義妹は妹キャラとして認めん!という俺に、義妹ができてしまった件。   作:荒井竜馬

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第14話 メスガキ妹②

「嘘だよ。囁かれるくらいで、そんなふうになるわけないじゃん」

 

「いやいや、なるんだよ、これが」

 

「そこまで言うなら、やってみればいいじゃん」

 

「……え?」

 

 美優はそう言うと、頬の熱をそのままに少し横を向いて、こちらに耳を向けてきた。

 

 え? なにこれ、今から美優に囁けというのか?

 

 勢いだけで会話が進んでいき、とんとん拍子の末になんか訳分からん展開になっていた。

 

 俺が煽っておいて、ここで引いたら俺が悪かった感じになるのだろう。なんか勢いで破廉恥妹とか言ってしまった手前、ここで引くわけにもいかない。

 

 ここで引いたら、『破廉恥お兄ちゃん』とか言われそうだしな。

 

 ……いや、そう呼ばれるのも悪くはないか?

 

 いやいや、ダメだダメだ! 揺らぐな揺らぐな!

 

 俺は座ったまま少しだけ距離を詰めて、髪で隠れていた美優の耳を出すため、そっと髪の毛に触れた。

 

「……んっ」

 

「っ」

 

 俺が微かに美優の耳に触れると、美優は熱を帯びているような吐息を小さく吐いた。

 

心のなしかしおらしくなった表情に、潤いを増して揺れている瞳。この状況でそんな顔をされてしまうと、意識せずにはいられなくなる。

 

「美優」

 

「――っ!」

 

 俺が耳元で美優の名を呼ぶと、美優は小さく肩を跳ねさせていた。きゅっと閉じた目から、美優の余裕のなさが伝わってきて、その緊張感がこちらにも伝染してきた。

 

 それでも、ここまで来て何も言わないのは日和ったみたいで格好がつかないだろう。そう思った俺は、そのまま言葉を続けようとしてーー

 

「…………」

 

「お、お兄ちゃん?」

 

 何も言えずにいた。

 

 いや、直前で怖気づいたのではない。単純に分からなくなったのだ。

 

 兄が妹に囁くときって、何て言えばいいんだろう。

 

ふとそんな疑問が頭に浮かんで、それに対する回答を述べることができなかったのだ。

 

 逆なら色々と思いつくことはある。妹が兄に囁く場面なんて想像するのは容易い。しかし、その立場が逆になるとどうなるか。

 

 ……だめだ、まるで思いつかん。

 

 間を開けすぎたせいで美優ももう囁かれないのかと思って、薄目を開け始めていた。

 

マズい、何か言わなくては。

 

そう思った俺は、しばらく閉じたままだった唇を動かそうとした。

 

その瞬間、美優の不意を突く形で、美優の耳元で大きめのリップ音のような音を出してしまった。

 

 変に緊張したせいで、乾燥した唇同士がくっついていたのかもしれない。

 

結果として、俺はリップ音、俗にいうキス音と呼ばれる音を義妹の耳元で鳴らしてしまったのだった。

 

「~~~~っ!!」

 

 不意を突かれたことと、まさかのリップ音を前に、美優は耳の先まで一気に赤く染め上げた。

 

 そして、そのまま驚くように肩をビクンとさせた後、体勢を崩してベッドに倒れ込んでしまった。

 

「ちょっ、美優!?」

 

 ベッドなのだからそのまま倒れても問題はないはずなのに、なぜか倒れる美優を支えようとした俺は、そのままバランスを崩して美優に覆いかぶさる形になってしまった。

 

「お、お兄ちゃん」

 

 体を熱くさせた熱はそのまま声の方にも伝わったのか、美優の言葉はいつもよりも熱っぽいように思えた。

 

 そんなことを意識してしまった俺にも、当然その熱は伝染されてしまう。

 

 義妹を押し倒す構図で互いに高まっていく緊張感。すぐにどいてしまえばいいのに、俺はそのまま動けなくなってしまっていた。

 

 普段よりも潤いを増しているような美優の瞳を前に、俺は目を逸らすことができなくなっていた。

 

 いや、それでもこの状況はマズいだろ!

 

 俺はなんとか理性を呼び覚まして、美優からどこうとしたときーー廊下の方から物音がしてきた。

 

「「っ!」」

 

 廊下を歩くときに床が微かに軋む音。いつの間にかこちらに近づいてきていた音を前に、俺たちは互いに体をビクンとさせて驚いていた。

 

 いやいや、驚いている場合ではない! この状況を何とかしないと!

 

 妹を押し倒したとき、その後の選択肢はどんなものがあるか。

 

 大丈夫だ、こういう状況はすでに恋愛シミュレーションゲームで予習済み。考えるまでもなく、選択肢が脳に浮かぶというものだ。

 

選択肢① 熱いキスを、もしくはそれ以上を。

 

 ……いや、一択かよ!

