殲滅戦争   作:Libro

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第73話

 

「おや。もう全員いるのか」

 

 言葉を発したのは。凡そ声を発することが出来ないモノであった。

 

 一言でいうならば、脳みそであった。

 巨大な──三メートルは優に超えるサイズ。赤く脈打つ姿は凡そ生物の脳とは思えない。

 よくよく見えれば脳の一部にはメモ帳や本などが突き刺さっており訳の分からない状態となっている。

 脳の中心部には緑色の眼球がつけられているのが不安感を煽って来る。

 脳の正体はケントニス・ヴィッセン。邪悪なる神々(ゼーベ)の一柱。

 

 ケントニスが居る場所もまた、奇怪な場所であった。

 

 大理石で作られた円卓に椅子。人の血を染み込ませた狐の皮性のカーペットに人の頭部を生きたまま利用した燭台。

 円卓に座るのは合計六の異形。真面な人の姿をしているのは二つだけである。

 天井は無く、広大な空が広がるだけ。扉や窓も無く進入方法が空しかない奇怪な場所。

 

 こここそがケントニス・ヴィッセンが有する異界。彼だけの世界。ヴァールという無限に広がる空の図書館。

 

 邪悪なる神々(ゼーベ)はこのように一柱ずつ個人の世界を有している。

 死を司る神ならばオルクスという死者の世界を。恐怖と絶望を司る神ならばブルートという血の海の世界を。それぞれ持っている。

 この異界が何故あるのか、という問いの答えは神話の時代に善なる神々(ハイリヒ)との戦争において創られた中継地点というのが一番近いだろう。正確には違うが。

 

 

 ケントニスが意識をヴァールの本体と完全に繋ぎなおし集まった神々を確認すると同時に集まった邪悪なる神々(ゼーベ)の一柱が大きな口を開いた。

 

「で、我らをこの様な場に呼び出して何のつもりだ。記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)

 

 声を発したのは巨大な骸骨だ。部屋自体が狭い訳でも無いのに圧迫感を与える程の巨体に天にまで届く程の長身──六メートルはある骸骨であった。

 特にこれといった特徴はそれ以外にはない。牙が生えている訳でも背中から翼が生えている訳でも無く。純白の単なる骸骨。服を着ている訳でも無い。

 正し体の一部が欠損している。

 バラバラに砕け、あるいは折れているのを無理くりそれっぽく外見を整えているだけ。人体模型としては欠点だらけの体。

 名はアオス・シュテルベン・レーベン。二百年前に自傷した傷が今だ癒えぬ死を司る邪神。

 

「私でさえも呼び出すとは。相当の要件でなければただでは済まさんぞ」

 

 次に口を開いたのは同じく骸骨。

 (アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)とは違い、その姿は頭だけ。

 しゃれこうべの様に頭だけの骨は浮遊しているが、その姿は何とも情けなかった。

 頭部の右半分は砕け散り、顎の部分は完全に消滅している。

 彼もまた二百年前の傷が癒えない邪神。恐怖と絶望を司る邪神(フルヒト)である。

 

「磯野! 野球しようぜ!」

「合点承知の助!」

 

 そしてなぜか椅子から立ち上がり急にキャッチボールを始める男が二人。

 一人は若い男だ。年は二十代──あるいは十代後半にさえ見える程に若い。

 頭髪は紫で目の色も紫色。服は右半分が赤色で左半分は紫色という特徴的な格好をしている。

 更に左目には骨で出来た仮面を付けているのもまた奇妙である。

 背丈は凡そ百九十程度でありこの中では小さい方と言えるだろう。

 

 もう一人は壮年の男だ。年は三十代ほどであり髭も携えている。

 頭髪も目も黒色で西洋人というよりは日本系の人間に見える。

 衣服は普通であり黒を基準としたローブを着ている。背も百九十程度とキャッチボールをしている男と同程度。

 

 紫色の方はヴァーン・ズィニヒ。黒の方はマッセル。

 

 どちらも言うまでも無く邪神でありヴァーン・ズィニヒは狂気と混沌と破滅を。マッセルは享楽と快楽を司る。

 

「……うるさい……」

 

 そして最後。大きな魔女の帽子をかぶり素顔を見せないようにしているのは少女。

 身長は百四十程度の幼子とも言えるだろう。マッセルと同じく黒の服を着用しスカートを付けている。

 ただしスケールが違う。物理的に。

 

 百四十程度の少女をそのままの尺度で三倍ぐらいにしたような歪な少女。スカートからは足の代わりにピンク色に蠢く触手が生えている。

 夢と悪夢と未来と眠りを司る邪神。アルブ・トラウム。

 

