義妹は妹キャラとして認めん!という俺に、義妹ができてしまった件。   作:荒井竜馬

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第6話 兄の呼び方について

「兄の呼び方だが、これは複数のパターンが存在する。『お兄ちゃん』、『兄ちゃん』、『お兄』『にいに』、『にぃ』、『あんちゃん』、『兄貴』、『○○くん』など多種多様な呼び名がある」

 

 こうして、何の流れか俺の妹談義が始まっていた。

 

 場所はそのままリビングで向かい合う形。

 

 あれ? これってただ兄妹で雑談をしているだけなのでは?

 

「あれ? 『○○くん』って、いう呼び方もあるんだ」

 

 俺がふとそんなことに気づこうとしていると、俺の熱弁を聞いていた美優がそんな言葉を口にしていた。

 

 そこに気づくとは、さすが理想の兄妹を目指すというだけのことはあるみたいだ。

 

「ああ、これは成長と共に外で『お兄ちゃん』と呼ぶことに抵抗を覚えた妹が使っていたパターンだ。その妹は義妹ではあるが、『お兄ちゃん』との呼び分けが絶妙で、人気の高い妹キャラだ」

 

 義妹というキャラクターで、一番初めに本気で好きになったキャラクターが彼女だった。

 

 思わず義妹だということを忘れてしまいそうになるほど、その立ち振る舞いは洗練された妹のようで、俺は画面越しに気持ちの悪い笑みをげへげへと浮かべていた記憶は懐かしい。

 

「まぁ、最近よく見るのは『お兄』呼びだな。この呼び方には、兄妹としての距離の近さと雑な呼び方で呼べるだけの信頼関係。その二つが混じり合った呼び方だと思うんだ。それに、歳の近い兄妹間で呼ばれる呼び方であると俺は推測してーー」

 

「お兄」

 

「――っ!」

 

 熱が入って語っていたはずの俺の話が、別のベクトルから加わった熱によって溶かされてしまった。

 

 速く大きな音を刻む鼓動の音を確かめながら、俺は確認のために言葉を続けた。

 

「も、もう一度言ってくれないか?」

 

「お兄?」

 

 可愛らしく小首を傾げながら、少しだけ上目遣い。少しだけ不安そうな表情がアクセントになり、妹らしさを際立てるスパイスになっていた。

 

「くぅぅっ!」

 

「……妹大好きだね、お兄ちゃん」

 

 たかが三文字、されど三文字。世の中にこれほど強烈で、人の心を突き動かす言葉があるだろうか、いや、ないね!!

 

「ふぅ、取り乱してしまった。申し訳ない」

 

「ううん、慣れてきたから大丈夫だよ」

 

「な、慣れ……そ、そうか」

 

 兄が取り乱す姿になれる妹というのは、それは理想の兄妹に近づいているのだろうか? 

 

とてもそうには思えない気がしてきたのだが……。

 

「じゃあ、お兄ちゃん的には『お兄』って呼ばれたいの?」

 

「いや、これがそうとは限らない」

 

「え?」

 

 流れからして、『お兄』呼びを推しているような言葉の運びになってしまったが、別にその呼び方に凝っている訳ではないのだ。

 

 むしろ、その逆。凝るがゆえに、凝らなくなるのだ。

 

「十人十色という言葉ある。これは、妹によってそれぞれ個性があるといった意味の言葉であってーー」

 

「絶対違うよね?」

 

「と、とにかく、妹によって呼び方も変わるってことだ。誰かに合わせる必要はないんだよ。それまで歩んできた人生が、その妹の性格が、兄に対する呼び名として現れるんだ!」

 

 そう、妹が出てくるアニメとかをよく観ていると、『あのキャラがこんなふうに読んでくれたらな』と思うと気があったりもする。

 

 しかし、より真剣にその妄想をしようとすると、そのキャラにそんな呼ばれ方はしないだろうと気づくのだ。

 

 つまり、呼び方が魅力的なのかではない。魅力的な妹が呼ぶ呼び名だから、その呼び名が輝くのである。

 

 以上、証明終了。

 

「これまで歩んできた人生……」

 

 俺の妄言のような言葉のどこが刺さったのか、美優は胸に手を置いて感慨深そうにその言葉を受け止めていた。

 

 ……まさか、妹に対する持論がここまで人に刺さることになるとは、思わなかった。

 

「うん。それなら、私は『お兄ちゃん』って呼ぶことにする」

 

「ああ、そうだな。その方がしっくりきてる気がするよ」

 

 そもそもクラスメイトだから、しっくり来てはいけないよう気もするが、そこには触れても意味がない。

 

 

 誕生日が遅ければ妹ということになるらしいしな。

 

 ということは、四月生まれの俺にはクラスで数十人の妹がいたということか。……やったぜ。

 

「そうするね。うん、呼び方は定着しそうだね。後は、妹として理想的になるためにはーーあっ」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 このまま結論が出ようという流れで、美優は何かに気づいたように、ぴくんと肩を跳ねさせた。

 

 何だろうかと思って聞いてみたが、どうやらこちらに教える気はないらしい。

 

 まぁ、感じたことをすべて述べよなんて言わないけどな。

 

「あっ、そうだ。昼飯どうするか」

 

 そういえば、昼ご飯のことを話そうと思って、話し始めたのだった。

 

 目的を思い出したころには、朝ご飯を食べてから時間が経過していたので、ある丁度良かった。

 

「ごめんっ、私今日はお昼いいや。私ちょっと出てくるね!」

 

「え、おう」

 

 そう言うと、美優は何かを思い出したように席を立って、リビングを後にした。

 

 話の流れ的に何か妹関連のことだとは思うのだが、一体今度は何が起こるのだろうか。

 

「……じゃあ、カップ麺でいいか」

 

 一人になった途端、どうでもよくなったので、俺は昼ご飯を簡単に済ませることにした。

 

 いや、別に二人だったらどうってことはないぞ?

 

 ほんとうに、どうってことは……ないんだぞ?

 

 俺はリビングで階段を上がっていく美優の音に耳を済ませながら、一人静かにそんなことを考えていた。

 

 

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