殲滅戦争   作:Libro

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第79話

 

「カスが!」

 

 解放の剣を構え、接近する勇者を迎撃する構えを取る。

 即座に身体強化の魔術を欠け直し、ケントニスが追加で使うことで身体能力を限界まで上げる。

 だが身体能力は契約前にすら遠く及ばない。本人と魔術に長けた邪神の強化が合わさっても非常に弱い。

 

 相手は勇者。世界を救う為の存在。救済者だ。弱体化しきった今のディロンでは相手が悪すぎる。

 

「はぁ──!」

 

 勇者が叫び、音を超えた速度で聖剣を手に走り出す。

 すんでの所で解放の剣をさしこみ鍔競り合いの状況を作り出す。

 

「クソが!」

 

 どちらともなく剣を弾き、今度は剣を交え火花を散らす。

 有り得ないことだ。解放の剣はどのような相手でも斬る事が出来る呪具。例外は無く当たりさえすればたとえ善なる神々(ハイリヒ)だろうと邪悪なる神々(ゼーベ)だって斬る事が出来る。

 なのに斬れないという事は相手も同じ──つまりどんな相手でも斬る事が出来るという同一の能力を持っているという事。

 だから斬りあいという行為が成立した。どんな相手も斬れる剣とどんな相手も斬れる剣という矛盾の衝突はお互いに何も斬れないという結果を残す。

 

 となれば、次は使用者間の戦いとなる。

 

「ちっ──!」

 

 少しづつ、ディロンは自分の体が斬られていく事に苛立ちを感じ始めた。

 当然の様にディロンには剣術等持っていない。鍛えてもいない。鍛錬する時間はあったというのに。

 しかしながらこれもある意味可笑しいと言える。身体能力が同等で武器も同等、となれば勝敗を分けるのは後は技量のみ。それで大きく劣るディロンが戦闘を成立させているのにはもちろん種がある。

 

 一つが純粋な肉体能力。一応は人に入る勇者は瞬きや筋肉の痙攣などの生物である以上避けれない生理現象があるのに対し魔神たるディロンにはそれらが無い。

 そもそも瞼が無く、動体視力など人の限界を超えている。疲労などとは無縁。肉体が魔力のみで構成されているため筋肉など無い。

 当然勇者も何かしらの手法で対策はしているが人である以上の限界がある。対策を積んだ勇者より魔神の方が動体視力と反射神経と体の動きが早かった。

 

 もう一つ。契約した邪神であるケントニス・ヴィッセンの権能。

 二つの権能のうちの片方、記録。それを使えば人が作った剣術や戦闘術をディロンは使える。

 ≪不可解な者≫(アンノウンズ)のリッターと同じ能力を本体であるディロンも使っている訳だ。

 正しあちらは複数個体での戦闘かつ実効と同時に最適化され続けるがディロンはそこまで出来ない。相手の動きに合わせて合わせた剣術を発動するのが関の山だ。

 かつて世界最強と謳われた剣聖の技術。戦女神の後継者を自称する者の戦闘術。その他歴史の陰に埋もれた剣術などなど、何百という剣術からその場に適した術を掘り起こし扱う。

 身に着けた訳ではない。AI任せの即断即決が近い。当然相手は人であり読み合いに負けることも多々ある。剣術を身に着けていれば防げた攻撃も受けてしまう。

 

『来たぞ』

 

 脳裏に何年もの付き合いの──もはや相棒と言っても差し支えない相手の言葉が響いてくる。

 使え、という言葉と共に何をすればいいかの指示が出されその通りに力を使う。

 

<骸の騎兵止め>(アンデッドナイト・スタップ)!」

 

 行使するのは魔術でも魔法でも無い。神の奇跡。

 

 地面から骸の兵士がボコボコと湧き出てその手に持つ剣で勇者を襲うも──即座に全て一瞬で斬り捨てられる。

 だが一瞬あれば十分。後ろに飛んだディロンは距離を取り更なる奇跡を行使する。

 

 

<死王の腕>(シュテルプリヒ・ファング・アルム)!」

 

 暗雲から巨大な──腕だけで大木程の。指先一つで人ほどの大きさの巨大すぎる骨の手が出現する。

 

 暗雲から突き出て勇者を握り潰さんと降りてくる。それを迎撃せんと勇者は聖剣を構えるが──即座にそれは駄目だと判断し後ろに跳躍し距離を取る。

 

「ち、死んでればいいモノを──」

 

 行使したのは邪悪なる神々(ゼーベ)の力。(アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)の権能。

 人が善なる神々(ハイリヒ)に祈ることで善なる神々(ハイリヒ)の力を行使できるならば当然その逆──魔族などの魔に属する者が祈れば邪悪なる神々(ゼーベ)の力を行使できるのもまた当然のこと。