 

「さて。この場に集まってくれたこと、感謝する」

 

 ケントニスが再度口を開き、ヴァーンとマッセル以外の視線がケントニスに集中する。

 視線の中には"いいから本題に入れ"というものが含まれており急にキャッチボールを始めた邪神二人に全員が苛ついている。

 

 

「──早速本題に入るが戦力を貸し出して欲しい。数に制限は無い」

 

「無理だな」

 

 最初に答えたのは黒い頭部だけの骸骨。フルヒトだ。

 

「取引云々ではなく、そちらに貸し出し出来るコマ(魔物)が純粋に無い。私の領域内の物は全て私の補填に使ってしまった」

 

 

 ──そもそもフルヒトがこうして復活出来ている時点で結構な無茶をしている。

 二百年前の戦争時にフルヒトは当代の英雄と対峙し、ただでやられてなるものかと無茶をした結果が今の状態だ。

 ただの死亡ならば数十年で復活出来るが邪悪なる神々(ゼーベ)からしてもだいぶ馬鹿な事をしたせいで復活に百年以上の時を有し力も本来の一割以下にまで落ちている。今こうして自我を取り戻せている時点で奇跡とさえ言っていいだろう。

 

「我も大した戦力は無いが……吸血鬼に当てが少々、ある。それらと一部の上位アンデッドならば出そう。下位は使い切ったから出せと言われても出せんが」

 

 次に答えるのは巨大な骸骨。(アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)だ。

 一言いい終える度に骨が軋みボロボロと崩れていく。

 

 (アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)もまた二百年前の戦いの傷が癒えていない。格としてはフルヒトよりも上な為復活と力の回復にはフルヒト程苦心しては無いがそれでも無視できる程度ではない。

 フルヒトと同じように無茶をしてしまった以上後三百年は現世に干渉したくとも出来ないだろう。無理に現世で何かしたいのならば他の邪悪なる神々(ゼーベ)に乗っかるしかない。

 神の時間間隔からすれば三百年は短いように思えるかもしれないが、その間に他の神が現世で何かをするのが気にくわないアオスは他の神の計画に使われるのだとしても自身のコマ(魔物)の派遣を即断する。

 無論全てを出す訳ではない。吸血鬼に当てがあるのは事実だが下位のアンデッドなど時間経過で幾らでも増える。二百年前に一万程減らされたがその程度は既に補充済み。

 

 アオス・シュテルベン・レーベンの配下のアンデッドは他の邪悪なる神々(ゼーベ)の扱う魔物とは大きく違う存在である。

 最大の特徴として元人間であり人間時代の技能を扱えるという大きな違いがある。魔術や魔法、剣術や弓術を実戦出来るという、大きな利点。

 これが他の魔物ならばそうはいかない。魔物に知性は基本無く、武器を扱う魔物であっても力任せに振るうしか出来ないのに対しアンデッドとなれば生前の技術や経験がそのまま反映され、魔物への変化で身体能力も上昇する。

 技術と力を併せ持つ理想的な兵隊こそがアンデッドだ。魔族も技術を持つがやはり人程洗練された者はそうはいない。

 

 

「……ヴァーン・ズィニヒ。お前は?」

 

 

 きゃっきゃきゃっきゃと今度はおままごとをしていた邪神にケントニスは溜息を控えながら問いかける。

 何故こいつは態々呼んでも居ないのに来たのだろうと辟易しながら。

 

「ぼくちんむずかしいことわがんね! おっぱいもむ?」

 

「ぶっ殺すぞ」

 

 言うが早いか行動が早いか。ケントニスは頭部から触手を生成し音速を超えた一撃を与えた。

 ここはケントニス・ヴィッセンの領域。彼だけの世界。世界の法則などケントニスの気分次第で変えれるので音速を超えたとしてもソニックブーム等は発生しえない。

 回避する事無く。ヴァーンは頭部を綺麗に破裂させた。

 

「ジョーダンよ冗談。マジにしないでよもう」

 

 頭部が壊されたという様に意にも介さず素直に回答する。

 飛び散ったはずの頭部の残骸は何処にも無く、血さえ無い。邪神であるなら当然の事ではあるが。

 頭部をぐにゃりとしながら再生させたヴァーンは真面目な風貌をしながら回答する。

 

「マジ話するならさぁー、そこの勝手にバカやって馬鹿みたいな状態の阿保二人は貸し出し行為そのもので利益湧くからいいとして、俺が兵隊かして何の利益あんのよ。先にそれ提示して頂戴?」

