殲滅戦争   作:Libro

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第69話

 

 

 

「こんなものか」

 

 はっと、ディロンが鼻で笑った。

 眼下には頭部を潰され見る影も無くなったヴェター・ヴェーステと体が焼け爛れ辛うじて人型を保っているネボ。

 ヴェターの契約相手であるフェニックスは既に死んだ以上再生による蘇生はもはや有り得ない。

 

「頭がぐらぐらするな──ああぁちがう。こうか?」

 

 

 契約によって得た力に酔い。体のバランスを崩す。

 急激な契約に人の魂に異形の体という矛盾を抱えていたのを更に契約という力を抱え込んだことで更に不安定になる。

 

「さて、計画通り負けていればいいが……」

 

 背中から翼を生やし。空の彼方へとディロンは飛び去った。

 

 最期に。ぴくりと動いたネボに気づかぬまま。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

(──妙だな)

 

 

 シュテーレンの上空。人と魔物両方に認識されないように透明化しているフェアフェルは戦場を眺めていた。

 

(こんなものただの負け戦ではないか。何を考えている?)

 

 地上で奮戦する冒険者と人類の希望足る勇者によって魔物達の殲滅が進んでいる。

 確かに多少強い個体──トーベン等の上位個体や魔族なども混じっている。だがそれだけだ。

 単独で戦場を塗り替えられる超越者Aランク相応の魔物も魔族も居ない。

 始めこそ指揮系統の混乱によって深手を負ったが──そもそも冒険者は指揮等要らない。戦場において戦う際あてにするのは仲間の信頼と連携。指揮役など居なくても戦闘できる。

 無論指揮官等は居た方が戦いやすいし戦略も練れる。が居ないなら居ないでどうにかするのが冒険者だ。

 

 故に。魔物達は倒され続けている。

 

 確かに暴風に地震に瓦礫と混沌は続く。だがこのままでも倒せ切れるだろう。

 

 

(何が狙いか本当にわからないな……ただ無駄に魔物の数を減らすだけだしこの後無駄に対応されるだけだろう。このことが諸外国に知れ渡れば対策され──)

 

 

 ふと。思い至った。

 それこそが目的ではないか、と。

 

(代替的なアピール? あるいはデモンストレーション? 示す先は邪悪なる神々(ゼーベ)として──対策を取らせた上で何をさせる気だ?)

 

 

 そうして幾つかの目的とこの戦いによって生じる損害等を考えて──今はどうにもならないと結論を出した。

 

 後の事は後で考えればいい。そうしてフェアフェルは未来の為に空の彼方へ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 ■

 

 ほんの少しだけ時間は巻き戻る。

 

 

 

「だーもう! 何だよこれ!」

 

 刀を振るい。巨大な鼠型の魔物を斬りながら男──勇者藤原玲一が叫んだ。

 無限に湧き出る魔物との戦いで流石に疲労を隠せなくなってきた藤原は悪態をつく。

 

 如何に勇者としての力を与えられようと元は人間。勇者の力の元は善なる神々(ハイリヒ)

 魔を扱う冒険者と違い神力(しんりき)しか使えぬ勇者は身の変異を起こせず純粋な人間の範疇でしか動けない。

 それこそ極まった者たちは音速等優に超えた速度で走れるが勇者は音速など越えようモノなら体がバラバラどころかミンチより酷いことになるだろう。

 

 故に。疲れる。消耗する。

 

 疲れた体では刀を碌に震えなくなり。動体視力は落ちて攻撃を避けることも出来なくなる。

 

 継戦能力という一点では明らかに劣っているのが勇者だ。この世界の冒険者は平気で七日七晩戦い続ける事も可能だが藤原と出雲は出来て精々一日だろう。食事に睡眠に排泄に人間に必要な行為は多数ある。

 肉体能力なんかもどれだけ多めに見積もっても地球のオリンピック選手程度。一トンを超える岩を片手で持ち上げるなどの行為は出来やしない。

 所詮は魔に対する特攻を持っているだけの地球人に過ぎない。

 

(このままだと、まずい。前線から引かないといけなくなる)

 

 だが、この状況でどう撤退すればいいのか? 

 

 本来ある休憩所は破壊され、指揮官も潰された今。戦場からどうやって逃げだす? 

 

 

 自分たちは勇者だ。勇者とは人類の希望。絶対的な正義の象徴。

 それが、戦場から逃げ出すという行為が許されるのか? 

 

 

 無論現実的に考えれば逃げ出していい。冒険者数百人の命何ぞより勇者一人の命が勝る。

 だから、疲れた体で無理に戦って、壊す前に逃げ出すべきだと。

 

 

 けれども。

 

(勇者が──逃げ出していい訳がねぇ!)

