殲滅戦争 作:Libro
「アアアアァァァァ!!!!」
不破を強烈な痛みを襲う。
体ではなく魂が引き裂かれるような強い痛み。
青い光に包まれ、体が端から焼ける痛みに襲われる。
どうにか不破が光に包まれながら見れば、ちょうど発動者である城壁上のサイモンの周りだけ光はなく。城壁以外のここら一帯──数百キロとも思える範囲が青く染め上げられている。
連れてきたゴーレムも、二桁程度に減った魔物も青に染められ、蒸発していく。
「終わりだな」
サイモンが勝利を確信し、言う。
「これがあなたの
ヴェターが城壁の上まで跳躍し降り立つ。
ギリギリ発動前にたどり突けたとぼやく。
右腕から血を垂れ流している。どうにか頑張って左腕だけで腰のポーチから宝玉を取り出す。
魔力を込め、再生の力を発動させ右腕を生やしながらサイモンに問う。
「ああ、この街の領主に代々──冒険王から授けられた杖に込められた力だ」
「へぇ、すごいじゃない」
もはや叫ぶ余裕もなくなったのか、城壁の上では不破の声は聞こえない。
街の外を見ればここにはあれほど居た冒険者は既に撤退済み。
この力は超広範囲攻撃だ。対象指定等の細かいことはできない。
故に冒険者を巻き込まぬようにと冒険者も兵士も神官も避難地へ向かっている。
眼に見える範囲から次々と魔物が蒸発していく。
ゴーレムも例外ではない。瓦礫事消滅する。
「超広範囲攻撃──これが切り札ってわけね」
とんでもない隠し玉ね、と小さく呟きながら言うがそれをサイモンが否定する。
「正確には広範囲の
サイモンが自慢するように、光を発しなくなった杖を掲げる。
「魔力の消滅?! とんでもない力じゃない!」
勇者が言うチートって奴ね、と言いながら一歩引く。
魔力の消滅。
それはこの世界の住人にとって『死』を意味する。
魔力と言うのはこの世界に本来ある力ではない。
『
邪神たちはこの混源よりやってきた。いわば邪神たちの生みの親ともいえる場所。
詳細は分からず、無限の闇とも泥沼とも言われるが誰にもーー邪神たちもわからないという。
わかるのは生命を汚す魔力を無限に放ち、この世界にまで降り注いでいるということ。
魔力を用いて人は魔法を。魔術を。超越者じみた身体能力を行使する。
それこそ極めればヴェターのように音より早く動けるようにもなる。
例外の超常は神々が遣わした奇跡である。
あれらは神の力を人が借り受け、行使する力だ。
通常よりも魔力への耐性こそ会得できるが、その分魔力による変異で身体能力は増加しえない。
奇跡で上昇させることはできるがどうやっても音速や亜光速の領域には至れないのだ。
「これで終わりか」
「えぇ、兵も消えたあの男──魔人は魔力を失って死んだ」
ヴェターがこれで終わりと笑う。
それを本来なら不敬罪だとサイモンが軽く笑い流す。
もはやこの地にはヴェターとサイモンしかいない。
他の兵は魔物の軍にぶつけ残った兵は途中から避難させた。
本来不敬罪で捕まりそうだがそれを気にせず話せる。
自分で止めを刺せなかったことを後悔しながら、死体になった不破を見ようとして。
気づく、気づいてしまう。
「領主! 周囲の魔力も消えてる?!」
「ん? ああ、消えている、周囲の魔力も消えたからな」
「ちっ! じゃあすぐ他の高ランクを呼び戻せる?! Cでもいい!」
「いや、すべて避難民の誘導に行った、呼び戻すには時間がかかる」
「クソ!」
何を言っているのかと、サイモンがヴェターを見る。
しかしその顔は真剣そのもの。何を考えているのか?