 だがただ祈るだけでは無い。神官が神の奇跡を使う場合は神官は何も失わない。体力も精神力も、勿論魔力も。

 行使するのが善なる神の力であり神官は祈るという行為で神に力の行使を申請しているだけだから。一日に何回までという決まりがある程度。

 邪悪なる神々(ゼーベ)の場合は違ってくる。邪悪なる神の力を行使してもらうには対価が必要となる。

 単純な生贄であったり宝石や通貨など、対価は様々なモノだ。

 <不死者創造>(クリエイトアンデッド)がいい例だろう。名の様にアンデッドを作る奇跡は当然アンデッドにする死者が無ければ行使できない。

 

 今回ディロンが対価にしたのは魔力。自身が有する魔力を対価として捧げた。

 捧げたと知っても一時的な物に過ぎない。時間がたてば回復する。単なる魔術の行使とさして変わらない。

 ディロンにとっては大した対価には成らない。無限の魔力を持っている以上魔力は幾らでもあるモノに過ぎないからだ──平時ならば。

 

 今は儀式の侵攻途中。魔力を失えば当然、儀式の進行速度は減衰する。

 

 最大魔力の八割を常に儀式に割いて、更に身体強化もしている。そこで更に奇跡を行使する。

 奇跡は魔術と違う。身体強化に魔術を割いていても行使できるという強みがあるが魔力を消費するのは変わり得ない。

 普段ならば問題ないだろう。身体強化に攻撃魔術に奇跡を併用したところで魔力が切れる事は無い。文字通りの無限なのだから。

 

 だが──無限と言っても限度があった。本人も知らない限度が。

 一度に引き出せる魔力には、限界があった。

 例えるならば最大値が千で常に九百九十九回復しているのが普段としよう。

 今は儀式の力を割いている為最大値が四百にまで下がり回復量も三百九十九まで下がっている。

 

 ならば当然、何時かは魔力が切れる。

 

 邪神の奇跡は魔術と比べ物に成らない量の魔力を消費する。当然だ、神に申請して生贄等で払う対価を魔力だけに絞るのだから。

 

 だがディロンは気づかない。気づけない。

 如何に魔術の勉強をしたと言っても趣味の範疇。専門家や戦闘を生業にする者の様に鍛錬した訳でも無い。通信教室の無料ビデオを見ただけの様なモノ。

 己が刻一刻と追い詰められていく事に──気づけない。

 

 

 そこに更に、追い打ちをかける様に援軍がやって来る。

 エストックを手にした女エルフ──ディーナだ。

 道中の魔物を斬り飛ばし、音を超えた速度でディロンに接近し──雷撃の魔術を放つ。

 

「か、すがぁぁ!」

 

 本来ならば通用しないはずの魔術。だが弱体化した今なら通じてしまう。

 

「ケントニス! ほかに何か無いのか?!」

 

 ケントニスに縋り、何か無いかと喚く様は実に無様。

 当然ケントニスも考えるが──ここからの逆転の一手が思いつかない。

 というよりほぼ詰みに近い状況だ。

 

 勇者は魔王を打ち倒す。これはこの世界における法則だ。

 水を熱せば蒸発するように。リンゴが木から落ちる様に。絶対的な世界法則。1+1=2であるのと同じ。変わることなど有り得ない、あっては成らないモノ。

 だからこそ、ここからの挽回は不可能だと普通ならば断じる。もはや匙を投げて次に期待する場面。次は上手くいくだろうと。

 

 だが、今回は駄目だ。普段の駒である魔王とディロンは違う。ディロンは再生能力こそ持っているが再誕系の能力を持っていない。魂事壊されればそれで終わりだ。

 普段ならば魂という根幹に干渉される事は無い。だが今は別だ、儀式の核となり触媒として消費されている今は。

 更に、これまでの魔王でもここまで──邪神の本体顕現寸前まで行ったのは初めての事。

 

 二百年前にも顕現したが、あれは魔王ではなく最初から最後まで無理やり──力の殆どを落として無理くり顕現した恐怖と絶望を司る邪神(フルヒト)が主導していたからこそ成り立った。

 それに最後の最後に(アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)が顕現はしたが能力の九割九分落ちた上時間経過で勝手に滅びる状態での顕現。

 結果としてフルヒトもアオス・シュテルベン・レーベンも大幅な弱体化を喰らってしまった。成功とは言えない。

 

