古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜   作:大塚セツナ

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第52話 牢獄での再会

「さっさと入れっ! この悪魔め!」

 

 

 甲冑を着た騎士……おそらく看守に誘導され入れられたのは、狭っ苦しい石畳の牢屋だった。

 石でできたベッドに、部屋の隅にはバケツ……あれで用を足せっていうのか。

 

 

「おらっ! ここに入ったからにはテメェは囚人だ。看守様には逆らうんじゃねぇぞ?」

 

「ああ、もちろんだ。俺は善良な市民だからな」

 

「ケッ! 悪魔が人間のフリしてんじゃねーよ!」

 

 

 痰を吐き捨て、看守は踵を返し、廊下の奥へと消えていく。

 

 

 

 俺が捕縛されてから半日ほど経った。

 あれから馬車に乗せられ移動し、気付けば王都エクサスへと戻り、牢獄へと入れられていた。

 

 

 

「さて、どうしたものか……」

 

 

 あのフィルゼの事件のことは、アーバロルの教師陣は把握している。俺が魔人を討伐したことは報告であがっているはずだ。

 

おそらく、これは誰かが俺をハメたのだろう。

 

 だが誰が、どんな目的で俺を投獄したのかまでは検討がつかない。

 それが分かるまでは大人しくしていた方が、騒ぎが広がることもないだろう。

 

 

「リル、いるか」

 

『――ハッ、ここに』

 

 

 俺の影がグニャリと歪み、そこからリルが這い上がる。

 

 リルの魔法の一つ、『影の護衛者(シャドウ・ガーディアン)』だ。

 俺が捕縛される時に耳打ちし、影の中に潜んでもらっていたのだ。

 

 

「おそらく、王国内に俺をハメたやつがいる。調査をしてこい」

 

『そのまま始末いたしますか?』

 

「いや、今は様子を見るだけでいい」

 

『かしこまりした。では……』

 

 

 そう言い残し、リルは再び影の中に潜りむ。

 影は鉄柵などまるで関係ないように牢から飛び出していき、どこかへと去っていった。

 

 

「さて……俺は成果が上がるまで一休みするとするか」

 

「おいおい、随分と不真面目な囚人がいるじゃないかぁ?」

 

 

 俺がベッドに寝転がると、どこからともなく声がする。

 立ち上がり周りを見渡すと、声の主は向かい側の牢屋の中にいた。

 

 

「いや……囚人なんだから、怪しいことをするのがそれらしいか?」

 

「その声……お前は――」

 

「やぁ、思ったよりも早い再会だね――ルーネス・キャネットくん?」

 

「フィルゼ――!!」

 

 

 

 向かいの牢屋の住人、それは魔人化した貴族であり、現代での因縁の相手……フィルゼ・バッシュロックだった。

 

 

 

「久しぶりだな……少しやつれたか?」

 

「ふふふ、貴族たる私がこんな場所に入れられたんだ……ストレスで痩せもするさ」

 

 

 半月ほど前までの、サッパリとした金髪にや小綺麗な身なり、ホワイトの制服の見る影もなく、ボサボサになった髪、少し無精髭も伸び、ボロボロの布切れのような服に身を包んでいる。

 

 だが、それでいて、どこか憑き物が取れたような顔に見える。

 俺に対する憎悪も見えず、むしろ、制服を着てきた時よりも普通の男子学生に見える。

 

 

「……あれから、身体はどうだ?」

 

「……見ての通り、あの頃の私の見る影もないさ」

 

「濁すなよ。魔人化の後遺症だ」

 

「……まあ、ぼちぼちだね」

 

「……そうか」

 

 

 気まずい沈黙が流れる。

 

 元々、いじめっ子といじめられっ子の関係性。

 

 一方的ながらも、敵意という、ある種わかりやすいコミュニケーション手段が無くなったことで、話す内容が見つからない。

 

 お互いにどう接するのが正解かわからない状態が続く。

 

 

「君は……どうしてここへ?」

 

 

 沈黙を破り、フィルゼが尋ねる。

 

 

「ああ……実は、悪魔だと思われてな」

 

「……ん? どういうことだい?」

 

 

 まあ、一言で言っても伝わるわけないか。

 

 

 

 

 

 フィルゼに一通り、何があったかを話した。

 すると、なにやら考え事をするように口元に指を添え、俯く。

 

 

「ふむ……」

 

「どうした?」

 

「いや……私を魔人化させた男について思い出してね」

 

「なに……?」

 

 

 フィルゼを魔人化させた人物だと?

 これは、意外と真相に大きく近づけるチャンスが到来したか。

 

 

「どんなやつだった?」

 

「……ローブ姿で顔はよくわからなかった。だが、どこかで聞き覚えがある声だったな」

 

「本当か! どこでだ?」

 

「付き合いが広いからハッキリとは思い出せないが……学院のどこかで聞いたような気がするな」

 

 

 学生の中に魔人化の犯人がいるのか……。

 ラディールやパイスの推理は、完全に外れていたわけでもないのか……いや、やつらは何かを知っているのか?

 

 

「ふむ……真相に近づいた気もするが、謎が深まるばかり、か……」

 

「あいにく、私も魔人化した前後の記憶は曖昧な部分もあってねぇ」

 

「いや、気にするな。その情報だけでもとてもありがたいぞ」

 

 

 手がかりが一つもない状態から、いきなりヒントが手に入るとは幸先がいい。

 フィルゼと同じ監獄に入れられたと分かった時は驚いたが、思わぬ収穫だったな。

 

 

「そうかい……まあいい、君もさっさと寝て体力を温存した方がいいぞ」

 

「体力を温存……? 刑務作業でもあるのか?」

 

「……いいや、悪魔や魔人に関係する人間には、そんな『優しい処遇』は与えられないよ」

 

 

 刑務作業が優しい……?

 

 どういうことか尋ねようと、考え事をして俯いていた顔を挙げると――フィルゼの手が震えていた。

 

 

「フィルゼ……?」

 

「あ、ああ……思い出すだけでも恐ろしい……『アレ』はもうイヤだ……」

 

「お、おい。アレって一体……?」

 

「わ、悪いが、私はもう疲れた。ひと足先に休ませてもらうよ!」

 

 

 そう言い残し、フィルゼは背を向け、硬そうな石のベッドに寝転がってしまった。

 

 

(色々と聞きたいことはあるが……今のフィルゼに話す気力はないだろうな)

 

 

 リルの調査も始まったばかり。

 やることがない俺も、さっさと眠るとしよう。

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