方不明としたはずのネボが──山を抱えて飛んでいる。

 

「そんなのありか?!」

 

 回避も防御も忘れ。ただただ叫ぶ。

 

「ぶっっっっ潰れろ!!」

 

 叫びと共に。ネボが山をディロンに向かって放り投げた。

 

 法則など知らぬ。常識など知らぬ。己が出来ると思うから出来るのだ。

 傍若無人。天上天下唯我独尊。他人など知らぬ。世界等存ぜぬ。

 それを押し通してこその冒険者。装備無しでBランクにまで上り詰めた変人の奇行。

 フル装備──現在は装備は破損しているが──の自分ならば出来ると思った。だから出来る。

 下らぬ理論など要らぬ。摂理等邪魔。全てを踏みつぶしてこその冒険者! 

 野球ボールを投げるかの如く気楽に。そして野球ボール程度の──時速二百キロ程度を超えた速度で山が投げられる。

 

(回避──間に合わん──防御──出来るかボケ──)

 

 そして目を奪われてしまったディロンは判断と行動が遅れてしまう。そもそも戦闘に山を持ってくるなと言う話でもあるが。

 

 瞬間、直撃。ディロンは回避できず、防御できず。潰された。

 

(押 し 通 る )

 

 そして進んだ。山の中を。

 歯で土を喰らい。拳で岩々を砕いて。足で動物たちを踏みにじり。山の向こう側まで突き進み──破壊と共に山の向こう側に顔を出した。

 

「まじか?!」

 

 山を砕いて突き進んだせいで山は粉々に砕け散り。空の上から大地に残骸となって降り注ぐ。

 

 その中。自らの浮遊能力で空に滞在し──大きく。大きく口を開いたディロンは口に魔力を溜めた。

 

「"死ね"」

 

 一秒未満の溜め(チャージ)ののち。ディロンの口から扇状に魔力のレーザーが放たれた。

 かつて使った即死の魔法を込めた魔術性のレーザー。魔法と魔術の融合技術を体と魔力で無理くり使う。

 正し今は反動など無い。幾らでも使えてしまう。

 レーザーがネボに当たる直前に飛んで戻って来たヴェターがネボの眼前に躍り出て盾となる。

 

「自ら死ぬか!」

 

 数秒。時間にすれば十秒にも満たないレーザーの掃射を受けたヴェターをディロンは嘲笑う。

 

 単なる魔力レーザーにあらず。放ったのは死の魔法が込められたモノ。

 触れるだけで。最悪近づくだけで死する死の光。死という概念そのものを込めた一撃だ。

 防御等出来ないモノ──であった。

 

「はぁ?」

 

 光が収まった先に現れたのは──無事の人間二名。

 

 体から黄金色の炎を噴き出すことで死を免れたネボとヴェターがそこにはいた。

 

(どういう原理だ?)

 

 魔神たるディロンが放つ死の魔法を防ぐ方法等無い。

 回避は出来る。当たらなければどうとでもなるのが魔法。だが当たってどうにかするのは不可能。

 魔法は概念を押し付ける。死の魔法ならば死なない方が可笑しい。

 と、なれば──

 

(死んだ上で蘇った?)

 

 通常ならば有り得ないと一笑に付す考察。だがここは異世界、有り得ないことがある得てしまう大地。

 死の魔法を受けたうえで耐えるならば確かに。死んだ上で蘇るのが一番の近道だ。死んだモノをどうにかする魔法では無かったのだから。

 

「まぁ、いい──」

 

 どちらにしろ殺すだけだ。そう思い拳を握り直し──ヴェターがディロンの視界から消えた。

 未だ炎に包まれたままのネボを置いて、何処かへ。

 

「ち、何処に──ぃぃ!」

 

 ガツンとした衝撃がディロンを襲う。

 正体は上から襲ってきたヴェターの槍だ。槍の柄で殴っている。

 

「ちぃ!」

 

 舌打ちと共に腕を振るうも其処にヴェターは居らず。虚空に腕を振るう。

 

 上下左右。三百六十五度の三次元的起動。

 ディロンが壊した足場を土台と隠れ蓑に。ヴェターは跳ねまわる。

 

 ヒットアンドウェイを持って。ディロンに確実にダメージを与えていく。

 

「煩わしい!」

 

 叫び。腕を広げることで広範囲攻撃を行う。

 衝撃波によって山の残骸が塵も残さず砕け散る。

 足場でもあったのを破壊されヴェターは即座に背の翼を動かし飛翔。ネボを取って距離を取らんと空を飛ぶ。

 

「眷属乱造!」

 

 そこに。ディロンが即興で思いついた力を行使する。

 魔神の権能による配下の作成。材料は人間の負の感情や死体。

 それを、山に居た動物たちで代用する。

 

 山の残骸がディロンを中止に集まる。

 何とか生きていた虫や蚯蚓も押しつぶし、シカや狼の負の感情を燃料に。肉の体ではなく山の岩や土、木々を材料に新たなる≪不可解な者≫(アンノウンズ)が誕生する。

 全長二千メートル。天空にまで届かんとする異形の巨人が空から降って来る。

 

「名前──めんどくせぇ! 『ギガント』! 叩き潰せ!」

 

 巨兵──ギガントが拳を握り。空からヴェターに向かって拳を振り落とす。

 巨躯であるというのにその動きは素早い。一呼吸の間でヴェターを射程圏内に収めた。

 更には遅れて来たケントニスが補助魔術を発動。瞬間的な攻撃力を底上げする。

 無理くり力を上げたせいでギガントの体が崩れ始めるがその程度想定内。

 底上げされた力で。ヴェター・ヴェーステとネボを大地に叩き落とした。

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