殲滅戦争   作:Libro

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エピローグ

 

 魔神城跡地──主であるディロンを失った城は崩壊していく。

 城其の物を眷属にしていた弊害だ。主さえ生きていれば永遠に稼働する城だが当然主を失えば自壊する。

ガラガラと大きな音を立てて崩落していく。その中にはディロンがこの世界で集めた本や武器。ウードが趣味で集めた人の死骸や宝石などが混じっている。

かき集めれば一国は買えそうな黄金の山。だがその場にいる誰もそれに興味は持たず瓦礫の当たらない場所で崩落する城を眺める。

 

 

「お、晴れたな」

 

 そこに居たネボの言葉のが早いか否か、空を見れば──それは綺麗に晴れていた。

 先程まであった暗雲など何処へやら。綺麗さっぱり消えてしまった。

 残るのは綺麗に映る太陽と、太陽の光で隠れてしまいそうな月が二つ。

 

 地平には緑が戻っている。死の神の力で汚染された大地は聖女の力で浄化され、小動物が生き生きと地面から出てくる。

 魔物等影も形も無い。全てを倒し、浄化したのだから。

 

 平和な大地に音より早く何かが着弾する。

 

 ネボ達の超至近距離に落ちたそれは周囲に被害を出すことなく、クレーター一つ作る事無くやって来た。

 

「来ましたか」

 

 ヒュムネがそう言い。落ちて来た者──ディーナに駆け寄る。

 

「よう、ディーナ。あいつは──ルークは?」

 

 ネボは分かり切った事を問いかける。わかりきった事を。

 

「えぇ、ルークは──あれを封じるために……」

 

 それ以上言う前に。ヒュムネが抱き着いて言葉を言わせない。

 

「それ以上は、大丈夫です。みんな、覚悟してきたのですから」

 

 抱き着いてきたヒュムネの頭をディーナは撫でた。

 

「それじゃ、後の事を考えないとな! 世界が平和になったんだから!」

 

 わざとらしく大声を上げて、全身鎧──タリが叫ぶ。

 

「えぇ。そうですね──世界はまだ、続くのですから」

 

 

 この先。彼女たちが、彼らが。どうなるかは誰にもわからない。

 それでも、勇者の仲間たちは、勇者無き世界で生きて行く為に。

 

 一歩を踏み出した。

 

 

 これで、彼女たちの冒険はおしまい。世界は救われた。

 

 

 

 

 

 ■

 

「うーむ。失敗してしまった」

 

 はぁぁぁぁ、とわざとらしく大きなため息をつき巨大な脳みそは空だけの世界で呟く。

 言うまでも無く記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)だ。だがその声色には悲惨さは欠片も無い。

 しいて言えば"やっべ"という、子供が何か間違えてしまった様な感情が籠っている。

 

 

「う──む。もう少しディロンに勉学をさせるべきだったか? それとも力の練習? あるいは指揮? はたまた女?

 今となってはどうでもいいが、次に生かす為の反省が居るなぁ」

 

 はぁ、ともう一度ため息をつく。

 呼吸など元よりしていないし出来ない体なので単なるパフォーマンスだ。

 

 

 記憶と記録を(ケントニス)司る邪神(・ヴィッセン)は今回の戦いにおいて失敗したが──まぁいいかで済ましている。

 確かに他の邪神への対価やここまで投資したのに失敗したディロンへの怒りもある。だがそれだけだ。

 金も力も時間さえあれば補充できる。そして寿命や死の概念が無い神々にとってそれらは簡単に取り戻せるモノ。

 唯一、神に成りあがった存在であるディロンは取り戻しようの無いものだが、それ以外は全てどうとでも成るもの。

 

 つまりケントニスはディロン以外失ったモノが何も無い。確かに現世での活動体である本も破壊されたがあんなもの時間さえかければまた作れる。具体的には後五十年ぐらいで。

 だから、ケントニスは形だけの反省をする。また次に生かせばいいやという享楽じみた思考を。

 そこにディロンに対する申し訳なさや謝罪の感情は一切ない。

 

 当然ともいえる。ケントニスは邪神でありディロン──不破泰二は人間だ。その程度に何かしらの感情を抱く方が間違っている。

 ケントニスにとって今回は負けだ。だが何百という負けの一つに過ぎない。

 