 

 まぁ、確かに恋愛シミュレーションゲームで、妹を押し倒した後に日和るなんてシナリオはありえないか。

 

 いや、直前までしておいてここで選択肢出る!? って言うゲームもなくはないけど、その場合は他の女の子ルートに行くときだけだろ。

 

 だめだ、恋愛シミュレーションゲームは参考にならない。他に参考になるものと言うと、アニメ、ラノベくらいしかないか……。

 

「マズいっ! 隠れろ!」

 

「え、ま、マズい? 隠れる?」

 

 俺はそう言うと、美優の下にあった掛け布団を強引に奪い取って、美優と俺の上に掛け布団を頭までかけた。

 

 俺はそのまま流れるように美優の隣に並んで横になって、身を隠すことにした。

 

「ちょっ、ぜ、絶対、他の選択肢あったでしょ?!」

 

「いや、それ以外の選択肢はなかったんだ」

 

「嘘だよ! 絶対、他にもあった!」

 

「他の選択肢って……この破廉恥妹め」

 

「なんでそうなるの?!」

 

 結果として、俺は両親から隠れるため、美優と共に俺のベッドの中に隠れたのだった。

 

 他の選択肢もあるにはあったけどさ、さすがに選択肢①は選べないよ。

 

 明かりを付けたまま隠れたため、布団の中に隠れても美優の顔が見えていた。布団をかぶって少しだけ暗くなった景色の中で、美優がこちらをじっと見つめていた。

 

 布団に二人で潜り込んだ暑さのせいか、美優は唇をきゅっと閉じながら顔を徐々に赤く染めていった。

 

 若干汗ばんでしまったくらいに熱くなり始めた体。もしかしたら、美優も同じなのかもしれないと思うと、なんか変に意識し始めてしまっていた。

 

「も、もう行ったよね?」

 

「え? あ、ああ。本当だ」

 

 美優に言われて気づいたが、近くまで来ていた足音が遠のいていくのが分かった。

 

 俺は念のために頭だけ出して辺りを確認した後、頭から被った布団をどかした。

 

「ど、どうやら、行ったみたいだな」

 

「……うん」

 

 布団をどかして俺は流れるようにベッドから下りた。さすがに、このシングルベッドに二人で横になっているのは良くないだろうかと思ったからだ。

 

 そして、そのまま振り向きざまに美優の顔を見て、俺はピタリと固まってしまっていた。

 

「な、なにかな?」

 

 美優は俺の視線に気づいたのか、控えめにこちらに視線を向けていた。

 

 いや、なにかなって気づいてないのか?

 

「美優、お前顔真っ赤だぞ」

 

 布団に入る前から赤くなっていた頬にさらに熱を溜め込み、美優は首の方まで真っ赤になっていた。

 

「っ!!」

 

 俺に顔の色を指摘された美優は、そのまま小さく唸るような声をあげた後、潤んだ瞳でこちらを少し強く睨むような視線を向けてきた。

 

「~~っ!!! あ、ああ、暑かっただけだから!」

 

 そのまま頭でやかんでも沸かせるくらい、美優は顔を真っ赤にしながらベッドから下りると、パタパタと音を立てながら部屋の扉まで行くと、こちらに振り向いた。

 

「お、お兄ちゃんのざこ! よ、よわよわお兄ちゃん!!」

 

 顔を真っ赤にさせて、恥ずかしさを隠せていないような表情のまま、美優はそんな言葉を捨て台詞のように口にした。

 

 美優は俺の部屋の扉を開けて、少しだけ強く俺の部屋の扉を閉めると、そのまま去って行ったのだった。

 

「メスガキ妹……やっぱり、悪くないな」

 

 そして、俺は美優の捨て台詞のような言葉を聞いて、遠くを見つめながら小さく笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 私は自分の部屋に戻るなり、扉に寄りかかって座り込んでいた。

 

「……がした」

 

 自分でも分かるくらい熱くなっている体。お兄ちゃんが驚くような顔をしながら指摘するくらい、私の顔は赤くなっているんだろう。

 

 でも、それも仕方がないことだと思う。

 

「布団の中、お兄ちゃんの匂いがした……う~~っ!!」

 

 布団を頭から被ったとき、頭から足の先までお兄ちゃんの匂いで満たされていた。別に、変に意識してるとかではない。

 

 ただの事実として、お兄ちゃんの匂いに全身を包まれただけだ。

 

 だけなんだけど、それだけなんだけどっ!

 

 さっきからずっと体が熱いし、心臓の音もうるさいし、なんでこんなことになってるのか、分からない!

 

 こ、これじゃあ本当に、私が破廉恥妹みたいじゃない!

 

「~~っ!!」

 

 私はやり場のない気持ちを発散させるために、ベッドの上にダイブして足をバタバタとさせていた。

 

そうすることで、心の中にある何かを発散させようとしていたのだ。

 

「……すんっ。さすがに、あの短期間で匂いが付いたりはしてーーっ!!」

 

 無意識下で自分の腕の匂いを嗅いでいたことに気づいて、私はさらに激しく悶えることになったのだった。

 

 私は破廉恥妹なんかじゃないから!!

 

 そんなことを胸の中で叫びながら、私は枕に顔を強く押し付けながら悶えたのだった。

 

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