殲滅戦争   作:Libro

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第74話

 

「ゲームを作るうえでさぁ、重要な事って何だと思う?」

「なんだ急に藪から棒に」

 

 大学。カフェ。

 昼飯時から少し離れた時間帯で。二人の男が食事をとっていた。

 食事と言っても軽食で、単なる菓子類。

 

 その片方──眼鏡をかけた方が会話を進める。

 

「いいから。ゲーム制作、あるいはアニメや漫画などを作る際に必要なのってなぁになぁに?」

 

 眼鏡の男の口調に眉を顰め柄もう一人の男──不破が口を開く。

 

「その言い方やめろや……アニメや漫画は知らんが、ゲームならデバック作業か? お前いつもバグ取りで狂ってるだろう」

 

「ん-おしい! 正解は──テストプレイ。第三者による、ね」

 

「テストプレイ? デバックと何が違うんだよ」

「デバック作業はバグや何かしらの制作ミスを見つけるためのモノであってゲームを遊ぶものじゃない。テストプレイはそのまま、遊んでもらうのさ。

 まぁベータ版やらアルファ版って感じで」

 

 一息ついて。コーヒーを飲んでから男が話し出す。

 

「まぁようするに。ゲームが面白いかどうか実際にやってもらうってことだ。たった一人じゃなくて、複数人で、まぁ十人以上が理想かな?」

「ほーん」

 

 不破は興味なさそうにココアを飲み干す。

 

「この場合、デバックして貰ってるお前にも一応プレイはしてもらうが、重要なのはそんなのを知らない人にプレイしてもらうことだ。知ってる奴が遊んだところでバグ何ぞ出る訳がねぇ

 そうだろう? 無意識化で何処でバグるかわかっちまってし、ストーリーも知ってるから面白みがない」

 

「そういうもんなのか?」

 

「そういうもんなの!」

 

 強く主張する友人に不破は脳内でクエスチョンマークを浮かべる。

 何か言おうと口を開いた時、ぴぴぴ、という電子音が鳴った。

 

「やべ、もうこんな時間か。悪いが俺もう行くわ」

 

「あぁ。もうそんな時間だったか。すまんな、突き合わせて」

 

「そう思うなら、いいゲーム作れよ、百万本売れるぐらいの」

 

「ああ、そうしよう」

 

 会話もほどほどに。不破は立ち上がり、目的地へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──夢か、今のは」

 

 むくり、とベットから不破──ディロンが起き上がり、ベットから出る。

 

 ここは魔神城の最上階。ディロンの私室。

 何となく、漠然としたホテルのスィートルームっぽいモノを想像して創った部屋は実に奇妙な部屋であった。

 壁も床も黒く。カーペットも黒い。他の色は精々が窓の白程度のモノでありここまで黒一色だと目に悪そうである。

 家具類も黒。キングサイズのベットに長テーブル。ソファと本棚だけというスィートルームの機能が幾つか欠損していた。

 部屋に必要であるはずのトイレやキッチン等は無く、風呂さえも無い。本来のスィートルームならば専用のバーなどもあるがディロンのそんな知識は無いため作らなかった。

 風呂は別で作ればいいだろうの精神で作らず、排泄などしないし食事もしない為トイレもキッチンも作らなかった。言ってしまえばただのだだった広いだけの部屋である。

 更には本来睡眠も不要だが出来ない訳ではない。する事も無いために眠った結果が今の夢であった。

 

「おはようございます。ディロン様」

「……あぁ」

 

 ぬるり、と壁から滲み出る様に女が出現した。

 金髪というこの世界では珍しくも無い髪色に逆に珍しい真紅の瞳。それだけなら妙なファッションで済むが開いた口から微かに見える牙が人外であると主張する。

 服装も貴族等が着るような仕立てのいい服だ。レター・スパイダーという蜘蛛が出す糸を材料に一流の職人が手がけた服。黒を基準とした色に所々に赤色で装飾が成されている。

 左手の人差し指にはダイヤモンドの指輪が嵌められているがただの宝石ではなく魔道具。装備者の魔力の回復速度を爆発的に上げる効果が付いている。

 名はアニエス。吸血鬼として実に三百年もの間を生きる者。

 