 態々契約までしてやったのになぁ、と未だ契約は残っていて繋がっているケントニスはそう考える。

 ディロンは封印されたが契約まで強制的に破壊された訳じゃない。だから今ディロンがどうなってるかケントニスはわかっている。

 それでも助けない。利益を感じないから。

 

 既にケントニスの頭はディロンの事などこれっぽちも無く。失敗してしまったことに対する他の邪神への言い訳と──次の策略の事で頭は埋まっていた。

 

 

 

 

 

 ■

 

「──これで、よかったのか?」

 

 真っ白な、何も無い空間で戦女神シュヴァーアトは異界の住人に問いかける。

 相手は、前よりも背が伸びて、真っすぐとした瞳を持つようになった者。かつて異世界で勇者として活動した二人組。

 

「えぇ。これで、いいんです。お金なんてあっても、浪費するだけですし」

 

 苦笑いしながら、藤原は戦女神にそういった。

 

 

 勇者二人が異世界を救うことに対する対価。成功報酬五億円。

 それが何処からくるのか、というのは戦女神が用意する手はずとなっていた。

 正確には戦女神が地球において価値のある貴金属類──ダイヤモンドや金塊、プラチナ等の貴金属。

 約五億円に相当する量を創造し日本政府に売り、そこから魔王退治の報酬を渡す、という事になっていた。

 

 それを藤原と出雲は拒絶した。

 

 如何にシュヴァーアトが神であり創造の力を持っているとしても五億円相当の貴金属を創るとなると相当の力を消費する。

 これが自分たちの世界なら兎も角地球様に最適化された物を創るとなれば相当な労力だ。

 

 それを、勇者の二人は異世界の為に使ってくれと頼んだ。

 

 

 出雲大和は魔神を封じる為の島を。藤原玲一は最後の最後に刃を当てる為に。

 

 

「勇者とは、この世界では単なる称号に過ぎない。だが……いや、よそう」

 

 

 これで、藤原と出雲はただ働き決定だ。一年以上の異世界生活は全て無かったことになる。

 本来得た力も、金も。何も無い。

 傍から見れば自称異世界帰りの日本人に過ぎなくなる。それでも二人は異世界の為に得られた物を捨てたのだ。

 

「では、自分たちはこれで──」

 

 

 ──当然二人が異世界から帰って六年の月日がたっている。

 二人はもう学生ではない。これは、六年ぶりの会合だった。

 

 これでもう終わり。異世界の勇者達と異世界の女神はもう二度と会うことは無い。

 

 こうして、戦女神の世界から勇者二人は消えた。

 

「さようなら。勇者たち。君たちのことはーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

(ふざけるなふざけるなふざけるな! 何だこの結末は受け入れないふざけるな認めない!

 何でこうなった全てはあのクソ女のせいだクソ女神のせいだ! あれが俺を呼ばなければ召喚されなければ!

 いやもっと前! 世界の誕生前! あのクソゴミ屑キチガイのせいで──!)

 

 自分自身何を考えているのかわからないままディロンは思考を進める。

 

 一寸先も見えない闇の中。ディロンはただただ思考だけをする。

 

 指一本動かせない。足も、口も。何も出来ない。

 

 こうして考えが出来る時点である種の奇跡だろう。むしろ何も考えれない方が幸せだったかもしれないが。

 

 何も無い世界に自分ただ一人。何も出来ないまま意識だけがあるのはもはや拷問に近い。

 

 だが、それももうすぐ終わる。思考はだんだんと鈍り、睡眠など不要なはずの体が眠りかける。

 これも封印のせい。ディロンを封じる力はディロンの全てを出来なくする。

 

 

(こんな、こんなところで……何処で間違えた?

 召喚されたときに王女擬きをぶち殺した時? それとも王っぽい何かを殺した時?

 妊婦の腹から子供を食った時? エルフ連中ぶち殺した時か? ああ、なんで、なんで、なんで──)

 

 考えが纏まらない。そうしてディロンは考えを辞め、思考出来無く成って──闇の中意識を閉ざした。

 

 

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