義妹は妹キャラとして認めん!という俺に、義妹ができてしまった件。   作:荒井竜馬

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第27話 再会③ 春斗side

そして、時は再び現代に。

 

「いつから気づいてたんだ?」

 

「クラス分けのときには、気づいてたよ」

 

「え、なんで教えてくれなかったんだ?」

 

「だって、私だけ気づいてるって言うのも面白くなかったし。それで、しばらく待ってみたけど、お兄ちゃん全然気づかなくて」

 

 美優はそう言うと、少しむくれるような表情でこちらに視線を向けてきた。

 

『みゅー』と再会していたのに、それに三か月と少しの間気づきもしなかったとなれば、多少は言及したくもなるか。

 

「気づくまで黙っておこうって思ったんだけど……まぁ、結局限界が来まして」

 

「限界? あっ」

 

 そう言われて、美優が急に俺と距離を詰め始めたときのことを思い出した。

 

そういえば、急に『……もう限界』って言われて、妹として扱えって言われた気がする。なるほど、何が限界なのかと思ったが、ようやく繋がった。

 

「いや、でも、七年も前だろ? 普通気づかないって」

 

「普通はそうかもね。でも、私は気づいたよ。……忘れられるわけなかったもん」

 

 美優はそう言うと、昔を懐かしむような笑みを浮かべていた。当時のことを思い出しているのか、少しだけ遠い目をしている。

 

「人見知りの私が過ごした、今までで一番楽しかった一週間だもん。忘れられるわけがないよ」

 

 美優はそう言うと、俺の方にゆっくりと近づきながら、言葉を続けた。

 

「あんな日々をまた過ごしたい。『お兄ちゃんに甘やかされたいって思うのは、変なことかな?』」

 

 いつか俺が美優に理想的な兄妹を目指す理由を聞いた時、美優は確かにそう答えていた。

 

 その事情を知らなかった俺は、その答えを聞いても納得することができなかった。

 

 しかし、今になって少しずつ繋がっていった。

 

美優の言っていた言葉の背景を知ることで、その時の言葉の重さが変わっていく。

 

「やっと、本当の兄妹になれたんだもん。年上の『お兄ちゃん』じゃなくて、兄妹として『お兄ちゃん』って呼べる関係になれたんだから」

 

 美優はそう言うと、人差し指でそっと俺の胸元を小突いてきた。そして、ゆっくりと顔を上げて言葉を続けた。

 

「『義妹は妹として認めん!』なんて言わせないからね」

 

 からかうようで、何かを企むようで、その言葉を全部本気で言っているようで。

 

 じんわりと熱くなった頬の熱と、その熱を帯びた瞳を揺らしながら美優は言葉を続けた。

 

「お兄ちゃんの考える理想の実妹、そんなの軽く超えてあげるんだから」

 

 そして、美優は最後に俺の顔を下から覗き込んだ後、屈託のない笑みを浮かべた。

 

「覚悟してよね、お兄ちゃん」

 

 上目遣いでこちらを見てくる美優の瞳と、その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がったような感覚に陥った。

 

 熱くなった血流が全身を巡っていき、俺は自分の顔を見るまでもなく、真っ赤な顔をしているのが分かった。

 

 実は過去に会っていて、過去に俺のことを『お兄ちゃん』と呼んでいて、ずっと俺のことを覚えていてくれて、理想の妹を目指そうとしている?

 

 なんだよそれ……さすがに、不意うち過ぎるだろ。

 

 ただ妹らしいからとか、美優が可愛いからだけではない心臓の動き。

 

そんな心臓の動きに戸惑いながら、胸の奥にじんわりと広がっていく感触を前に、俺はただされるがままになっていた。

 

『義妹は妹として認めん!』なんてことを言っていた馬鹿なシスコンが感じるにしては、矛盾している心臓の動き。

 

 それをどうやら、俺は認めなければならないらしかった。

 

 

 

 そして、おばあちゃんの家で週末を過ごした翌日。

 

 いつも通り学校がある俺たちは共に学校に登校していた。

 

 美優が昔会ったことのある女の子であることが判明しても、特に俺たちの関係が変わるようなこともなく、いつもと変わらない日々を送っていた。

 