「本日の予定は?」

「……中庭で読書をする」

「かしこまりました」

 

 そう言うとディロンは歩き出す。当然、後ろにはアニエスが着いてくる。

 人だった頃ならば顔を洗ったり歯を磨く必要があるが今のディロンには必要ない。汗をかかず老廃物が出ない上体内で細菌など生存できない状態のディロンは身繕いの必要が無い。

 

 部屋の扉は自動的に開く。城のそのものが≪不可解な者≫(アンノウンズ)だからこその自動ドア。主人の意を汲み取り自動的に動く城はディロンにとっては最高の家であり、敵には最悪の要塞となる。

 

 部屋を出て少し歩けばすぐそこには巨大な箱──エレベーターがある。近づけば扉が開き主を迎え入れる。

 気にすることなく入り、ディロンとアニエス二人きりとなる。──正確には城が常にいるので三人が正しいが。

 扉が閉じて落下が始まる。中の者がどうなってもいいとでもいうような文字通りの落下。下降ではない。

 ディロンは勿論としてアニエスもまた一キロ、二キロの高さから落ちたところで何の問題の無いため気にはしない。

 

「……最近の人間共はどうだ?」

「はい。ディロン様がお創りになった≪不可解な者≫(アンノウンズ)邪悪なる神々(ゼーベ)の方々が派遣した魔物達に苦戦しているそうです」

「そうか」

 

 言い終わると同時に落下が終わり急停止。扉が開く。

 開いた先は既に中庭であった。

 

 時刻は朝八時程度。時計を持っていない為正確な時間は分からないがそれぐらいだろうとディロンは太陽の位置から推測する。

 というより昨日と同じ時間に同じ時間だけ眠った為に移動による微妙な誤差を除けば時間など変わるはずもない。

 魔神であるディロンが眠る場合は何時間寝るか自分で自由に決めれる。やろうと思えば五秒の睡眠だって出来る。更に眠りから覚めた時の気だるさや微睡とは無縁。即座に平時と同じ状態になる。

 

 中心には巨木。周囲には花壇という前の所有者か建築者が作った庭園である。

 特に壊す理由も無いし景観が気に入った為にそのままにしてある場所だ。

 少し歩き、巨木の前のベンチに座る。二人用のベンチだがアニエスは座ることは無い。一応は従者という身分である為に。

 何時からかアニエスは日傘をさしている。吸血鬼は太陽の光に対して脆弱性を持つ。能力の低下に加えてダメージも受ける。弱い者ならば太陽光を少し浴びるだけで死ぬ程に弱い。

 その為の日傘。

 

 地面がもこりと膨れ上がり本棚が出現した。床も天井も周囲の大地も全て≪不可解な者≫(アンノウンズ)だからこその移動式本棚である。

 前読んでいた本を手に取り開き読み始める。タイトルは"みーんなフレンズ! "というよくわからないモノだ。内容も中身が無く動物や植物、魔物でさえもお友達! という物。

 無論こんな本は禁書扱いされる。魔物は絶対的な人類の敵。それを友達呼ばわりするなど一家郎党死刑になっても可笑しくないモノだ。

 ただしこの本は著者不明。何時からあるのかすらわからない本。作者不明な為禁書として燃やされた本である。

 だが学園都市や空中庭園で研究の為という名目で保管されている本──の原本となる。

 

 この本の持ち主はケントニス・ヴィッセン。記憶と記録を司る邪神の保有物である。彼から借り受けている本の一つだ。

 何ならアニエスもケントニス経由で勝手に雇ったことになっている従者である。

 

 

(──暇だ)

 

 ディロンはぱらぱらと本を捲り読みながら心の中でそう愚痴る。

 

 

 シュテーレン襲撃から凡そ二週間。ディロンは暇を持て余していた。

 