 

 

 眼前に広がるは異形の軍勢。三つ首の犬に人の死体を無理くりくっ付けた巨人。三メートルは有ろう人型の巨体に頭部からは角が生えた赤い皮膚の怪人。

 その他考えるのも馬鹿らしい魔物達を前に。藤原はこの世界で勇者として戦ってきた責任を感じている。

 

 例え戦場から逃げるのが正しいのだとしても。勇者として戦いを選ぶべきだと。藤原は考えた。

 

 

 ズドンと大地が揺れた。

 

 また瓦礫か、あるいは巨躯の魔物でも現れたのかと思い揺れの方向に顔を向ける。

 そしてそこに現れたモノを見て、間抜けな声が出た。

 

「ステージ?」

 

 

 現れたのはステージであった。

 野外でアイドルなどがコンサートを開くために使う土台。それがどういう訳か空から降って来た。

 ステージの両サイドにはこれまた見事なスピーカー。人なんかよりも何倍も大きいのが付いている。

 

 

「みんな──ー!!!」

 

 

 空から女性──というよりは女の子の声が響いた。

 

 その声に、誰もが注目した。

 戦っている途中の冒険者も。戦場から離れようとする戦士も。今正に人を食わんとする魔物も。自我など無いはずの≪不可解な者≫(アンノウンズ)

 も。

 

 すっと、と綺麗にステージの上に降り立った。

 

 現れたのはフリフリの衣装を着た女子であった。

 年齢は高く見ても十六かそこら。快活な雰囲気に大人チックな衣装が妙に似合っている。

 日本のアイドルの如く膝下数センチのスカートにヒールと一瞬日本に帰って来たのか? と疑問を抱く衣装。

 女子の名はリート。藤原がアルバ―ロで出会い、ほんの少し話をしただけの少女がステージの上でマイクを握っている。

 

「私の歌を──」

 

 すぅ、と大きく息を吸った。

 

 

「聞いて──!!!」

 

 

 

 そして、歌が始まった。

 

 誰もかれもが止まった中。その歌声は戦場に響いた。

 スピーカーで増幅された歌が風に乗ってこの場の全員の耳に入る。

 鼓膜など無いトーベン達すら歌声を聞いてる。

 

 

「~~~」

 

 

 力強い歌だった。

 地球で聞いたどんな声よりも強い。生命力が乗った歌声。

 聞き入るだけで体に活力が漲る気さえしてくる──

 

「……あれ?」

 

 漲って来るというか、実際に何か力が上がっている。

 言語化が難しい感覚だ。例えば寝起きで"今日なんか調子いいな?"と気づいた時の様な──奇妙な感覚。

 

 

 原因は明らかにこの歌だろう。魂に響く歌が自らに力を与えているのだと直感でわかる。

 

 

 

 リート。Cランクの冒険者。

 Cランクではあるが実際の戦闘力はDランク──つまりはある程度訓練した戦士程度の戦闘力しか有さない者。

 例外としてCランクの地位を与えられし七十年ぶりの迷宮踏破者。Bランク授与等の話も出たが流石に弱すぎたので流れた。

 彼女が迷宮踏破時に得た古代の遺産(アーティファクト)はその手に持つマイク。

 名は【キラリン☆アイドルマイク♡】というふざけたモノだが古代の遺産(アーティファクト)の命名権は発見者にある。最初に見つけたのがリートである以上誰も文句など言えなかった。

 

 能力は歌を聞いた者に対する強化と、弱体化。

 つまるところバフとデバフである。

 

 彼女が味方だと認識している者の全ての能力を二割増強し、敵だと認識した者の全ての能力を二割下げる。強大無比な力。

 この世界では他人に強化をかけてもらう、という行為がほぼ不可能である為他者に強化術をかけれる時点で唯一無二の特殊性と言えるだろう。

 

 更には強化されるのは文字通り全ての能力。

 

 単純な筋力や移動速度だけではない。本来増えることの無いはずの魔力や魔術の威力。視力。思考速度。体の治癒力。判断力。危機察知能力。筋力。

 その他すべて。つまりバフをかけた相手が有する文字通り全ての能力が二割、増える。

 

 そして敵にはその反対。筋力に魔力量に魔術の威力。移動速度に判断能力、その他全てが低下する。

 

 何とも恐ろしい能力である。バッファーとしてこれ以上ないほどの力。

 

 それを、何の制限も無く解き放った。

 

 

「なん、だこれ?」

 

 普段と違う感覚に藤原は混乱するも、それもまた強化された力で直ぐに収まる。

 

「これなら……」

 

 

 勝てる。そう確信を持てた。

 

 疲労が無くなった訳ではない。だが疲労の回復速度が上昇しているのを実感する。

 

 遠くから冒険者の声が聞こえてくる。もう少しだ、がんばれ、あのアイドル可愛いな──等と言った声が。

 聴力も上がっているからか。遠くそれほど大きい声でもないのに聞こえて来た。

 

 

(勇者の俺に魔術的な力は効かないはずだけど……まぁいいか!)

