古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜 作:大塚セツナ
「これが、人間と魚の境目か……」
「なんでいちいちマッドサイエンティストみたいな言い方してるのよ……」
アリシアの強引さに諦めがついた俺は、恐る恐る波打ち際まで辿り着いた。
「さぁ、早くこっちへいらっしゃい? カナヅチくん」
「ルーネ――し、師匠。む、無理はしないでください……」
「ブラザー! 気合いだ! 気合があればどうにかなるぞ!」
ニヤニヤと意地悪く笑うアリシア。
特訓をつけるようになってから師匠呼びにランクアップしたイリーナ。
知らない間にブラザー呼びにランクアップしていた園芸部部長のトリングス先輩。
三者三様の反応を見せ、俺のことを手招きしている。
…………仕方あるまい、
「おっ、ようやく観念し――って、はぁぁぁぁ!?」
「う、海の上を……!?」
「歩いているだとっ!?」
3人の言う通り、俺は水の中に入ることなく、水面を歩いている。
「ど、どうなってるんですか?」
「魔力を体表に纏わせる
「お、応用……ですか?」
「自然界に魔力が溢れていることは知っているな?」
「そんなの常識じゃない」
モンスターや人間はもちろん、木々や地面、大気、そして水の中にも……微弱ながら魔力は含まれている。
「自然物に含まれている魔力にも、属性があるんだ」
「え? そんなの聞いたことないんだけど」
「わ、私も聞いたことないです……!」
まあ、今の時代の魔法理解ではそうだよな……。
「例えば火山地帯では火属性、大地には土属性、そして海では……」
「水属性だな!!」
「トリングス先輩、100点だ」
フンーッ! と鼻で息を鳴らしながらポージングを決めるトリングス先輩。
……本当に好きなんだな、これ。
「まあ微弱なものがほとんどではあるが、その付近で属性魔法を使うと、魔力消費が軽減されたり、魔法の威力が上がるんだ」
「ぜ、全然知らなかったわ……」
「まあ、アリシアの場合、火山や火事現場で使わないと実感は湧かないだろうな」
そんなところで火属性魔法なんて使ったら大変なことになるが。
「さて、ここからが本題だ。対となる属性を与えるとどうなると思う?」
「み、水の対になるってことは火ですよね……」
「有利属性の魔法が優先されるんじゃないの?」
「気合いがある方が勝つんじゃないか!?」
それぞれ頭を抱えて悩んでいるが……正解者はいないようだな。
「まあアリシアのもトリングス先輩のも間違いではない。だが、正確に言うならば『魔力濃度の強い方が勝つ』だな」
「魔力濃度?」
「簡単に言うと、一つの魔法の中に込められた魔力の密度だな」
まあ、実演した方が早いか。
「人のいない方向は……。アリシア、あっちに向かって
「いきなりね……まあいいけど」
そう言いながら、魔力を集中させたアリシアは魔法を放つ。
「――
人一人を飲み込むほどのサイズの炎球が放たれる。
特訓を受けてから強化されたアリシアの魔法は、模擬戦の時と比べて精度も魔力も上がっている。見事なものだな。
感慨深さを感じながらも、アリシアの出した炎球に狙いを定めて俺も魔法を放つ。
「――
指先から放たれた小さな水の玉は、狙い通りに炎球に衝突する。
「えっ!? ま、魔法が……!」
「ぬぉぉ!! 跳ね返ったぁぁ!?」
衝突した炎球と水球は、ボールのように跳ね返り、それぞれが軌道を変えて沖のほうまで飛んでいき、海の中へと突っ込んでいく。
「きゃぁ!?」
「おおっ! まるで噴水だなっ!!」
水中で爆発したそれぞれの魔法は、2つの水柱となり、時間差で周りに雨のように降り注いだ。
「と、このように。水属性と火属性、相反する属性同士の魔法を均等な力でぶつけると、お互いを弾くという応用を効かせることもできるんだ」
「な、なるほど……って、やるなら最初に言ってくださいよっ! び、ビックリしたじゃないですか!」
「そ、それは見せた方が早いと思ってだな……」
ちゃんと事前に人がいないか確認していたし、反射する角度も考えていて安全性は確保していたんだがな……。
「ま、まあ、この法則を使えば、魔鎧に火属性を付与して、こうやって水の上に立つこともできるというわけだよ」
「なるほど……それって、アタシにもできるのかしら?」
たしかに、得意属性が火であるアリシアならば習得できなくはないと思うが……。
「これは、対象となる魔力と誤差なく均一な魔力を維持しなければならないから、習得難易度はかなり高いぞ?」
「えぇ……そんな楽勝そうにやってるのに……」
「同じ水といっても、波の影響や天候などで微妙に魔力のブレがあるから、それを常に把握しながら操作する必要がある……例えるなら、風が吹き荒れる中で砂粒を一つ一つ縦に積んでいくような集中力が必要だな」
「そ、そんな神ワザなんですかぁ……」
まあ、慣れれば半分無意識でもできるんだがな。
俺たちが軽い講座を開いていると、周りが少し騒がしくなり始めた。
「ん? なんだか向こうが騒がしく――」
「きゃぁぁぁぁぁ!!?」
「く、クラーケンが出たぞぉぉぉ!!!」
悲鳴が上がった方向に目をやると、長い8本の触手を持った、身の丈5メートルほどはありそうなタコ型モンスター――クラーケンが生徒たちを襲っていた。
「な、なんでこんなところにクラーケンがいるんだよ!?」
「普段はこんな浅瀬まで来ないってのに……誰かが魔法でクラーケンの縄張りに向かって魔法でも打ったのか!?」
ほう、どこの誰だ、そんなバカなことをする、の……は……。
「も、も、もしかしてアレって……」
「ア、アタシとルーネスの打った魔法のせい……」
「ハッハッハッ! これは大ピンチだな!」
……仕方あるまい、自分の招いた事態だ。
「さて、後始末といくか」