もはや魔人は死した。後は事後処理をするだけではと、軽くサイモンは考える。
「私たちで、あれを止めれる?」
その思考を止めるように、ヴェターが引きながら言う。
その挿した指の先は。
「ば……か……な」
顔を焼かれ、足を焼かれ。
体の表面の皮膚全てを焼かれ、皮膚の下の筋肉が丸見えになった魔人──不破が、立ち上がっている。
魔力で変異した鉱石を元にした剣も鎧も服さえも。
跡形もなくなり。全裸になり。なお立ち上がっている。
「あり得ん! 何故生きている!」
珍しく、年を取り落ち着いてきたはずのサイモンが叫ぶ。
先ほど述べたように魔力は酸素のような物。
それをいきなり体から排除されれば死ぬ。
この世界の住人なら。
「マ……ダ……オワ……レ……ナイ……」
そう、
異世界より呼び出された不破泰二は、正当に魔力への耐性を得たわけじゃない。
例えるならば神の加護。
魂に直接植え付けられ。魔力の源たる『混源』より
不破自身だけが、他の邪悪なる神と同じく混源から直接力を引き出し行使していた。
無論この世界に来て数日たち魔力によって変異が進み始めていたので魔力の消滅によって大ダメージを負った。
もしこれが更に数日──後たった一日か二日経っていれば。これによって死んでいただろう。
魔力による変異は時間経過と本人の魔力消費量に依存する。
その分変異が進み不破は強くなっていただろうがここで死していたはずだ。
ヴェターとサイモンは焦る。もはやここには二人しかいない。
冒険者も神官も兵士もいなくなった空っぽの街にこれ以上の戦力は無い。
「領主! あんた戦える?!」
「無理だ! 私は前線を引いて久しい! 身体能力は残っているが、どうしても足手まといになる!」
剣は不破にぶっ挿したままだ。
予備の剣は持っておらず、仕方なく素手でヴェターが構える。
(
単に変異した分の素の身体能力でもオリンピック選手をはるかに超える力を発揮できるヴェターだが、それよりも更に魔力を纏い。魔術で身体能力を底上げした状態で不破と戦っていた。
あの戦いを魔力無しでしていたら直ぐに不破の身体能力に圧倒され殺されていただろう。
サイモンが発動した
魔力が消えたとてすぐに死ぬ訳ではないが周囲から魔力を回復できない以上先ほどまでの超越者としての身体能力は発揮できない。
魔力が無いのはお互いに同じ。しかし勝てるか?
ヴェターとサイモンがそう考える間に不破が先に動く。
「なっ!」
「はやっ」
魔力を失ったはずの不破が馬鹿げた身体能力を発揮し跳躍する。
二人は知らない、不破が周囲の魔力を取り込んでいた訳ではないと。
故に馬鹿げた身体の力を不破は維持できている。
一瞬で城壁の上まで飛び上がり、口を開く。
それを見てヴェターが左腕を伸ばし、サイモンを守ろうとするが──
更に早く。不破が動く。
「”コ ワ レ ロ! ”」
不安定なまま放たれた魔法は。
空間を、城壁を破壊していく。
バキバキと音を鳴らし。城壁にヒビが入り砕けていく。
範囲は城壁だけにとどまらず。地面にまで届き破壊し城壁が崩れ落ちる。
「領主!」
どうにか、壊れる城壁の上から兎のように跳ね飛びサイモンを掴み不破から離れる。
壊れる城壁の破片の上をピョンピョンとウサギの様に跳ねる。
上から降り注ぐ瓦礫をどうにかよけながら地面に着地する。
不破の方は体がまだ言うことを聞かないのかドスンと地面に打ち付けられる。
「無事か? ヴェター君」
「なんとか、ね」
バラバラと上から破片が降り注ぐ中。壊れた城壁後で会話をする、
無事なのはヴェターとサイモンだけではない。
体を地面に打ち付けられた不破が魔力を放ち壊れた体を無理矢理に動かす。
「逃げるけど、いいわよね?」
「──こうなっては仕方があるまい」
不破から逃げようと背を向ける二人に対し不破は逃がしてなるものかと口を開く。
足が動かなくなり。両腕で体を持ち上げる姿はもはや人ではなく化け物のそれだ。
それを見た二人が、直ぐに走り出す。
「"コワレロ"」
もう一度破壊の魔法を放ち砕けた城壁の瓦礫も地面も一緒くたに壊れていく。
罅が入り砕ける。蜘蛛の巣の様に罅が入り広がっていく。
そんな中不破がぐらぐらと地面が揺れていることに気づく。
はて地震が起こったかと見るも──違う。
一瞬の静寂の後に響くとんでもない大音響。
耳を切り裂くような雑音。瓦礫同士がぶつかり合い。不協和音を繰り広げる。
そして地面が陥没し、不破がアリ地獄のように落ちていく。
ヴェターに抱き上げられたサイモンが驚き声を上げている。
しかしヴェターはそれを聞く余裕はなく、破壊に飲み込まれぬよう走り続ける。
だが不破はもうまともに動くこと等できずどうにかもがくが藻掻けば藻掻く程地面に吸い込まれていく。
「アアァァァァ!」
こうして不破は、地面に飲み込まれていった。
■
数分後。
砕かれた地面の周囲。
