古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜 作:大塚セツナ
「おーい! そっちはどうだー?」
「あ、し、師匠! た、大変ですよ!」
帰り道で魔石を回収しつつ、合流地点であるホテル前に到着すると、なにやらイリーナが慌てた様子で駆け寄ってくる。
なんだ? よく見ると周りもザワザワしているし……
「ふむ……そろそろ全員集合したようだね? 生徒諸君! 注目っ!」
大声に目を向けると、マグナ教諭が台の上に立ち生徒を集めていた。
マグナ教諭も、いつもの教師のオンモードとも少し違い、真面目な顔をしている。
「ねぇイリーナ、一体どうしたっていうのよ?」
「そ、それがですね……」
『えー、アーバロル魔導学院の生徒諸君。こんばんは』
イリーナの説明を遮り、拡声魔道具による声が響く。
見ると、先ほどマグナ教諭が立っていた台の上に杖をついた小柄な老人が登壇していた。
『まずは自己紹介から……ワシはこの国、アレイセス王国で宰相を務めているラディールじゃ』
王国の宰相……?
なんだってそんな大物がこんな場所へ?
『なぜワシがここに……そう不思議に思うものも多かろう……おい』
宰相――ラディールが目配せすると、ローブに身を包んだ、いやに細身な、糸目の男が登壇する。
『この者はパイス……ワシの護衛兼、歴史調査や生物学などで、数多の功績をもつ学者でもある男じゃ』
護衛兼学者……? 変わった兼任だな。
『先日、アーバロルで起こった連続失踪事件……そして、謎の爆破事故のことは、君たちが1番知っておるだろう』
フィルゼたちの事件か……あの事件なら秘匿されたはずだが……。
『我々王国も調査に入ったのだが……パイスの報告によると、どうやら《魔人》の現れた痕跡が残っていたようじゃ』
「ま、まじん?」
「なんだそれ? 事故じゃなかったのか?」
周りの生徒たちがザワザワと声をあげ始める。
驚いたな……まさか、国が魔人の存在を認めるとは。
この時代において魔人は異物、てっきり秘密裏に処理すると思っていた。
ザワつきが大きくなり始めたところで、ラディールがパイスへと拡声魔道具を手渡す。
『えー、皆さん改めまして、自分はパイスという者であります。まずは、皆さんが真っ先に思い浮かんだであろう、魔人とはなにか、から答えさせていただくであります』
ニコニコと人当たりの良さそうな笑みで魔人についての説明を始めるパイス。
『魔人とは、はるか昔に地上から姿を消したと言われる《悪魔》と人間が契約することで、更なる進化を与えられた存在のことであります』
半分正解、というべきだな。
契約した魔人が新たに人間と契約することでも魔人は増える。
だが、悪魔がいなくなったこの世界で、ここまで正確に魔人についての知識があるとは、少し意外だ。
「な、なぜ悪魔が姿を消したはずなのに、魔人が現れたんですか……?」
『お、そこの君、いい質問でありますねぇ』
生徒の1人が質問をする。
『ここからが本題です。実は……学院内に悪魔がいる可能性があるのであります』
「えぇっ!?」
「そ、そんなやつが学院に……?」
生徒たちのザワつきが一層強くなる。
……どういうわけだ?
確証もない中で、あんなことを言えば騒ぎを大きくするだけ……まさか、王国は悪魔の目星がついているのか?
『皆さん、違和感のある人間はいませんか? 例えば……今まで弱かった人間が、急激に強くなった、なんてことが』
「弱かったやつ……」
「そういえば、無名のブラック生徒のやつがゴブリンキングを倒したとか……」
周りの人間が、チラホラと俺の方を見始める。
これは……少しマズいかもな。
『おやおや、なにやら心当たりのある生徒が多いようでありますねぇ?』
「なに見てるのよ! ルーネスが悪魔なわけないでしょ!」
「そ、そうですよ! むしろ師匠は魔人を――」
『皆さん! 危険ですのでお下がりください! 悪魔の近くにいると魔人にさせられてしまうでありますよ!』
アリシアとイリーナの声を遮るように、パイスが叫ぶ。
近くにいた生徒たちは、ヒィッ、と悲鳴をあげ急いで俺から距離をとり始める。
『ラディール様、拡声魔道具をどうぞ』
「うむ」
生徒たちの喧騒をよそに、パイスがラディールへと拡声魔道具を手渡す。
『アレイセス王国宰相の名において命じる! その悪魔を取り押さえるのじゃぁ!』
「はっ!」
号令とともに、人の群れを掻き分けるように何人かの兵士と生徒が俺を取り囲むように現れる。
「ジーナス副会長……お前もそっち側か」
「黙りなさい、この悪魔め」
よく見ると、取り囲む兵士に紛れてジーナスも俺に剣を向けていた。
何人かいた生徒も、昨日ジーナスに紹介されたローブの者たちか。
「まさか、私の学院に悪魔が紛れているとは……なんとも嘆かわしいことですねぇ?」
「…………」
「それでは、大人しく捕縛されてくれますね、キャネットくん?」
……捕まるのも癪だが。ここで暴れては、無関係の生徒まで巻き込んでしまうかもしれないな。
「ルーネス!」
「師匠っ!」
「アリシア、イリーナ。落ち着け」
「これが落ち着いていられるわけ――」
「――いいから、落ち着くんだ」
再度呼びかけることで、一度落ち着いてくれたアリシア。
「なーに、話せば分かってくれるはずだ。ここは大人しく投降した方が、心象は良くなるさ」
「でも……」
「俺が留守の間も、特訓は忘れるなよ? イリーナ、アリシアが暴れそうになったら抑えてあげてくれ」
「……わかり、ました」
イリーナがいれば、アリシアも変に暴れたりしないだろう。
「さて、感動のお別れは終わりましたか?」
「ああ、ありがとう」
「では……捕えよ!」
俺が両腕を差し出すと、兵士がロープでぐるぐる巻きに縛りつける。
『ふぉふぉふぉ……さて、悪魔よ。おヌシのことは存分に研究させてもらうぞい?』
壇上にいるラディールとパイスが、怪しく笑みを浮かべる。
さて、俺は一体どうなってしまうことやら。