殲滅戦争 作:Libro
「な、に、を──?!」
斬られた渦──魔王の体がボロボロになっていく。
これまで倒して来た魔物達と同じように。灰となっていく。見慣れた光景だ。
問題なのは敵が渦を魔王と呼び、それをこちらに殺させたこと。
何がしたいのか、その答えは直ぐにわかった。
藤原と出雲。両者が光の柱に包まれた。
「は?!」
『魔王の討伐を確認──帰還を実行する』
機械音声じみたそれに、出雲や相手の狙いがわかった。
勇者とは、魔王を打ち倒し世界に平和をもたらすモノだ。
ならば、魔王を打ち倒した
勇者は世界を救いました、おしまい。それで終わりだ。勇者のそのあと何ぞ描かれない。
だからこれは必然。魔王を予定通り倒した勇者藤原玲一と勇者出雲大和はここで消える。
「俺も! それにつれていけ──!!」
そして。光の柱に包まれて空に浮かび始めた藤原にディロンが急接近する。
地面を蹴り飛ばし。余波で地面を抉り飛ばしての超高速移動。
両手を開き抱きしめるかのように飛びつき光に触れて──両腕がじゅわりと、溶けていく。
高熱の油の中に肉を入れた様な音と共に光の柱に触れた傍から腕が消えていくにも関わらず。ディロンは更に近づく。
光の柱に遂に体も接触し溶け始めたころ。柱は急激に点滅し──空の彼方へ消えた。
「…………流石にそう都合よくはいかないか」
両腕を失って胸部の表面も爛れてしまっている。顔は平常其の物。痛みで顔が歪むことも無い。
『横着するからだ、馬鹿者。あれは善なる神の先兵用の帰還柱。お前との相性は最悪だと言っただろうに』
そこに。遅れてケントニスがやって来た。
何故魔王がここに来たのか、というのは単純。勇者に殺させる為にケントニスは一人離れて別行動をしていた──という単純なからくりであった。
勇者は魔王を倒せば用済みとなる。最低限でも勇者としての力は失われるし最高だと勇者自体がこの世界から消える。
ケントニスの読み通り異世界の勇者二人は役目をはたして異世界へ帰還したという訳だ。
「めんどうだが……当初の予定通りしかない、か」
地面に対し眷属創造の力を使い地面を簡易的な
形状を変えさせ腕の形にし腕があった場所にくっ付けることで義手として扱う。
再生には時間がかかり過ぎる。神の力の直接触れたせいで能力も下がっている今では直るのに一日はかかるだろう。
『さて。最後の仕上げだ』
「……あぁ」
本状のケントニスがぱらぱらと捲られて行き最後に一つのページで止まる。
見る者全ての勝機が失われる悍ましい何かを描いた絵のページが発光し、ディロンが詠唱を行う。
詠唱と言っても普通に魔法を使う様に長文詠唱を行う訳ではない。魔法起動用の専用ワードを言うだけ。
「──
空が赤く燃え上がった。
遥か上空。雲の代わりに赤い光がやって来る。
一つ一つは人間大程度の小さな物。だが数が千や万では聞かない、大陸全土を覆う程に膨大。最低でも億は優に超える数。
『さぁ。終末の夜だ。人の終わりがやって来る』
もし顔が見えたなら、醜く歪んでいる声色でケントニスは声を発した。
背中から翼を生やし。ディロンが空の彼方へ飛び立つのと同時に。地上に隕石の雨が降り注そぐ。
■
最初にそれに気づいたのは。空の上に浮かぶ浮遊島の主であった。
二百を超える長身にギリシャ神話にでも出てきそうな──布を軽く纏っただけの恰好。
白髪に銀の瞳を持つ女であった。胸も尻もデカく、背丈も異様に高い、魔女とでも言うべき女であった。
特に何をするでもなく空を見上げていた彼女は空からそこそこの大きさの石が降って来るのを視認した。
「──」
軽く腕を振るうことで。島への落下を阻止し、代わりに石──隕石が他の場所に振る様に調整した彼女は先程までと同じように特に何をするでもなく、空を見続けた。
結果。地上が悲惨な事に成ると知りながら。
そして。隕石は地上に降り注ぐ。
一つ一つは人間程度──直径にして一メートルから二メートル程度の物。速度も一般的な隕石の速度。
となれば精々が落ちても地面に小さなクレーターが出来たりする程度だろう。
数を考慮しなければ、だが。
数だけは非常に多い。この大陸──タオゼント大陸事態が地球のアメリカ大陸の倍以上ある大陸を覆いつくしてもなお余る程。
万や億を優に超える隕石が、一度に振って来るとなれば──破壊規模もまた大きくなる。
地面が破壊され。森の一部が破壊され。街道が破壊され。郊外の農地が壊され、偶々街道を歩いていた村人が死んで遺跡が破壊され。神々の結界張られた街中であろうと破壊される。
この隕石は魔法によって作られたモノ。つまりは無理やりに自然現象である隕石の衝突を引き起こしただけに過ぎない。
魔を防ぐ
無論ある程度の単純な物理防壁としての機能もあるし、一部の街は
それら全てを破壊して、隕石は街々を破壊する。
一つや二つ、あるいは百ぐらいは防げたかもしれない。だが何万何億何兆と降り注ぐ隕石相手では相手が悪いにも程がある。
結果として、タオゼント大陸全体の人類一割が死に、それ以上に建物や街道などのインフラと、食料が無惨な被害を受けた。
──当然。シュテーレンは範囲外。そこに居た冒険者には生きて貰わないといけないのだから。