 

 深く考えず。プラスに働いているからまぁいいだろうと思考を止め、刀を握りしめて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

「え~と、これがこうで……これがああなるのか?」

 

 

 遥か空の上。地上が豆粒どころかまず見えない程の空の上。クレールとウードが戦っている空よりも遥か上。

 地球上では定義上宇宙に入る程の空の元。ディロンがぶつぶつと呟いていた。

 

 新しく会得した能力と今まで持っていた能力の確認作業である。

 

 今の自分に何が出来るのか。逆に何が出来ないのか。把握しておかないと思わぬところで足を掬われるかもしれないからこその確認。

 

(あ~、箇条書きすれば──

【無限の魔力】【翻訳能力】【魔術・魔法行使能力】が元から……この世界に来てから得た能力。

 んで【魔神の体】【馬鹿げた身体能力】【超再生能力】【飛翔・肉体……】いや【飛翔】【肉体の形態変化】【眷属作成】【眷属指揮】

 がアンファングで得た能力。最後にケントニスとの契約で【世界の記憶・記録の閲覧】【過去記録からの魔法・魔術行使】か)

 

 肉体の形態変化はこれまで空を飛ぶ際に無意識化で行っていた翼の形成能力。

 背中から蝙蝠の如き翼を生やすだけでなく、腕を変形させることで鞭の様にしならせたり腕を増やして攻撃手段を増やすことも出来る。

 眷属作成は≪不可解な者≫(アンノウンズ)のことだ。(アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)がアンデッドという独自の配下を持つのと同じ。

 だが魔物は独立して動けるのに対し≪不可解な者≫(アンノウンズ)は本体の魔神からの魔力供給が無くては動けない。

 また命令が届く範囲も精々が五キロ程度であり細かい命令も出来ないのが欠点。

 

「こうしてみると俺は強いのか弱いのかわからんな」

 

 先程も冒険者──ケントニスの権能で確認したネボという冒険者相手に戦いが成り立っていたし、と付け加えた。

 

『あれはこの世界でも上位に入る冒険者だからな。単純なランク換算ならAランクに入るからな。まぁ単なる格付けならばお前は本体での邪悪なる神々(私たち)と同格と思えばいい。

 所詮古代の遺産(アーティファクト)や神器やらその日の状態で変動するモノに過ぎんが』

 

「そうか……んでこれからの計画の確認をしたい」

 

 一応の計画の概要は聞いてはいる。が新しく得た能力で更に深い所まで理解してきた為の確認作業。

 

「この戦争で俺たちは大敗──というよりは敗戦をする必要がある。理由がお前の権能を広くする為……だったか?」

 

『あぁ。魔物との戦い。魔族が率いる軍勢。それらと戦った冒険者は自慢するだろうよ。"俺は魔物を百体倒した! "。"私は魔族を打ち倒した! "とな。

 そして都市を侵攻した以上王侯貴族連中にも話が生き、負傷者からポーションの需要から錬金術師の仕事が増え、逃げた民の為に神官達も仕事が増える。

 そうなれば人々の記憶に残る。吟遊詩人が歌い多くの人が知る。記録として残し、のちの世代へ残そうとする』

 

「結果、記憶と記録を司るお前の力が増す、という訳か」

 

『正確には現世への干渉力だな。地上の人間が私が直接関わった事情に関して記憶・記録すればするほど私の影響力は増していく』

 

「なるほどな……」

 

 故にこそこの戦いで圧勝してはならない。

 その気になれば今のディロンならばこの程度の戦争一瞬で終わらせられる。

 遥か上空から魔力で砲撃するだけで終わるだろう。無論途中から勇者やら冒険者から妨害を受けるだろうがその前に国の一つぐらいは灰塵に出来る。

 だがそれをすると生存者がおらず、誰も記憶しないし記録にも残らない。

 精々が謎の魔族によって滅んだとかその程度の記録にしかなり得ない。

 

『そろそろ地上に向かえ。地上ではいい具合に負け欠けている』

 

「……そうか」

 

『私は最後のピースを連れてくるとする。先に行っておいてくれ』

 

 返事をすることなく。翼を消して。ディロンは自由落下を始めた。

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