 今度こそ、本当にあと一歩──時間さえ経てば顕現できる状態なのだ。だからこそ邪悪なる神々(ゼーベ)側も何か出来ないかと考える。

 その為の奇跡の貸し出し。信者でも無く敬ってくる訳でもない相手に力を貸すのはそれが理由。

 現状の心理はサンクコスト効果だ。ここまで来るのに邪神達も相応の費用を払っている。だからこそ回収の手を探してしまう。

 

 だが現実は悲惨。一歩一歩確実にディロンは追いつめられる。

 

「あ、がァァァ!」

 

 口にエストックをぶち込まれ、内部から電撃を喰らう。

 内臓が無いため大したダメージには成らないがそれでも回避不能で全身に雷撃を喰らったのは深手。ダメージがまたも蓄積する。

 

「いい加減、死ね!」

 

 ディーナが叫びながら更なる追撃を打ち込む。

 右手から突っ込んだエストックではなく純魔力で形成した魔力の剣を左手に生成し全身を斬り刻む。

 血が噴き出し、骨の様なモノが見える状態になる。

 

(再生が、間に合わん! 攻撃も出来ん! カス共が!)

 

 腕を動かせばルークに斬られ、ディーナには足を斬られる。

 口を開けばエストックをぶち込まれ背後から胸を貫かれる。

 足で逃げようとすれば足を斬り刻まれてついでとばかりに手も斬られる。

 翼を生やせば根元から斬られて炎に包まれる。

 

 刻一刻と無事な部分が無くなる。

 

 もはや肉体強化の魔術の行使も出来なく成った。詠唱が必須の奇跡も魔法も使えない。

 

 左腕が斬り飛ばされ大地に落ちる。塵となって消えていき腕は再生する事が無い。

 右目が貫かれ脳髄をぶちまける。眼球で視界を得ていた訳ではないので視界はあるが脳に響く鈍痛が思考を鈍らせて来る。

 

 誰がどう見ても、詰み。

 

 ディーナに蹴り飛ばされ、距離が開く。

 やった、とギリギリ形を維持している足で走って逃げようとすれば──当然逃亡を防ぐ為にルークが居る。

 聖剣で足を斬られ、大地に突っ伏す。

 

『仕方がない、余り使いたくは無かったが──』

 

 最後の切り札。最後の最後まで使いたくなかったモノ。使えばケントニスも深手を負うそれを使う。

 

 

 かつてドワーフの国の王が使ったそれ──の劣化複製品(デッドコピー)

 個人的な趣味で回収、再現し製造中のそれを無理やり別の奴と統合して起動。現世に送り込む。

 起動事態は問題なく行える。だがヴァールから現世への干渉は本体が近いとはいえ容易く行えるものではない。

 (アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)が現世に無理に顕現した結果深手を負った様にケントニスもまた傷を負う。

 だがアオス程深くは無い。(アオス・)を司る(シュテルべン・)邪神(レーベン)は現世への取っ掛かりも無く本当に無茶をした結果の傷。

 登山装備無しで富士山登頂したかフル装備で上ったぐらいの差だ。当然ヘリで行った方が早いし楽である。

 当然登山をする程の疲労と傷を受けるのは変わらない。だから使いたくなかった手段。

 

 

 地面が盛り上がり、ディロンを守る様に白金の巨兵が出現する。

 周囲の土を消し飛ばし、ディロンも更に遠くへ飛ばし、大剣を握り、大楯を構える姿は正に守護者。

 白金の全身鎧。頭部全体を覆う兜。関節部から微かに見える内部は虚空。何も無い空っぽの鎧。

 全長三メートルの守護兵相手にルークとディーナは剣を構える。

 

「二対二じゃボケ!」

 

 そしてディロンが解放の剣を手に守護者と共に戦う。

 逃亡も選択肢にあったが守護者が切り札のわりに弱い。二対一でも戦いは成立するが自分が城に戻り儀式を完了するまでは持たない。ケントニスにそう言われたディロンはしぶしぶ自身も戦線に出る。

 

「ついでだ! 来い、駒共!」

 

 片足を地面に突き刺し、駄目押しとばかりに兵を作り出す。

 ケントニスの権能も使い作り出すのはトーベン。マギー。ドアイラクの最も長い間使ってきた上位三体と百を超えるリッター達。

 

 ドアイラクが笑い声と共に爆破しようとした瞬間──横から飛んできた斬撃にドアイラクの首が一つ潰された。

 

「ち、そう上手くはいかないか──」

 

 やって来たのはネボとヒュムネ。

 聖女の力で魔物を消し飛ばし、地平線を作って来た彼女達は勇者の手助けをするべくやって来た。

 

「浄化を」

 

