殲滅戦争   作:Libro

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エピローグ

 彼らは歩き出す。明日への一歩を。世界を救ったことなど気にもせず、彼ら、あるいは彼女たちは歩き出す。

 次への一歩を踏みしめて。未来へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──これで、よかったのか?」

 

 真っ白な、何も無い空間で戦女神シュヴァーアトは異界の住人に問いかける。

 相手は、前よりも背が伸びて、真っすぐとした瞳を持つようになった者。かつて異世界で勇者として活動した二人組。

 

「えぇ。これで、いいんです。お金なんてあっても、浪費するだけですし」

 

 苦笑いしながら、藤原は戦女神にそういった。

 

 

 勇者二人が異世界を救うことに対する対価。成功報酬五億円。

 それが何処からくるのか、というのは戦女神が用意する手はずとなっていた。

 正確には戦女神が地球において価値のある貴金属類──ダイヤモンドや金塊、プラチナ等の貴金属。

 約五億円に相当する量を創造し日本政府に売り、そこから魔王退治の報酬を渡す、という事になっていた。

 

 それを藤原と出雲は拒絶した。

 

 如何にシュヴァーアトが神であり創造の力を持っているとしても五億円相当の貴金属を創るとなると相当の力を消費する。

 これが自分たちの世界なら兎も角地球様に最適化された物を創るとなれば相当な労力だ。

 

 それを、勇者の二人は異世界の為に使ってくれと頼んだ。

 

 あの時生まれた亀裂。世界と世界の狭間。次元の狭間であり隙間であるあれを創ったのはシュヴァーアトであった。

 あの亀裂自体は戦女神もよくわからないモノだ。世界と世界を移動するときに出来た余白。あるいは、部屋と扉の境目。

 当然、そんな訳の分からないモノに悪しき魔神を入れる、という事は良くないとシュヴァーアトも思う。だが、それ以外に対処法が思い浮かばなかったのも事実。

 

 魔王を倒した勇者たる二人のうち、出雲が望んだのがそれだ。

 

 正確には"魔神を倒す"という事だったがそれ以外に思いつかず、思わぬ結果になってしまったが。

 

 そして、最後。ディロンを亀裂へ押し込み世界から追放するための最後の一手を放ったのは藤原。

 

 二人は地球で得られる金を捨て、異世界という今後二度と関わることの無い、まったくもって関係の無い世界と人々の為に得られた五億という大金を捨てたのだ。

 

 

「勇者とは、この世界では単なる称号に過ぎない。だが……いや、よそう」

 

 

 これで、藤原と出雲はただ働き決定だ。一年以上の異世界生活は全て無かったことになる。

 本来得た力も、金も。何も無い。

 傍から見れば自称異世界帰りの日本人に過ぎなくなる。それでも二人は異世界の為に得られた物を捨てたのだ。

 

「では、自分たちはこれで──」

 

 

 ──当然二人が異世界から帰って六年の月日がたっている。

 二人はもう学生ではない。これは、六年ぶりの会合だった。

 

 これでもう終わり。異世界の勇者達と異世界の女神はもう二度と会うことは無い。

 

 こうして、戦女神の世界から勇者二人は消えた。

 

「さようなら。勇者たち。君たちのことは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

「うーむ。失敗してしまった」

 

 はぁぁぁぁ、とわざとらしく大きなため息をつき巨大な脳みそは空だけの世界で呟く。

 言うまでも無く記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)だ。だがその声色には悲惨さは欠片も無い。

 しいて言えば"やっべ"という、子供が何か間違えてしまった様な感情が籠っている。

 

 

「う──む。もう少しディロンに勉学をさせるべきだったか? それとも力の練習? あるいは指揮? はたまた女?

 今となってはどうでもいいが、次に生かす為の反省が居るなぁ」

 

 はぁ、ともう一度ため息をつく。

 呼吸など元よりしていないし出来ない体なので単なるパフォーマンスだ。

 

 

 記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)は今回の戦いにおいて失敗したが──まぁいいかで済ましている。

 確かに他の邪神への対価やここまで投資したのに失敗したディロンへの怒りもある。だがそれだけだ。

 金も力も時間さえあれば補充できる。そして寿命や死の概念が無い神々にとってそれらは簡単に取り戻せるモノ。

 唯一、神に成りあがった存在であるディロンは取り戻しようの無いものだが、それ以外は全てどうとでも成るもの。

 