 ケントニスが言う大規模儀式の為ディロンはこの城から動くことが出来ない。といっても城自体が非常に広く散歩等も出来る為窮屈は感じないが。

 それでもこれまであっちへ飛んだり地面を掘って進んだり等してきた為、急に降って湧いた六年もの暇な時間にディロンは辟易し始めていた。

 これが自分の意思での引きこもりならまだしも強制的な六年もの引きこもり生活の強制である。退屈にも程がある。

 何しろ地球と違い娯楽が少ない。

 電子機器を使ったゲームは無く、あるのはカードゲームやボードゲーム等の二人以上で遊ぶモノばかり。漫画や小説は昔来たという日本人が広めたためか普通にあるが元よりディロンは漫画を読まない。

 ならば勉強を、と思ったが六年もの間勉強付けは流石に嫌という思いと年が立ち過ぎれば勉強しても忘れるかもしれない恐怖から帰還の二年前からしよと決めた。

 

 一応ディロンにも業務らしき事はある。≪不可解な者≫(アンノウンズ)の製造という仕事が。

 

 正し頻度は非常に少ない。今のところは一週間に一度、百体ほど作るだけとなっている。たったそれだけなのは想定より邪悪なる神々(ゼーベ)から魔物を引き出せた為だ。

 

 無論邪悪なる神々(ゼーベ)の領域から魔物を運び出すのもディロンが作った≪不可解な者≫(アンノウンズ)を世界に散らばせるのもウードの仕事である。

 本来邪悪なる神々(ゼーベ)善なる神々(ハイリヒ)が張った結界がある為地上に気楽に魔物を送れないが、意図的に他者からの侵入を許した状態ならばウードという空間を操る大悪魔の助力があり、ケントニスという今現在地上で最も多く力を振るえる邪神も力を添えれば魔物を送ることが可能となった。

 例えるなら大陸間の移動だろうか。邪悪なる神々(ゼーベ)は全員同じ大陸在住で各自家を持っているとして、そこから移動するには各自船などを出す必要があるが今回は一回ケントニスの家に魔物を集めそこから現世という別大陸に持っていく事で魔物の大量派遣を可能とした。

 本来ならばあり得ないことである。邪悪なる神々(ゼーベ)間の関係というのは複雑奇怪。協力することもあれば敵対し他の邪悪なる神々(ゼーベ)を一回殺す事もざらにあるのだから。

 今回は二百年前の戦で殆どが弱体化していたから成り立っている一種の奇跡。

 

 尚魔物を一か所に集めるのは容易であるが集めた魔物を運ぶのは至難。故にウードが必須。大量の魔物の世界移動は如何にウードといえどしたくない業務量に力の消費だが本人──本悪魔の意志は無視された。

 ウードの傷はとうに癒えている。最上位悪魔は伊達ではない。四肢の欠損など数日で治る。

 

 ただし無制限で送れるという訳ではない。当然邪悪なる神々(ゼーベ)側も相当のエネルギーを消費している。コストは馬鹿に成らない程に。

 当然の様に邪悪なる神々(ゼーベ)側も魔物を送り込む事による利益を求めて来た。

 だが対価はディロンではなくケントニスが支払うこととなっている。ディロンが気にすることは何も無い。

 

 何故ディロンではなくケントニスが対価を払うのかについてはディロンには対価を払う能力が無い、というのがある。

 

 眷属の創造や不死に近い再生能力など単純な格ならば邪悪なる神々(ゼーベ)にも匹敵、あるいは同格とさえ言えるがディロンは他の邪悪なる神々(ゼーベ)の様に権能を有しておらず、さらには自信の異界も有していない。

 邪悪なる神々(ゼーベ)は基本能力として権能を持っている。邪悪なる神々(ゼーベ)邪悪なる神々(ゼーベ)足り得る力を。

 死があるから死の神がいるのではなく。死の神がいるから死の概念がある様に邪悪なる神々(ゼーベ)は存在するだけで人間にとって害と成り続ける。

 だがディロンにその様な権能は無い。確かに無限の魔力や驚異的な身体能力はあるが"生きているだけで人類にとって害と成る"能力──権能を有していない。

 無限に魔力があるのでその気になれば常に魔力を垂れ流す事で人類絶滅の危機に陥らせる事は出来るが、少なくともディロンが居る事によって新しく世界の法則を作り出したりは出来ない。

