義妹は妹キャラとして認めん!という俺に、義妹ができてしまった件。   作:荒井竜馬

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第2話 兄妹を知る

「母さん、事件です」

 

「それを言うなら、『姉さん、事件です』じゃないかしら?」

 

 俺は急にキャラが変わってしまった美優を心配して、俺は廊下に出て、美優の母さんである明美さんに連絡を入れていた。

 

 どこか外でご飯を食べているのか、電話口からは少しの喧騒が聞こえてきていた。

 

「なんか雪原さんの……み、美優さんのキャラが急に変わったんですけど! 何か知ってますか?」

 

「キャラが変わった? あっ、そういえば、春斗君とかと暮らし始めてから、急に大人しくなったのよね。そのこと?」

 

「大人しく? いえ、その逆といいますか……」

 

「逆? もしかして、甘えてきたり少しアホっぽい感じ?」

 

「あっ、それです! まさにそんな感じ!」

 

 上手く言語化できなかったが、まさにそんな感じだった。

 

 ただ甘えてくるのではなく、少しアホっぽい感じ。

 

 実の母親がそんな表現をするのはどうなのかと思うが、的を射ている表現だ。

 

「ちょっと待ってください。さっき『春斗君とかと暮らし始めてから、急に大人しくなった』って言いました?」

 

 先程までの会話を思い出して、俺は微かに冷や汗のような物を垂らしていた。

 

 その言葉通りが真実だとするのなら、今の雪原の言動は素ということになるのだがーー

 

「そうそう、それが本当の美優だから。そっかー、ちゃんと打ち解けてくれたんだね。よかったよ」

 

「え? 打ち解けてくれて?」

 

「美優ったら変なところで意地っ張りだからさ。いやー、よかったよかった」

 

 何だろう、急に話がかみ合わなくなった気がする。

 

明美さんの話をまとめると、以前までの雪原は今みたいな感じだったらしい。それなのに、俺や父さんと暮らし始めてから大人しくなったと。

 

 ふむ、年頃の男女が一緒に暮らすことになれば少し肘を張ってしまう部分もある。それが今日急に肘を張らなくなったという訳だろうか?

 

 え、なんで急に?

 

「とにかく、よかったよ。あっ、はーい! ごめん、呼ばれちゃったから、また帰ったらね」

 

「あっ、はい」

 

 どうやら、何か取り込み中だったのかもしれない。

 

 俺はそれ以上明美さんと話すことなく、通話を終了した。

 

「……あれが、本当の雪原さん?」

 

 どうやら、明美さんの話によると、今のキャラ変した雪原さんがいつも通りらしい。

 

 いやいや、いつもの雪原なら俺は知ってるぞ?

 

 こんな表情がころころ変わるような女の子じゃないし、もっと目だって冷たいしーー。

 

「春斗くん。ねぇ、まだ?」

 

「ゆ、雪原さん」

 

 俺が振り抜くと、そこにはリビングから可愛らしく顔をひょっこりと覗かせている雪原の姿があった。

 

 俺が突然現れた雪原に驚くと、雪原は俺が早く戻ってこなかったことにいじけるように、小さく頬を膨らませていた。

 

 ……本当にクラスにいる雪原と同一人物なのか?

 

「い、今行く」

 

 俺はそう言うと、雪原の機嫌がこれ以上傾かないように急いでリビングへと戻った。

 

 

 

 そして、先程弁当を食べ終えたばかりの席に戻り、俺は雪原と向かい合っていた。

 

 いや、向かい合った所で一体何を話すのだろうか? 今までだって大した話をした記憶はないし。

 

 俺がそんな事を考えていると、雪原はむくれたように腕を組みながら口を開いた。

 

「……春斗君。ずっと私のこと避けてない?」

 

「いや、避けてたわけではないんだけど」

 

「本当に?」

 

 ずいっと前のめりになりながら見つめられてしまい、俺は思わず視線を逸らしてしまった。

 

 後ろめたさがあるだけではなく、美少女にじっくり見つめられるという状況に慣れていないのだ。

 

 むしろ、可愛い子に見つめられてる男子なんているのだろうか? いるならば、今すぐそいつを殴ってやりたい。

 

「す、少しだけ、避けてたかもしれない」

 

「私、春斗君に何かした?」

 

「いや、そういう訳ではないんだ。急にクラスメイトと同居ってなると、どうしたらいいのか分からなくて」

 

「それは私も同じだし。それなのに、一方的に避けられるのは……結構悲しいんだよ?」

 

 雪原はそう言うと、怒っていた眉をハの字に変えていた。目に見えてしょぼくれる姿を見せられて、俺は少し慌て気味で訂正するように口を開いていた。

 

「それに関しては、申し訳ない。ほ、本当に」

 

 雪原の無表情以外の表情を見るのは初めてだというのに、目の前でその表情がころころと変わっていく。

 

 そんな表情が豊かな雪原を前にして、これが現実の雪原なのかどうかも怪しく思えてきた。

 

……これって本当に現実だよな?