 つまりケントニスはディロン以外失ったモノが何も無い。確かに現世での活動体である本も破壊されたがあんなもの時間さえかければまた作れる。具体的には後五十年ぐらいで。

 だから、ケントニスは形だけの反省をする。また次に生かせばいいやという享楽じみた思考を。

 そこにディロンに対する申し訳なさや謝罪の感情は一切ない。

 

 当然ともいえる。ケントニスは邪神でありディロン──不破泰二は人間だ。その程度に何かしらの感情を抱く方が間違っている。

 ケントニスにとって今回は負けだ。だが何百という負けの一つに過ぎない。

 

 態々契約までしてやったのになぁ、と未だ契約は残っていて繋がっているケントニスはそう考える。

 そして、今はどうなっているのかふと気に成り──繋がりを辿る。

 

「ほぉ、これはこれは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

「ふざけんなふざけんなゴミがクソが蛆虫が! こんなもので俺をどうにかしたつもりか?!」

 

 世界の狭間。あるいは終わり。

 幾つもの星々が煌めき、超新星爆発を起こし当たらな銀河が生まれては消え、宇宙が誕生しては死ぬ。

 あるいは何も無い世界。虚無という概念があり何も無いという矛盾を孕む世界で。ディロンはただただ彷徨っていた。

 

「ふざけんなよぉぉぉぉぉぉ俺は帰りたいだけなのにぃぃぃぃぃ」

 

 子供の様に駄々をこねて喚く姿は実に無様であった。

 

 次元の狭間。世界と世界の隙間であがくディロンは一秒経つごとに体が崩れていく。

 指先が崩れて落ちて、腹が割かれ、口から訳の分からない液体を吐き出す。

 

 そして、体が再生する。

 

 魔神であるディロンはこの程度では死なない。死ねない。無限の魔力を持つ以上再生で魔力を使ったとしても使った傍から再生できる。

 だからこれは当然。本来は入れてはならない世界に来てしまった事による世界からの拒絶であってもディロンは耐えれてしまう。

 

「く、そ、が──ー!」

 

 

 絶叫。声を震わせ世界を揺らがす。

 

 

 

 

 

 …………ディロン本人は勿論。邪神も戦女神も勇者も、全員が忘れてしまっていた事があった。

 少なくともケントニスならば気づいているべき事実。何故忘れていたのだと叱責を受けても仕方が無い事。

 

 

 そもそも、ディロンが得た魔神とは何だったのか、という話。

 

 かつての時代、世界が楽園だった頃の侵略者。全ての魔の大本であるユーベル率いる魔神の一体。それが、ディロンが──不破泰二が得た力の正体とされている。

 そう。魔神とは侵略者だ。別の世界にある楽園に土足で踏み入った略奪者。ならば当然。

 

 世界を渡る力を持っている。

 

 

 ユーベルはあらゆる世界を渡る存在だ。世界を渡り移動し喰らい滅ぼし次なる世界を求める災害。

 ユーベル率いる魔神の軍勢も当然、世界を移動する力を持っている。

 

 当然だ。世界を滅ぼす軍勢なのだから世界を移動できなければ話に成らない。

 

 

 ならば当然、ディロンが得た魔神も世界を移動する力を持っている。

 

 

 

 楽園だった世界に侵入した者の一柱とされているのだから持っていて当たり前。

 ディロン本人は気づけなくて当然だろう。空間転移は出来ないモノとされているし、世界の移動と空間転移は似て非なるものだから。

 だからこそ世界を渡る存在であるユーベルから零れ落ちた存在であるケントニスは気づいてしかるべき事だった。今となっては全てが遅いが。

 

 後何百年か。あるいは何千年か。もしかしたら万や億年。あるいは明日か明後日にでも。

 ディロンはいずれ力を再構築し世界を渡る力を行使する。

 

 

 ……だが、ディロンがあの異世界へ行くことは出来ない。

 邪悪なる神々(ゼーベ)の侵入を防ぐ結界は、副作用として世界を断つ結界としての力を持っている。

 邪悪なる神々(ゼーベ)の住まう世界と人々の世界が違うものである以上当然ではあるが、ディロンが世界を渡ろうとしてももはやあの世界に行くことは出来ない。どうやっても。

 

 だが、それ以外の世界なら話は別だ。

 

 異世界からの侵略者に対する対策をしていない世界へ、何時か何処かでディロンはたどり着くだろう。

 

 

「クソがァァァ」

 

 こうして絶叫する中でもディロンは次元の狭間を身動ぎし動く。

 

 

 何時か、ディロンがたどり着く世界は何処なのか。それは誰にも分らない。

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