古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜   作:大塚セツナ

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第54話 俺と一緒に――

 

「……やぁ、お疲れのようだね」

 

「お前の忠告の意味を痛感したよ」

 

 

 アラクに解放され独房に戻ると、向かいの独房からフィルゼが労いの言葉をかけてきた。

 

 

「あの審問官……かなりいやらしい性格をしているな」

 

「はは……私も、毎日遊ばれているよ」

 

 

 そう語るフィルゼの目は、生気が帯びていない。

 まだ魂に悪魔の魔力が残っているフィルゼも、あの神術でのダメージは大きいのだろう。

 

 

「かつては栄光を手にしていた私が、こんな無様な姿まで堕ちるとは……笑いたまえ、ルーネス・キャネット」

 

「…………」

 

「それもこれも、チカラに溺れ、無関係な者たちを陥れ、仲間にさえ手を出したことの報いだ……自分が情けなくて仕方がないよ」

 

 

 フィルゼの目に、涙が溜まる。

 

 

「投獄されてからも、父上や兄上から手紙一つ来ない。……私は、捨てられたんだ」

 

「……家族だけが、お前の帰る場所か?」

 

「……どういう意味だい?」

 

 

 ゆっくりと顔を上げるフィルゼ。

 

 

「ジャックや……他の連中も、お前の帰りを信じて修行の旅に出ている」

 

「ジャックが……」

 

「たしかに、お前の犯した罪は重い。……だが、お前がその罪を償い、もう一度会いたいと思っている人間がいることも、事実だろ?」

 

 

 ハッと目を見開き、ポロポロと涙を流す。

 

 

「そうか……彼らは、こんな私のことを待っていてくれてるんだな……」

 

「ああ、だからフィルゼ、お前が良ければ俺と――」

 

「――魂への聖裁(ジャッジメント)

 

「――ぐぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 フィルゼが突如、苦しげな表情とともにのたうち回る。

 

 まさかと思い、牢から身を乗り出し廊下の奥を見ると、そこには異端審問官のアラクが立っていた。

 

 

「おやおや、悪魔同士の友情ごっこかな?」

 

「アラク……! いきなり何をする! 俺への取り調べは終わったはずだろ?」

 

「ええ、君への取り調べは明日から再開するが……そこのフィルゼ・バッシュロックは、今日の取り調べが終わってなくてねぇ?」

 

「取り調べって……フィルゼは1ヶ月近くここにいるはずだ。もう聞くこともないだろ」

 

 

 語気を強め睨みつけるが、アラクはむしろ愉快そうにニタニタと笑みを浮かべる。

 

 

「彼は魔人へと至った詳細を話してくれないからねぇ……私も、悪魔関係者とはいえ子供をいたぶるのは大変心苦しいとは思ってるよ」

 

「カハッ……な、何度も言っているはずだ……私を魔人化させた犯人など、知らないと……」

 

「魔人の証言など、誰が信じると言うのだね? ――魂への聖裁(ジャッジメント)

 

「――ぐぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 なぜ魔人になったのか教えろ、ただし魔人の言うことなど信用できない……そんなの、メチャクチャじゃないか。

 

 

「今すぐフィルゼを解放してやれ。さもないと――」

 

「――魂への聖裁(ジャッジメント)

 

「――くっ!」

 

 

 アラクが三度(みたび)神術を発動すると、俺の体にも電流が走るような痛みが襲う。

 一体これはなんなんだ……いくら全盛期の肉体でないとはいえ、俺にダメージを与えるなんて……。

 

 

「効くだろう? 汚れた魂を直接刺激されるのは」

 

「魂に……直接……?」

 

「神術は普通の魔法と違ってねぇ、魂や心のような非物理的なものに対する攻撃なのだよ」

 

「なるほど……それがカラクリか……」

 

 

 それなら――話は早いな。

 

 

「よっ、と……」

 

「なっ!? た、立ち上がっただと!?」

 

「……うん、こんなものか」

 

「な、なぜだ!? 神術の効果は切れていないはず……! ――魂への聖裁(ジャッジメント)ッ! 魂への聖裁(ジャッジメント)ッ!」

 

 

 アラクが焦ったように、何度も手を振りかざすが、もはや俺にダメージを与えることは叶わない。

 

 

「な、なぜ神術が……!」

 

「なに、簡単なことだ。『魂』に魔力の鎧を纏わせだけだ」

 

「た、魂に……?」

 

 

 魔鎧(マガイ)は肉体を包み込むように魔力を纏わせるもの。

 神術がそれを無視して魂に攻撃をするのなら、魂に直接魔力を纏わせればいいだけだ。

 

 

「バ、バカな……そんなこと、可能なわけが――!」

 

「あいにく、悪魔全盛期の時代に生まれているものでね。魂を認識するのは慣れている」

 

「くぅ……!!」

 

「どうする? フィルゼへの攻撃を辞めないのなら、俺も何をするか分からないが……」

 

 

 アラクは数秒迷ったのち、苦虫を噛み潰したような顔で、再びフィルゼに手をかざす。

 すると、フィルゼの苦痛の叫びが少しずつ収まり、呼吸が落ち着き始めた。

 

 

「よろしい。俺も手荒な真似をしないですんだぞ」

 

「……っ!! 覚えていろ、貴様には必ず神の裁きが訪れるだろう……!」

 

 

 怒り心頭といった顔で、アラクは踵を返し、カツカツと足音を立てて去っていった。

 

 

「フィルゼ、大丈夫か?」

 

「あ、ああ……おかげさまでね……」

 

 

 少し待つと、地面に寝そべっていたフィルゼも、呼吸が整い、体勢を立て直しその場に座り込んだ。

 

 

「相変わらず、常識はずれなことをする男だね……」

 

「そうか? 俺は青春を楽しむ、いたって普通の男子生徒だぞ」

 

「ははっ……そこも相変わらずだ」

 

 

 フィルゼの妙な発言は気になるものの、俺は先ほど言いかけていた言葉を投げかけることにする。

 

 

「なあ、フィルゼ」

 

「うん? なんだい、改まって」

 

 

 魔人化直後のフィルゼと違い、今は毒気が抜け落ち着いている……、それなら大丈夫だろう。

 

 

 

 

「俺と一緒に、ここを脱獄しないか?」

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