 

「あの、その前に少し話を整理してもいいか?」

 

「なにかな?」

 

「……学校とテンション違い過ぎないか?」

 

 どう切り出したらいいのか分からなかったが、どう切り出しても失礼になる気がしたので、俺はあえてストレートにその話題に触れてみることにした。

 

 すると、雪原は少しだけむすっとした後、こちらから視線を逸らして言葉を続けた。

 

「そりゃ、違うに決まってるじゃん。私、まだ人見知り治ってないし」

 

「人見知り? えっ、クラスでの立ち振る舞いって、あれ人見知りなの?」

 

「それ以外に何があるって言うの?」

 

 いや、それ以外としか言いようがないだろう。

 

 そう言いかけて、俺は言葉を呑み込んだ。

 

 そう言われてみれば、雪原が誰かに対して暴言を吐いたり、きつく当たったりしたという話を聞いたことがない。

 

 ただ反応が薄くて、それを周りが冷たいと感じているだけ。

 

……え、本当にただの人見知りだったのか?

 

「そんなに意外かな? 学校と家族の前だと少しくらい性格変わるよ。そういうものでしょ?」

 

 雪原は当たり前のような口調でそう言うと、ただ俺の目をじっと見つめてきた。

 

「お、俺もそこに入れてもらえるのか?」

 

「当たり前でしょ。だって、兄妹でしょ。私たち」

 

 特に気を遣っている訳でもなく、家族の一人としてカウントしてくれていた。その事実を前に、俺は少なからず喜んでいた。

 

「……あ、ありがとうな」

 

「そう、兄妹なんだよ、私たち。兄妹になったんだよ」

 

「ん? そうだな」

 

 なんだか変なところを強調しているような気がするが、言っていることは何も間違っていない。

 

 俺が小首をかしげていると、そんな俺の反応を見た雪原は少し不満げにむすっとしていた。

 

「だから、春斗君はもっと私を妹として扱うこと!」

 

「いや、妹って……まだ俺雪原さんのことも詳しく知らないし」

 

 俺がそう返答すると、雪原はまた少しだけ分かりやすく膨れたようだった。

 

 な、なんだろうか? 何か悪いこと言ったのか?

 

 だって、実際に話したことなんてないし、ほぼ発絡みが再婚の時の挨拶から始まっているのだ。

 

 いきなり妹として扱えというのは、結構無理難題だと思う。

 

「でも、確かに言っていることは間違ってはいないのか……」

 

 雪原は小声でそんな言葉を漏らしたあと、何かを考えるように小さく唸っていた。

 

 それから、何かを思いついたように小さく声を漏らすと、自信ありげな笑みを浮かべていた。

 

「それじゃあ、部屋の見せ合いをするのはどうかな?」

 

「な、なんでそうなるんだ?」

 

「互いの部屋を見せ合えば、少しは互いのこと分かるかもしれないし!」

 

 この子は突然、何を言っているんだと思うが、言っていることの意味が全く分からないわけではない。

 

 要するに、プライベートな部分をひけらかし合おうというのだ。

 

 話で何が好き嫌いというよりも、好きなものが詰まっている部屋を見せれば、視覚的情報で一気にその情報を得ることができる。

 

 分からないことはない。

 

 でも、そんなことをするのはもう少し互いんことを理解してからでもーー

 

「じゃあ、先攻は春斗君ね!」

 

 しかし、爛々と目を輝かせながらそんなことを言われてしまうと、俺は何も言い返すことができなかった。

 

 それに、この提案に乗れば、俺も雪原の部屋を見ることができるということだよな?

 

 そんな学校で美少女と名高い女の子の部屋に入れるという誘惑に誘われて、俺は押し負ける形で美優の提案に乗ることになったのだった。

 

 

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