「気を付けて、それ以上行くと飲まれるわ」
「わかっている」
不破が飲まれた後を二人は見る。
破壊の魔法で周囲を破壊した不破はその破壊によって飲まれた。
少々間抜けな終わりだが。本当に死んだのかの確認だ。
「しかし、こうしてみると魔法と言うのはやはり凄まじいな」
「まぁ、世界に命じて発動する力だからね、そら強力になるでしょ」
ふ~む、とサイモンが綺麗に円形状に破壊された地面を見る。
不破の破壊魔法で壊れた地面は綺麗に──範囲外には何の影響ももたらさず、破壊している。
見れば城壁の向こうの街も破壊されているが、不破の後ろ側には何の影響も出ていない。
「地面の崩落か……思ったよりあっけなかったな」
「そうかしら。この程度で終わるとは思えないけど」
「まぁ、それはいいとして、だ……ここからどうするか」
「そうよねぇ……」
はぁ、と二人してため息をつく。
魔物の軍を打ち払った後、避難予定地である隣街まで逃げるのに用意していた食料も魔道具もすべて破壊に飲まれて消えてしまった。
ヴェターだけなら全力で走れば一日程度でつくが、体力をなくしたサイモンはどうしても二日はかかる。
抱えて走ろうにもそれほどの余力は残っていない。
しかも太陽が昇りかけている。暑い日差しは体力を奪う。
そんな中水も食料もない中、
もはや諦めて走るしかないのでは、と目と目が見つめ合うが、それを邪魔するように声が聞こえる。
おーい、と言う少し間抜けな声だ。
「おーい! 無事か! ヴェター!」
「……ヴァン! 生きてたのね!」
「勝手に殺すんじゃねぇ!」
冗談交じりにヴェターが言うのを、ヴァンが怒る。
「と! 領主様、失礼しました!」
ぴしっと、慣れない敬礼をヴァンがする。
汗をかき獣臭が強い。
普通に顔をしかめるような匂いだが、それがわからないかのようにサイモンは振る舞う。
「構わないとも、君もこの街を救ってくれた英雄の一人だからね……しかしなぜここに?」
「え、えーと、戦況がどうなったか気になりまして……」
少し恥ずかしそうに、ヴァンがヴェターを見ながら言う。
それを見てサイモンはある程度察するが、ヴェターの方は何もわかってはなさそうだ。
若いな、と小さく呟く。
サイモンは外見年齢こそ三十から四十程度だが実年齢は既に百に近い。
枯れた自分にはわからないな、とサイモンは思う。
「さて、ここもいつ崩れるかわからない、直ぐ動こうと思うが、異論は?」
「異論はないわ……」
だけど、とヴェターが付け足す。
「後で調査団を派遣した方がいいと思います──あれが死んだか、確認するまで安心できません」
■
「アアアアァァ」
どしゃと血をまき散らしながら空から不破が降りてくる。
(どこだここは……何処まで落ちた?)
血を失い、あまり動かない体を動かして周囲を見る。
見上げればまだパラパラと上から瓦礫が落ちて来ており直ぐにでも崩れ落ちそうだ。
流石にヤバいなと魔力を放出し。体を動かす。
既に普通に手足を動かすこともままならず死にそうな体を執念で動かす様はもはや人ではなく魔人のそれだ。
「ド……コ……ダ……?」
立ち上がり。見渡せばそこは
まず最初に目に付くのは巨大なポット。
SF映画などに出てくるような巨大な試験管のような物。
人一人どころか二人や三人は入れそうな巨大な代物で、横幅もそうだが縦に長い。
天井まで届いており、中には紫色の液体が詰まっている。
紫色の液体の中には二メートルを超える黒い人間のような物が顔を覗かせている。
その人間らしきものに向けて試験管の天井から管が伸びている。
数えるのも馬鹿らしくなるほどの細く長い管が複数。百はありそうだと痛む頭で思考する。
試験管以外にも異世界には相応しくない材質の机。
床や机の上にはバラバラの書類が乱雑に置かれいる。
天井には病院等でよく見る蛍光灯だが光っているのは数個だけ。
ギリギリ視界が確保できる程度の明るさだ。それ以外にも多数の機械類。
まるでSF映画の世界のようだなと不破は思う。
よく見れば試験管の中の人間も可笑しい。
まず顔が無い。
正確には首から上が一切ない。
しかしそれでも生きているのか。たまにぴくぴくと動いている。
更には本来あるべき筋肉や腹筋。指と言った物も見受けられない。
乳首もなく上から下に目線をずらせば本来生殖器があるところには何もついていない。
女性器も男性器も。
黒い粘土を人型にしたような異形が生命のような動きをするのは恐怖を与えてくる。
ずりずりと地面を這い。不破が試験管に向かって進む。
なんだこれと試験管に触れた瞬間ぴかりと光る。
攻撃か、と警戒するも違う。
見れば不破の顔面にウィンドウ──少し見慣れたPCのウィンドウが表示されている。
なんだこれは、と顔を左右に揺らすも正確についてくる。
諦めてウィンドウを注視する。
(──魔王……解析……?)
