古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜 作:大塚セツナ
「さっさと入れっ! この悪魔め!」
甲冑を着た騎士……おそらく看守に誘導され入れられたのは、狭っ苦しい石畳の牢屋だった。
石でできたベッドに、部屋の隅にはバケツ……あれで用を足せっていうのか。
「おらっ! ここに入ったからにはテメェは囚人だ。看守様には逆らうんじゃねぇぞ?」
「ああ、もちろんだ。俺は善良な市民だからな」
「ケッ! 悪魔が人間のフリしてんじゃねーよ!」
痰を吐き捨て、看守は踵を返し、廊下の奥へと消えていく。
俺が捕縛されてから半日ほど経った。
あれから馬車に乗せられ移動し、気付けば王都エクサスへと戻り、牢獄へと入れられていた。
「さて、どうしたものか……」
あのフィルゼの事件のことは、アーバロルの教師陣は把握している。俺が魔人を討伐したことは報告であがっているはずだ。
おそらく、これは誰かが俺をハメたのだろう。
だが誰が、どんな目的で俺を投獄したのかまでは検討がつかない。
それが分かるまでは大人しくしていた方が、騒ぎが広がることもないだろう。
「リル、いるか」
『――ハッ、ここに』
俺の影がグニャリと歪み、そこからリルが這い上がる。
リルの魔法の一つ、『
俺が捕縛される時に耳打ちし、影の中に潜んでもらっていたのだ。
「おそらく、王国内に俺をハメたやつがいる。調査をしてこい」
『そのまま始末いたしますか?』
「いや、今は様子を見るだけでいい」
『かしこまりした。では……』
そう言い残し、リルは再び影の中に潜りむ。
影は鉄柵などまるで関係ないように牢から飛び出していき、どこかへと去っていった。
「さて……俺は成果が上がるまで一休みするとするか」
「おいおい、随分と不真面目な囚人がいるじゃないかぁ?」
俺がベッドに寝転がると、どこからともなく声がする。
立ち上がり周りを見渡すと、声の主は向かい側の牢屋の中にいた。
「いや……囚人なんだから、怪しいことをするのがそれらしいか?」
「その声……お前は――」
「やぁ、思ったよりも早い再会だね――ルーネス・キャネットくん?」
「フィルゼ――!!」
向かいの牢屋の住人、それは魔人化した貴族であり、現代での因縁の相手……フィルゼ・バッシュロックだった。
「久しぶりだな……少しやつれたか?」
「ふふふ、貴族たる私がこんな場所に入れられたんだ……ストレスで痩せもするさ」
半月ほど前までの、サッパリとした金髪にや小綺麗な身なり、ホワイトの制服の見る影もなく、ボサボサになった髪、少し無精髭も伸び、ボロボロの布切れのような服に身を包んでいる。
だが、それでいて、どこか憑き物が取れたような顔に見える。
俺に対する憎悪も見えず、むしろ、制服を着てきた時よりも普通の男子学生に見える。
「……あれから、身体はどうだ?」
「……見ての通り、あの頃の私の見る影もないさ」
「濁すなよ。魔人化の後遺症だ」
「……まあ、ぼちぼちだね」
「……そうか」
気まずい沈黙が流れる。
元々、いじめっ子といじめられっ子の関係性。
一方的ながらも、敵意という、ある種わかりやすいコミュニケーション手段が無くなったことで、話す内容が見つからない。
お互いにどう接するのが正解かわからない状態が続く。
「君は……どうしてここへ?」
沈黙を破り、フィルゼが尋ねる。
「ああ……実は、悪魔だと思われてな」
「……ん? どういうことだい?」
まあ、一言で言っても伝わるわけないか。
フィルゼに一通り、何があったかを話した。
すると、なにやら考え事をするように口元に指を添え、俯く。
「ふむ……」
「どうした?」
「いや……私を魔人化させた男について思い出してね」
「なに……?」
フィルゼを魔人化させた人物だと?
これは、意外と真相に大きく近づけるチャンスが到来したか。
「どんなやつだった?」
「……ローブ姿で顔はよくわからなかった。だが、どこかで聞き覚えがある声だったな」
「本当か! どこでだ?」
「付き合いが広いからハッキリとは思い出せないが……学院のどこかで聞いたような気がするな」
学生の中に魔人化の犯人がいるのか……。
ラディールやパイスの推理は、完全に外れていたわけでもないのか……いや、やつらは何かを知っているのか?
「ふむ……真相に近づいた気もするが、謎が深まるばかり、か……」
「あいにく、私も魔人化した前後の記憶は曖昧な部分もあってねぇ」
「いや、気にするな。その情報だけでもとてもありがたいぞ」
手がかりが一つもない状態から、いきなりヒントが手に入るとは幸先がいい。
フィルゼと同じ監獄に入れられたと分かった時は驚いたが、思わぬ収穫だったな。
「そうかい……まあいい、君もさっさと寝て体力を温存した方がいいぞ」
「体力を温存……? 刑務作業でもあるのか?」
「……いいや、悪魔や魔人に関係する人間には、そんな『優しい処遇』は与えられないよ」
刑務作業が優しい……?
どういうことか尋ねようと、考え事をして俯いていた顔を挙げると――フィルゼの手が震えていた。
「フィルゼ……?」
「あ、ああ……思い出すだけでも恐ろしい……『アレ』はもうイヤだ……」
「お、おい。アレって一体……?」
「わ、悪いが、私はもう疲れた。ひと足先に休ませてもらうよ!」
そう言い残し、フィルゼは背を向け、硬そうな石のベッドに寝転がってしまった。
(色々と聞きたいことはあるが……今のフィルゼに話す気力はないだろうな)
リルの調査も始まったばかり。
やることがない俺も、さっさと眠るとしよう。