殲滅戦争   作:Libro

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第68話

 

 

「なんなんだよ、これ!」

 

 若い冒険者の声が。戦場で響いた。

 商業都市シュテーレン。戦場となった都市前の平原は、地獄となっていた。

 

 突如として地面が爆発し。大地が揺れ。空からよくわからないモノが降り注ぐ。

 

 揺れる大地では誰もが真面に歩けなくなり。空から降って来る何かの瓦礫に当たり空を飛ぶ魔術師は肉塊とかす。

 

 そして、この機に乗じて暴れ出す魔物達。

 

 大地が揺れようが同胞が瓦礫で灰となろうが構うことなく暴れ、人間を襲う怪物達に人間勢力は苦戦を強いられた。

 そもそも人間と魔物では根本的に能力が違う。ありとあらゆる能力において大多数の人間は魔物に劣る。

 だからこそパーティを組んで、数を組んで、武装して。初めて魔物と戦うことが出来る。

 

 たった一人、碌な装備無しで戦えるのはそれこそ一部の──英雄と呼ばれる人種ぐらいだろう。

 そしてここに、英雄はいない。

 

 

 代わりに──勇者はいた。

 

 

「だぁぁぁ! クソ! 何がどうなってんだよ!」

 

 

 勇者の片割れ──男の勇者である藤原玲一が武器を片手に叫んだ。

 

「叫ぶ暇あったら敵倒して!」

 

 女の勇者、出雲大和が矢を放つと同時に声を上げる。

 

 放った矢は幻想的な青い光を放ち魔物の近くに落ちる。

 当たることの無かった矢は、たまたま近くを通りがかった魔物を灰に変えた。

 先程放った矢以外──十分以上前に撃った矢でさえも青い光を放ち続け魔物を灰に変え続けている。

 

 これだけの数。敵味方入り乱れた乱戦状態で下手に狙って矢を放てば味方にも当たりうる。

 戦争というモノを経験していない出雲は敵に当てるのではなく、一種の罠として勇者の力を使っていた。

 

 一方もう一人の勇者。藤原はそんな器用な真似は出来ない為懸命に剣──刀を振るうことで魔物を倒している。

 

 

「このままじゃジリ貧、こんなの──」

 

 どうしようもない。という言葉はどうにか噤んだ。

 

 確かに現状。敵と味方両勢力が謎の地震や瓦礫等で死んでいる。被害だけで言えば現状では魔物勢力の方が大きいだろう。

 何しろこちらには魔物に対する絶対的な特攻能力を持つ勇者が二人もいるのだから。

 

 だが人間達は混乱が収まっていない。揺れる大地に空からの瓦礫に対応出来ていない。

 

 地震大国出身である二人にとっても感じたことなど早々ない……それこそ震度に換算すれば六度以上は確実にある地震。

 それが連続的に、あるいは急激に止まったり──急に大きく揺れたり。

 緩急つけて、あるいはなしで。予測の出来ない大地の震動は人にとってはそれだけで恐怖となる。

 更に魔物との戦闘状態となれば猶更だろう。

 

 そしてそんなの知ったことかと暴れまわる魔物達。

 

 地面の揺れで同胞が大地に沈むもうが。空からの瓦礫で潰れても。何かに轢かれて跡形も無くなろうと。

 

 魔物には関係ない。同胞が一人死んだのならば。二人の人間を殺すことで帳尻を合わせる。

 

 

 更には──

 

 

 げぎゃげぎゃと。空から奇怪な泣き声が響いた。

 

 

 プテラノドン。コミックやアニメ等で飽きる程見た空を飛ぶ恐竜──正確には翼竜──が空から攻めてくる。

 地上の揺れなど関係ないと。空という基本人間が手出し出来ない場所からブレスを放ち上空から一方的に攻撃してくる存在に一部の冒険者達が苛つき始めている。

 無論空の魔物達とて瓦礫やら謎に発生する衝撃波で死んでいる。だが死んだとしても元の数が膨大すぎて意味が無かった。

 

 だが、何よりも。ここまでの苦戦を強いられているのは──

 

(指揮が来ない! 連携が取れていない! どうなってるの?!)