堂々と書かれたタイトルに目を奪われる。
不破がこの世界で読んだどの文字とも違う。見たことの無い文字だが不破には何故か読めてしまう。
しかし頭が回っていない。無茶な魔法の行使で体が限界を超えている不破は内容を正しく理解できない。
(女神……破壊……?)
まるで意味が解らない。
本来進むべき段階をすっ飛ばし多様な状況だ。
最初からキチンと進めばわかる事情を行き成り最後だけわかるような状況に不破は混乱する。
(──駄目だ、全くわからん)
そもそもここは地下のハズ。何故こんなところに自分は落ちた?
アンファングの都市の地面を破壊し地盤沈下により落ちていった。
ならばここはアンファングの地下にあるという迷宮の筈。
迷宮に落ちることなく変なところに来たのか。あるいは迷宮がこういうところだったのか?
余りにも情報が無さすぎると、不破は頭を抱えたくなるが抱えるための腕は関節がいかれたのか言うことを聞かない。
どうにか脱出しようにも体は今にも崩れ落ちる寸前。
(全部ぶっ壊せばいいか)
そして不破は脳筋思考に行きつく。
魔力を放出し、適当に魔術を放とうとするがそれを妨害される。
「ア?」
「『Detektis paranormalan energion superantan la specifitan valoron Rekomencante』」
日本では聞きなれた抑揚ない機械音声。
先に魔力を放つ前に魔力が消えていく。
なめるなと魔力を出すも出した傍から消える。
(いや、魔力が消えてるんじゃない。吸い取られている?)
これ以上は駄目だと魔力を放出するのをやめる。
下手に魔力を送るのがまずい結果になるかもしれない。
しかし魔力の放出をやめたせいで体が倒れる。別に死にはしないが。このままじゃ駄目だと思うも、打開策が浮かばない。
そうこう考えている間に周囲は変わっていく。
ウィィン、という音と共に周囲が明るくなる。
消えていた蛍光灯が光り。何もない地面が光りだす。
冷たい光だ、日本でよく見る光に近く何処か懐かしさを感じる。
何かが喋っている。だが理解できない。
何を言ってるのか理解ができない。血を失いすぎて貧血を起こしている。
『Rulu celkonservan specialan programon. Konflikto kun ĉefa prioritato. mi faros ĝin
』
何処からともなく聞こえる機械音声が言うや否や、ピキピキと試験管に罅が入る。
罅から中の液体が零れていく。
逃げようにも魔力を出せば吸い取られるし。体は魔力無しじゃ動かせない。ヤバいと思うもどうしようもできない。
水が入ったバケツをひっくり返したような水音と共に試験管が完全に割れた中身が出てくる。
管がくっついたまま中身の人型は倒れることなく。不自然に地面に降りる。
「マテマテマテ!」
声は歪にしか出せず。魔法も魔術も使えぬ今。抵抗等できようはずもない。
倒れた不破に異形が近づいてくる。
人型の粘土のような物が一歩一歩ゆっくり歩いてくる様はホラー映画の様。
流石にまずいと思い不破は魔力を放出するが変わらず吸い取られる。
(こいつが魔力を吸ってやがるのか!)
よく見れば不破が放つ黒い魔力が異形の方に向かっていくのが見える。
魔力が消える原因はこいつかとわかってももはやどうしようもない。
何とか逃げようと立ち上がろうとするも魔力無しで筋肉丸見えの手足では這いずり回ることもできない。
魔力を放ったそばから吸収されるのでは体を動かすこともままならない。
そうこうしているうちに人型が不破を持ち上げる。
「ヤメッ!」
ぬぷっと、人型の体に取り込まれる。
藻掻くこともできず、不破は人型に取り込まれた。
こうして志半ばで
■
「『sistemo:kapablo/ludanto/atako/001/ ekzekuto
system:object/all/000/ ID|Taiji Fuwa <<28441612>>
system:object_control/-000/ nekonata dosiero
sistemo: kun.』」
人が消えた