許嫁を名乗る転校生が現れたと思ったら、義妹が彼女代わりになって追い払うなどと言い出した   作:古野ジョン

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第4話 義妹、彼女と名乗る

「お兄ちゃん、どういうことなの!?」

 

 耳をつんざくような絶叫に、教室全体が揺れたような気がした。翼はキッとこちらを見上げ、口を一文字に結んでいる。

 

「ええと……」

「あれ? よく考えたら、史也に妹さんなんかいたっけ?」

 

 俺が困っていると、吉岡は首をかしげて、翼のことをまじまじと見つめていた。

 

「……あなた、何なんですか?」

「だから、私は史也の許嫁ですっ!」

「お兄ちゃんに許嫁なんかいない! 彼女も出来ないくせにそんなのいるわけない!」

「おい」

 

 彼女が出来ないのは事実だけど、今ことさらそれを強調しなくてもいいんじゃないかなあ!?

 

「ねえお兄ちゃん、説明してよ!」

「その……俺も知らないんだよ。コイツが勝手に言い張ってるだけだ」

「ひっどー! でもそういうところも好きっ!」

「や、やめろっ!」

 

 ぎゅっと力強く抱きしめられて、思わず振り払いそうになる。あーあ、またクラス中に恥を――

 

「お兄ちゃんが嫌がってるでしょ!!」

「きゃっ!?」

「うおっ!?」

 

 いでっ!? 翼に思い切り腕を引っ張られて、強引に吉岡と離されてしまう。

 

「いい加減にしてよ! うちのお兄ちゃんに変なことしないで!」

 

 翼は吉岡を見上げるようにして、毅然と言い放った。相手が年上、しかも身長差がそこそこあるのに、兄のために声を張れるとは。自分の妹が、自分の想像よりも……ずっと大人であることを理解した。

 

「お兄ちゃん、大丈夫? 怪我してない?」

「いや、平気だよ。悪いな」

「ううん、いいの。お兄ちゃんを守るのが、私の務めだから」

 

 こちらに振り向き、照れ臭そうにそっぽを向く翼。俺たちは実の兄妹じゃない。だけどそんなことは些細な問題に過ぎず、むしろ世の中の兄妹よりもよほど絆が強いとすら感じる。

 

「えっと……」

 

 流石に圧倒されたようで、吉岡は何も言えずにいた。さっきから気圧されてばかりだったから、こんな表情をしているのは初めて見るな。仕方がないから、説明するとするか。

 

「コイツは俺の妹、鷹野翼だ。きのう入学したばかりの一年生だ」

「そ、そうなんだ……」

 

 吉岡は戸惑いを見せたあと、ふうと息を吐いた。翼の方を向き、深々と頭を下げる。

 

「ごめんなさい、申し遅れました。吉岡ひばりと言います。今日から転校してきました」

「別に、自己紹介なんかいいから。さっきの話を説明して」

 

 翼は端的に話し続ける。完全に自分のペースを掴んでいるな。吉岡にされるがままだった自分が情けない。

 

「んーと……私、史也の幼馴染なんです」

「幼馴染?」

「ずーっと昔は一緒だったんですよ? 史也は覚えてないって言うんですけど」

「……」

「それで、史也が『結婚しよう』って言ってくれたんですよ? だからっ、追いかけて転校してきちゃったんですっ!」

 

 段々調子を取り戻してきた吉岡に対し、翼は何かを考えるようにして、拳を口に当てて黙り込んでしまった。「えーっ」とか「そうなの?」とか、そういう反応をするのかと思っていたが……何を思っているんだろう。

 

「翼?」

「お兄ちゃんと昔から一緒だけど、私もあなたのことを知らない。本当に幼馴染なの?」

「お、おい」

「だいたい子どもの頃の約束でしょ? それで転校するとか、意味わかんないんだけど」

 

 まあ、たしかに……ごもっともではある。仮に昔の俺が結婚の約束をしていたとして、それを本気にして転校してくるなど簡単に出来ることではない。

 

「そっかあ。なるほどね」

「……何?」

 

 黙って話を聞いていた吉岡が、静かに口を開いた。微かな笑みを浮かべて翼と相対し、ポケットをごそごそと漁っている。

 

「さっき史也には見せたんですけど、あなたにも見せてあげますっ!」

「見せるって、何? 指輪でもあるの?」

「それは流石にねえ」

 

 指輪まで見せられたら俺だって納得してたんだがな。なんて思っているうち、吉岡が例の写真を取り出した。

 

「……写真?」

「そうですっ! ここに写っているの、誰だか分かりますか?」

「えっと……」

 

 翼は目を凝らし、写真をじっと見つめていた。最初は表情を変えずにいたが――徐々に目を見開き、後ずさりし始める。

 

「嘘、これって……」

「はいっ! 私と史也が二人で撮ってもらったものですっ!」

「……お兄ちゃんっ!」

「!?」

 

 次の瞬間、翼は素早く俺の後ろに下がり――腰にしっかりと抱き着いてきた。衝撃で俺まで転びそうになる。

 

「ちょっ、翼!?」

「あんたなんて絶対に認めない。その写真、二度とお兄ちゃんに見せるな!」

「えっ、どうしたんですか? これ、私と史也の――」

「黙れ! お兄ちゃんのことは絶対に渡さない! 許嫁なんて私が許さないっ!」

「翼、どうしたんだよ!?」

 

 今まで見たことないくらい声を荒げ、敵対心を剥きだしにするようにふるまう翼。痛いくらいに腰を抱きしめてきてくる。こっ……こんな翼、初めて見たぞ。

 

「お兄ちゃん、絶対にコイツに近づかないで! 結婚なんか言語道断だから!」

「結婚するなんて一言も言ってねえよ!」

「えーっ、結婚してくれないの?」

「うるさい! 誰があんたなんかにお兄ちゃんを……!」

 

 翼は息を切らすように、必死に声を張り上げていた。クラスメイトたちもなんの騒ぎかと集まってくる。

 

「あの、翼さん?」

「なに!?」

「その……どうして結婚しちゃだめなんですか?」

「えっ?」

「私と史也は婚約していただけなんです。それの何が悪いことなんですか?」

「そっ! それは……」

 

 急に口ごもる翼。たしかに、なぜここまで翼が必死になるのかは気になる。急に言われて驚いているのは事実だけど……俺だって、ここまで吉岡のことを拒絶しているわけじゃない。

 

「理由が知りたいんです。私に直せることなら、なおさら」

「えーと、その……」

「翼、本当にどうしたんだよ? お前らしくない」

「お、お兄ちゃん……!」

 

 何かを訴えかけるように、さらに俺のことを強く抱きしめる翼。本当に今日は分からないことだらけだ。けど……ここまで翼が取り乱すなんて余程のことなんだろう。

 

「~~~もうっ! お兄ちゃんのわからずやッ!」

「えっ、俺!?」

 

 なんで!? ……などと驚いていると、翼が唐突に俺の体から離れ、再び吉岡の前に立った。

 

「よく聞いて! あんたが、お兄ちゃんと結婚しちゃいけないのは……!」

 

 翼は精いっぱい背伸びをして、胸を張った。そして自らの手を胸に当てて、堂々と――とんでもないことを言ってのける。

 

「私がっ、お兄ちゃんの彼女だからなのっ!!」

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