義妹は妹キャラとして認めん!という俺に、義妹ができてしまった件。   作:荒井竜馬

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第1話 クラスの氷姫が俺の義妹になった

「おっす、春斗(はると)。朝から浮かない顔してどうしたよ?」

 

「貞治(さだはる)か。いや……別に、なんでもない」

 

 朝の通学路。俺が少し前を歩く女の子に視線を向けていると、クラスメイトである貞治が俺の肩をポンと叩いて現れた。

 

 中学の頃は野球部だったこともあり、活発な性格な男。そんな男と仲が良いのは、同じような趣味を持っていることがでかいだろう。

 

「何でもないことはないだろ。春斗の視線の先は……あ、氷姫じゃん。なに、春斗氷姫のこと好きなん?」

 

「別にそんなんじゃないって。……氷姫、ねぇ」

 

 貞治の返答を受けて、改めて前を歩く少女、雪原美優(ゆきはらみゆ)に視線を向けてみる。

 

 ただの後ろ姿なのに、歩く姿は百合の花のように美しい。いや、もっと現代風に言うのなら、ゲームの立ち絵のような美しさがあった。

 

 濡羽色した長い髪に、硝子細工のように繊細なまつ毛。くっきりとした二重瞼に、吸い込まれそうなほど透き通った黒水晶のような瞳。

 

 整った鼻梁に、小さくて可愛らしい桜色の唇。

 

 それに加えて、しっかりと女の子らしい体つきをしているのだから、男子が放っておくはずがない。

 

「野球部エース、サッカー部キャプテン、読者モデルやってる先輩……そんな男たちを表情一つ変えずに振ったらしいからな、『氷姫』なんてあだ名も付くだろうぜ」

 

「確か、まだ俺たち入学して二ヵ月しか経ってないよな? 告られ過ぎじゃないか?」

 

「そりゃあ、すぐに告らないとヤバいって思ったんだろ。誰かに取られる前にって考えだな」

 

 確かに、男子どもの言い分は理解できる。あれだけ可愛い子なら、すぐに彼氏ができるだろう。俺もクラスで雪原を初めて見たときは同じ反応だったしな。

 

「……なぁ、貞治は雪原さんが誰かと一緒にいる所見たことあるか?」

 

「いや、見たことないな。まぁ、基本的に一人だろ、氷姫」

 

 この学校の男子みんなが心配していた、『すぐにクラスの中心人物になって、彼氏ができてしまうのではないか』といった考え。

 

そんな男子どもの心配事は、すぐに杞憂に終わることになった。

 

 雪原美優。彼女が氷姫と呼ばれるようになった理由は、ただ告白してきた男子を振りまくったからではない。

 

雪原は彼氏どころか友達すらいないのではないかと疑うくらい、周りに人を寄せ付けたりしない。

 

何事にも冷静沈着な対応をするので。少し冷たく感じることもしばしば。

 

そして、俺はまだ彼女が笑っている所を見たことがない。それくらい、無表情な女の子なのだ。

 

そんな彼女の態度を見て、誰かが彼女を氷姫と呼ぶようになり、その呼び名は一気に広まることになったのだった。

 

「随分気にしてるんだな、雪原さんのこと」

 

「まぁ、クラスで少し浮いてるしな。気にはなるだろ」

 

「なんだ、春斗いいとこあるじゃんか」

 

「別に、そんなんじゃないっての」

 

 別に、ただ浮いているクラスメイトのことを気にかけているのではない。

 

 それだけだったら、関りがないであろうモブの俺が出しゃばったり、彼女のこと気にしたりすることはない。

 

 俺だって、何も関係がなければ彼女を気にすることはなかっただろう。

 

 ……そう、彼女が義理の妹でもなければ。

 

 

 

 父さんが再婚した。

 

 高校に入学して数週間が経過した頃、俺は父さんに連れられて再婚相手と顔を合わせることになった。

 

 前から連れ子がいることは聞いていたが、顔を合わせるのはその日が初めてだった。

 

 そして、その時に同席していたのが雪原美優だった。

 

 いやー、雪原も俺同様に、言葉を失うほど驚いていたよ。

 

 まさか、連れ子がクラスメイトだったなんてな。

 

 それから驚くような速度で同居生活がスタートして、気がつけば俺は氷姫と共同生活をすることになったのだった。

 

 可愛いクラスメイトと同居生活!? 始まるドキドキな兄妹ライフ!?

 

 ……なんてものが始まるはずがなかった。

 

 氷姫と言われている彼女相手に、まともにコミュニケーションを取ることなんてできるはずがなく、俺はむしろ彼女を避けるような生活を送っていたのだった。

 

 

 そして、学校から帰宅した夕食時、俺はそんな回想に思いにふけるほど、気まずい思いをしていた。

 

 出張でしばらく家を空けることになった両親によって、俺は雪原と二人だけで食卓を囲むことになっていた。

 

ただ箸の音しか聞こえてこない食事風景。息が詰まることこの上ない。

 

 そして、驚くことにすでに、両親が出張に行って三日が経過していた。つまり、三日間もこんな気まずい空気の中食事をしているということだ。

 

「……」

 

「……」

 

「……ご、ごちそうさまでした」

 

 いたたまれなくなった俺は、買ってきた弁当を十分足らずで流し込むと、椅子から立ち上がってリビングを後にしようとした。

 

 あまり長く俺一緒にいても雪原も嫌だろうし、俺もこの空気に長い時間は耐えられない。

 

 そう思って、いそいそとリビングを後にすることにしたのだ。

 

「……もう限界」

 

俺がそのまま美優の隣を通り過ぎようとしたとき、ぼそっと雪原が言葉を漏らした。

 

「え?」

 

 押さえ込んでいた感情によって揺れている言葉。そんな言葉を漏らしながら、雪原は勢いよく立ち上がると、俺の正面に立ちふさがってきた。

 

 俯いているせいで顔色が窺えないでいると、少し勢いをつけた雪原の両手が俺の頬に向かってきた。

 

 急に向かってきた手を前に、俺は少しだけ身構えていた。

 

「え、ちょっ、ぼ、暴力はーー」

 

そして、そのままぺちんという可愛らしい音と共に、俺の両頬は雪原の手のひらに包まれた。

 

「え、あれ?」

 

 戸惑う俺をそのままに、雪原は意を決したように顔を上げてきた。

 

 微かに怒るように眉を逆ハの字にして、瞳を潤ませるようにしながら。

 

「春斗くん、他人行儀過ぎ! もっと私とお話して! もっと構って!」

 

「……え?」

 

な、なんだ?

 

 表情一つ変わらないはずの氷姫が、幼子が我儘を言うかのように頬を膨らませていた。

 

 何が起きている? ていうか、この子は本当にあの雪原か?

 

「春斗くん、お兄ちゃんなんだよね?! もっと、私を妹みたいに扱って!!」

 

「いや、俺たち同級生じゃ……」

 

「私の方が誕生日遅いから妹なの! もっとお兄ちゃんして! あーまーやーかーしてよー!!!」

 

 雪原はそう言うと、俺の肩を持ってガクガクと揺すってきた。

 

 目を強くつぶって、コミカルな漫画のような目をしている。なんか『><』みたいな感じになっている。

 

 え? その目どうやってるの?

 

 氷姫と呼ばれているクラスメイト。その氷は溶けてびちゃびちゃになるくらい、その影を失っていた。

 

 目の前にいるのは駄々をこねる可愛らしい女の子の姿。

 

 一体何が起きているのか、その渦中にいるはずの俺自身が何も理解できていなかった。

 

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