 

 指揮系統の混乱。戦前に決めていたはずの指揮官や伝令役。

 それら一切の音信不通。何処にいるのかもわからない。

 

 おかげで戦場は個々の判断での単独戦闘(ソロプレイ)となっている。

 

 逆に魔物側は指揮が取れている。

 

 

 手薄な所に強力な魔物が。強力な冒険者達には数をもって押しとどめ疲弊としたところ強力な魔物で叩き潰す。

 背後や空や大地などの警戒しにくい場所からの奇襲。

 それだけならばまだ何とかなったとしても、突如起こる地震に暴風に振って来る瓦礫。

 まるで終末の様な光景で正気を保つ方が難しいだろう。

 

 

「ほんと……やになってくる!」

 

 

 

 

 ■

 

 遡ること数十分前。ディロンとヴェター達が戦闘を開始した頃。

 

 

 商業都市シュテーレン──の地下街。

 本来ならば下水道として使われているはずの場所には。不自然な空洞が幾つもあった。

 職員の休憩所や物資置き場にしては点々としており、また大きすぎる空間。

 まるで何十人という人間が生活するために作られた空間は。事実人が地下で暮らす為に作られた場所であった。

 

 盗賊ギルド。そう呼ばれる犯罪組織の活動拠点であった。

 

 そんな犯罪組織の拠点は現在襲撃されていた。

 

 

 げたげたと品の無い笑い声を上げる魔物達。

 下水で体が汚れるのも構わず。魚型や蚯蚓型。蝙蝠型等の多数の魔物が沸いて出てきていた。

 

 襲撃されている地点から遠く離れた小部屋。何十とある地下整備用の物資置き場か休憩所に過ぎない場所。

 

 部屋其の物は質素な作りだ。簡易的なテーブルとイス。そしてルーン製の冷蔵庫のみ。

 その部屋に似合わぬものが三人。部屋で寛いでいた。

 一人は小奇麗なドレスを着た少女だ。年は十三かそこらか。年相応の背丈であり可愛らしさを感じる顔つき。

 金髪碧眼という特にいうところの無いあり触れた容姿をしている。

 皮膚にしわはなく、手に豆等が無いことから肉体労働とは無縁の子供──つまりはある程度裕福な者だとわかる。

 

 二人目もまた、奇妙な人間だ。

 スーツという仮面乃人が持ち込んだ奇怪な服装に頭部全てを覆う仮面。

 仮面には穴やガラス等は無くどうやって視界を確保しているのか不明。

 

 そして。最期の三人目は若い女。

 二人目と同じくスーツを纏っているのと。この大陸では有り得ない黒い髪と碧眼を持っている。

 身長も女性にしては高く百七十八程もある。

 唯一。この中では腰のベルトに刀を差していることから戦闘員なのだとわかる。

 

 

「ああ。ジョンはそのままそこで待機。ヘンリー、ショーンが苦戦中だ。数が多いから気を付けて。六番水道に向かってくれ。それからティモシー。君には──」

 

 

 次々と人の名を呼び指示を出す。

 はた目からは虚空に向かって会話をしている危ない人にしか見えないが実際は違う。

 男が被っている仮面は古代の遺産(アーティファクト)。名を無限の風貌(インフィニティ・フェイス)

 効果は他者との会話。言ってしまえば携帯電話だ。

 正し地球のそれとは違い衛星や電波塔など要らないし相手が持っていなくとも通話が可能という代物だ。

 更に相手が何処にいるのかまで把握できるという情報戦においてはこれ以上に無い古代の遺産(アーティファクト)だ。

 対象は自由。一度仮面をつけた状態で視認するだけで何時でも通話できる為それこそ街の視察に来た貴族や──王族等を"見て"しまえば王侯貴族しか知り得ない情報を会得できてしまう。

 通話時も自分の声は通さず相手の声だけ聞こえる等の調整も出来るという、情報戦においてはユーカリの地図に匹敵する。

 

 それを被っている男の名はフェアフェル。この地下に救う盗賊達の首領であった。

 

「さて……」

 

 一息ついた男は。くるりと少女の方に顔を向け。片膝を付いた。

 

「ソフィアお嬢様。大丈夫です。時期に殲滅が終わります」

 