 つまりはディロンには対価成り得るものを所持していない。金は勿論力も。邪悪なる神々(ゼーベ)にとって対価に相応しいモノが何も無い。

 単に戦闘力が高いだけの存在など邪悪なる神々(ゼーベ)もその気になれば用意できる程度のモノだ。といっても今は大半が力を失っているためそれでも貴重だが。

 

 しかしながら最大の理由はディロンの目的が地球への帰還ということである。

 

 ディロンが地球に帰れば異世界に居る邪悪なる神々(ゼーベ)に対し対価を支払うという行為自体が気軽に出来なく成る。異世界の壁というものは神々であっても分厚い。

 邪悪なる神々(ゼーベ)が力を全力で振るえるのはこの異世界でのみ。地球では力が真面に行使できない。

 出来ないという訳ではない。だが態々力を振るう程の労力を割く程ではない。

 そもそも邪悪なる神々(ゼーベ)が地球で力を振るう理由が特に無いというのも大きい。確かに本能──というよりは存在として人類、あるいは世界を滅ぼす為だけに存在する邪悪なる神々(ゼーベ)だがまだこの世界を滅ぼしてない以上下手に別の世界に手を出す気はない。

 二兎を追う者は一兎をも得ず。仮に地球に手を出すならばこの世界を滅ぼしてからとなるだろう。

 異世界へ干渉するための莫大なエネルギーは邪悪なる神々(ゼーベ)であっても気軽に使えるものではない。過去の戦いで消耗しているとなれば猶更だ。

 これが本体か化身を地球に送れば多少は力を行使できるがそこまですれば干渉領域が今度は異世界ではなく地球になり逆に異世界で力を振るうのが難しくってしまう。

 

 つまり地球に帰る為に動くディロンに今支払い能力は無く、地球に帰えられればこちらが相手と接触できなくなる。

 

 故に代わりにケントニスが支払うという事で落ち着いたという訳だ。

 

 現在のディロンの仕事は≪不可解な者≫(アンノウンズ)の創造と城に引きこもる事。それ以外は全て自由時間。

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)作成も週に一回、百体程度。材料もウードが運んでくるとなれば一時間程度で終わる。質を考えなければ。

 結果、ディロンは非常に暇を持て余している。やることが無いために。

 

 逆にウードは勿論の事、ケントニスも意欲的に動いている。

 

 ゼーベとの魔物派遣に関する書類や各所との連携。ウードが何処に何時魔物と≪不可解な者≫(アンノウンズ)を派遣するかの会議等など。

 それらにディロンは関わっていない──というよりは関わるだけ無駄であった。

 ディロンはそれら全てに関してド素人であり戦略など知らない一般人。魔法儀式等に関する勉強の意欲も全くもってゼロ。ならばいない方がマシである。

 ディロンにとってみれば地球に帰るのだからこの世界の地形やら文化やら魔法やらについて学んでどうするんだ、という話でも合った。

 

 結果、ディロンは一人暇を持て余していた。

 

 そうして一人静かに本を読むディロンを前にアニエスもまた暇を感じていた。

 

 主がする事無いならば、従者は逆に忙しいかもしれないが実際はやることが無い。

 食事は不要。部屋の掃除は城が自動的にする。予定の調整などそもそも予定自体が無い。書類仕事何ぞない。

 

 やることが本当に無いし、関わる理由も利益も無い。

 

 ディロンが何かしら仕事をする気も無く、ケントニスらも関わらせる気が無い以上従者となったアニエスもまた出来ることが無い。

 

 ディロンに性欲など無いしそもそも生殖機能を失っている以上夜の仕事も無い。無いない尽くしであった。

 

 一応することといえば自身の食事ぐらいのものであった。吸血鬼は名の通り血を吸う必要がある。週に一度ウードが運んでくる≪不可解な者≫(アンノウンズ)の材料から拝借し吸い殺している。

 

 それ以外は本当にやることが無い。睡眠も出来ないアニエスは主人が寝ている間に主人と同じように読書するか魔術の研究ぐらいしかやることが無い。

 

 

 結果としてニート二人が爆誕した。

 

 

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