古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜 作:大塚セツナ
「――
「――ミケよ」
「ガウっ!!」
あれから、ホテルがあるであろう方角を目指して進んでいる。
道中さまざまなモンスターが襲いかかってくるが……さすがのメンバーだ、危なげもなく排除できている。
「ふぅ……そ、それにしても、結構多いですね……モンスター」
「ま、アタシたちの手にかかれば、どいつもこいつも雑魚ばっかりだけどね!」
まったく緊張感のない様子だが、仕方あるまい。
前衛でレオナ先輩とミケ。
後衛アタッカーに火力のアリシアに、サポーターに
そこに俺とリルが隙を埋める編成……。
クラーケンの時のような苦戦するような強敵も出てこない現状、気が抜けるのも仕方あるまい。
「大物の一体くらい出てこないかしら」
「まあそう言うな、せっかくの旅行も兼ねてるんだ。楽にいけるならそれでいいさ」
合宿中は、とりあえず特訓も休みにしている。
毎日やればいいというものでもない……あの時代ならともかく、今は平和な時代だ。
こういうメリハリも大事だろう。
「……ん?」
小休憩をしていると、少し大きな魔力を感じる。
こっちに向かってきているな……。
「皆、構えろ。どうやら、アリシアがフラグを回収してしまったらしいぞ」
「え? アタシ?」
アリシアが頭にハテナを浮かべている間に、魔力の主はその姿を表した。
「グォォォォォォォォ!!!」
「ブレードグリズリー……!」
「ま、また上位獣ですかー!?」
巨大な熊のモンスター……その両腕の甲からは鋭利な骨が飛び出ており、まるで二本の剣のようになっている。
「昼間のクラーケンよりは、手応えがありそうな奴がきたな」
「ク、クラーケンよりも強いですか!?」
「マグナ教諭め……学生相手に、少しやりすぎじゃないか?」
他の学生たちでは厳しい……どころか、アリシアやイリーナでも、まだ苦戦する相手だな。
まだホテルまでの道のりは遠い、皆の体力は温存させておいてやりたいところだ。
「ここは俺が――」
「――ちょっと待てぇぇぇぇい!!」
俺1人で戦ってしまおうと思い、皆を下がらせようとした時。
叫び声と共に、黒い影が草むらから飛び出す。
「そいつの相手はこの俺様だぁぁぁぁ!!」
現れたのは――
「……誰?」
「うちの制服じゃないわね」
「ふ、不審者さんですか……!?」
皆がそういうのも無理はない。
現れた男は、アーバロル魔導学院の制服を着ていないどころか、ボロボロの薄汚れた布切れを纏っているだけであり、顔も包帯でぐるぐる巻きになっている。
手には何やら禍々しさを感じる黒い剣まで……。
紛うことなき不審者である。
「全ての剣士は俺様の修行相手だ! そいつは渡してもらうぜ!」
そう言い、黒い剣をブレードグリズリーへと向ける男。
「ア、アレは剣士ってより熊感の方が強い気が……」
「ま、いいんじゃない?」
「面倒な相手を変わってもらえるのだ。好きにやらせてやるがよい」
急な乱入者に驚いたものの、どうしてもグリズリーを倒さないといけない、という理由もない……と、皆の意見は一致しているようだ。
まあ、このまま無視して進むというのも無作法というもの、見届けるだけ見届けてみるか。
「俺様の名はセンリ! 全ての剣士を倒し、最強と呼ばれる予定の男だぜ!」
そう叫び、構えをとる男――センリ。
大それた目標を掲げる不審者ではあるが、構えは正当……なかなか様になっているな。
急な乱入者に警戒心を露わにしているブレードグリズリーとセンリが睨み合い――いやまあ、包帯でぐるぐる巻きの顔で前が見えているのかは怪しいが――互いの隙を窺うように対峙する。
「……な、中々始まりませんね」
「……いや、戦いは始まっておる」
「レ、レオナ先輩? ど、どういうことですか……」
「一流の剣士とは、動き出す前より、互いの殺気により牽制が始まっておるのだ……」
「そ、そうなんですね!」
レオナ先輩が、鋭い眼差しで見つめているが……あれは牽制しあっているというより――
「――おい! 俺様が名乗ってるんだ、お前も剣士なら名乗るもんだろ!?」
「……ガウ?」
「ガウじゃねーよ! 剣士同士の礼儀だろ!」
「こいつは何を言ってるのだ?」と言わんばかりに首を傾げるグリズリー。
やはり、ただ止まっていただけだったか。
考察が外れたなレオナ先輩……少し恥ずかしい展開だが、あの無表情がどう変化するのか……。
「……ふむ。そうであったか」
まさかの、この状況下でも無表情を貫き通している。
なんという鋼のメンタルだ……。
「……ケッ! 名乗んねえって言うなら仕方がねえ! 倒してから聞いてやるよ!」
とうとう痺れを切らしたセンリがグリズリーへと飛びかかる。
「ガヴ!!」
センリが動き出したことで、困惑していたグリズリーも臨戦態勢へと移行し、右腕から生えた剣を振りかぶる。
「いくぜっ! 『グラン』ッ!!」
――ガギンッ
かん高い音が鳴り響く。
「え、え? セ、センリさんはどこに……!?」
「あ、あそこよ! いつの間に!?」
気付くと、センリはいつの間にやら、グリズリーの遥か後方に立っていた。
(速いな……『今』の俺の肉体では、魔力でサポートしないと見えなかったぞ……)
転生してから鍛え直してはいるが、肉体自体は現代で生きていた『ルーネス・キャネット』がベースだ。
未だに、千年前の全盛期とまではいかない。
魔力で強化することによって肉体をサポートしてはいるが……今の剣技は、目で追うのがやっとだった。
「グ、グォォ――ガフッ」
固まっていたグリズリーが、白目を剥き、その場へと崩れ落ちる。
よく見ると、両手の剣は粉々に割れている……その割れ口は、斬られたというよりも、『砕かれた』といった痕だった。
「あ、あのブレードグリズリーを一撃……ですって?」
「正しくいうと……六撃だな」
「い、今の一瞬で6回も斬ったって言うんですか!?」
いや、斬ったというかアレは――
『――フザケるなぁぉぁぁ!!! !』
俺たちがセンリの剣技に驚いてると、どこからともなく怒鳴り声が響いた。
「きゃっ!? だ、誰ですか!?」
「また誰か来たって言うの!?」
「いや……あの者から聞こえたように思えるぞ」
レオナ先輩の鋭い眼差しが、センリを――いや、センリの持つ黒い剣を見つめる。
アリシアとイリーナも釣られて剣を見ると、剣がワナワナと震えていた。
すると、剣の
『我輩を……鈍器として扱うではなぁぁぁぁぁい!!!』
赤い眼球が爛々と光を発し、剣から怒声が発せられる。
「け、剣が……」
「しゃ、喋りましたぁぁぁぁぁぁ!!?」