「……本当ですか?」

 

 

 ソフィアと呼ばれた少女は疑いの目を持って男を睨んだ。

 無理もないな、と男は内心ため息を着く。

 むしろこれで信じられたらそれはそれで精神干渉などの魔術を疑うべきだ。何しろ自分は盗賊ギルドの首領。何処をどう見ても怪しいのだから。

 

「…………いえ。信じます。今の私には。それしか出来ないので」

 

 

(……面倒だな)

 

 はぁ、と心の中でため息をついた。

 

(マーキングした勇者から情報を会得したが……地上も大変なことになっているな。指揮官が初手でやられたのが痛い。

 しかも代役も居ないし領主も殺された)

 

 

 地上での戦闘が魔物主導になってしまったのはそれが原因だ。

 地下下水道を隠密特化の魔物が進行し隠れ潜み指揮官だけを殺す──何とも理想的な暗殺。

 フェアフェル事態好む手法であり。警戒もしていたがそれでも防げなかった。

 

 今回の戦争における指揮官──シュテーレン領主にガレス・セント・ウォーレン。その他数名の貴族や冒険者ギルド関係者。全員殺された。

 

 結果が今回の混乱戦。本来あるはずの指揮系統が無くなり現場での臨機応変な対応を求められてしまっている。

 

 暗殺系統の魔物──ゴーストなどの実体がない魔物や影の悪魔(シャドウデーモン)等の隠密に過ぎれた悪魔など。

 領主の死の寸前に確認すればそれはもう悪意しかない魔物達が映ってしまった。

 

 何故魔物が結界の中に入ってこれたのか疑問を抱いたがそれも勇者の仲間の一人が戦っている相手を見れば原因がわかった。

 空間を自在に移動する悪魔が居るならば。成程確かに。あらゆる結界も城塞も意味はない。

 そんな相手が敵に居ると知ったフェアフェルは考える。

 

(さてどうするか。面倒だし見捨てて逃げるか?)

 

 その様なあんまりな考えが一瞬よぎる。

 クリセルダを主な活動地点にしている盗賊ギルドにとってはシュテーレンの陥落は非常に痛い。だが変わりがいない訳ではない。

 国家に対する忠誠心や愛国心等を一切持ち合わせていないフェアフェルにとっては自身が率いる組織──盗賊ギルドが致命的なダメージを追う事態は避けたい。

 人数が一定数残ってさえいれば何処か別の国で幾らでもやり直せる。それだけの力と資金とノウハウが残っている。ならばここに固執して損害を出すよりとっとと逃げたした方がいいのではと考えてしまう。

 だが。

 

(狙いが読めなさすぎるな。こんなことをして何になる?)

 

 大国の都市を襲撃して。魔族側に何の利益があるのか。

 

 順当に考えれば歴代の勇者と魔王と同様に魔王対勇者の構図を描けばいい。こんな大々的に軍を作って使役する等非効率の極み。

 軍と軍の戦いなどと言う泥臭いモノは誰も望んで等いない。吟遊詩人が歌うように勇者と仲間が魔王を打ち倒せばいい。

 

(そもそも勇者と魔王の戦い自体がある種の演劇(パフォーマンス)に過ぎなかったはず。それなのに今更本気で取り組み始めた? 二百年前に傷ついているというのに? 

 ──いやいや。そもそも二百年前の戦争で邪悪なる神々(ゼーベ)共は弱体化している。その状態でこんなことをするか? 

 考えられるとしたら邪悪なる神々(ゼーベ)感での勢力争い? 人間が勇者を使って権威を得ようとするのと同じか──?)

 

 盗賊ギルドの長として。二百年前の戦争の経験者として。冒険王と対峙したモノとして考えるも──答えは中々出ない。

 

(何処か引っかってる。何処だ? 自分は何に気づいた?)

 

 思考の海につかろうとするも。それより早く報告が届く。

 配置した部下数名からの苦戦の報告を受け思考を止めた。

 

(まったく。面倒な)

 

 はぁ、とため息をと共にその場を後にする。

 

(地上はもうだめだな。撤退戦と行きたいが指揮官居ないしほぼ無理か。後は勇者がどうするかになるか──)

 

 

 

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