 ヒュムネがそう呟くと同時に──≪不可解な者≫(アンノウンズ)が消える。

 青い炎に包まれて、抗う事も出来ずに消えるのはマギーとトーベン。そもそもが耐性を持っていないのもあるが今のディロンは弱体化している上材料も無しに創ったのが原因。

 唯一ドアイラクだけは耐えたが耐えれただけ。何もしなくとも自壊する程の損傷を追う。

 まだ使えるのはリッターぐらいだろう。青い炎に当たったモノは全て壊れたが跳躍したり魔術師型の飛行できるものは逃れることが出来た。

 

「かす、がァァァ!」

 

 叫びながら剣を振るう。怒りに任せた剣では当然、勇者には敵わない。

 

(なにか、何かないのか! ここからの逆転の一手! 起死回生の策は何か!)

 

 頭を回す。人として生きて来た頃よりも、魔神と化してからよりも一番多く頭を回す。

 思考速度も人のそれではない。人では考えれない速度の計算も出来るディロンだが──その頭をもってしても解決策は浮かばない。

 地頭が良くない、というのもあるが──何よりもこれは詰み盤面だ。起死回生の策はあるが、使えば終わりのモノ。

 

 守護者がネボと戦うも──製作途中でありそもそも戦闘前提ではない守護者は既にボロボロ。ヒュムネの浄化も喰らい正に壊れる寸前。

 

「おれを、助けろ!」

 

 恥も外見もへったくれもなく情けなくディロンは配下であるリッターに助けを求める。

 全てのリッターがディロンに向かい──一太刀の元、斬り捨てられた。

 

「すまん、遅れた」

 

「いいや、いいタイミングだ──!」

 

 やって来たのは全身鎧に包まれた第三者。騎士の如き盾と剣を有する者。

 

「誰だてめぇ!」

 

 突然の乱入者。何処に居たんだボケという悪感情の元喚く。

 

 全身鎧の正体はタリ。最強の剣士として知られる者。勇者の師匠。

 タリを視認したケントニスは何かしらの魔術を行使しようとするが──その悉くをタリは斬り捨てる。

 魔術、魔法。権能。そんなの知らぬとばかりに最強の剣士は邪神の力を斬ってしまう。

 そうしてついに──ケントニスの体が、本が。斬られた。更に、タイミングもよく──守護者もまた、ネボによって破壊された。

 

 ケントニスという、地球へ帰る為の最大の協力者が斬られた事でディロンは金切り声を上げた。

 地球への帰還が不可能になった事への悲しみの声。

 

 喚くディロンの胸に、ルークの剣が突き刺さる。

 

「あ、あああぁぁぁ──」

 

 

 人ならば心臓がある位置だ。だがディロンに心臓は無い。だが、これまでに蓄積されたダメージが。苛立ちが。苦痛が。ディロンに悲鳴を上げさせる。

 そして、依り代は壊されても契約までは破棄されていないケントニスはディロンにどうにかしろと、発破をかけた。

 

「──ま、だ、だ!」

 

 勇者の剣も。悠久を生きるエルフの知識も。浄化の聖女の力も。最強の名を得た冒険者の技術も。最強の剣士の刃も。

 狂気のみを糧に。人を殺し、喰らい。奪う怪物の命にはまだ──届かない。

 

「う、ウォォォ!」

 

 叫び、ルークが剣を上に振り上げる。

 力任せに上げられた剣によってディロンの上半身と頭部が綺麗に二つに割れた。

 

 それでもまだ、ディロンは死なない。死ねない。限りなく邪悪なる神々(ゼーベ)其の物に近い魔神は肉体の損傷は死に繋がらない。

 魂さえ破壊されなければ死なず、魂も魔によって守護されている者は、善に属する存在以外の攻撃では殺しきる事が出来ない。

 

 勇者が聖剣を振るい、ディロンの解放の剣とぶつかり合う。

 肉体はほんの少しずつ再生している。聖剣でも殺しきるのには時間がかかる。

 

 ああ、これは駄目だな、という意思をディロンは汲み取った。

 

「アアアアア!」

 

 絶叫。叫び。

 

 喉が裂けていようと関係無くディロンは叫ぶ。無理に声を出したせいで更に傷を負うも気にはしない。

 赤子にも似た声に思わず、この場の全員が顔を顰める。

 

 その一瞬さえあれば、充分だった。

 

 このままだと駄目だと、これまでの戦闘経験から勇者はそう結論付ける。

 だからこその最後の一手。奥の手。ジョーカーを切る事を勇者は判断する。

 

「ディーナ、さん!」

 

 勇者の声が、戦場に響いた。

 

 

 

 

 

 

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