 

「ふむ……」

 

 割と真面目な回答が来たことに驚きながらケントニスは思案する。何が対価になり得るかを。

 

「ではそうだな。私の書庫の一定期間限定での一部閲覧顕現でどうだ?」

 

「へぇ……」

 

 記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)の書庫の閲覧とは単なる図書館の解放とはまるで違う。

 現世にて行われた全てが記された場所であり過去の記録は勿論として現在進行形で行われている事であっても随時更新されていく。

 アカシックレコードが一番近いだろう。ただ未来については書かれていないが。

 

 その中には当然、自身を信じうる可能性の高い人間や、邪神に縋るしかない犯罪者等の情報も当然ある。

 

 神ではあっても全知でも全能でも無い邪悪なる神々(ゼーベ)は時折下界を観察したり、あるいは自身を信仰する者をアンカーとして世界を観察し干渉する。

 つまりは常に世界全土を見れる訳ではない。当然自身に多大なる利益を与える存在を見落とすことも多い。

 

 それが一時的にとはいえ無くなるのだ。利益としては充分だろう。

 

「オーケー牧場。じゃあこっちからはアオゲ(魔物)四千派遣社員として送るわ。有効活用よろちくび」

 

 

 アオゲというのはヴァーンお手製の魔物だ。深淵の悪魔(アビサル・デーモン)の様な見る者全てに不快感を与える外見を有する魔物である。

 ただし深淵の悪魔(アビサル・デーモン)の様な高度な精神干渉の能力は有しておらず単に見た目が気持ち悪いだけ、という違いはあるが。

 今の時代換算するならば平均値Dランク相応。冒険者四人組と同程度の戦闘力──上位陣には雑兵の如く蹴散らされるがそれ以外にはそこそこ使える兵士である。

 

 

「じゃあ俺は、適当に煽って情報ばら撒くから、異世界の酒寄越してくれや、スピリタスとかジンとか、気になるのが多いんだわ」

 

 享楽と快楽を司る邪神(マッセル)は数少ない特定の配下が居ないタイプの邪神である。根本的にアンデッドだろうがアオゲだろうが同じではあるが、それはさておき。

 魔物の代わりにいるのは多数の信者。総数で言えばこの場の誰よりも信者が多い。

 何しろ司るのが享楽と快楽──つまりはセックスや娯楽だ。性行為が人間と結びついている以上売春婦は勿論のこと、美食や漫画などの娯楽全般も司る為心棒者と現世への干渉能力は一番高く、美食を嗜む貴族やランクが上がって貧困層から抜け出した冒険者等の多数の信者を抱えている。

 情報操作能力で言えば邪神の中でもダントツだろう。ケントニスは収集には長けているが活用方法がなっていない。

 

 

「では、アルブ・トラウム。貴様には無意識かでのコントロールを頼む」

 

「……わかった」

 

 有無を言わさぬケントニスの言に不満をあらわにしながらもアルブは同意する。

 司るは夢、人が無意識化で願うモノ。より良き未来。

 無意識を司る、といっても過言ではないだろう。夢や無意識化──街中での噂話等の形での情報の拡散を得意とする。

 意識的な拡散をマッセルが。無意識化でアルブが。完璧な布陣である。

 

 

「では、これより行動を開始しようか」

 

 

 

 

 ■

 

 

 ──とある酒場で冒険者が話し合う。

 俺たちは魔物軍勢を相手にしたのだと。勇者と共に戦ったのだと。

 

 

 ──とある街の八百屋で婦人たちが話し合う。

 うちの夫がある街の復興に行ったのだと。兵士の長男があっちへ行ったりこっちへ行ったりしていると。魔物が増加しているのだと。

 

 

 ──ある魔法使いが王に進言する。隕石による街々の破壊と増加する魔物への対抗策を。

 

 

 人々は話すだろう。魔物を。隕石を。殺された人々を。勇者を。

 

 そして最後に、必ずこの名が出る。

 

「──終わりを齎す魔神。ディロン」

 

 

 




 ケントニス:全体能力五割減。現世干渉全体の能力二割
 アオス:全体能力八割減。現世干渉全体の能力2%
 フルヒト:全体能力九割九部減。現世干渉全体の能力無し
 ヴァーン:全体能力三割減。現世干渉全体の能力五割
 マッセル:能力減衰無し。現世干渉能力100%
 アルブ:能力減衰なし。現世干渉能力百パーセント。
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