「春斗、これ読んだか?」

 

 俺が席に着くなり、貞治が俺の机までやってきて一つの本を見せびらかしてきた。

 

 表紙からそれがラノベであることは一目瞭然。すごいのは、こいつが白昼堂々とカバーがない状態のラノベを教室で見せびらかしてきた精神だ。

 

「なんだそれ?」

 

「金曜日に出た新刊。なんと、春斗が好きな妹ものだぜ?」

 

「え、まじで?」

 

 その一言で食いついた俺を見た後、貞治はふっと小さく笑ってから言葉を続けた。

 

「まぁ、妹と言っても『義妹』なんだけどな。ごめんごめんって、そう怒るなーーよ?」

 

 俺はそのまま貞治から受け取ったラノベの表紙を眺めた後、裏表紙に書かれてあるあらすじを軽く読んだ。

 

 どうやら、貞治の言う通り完全に血の繋がりはない義妹物らしい。

 

 あらすじを軽く見て、話の流れだけを確認した俺は、無意識下で小さく呟いていた。

 

「……面白そうだな」

 

「ファッ?!」

 

 貞治は俺の言葉を受けて、異常なくらいに驚いて大きな声を出していた。

 

 その声が一気にクラスメイトの注目を集めて、クラスにいた連中が何事かとこちらに視線を向けていた。

 

「え、なんだよ。貞治が勧めてきたんだろ?」

 

「春斗が……春斗が、『義妹』物を面白そうとか言いやがった!!」

 

「おまっ、や、やめろ!!」

 

 なんでこいつは、いちいち大声でそんなことを言うんだ!

 

 まずいまずい、週末にあんなことがあった後に、そんなふうに考えを変えたって思われたら、俺だけ凄い意識してるみたいじゃんかよ!

 

「どうしたんだ! 春斗!! お前が義妹を可愛いだなんて言うなんて!!」

 

「い、言ってない! まだ可愛いなんて言ってないぞ!」

 

 無駄に解釈を広げられて、俺は体が熱を持ったように熱くなっているのが分かった。

 

そして、多分それを傍から見れば、俺が必死に言ったことを隠そうとしているように見ているということも分かった。

 

「大沢氏! それは本当のことですかな?! 我ら少数精鋭の実妹派だったのではなかったのですか!」

 

「気づいたか大沢! そうだよ、時代は義妹だよなぁ!!」

 

 貞治の声によって集まってきた妹好きの宮迫と飯田。教室の中だというのに、二人も異常なくらいに盛り上がって、収拾がつかなくなっていた。

 

 そんな中、ふと向けた視線の先で、美優がこちらに視線を向けているのが分かった。

 

 ふいに目が合った美優は、他の人に見られないように小さく笑みを浮かべると、頬を朱色に染めながら小さく口を開いた。

 

『シ、ス、コ、ン』

 

 嬉しそうに顔を緩めながら、こちらをからかうような表情で美優は口パクをするように、確かにそんなふうに口を動かしていた。

 

 一番バレてはならない人にバレてしまった。

 

誤解ではない気持ちが伝わってしまった恥ずかしさで、俺はただ体温を上げることしかできないでいた。

 

 健気に俺との思い出をずっと大切にしてくれていて、実妹好きの俺のために、実妹を超える義妹を目指そうとする女の子。

 

 そんな背景を知って、否定気味だった義妹のことを可愛いと思ってしまうのは仕方がないだろ!

 

 そう、俺と美優の関係は何も変わっていない。

 

 変わったのは、ただ俺の中での義妹の存在だった。

 

 義妹も可愛いし、妹である。実妹好きの俺の価値観は、最近できた義妹によって簡単に塗り替えられてしまったのだった。

 

 そして、いつか俺の中での義妹が実妹を超える日がやってくるのかもしれない。

 

 それがいつになるのか、それは俺にも美優にも分からない。

 

 それはまだしばらく先のことになるのだろう。それでも、いずれそんな日がやってくるような気がしていた。

 

 だって、こんな短期間のうちに俺の価値観を変えられてしまうくらい、可愛い義妹がすぐ側にいるのだから。

 

 

 

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