『これで。人類側も行動出来なくなるなぁ…………食糧不足に物資不足に人手不足。あらゆるモノが足りなくなる』
■
「──ふざけんな!」
何も無い。純白の世界で。藤原は叫んだ。
ずかずかとこの空間に呼び出した神に近づく。
「ちょっと、藤原君」
元の恰好──勇者としての力も装備も失い異世界に来る前に戻った状態の出雲が藤原をいさめようとする。
「俺はまだ、あの世界を救ってない!」
問いただす相手は戦女神シュヴァーアト。二人を異世界へ送り込んだ神。
「いいや。救われた。魔王は死んだ。魔の勢力はこれで大幅な弱体化を受ける」
「はぁ?! あいつは! 俺が最後戦ってた奴がまだいるだろ!」
「…………ディロン──不破泰二の事か」
シュヴァーアトは苦い顔をする。苦虫を噛み潰したような顔を。
「正直に言って、あれが何なのかわからないんだ」
「わからないって、どういうことですか?」
問いかけたのは出雲だ。出雲もまた藤原と同じように怒気を隠せていない。
二人にとってはまだ志半ばと言ったところだろう。さぁ世界を救うぞ、と言う時に途端"用済み"と言われた様なモノ。これまでなまじ勇者として活躍してきた分落差は大きい。
「あの男がこの世界に召喚されたというのは事実だ。だが、それ以外がわからない」
「どういうことなんですか?」
要領を得ないシュヴァーアトに藤原が苛立ちと共に問いかける。
「地球からこの世界に行くには膨大なエネルギーが居る。そのエネルギーで召喚するよりもっとましな使い方があるぐらいには。
それだけのエネルギーリソース等
特に
ならば誰が召喚したのかということになるんだが…………それがまったく持ってわからない。ディロンを召喚した国の死者から話を聞けば"勇者を召喚した隣国からの要請"と話していた」
「それ、可笑しくないですか?」
「あぁ。
時系列順にすれば、最初に不破泰二が召喚された後に魔神となり、その後に藤原と出雲が勇者として召喚された。
つまりは最初に勇者として召喚されたのは不破泰二であり、それ以前など存在しない。
ならば──隣国からの要請とは、いったい誰がしたのか?
クンラフの隣、つまりはクリセルダとなるがその国はまだ召喚儀式等していない。
明らかな矛盾。それは何処で発生したのか。
「霊魂に聞いたが、"女神からの神託"と実にわからないモノ。土着信仰によって生まれた神かと思えばそれも違う。
神獣の類でもなく、精霊でも無い。異世界召喚を行使できるのは、神々と同等の力を有する者のみ……」
それは神々と同等の力さえあれば、召喚が可能ということでもある。
神々に匹敵する人界の強者となれば二百年前の冒険王や百五十年前の英雄等があげられるがどちらとも既に死者。前者は寿命で、後者は戦死している。
自然発生する神──人々の祈りが指向性……特定の"何か"に対して祈り供物を通して魔力を向けることによって発生する"生きた魔法"とでも言うべき存在である土着神というのもあるがそれほどの者が生まれれば流石に
結論として、わからないとしか言いようが無かった。
「──誰かが不破泰二を召喚する様に仕向けた? けど、誰が、何のために?」
順当に考えるならば
それを察しているシュヴァーアトは心の内でそれを否定する。
全ての記憶と記録を求める
それも無いはずだと、シュヴァーアトは考える。
実際問題
異世界の勇者でも、異世界の戦女神であっても、わからない。
「──今、それ考える必要あるか?」
会話をぶった切ったのは藤原だった。
「今、重要なのは、不破泰二──さんが、人を殺して、虐殺を行っているということで、それを止める必要があるってことだろ」
「君がそれをする必要があるのか?」
藤原の問いにシュヴァーアトが強く返答する。
「日本であっても殺人事件等は起こるだろう。それらを解決するのは警察官であって善良な市民ではない。君が干渉する必要は無い」
「それでも、同じ日本人だ! 話せば、分かり合えるかも──」
「あの男は、召喚されたその日に、人を殺している。それだけならまだしも……たとえ、体が異形に変貌したのだとしても。
特に理由なく、人を食べている存在に君は分かり合えるというのか?」
「ひとを、食べた?」
出雲が信じられない。信じたくないという顔をする。
「あぁ、そうだ。しかも妊婦の腹から子供を割いて、な」
「──」
悍ましい所業に二人は絶句する。
人を食べる、というのはフィックションならばある程度ありふれている。だが、現実それをしたと聞くのは、しかも同じ日本人がそんなことをするなんて到底信じられない。いや信じたくない所業。
「そんなの…………」
──所詮二人は学生に過ぎない。
本当に命をかけて戦う覚悟も。異世界で暮らす未来を思い描くことも。家族を見捨てることも出来ない。
ごくごく普通の、ちょっと好奇心旺盛な学生である二人には、どうしようも出来ない相手であった。
「こんなの……」
ぎり、と奥歯を噛み締めて。血がにじむ程に拳を握っても──学生である二人にはどうしようも無い問題であった。
二人が異世界で成長している──というのを除けばだが。