古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜   作:大塚セツナ

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第55話 脱獄開始

 

 

「ル、ルーネス・キャネットくん。本当に『アレ』をするのかい?」

 

「ああ、任せておけ。作戦は完璧だ」

 

「き、君がそう言うなら、や、やってみるよ……」

 

 

 フィルゼは少し気恥ずかしそうにしながらも、深呼吸をする。

 そして、意を決して――

 

 

「う、うわあぁぁぁぁ!! 痛いぃぃぃぃぃ!! お腹が痛いよぉぉぉぉ!!」

 

 

 ――叫んだ。

 

 

「な、なんだ!? 何を叫んでいる!?」

 

「痛いぃぃぃぃ!! お腹が痛いんだよぉぉ!!」

 

「な、なんだ、トイレならそこのバケツに――」

 

「そんなんじゃ私のこの便意は治らないぞぉぉ!! きっとバケツから溢れかえり、このフロア全体が臭くなるぞぉぉぉ!!」

 

 

 普段の気取ったフィルゼの面影もなく、子供のように地面にのたうち回りながら駄々をこねるフィルゼ。

 看守も、こんなフィルゼを見るのは初めてなのか、焦った様子で対応する。

 

 

「な、なに!? そ、そんなになのか!?」

 

「痛いぃぃぃぃ!! ト、トイレに! 普通のトイレに行かせてくれぇぇぇ!!」

 

「ぐぅぅ……し、仕方ない、今回限りだぞ! 今鍵を開けるから待ってろ!」

 

 

 看守は、腰に下げていた鍵束を手に取り、たどたどしいながらも急いでフィルゼの独房の鍵を開けた。

 

 

「さ、さあ! 早くこっちへ――」

 

「――よっ!」

 

「――ぐぁっ!?」

 

 

 看守が扉を開けたタイミングに合わせ、小石を思い切り弾き、鎧と兜の隙間を正確に射抜く。

 急所に衝撃を受けた看守は小さく悲鳴をあげ、数歩ほどフラフラとよろけたあと、その場に倒れ込むように気絶した。

 

 

「よし……よくやった、フィルゼ」

 

「あ、あんな恥ずかしい思いをしたのは、生まれて初めてだよ……」

 

「正直あそこまでやると思って無かっ――名演技だ。さすがフィルゼ」

 

「おい、今なにか言いかけなかったかい?」

 

 

 そんな恨みの籠った目で見ないでくれ、最小限のリスクで鍵を手に入れるためには仕方なかったんだ。

 

 

「……まあ、別にあんな内容じゃなくてもよかったけど」

 

「ルーネス・キャネットっ!! この件が落ち着いたら、私は正式に貴様に決闘を申し込もうじゃないかっ!!」

 

「こらこら、そんなに大声を出したら……」

 

「なんの音だっ!?」

 

「あっちの方からだ! 急げっ!」

 

 

 フィルゼの叫び声を聞きつけ、何人かの看守の足音が近付く音が聞こえる。

 

 

「ほら、そんなに騒ぐから……」

 

「元はといえば君がだねぇっ!?」

 

「ほら、そんなことより、早く牢と手錠の鍵を見つけたほうがいいぞ」

 

「…………ッ!!」

 

 

 何か言いたげなフィルゼだが、流石に状況を察し、鍵束の鍵を自分の手錠に次々と試し始める。

 

 

「あぁっ!? 貴様ら、なぜ牢の外にっ!?」

 

「おいっ! 1人倒れてるぞ!」

 

「だ、脱獄だぁぁ!!」

 

 

 思ったよりも早く、曲がり角から看守がゾロゾロと姿を現し始めた。

 

 看守たちは剣を抜き、通路を塞ぐように横並びにこちらに迫ってくる。

 

 

「ふん! 牢から出たところで、その手錠があれば魔法は――」

 

「手錠? それって、これのことかい?」

 

「なっ! 手錠が外れ――」

 

「――水槍(アクア・ランス)ッ!!」

 

 

 看守が言い切るよりも早く、フィルゼの水槍が放たれる。

 

 

「ぐぁぁぁっ!?」

 

「ぐぅぅっ!?」

 

 

 放たれた水の槍は瞬く間に看守たちに的中する。

 その勢いは以前よりも増しており、前線にいた看守どころか、後ろにいた看守さえも吹き飛ばした。

 

 

「ふむ……魔人化した後遺症か、以前より魔法の威力が上がっているようだね」

 

「完全には悪魔の魔力は断ち切れていなかったからな。だが、それが逆に功を奏したみたいだな」

 

 

 さて、さっさと俺の牢と手錠も解いてもらうとするか。

 

 

「……さて、ルーネス・キャネットくん。私は自由を手にし、逆に君は不自由な身――まるで、あの頃のようだねぇ?」

 

「……そうだな」

 

「ククク、君の命運は文字通り、私が握っているというやつだ」

 

 

 フィルゼ……まさか、裏切る気じゃ――

 

 

「……だが、私が自由の身になったのは君のおかげであることもまた事実だ。私は借りを作らない主義なのだよ」

 

 

 ――ま、そんなワケないよな。

 

 フィルゼは鍵束から俺の牢と手錠に合うものを見つけ出し、開錠してくれた。

 

 

「さぁ、私の栄光の始まりといこうじゃないか!」

 

「出たところで脱獄犯なことには変わらないけどな」

 

「く、空気が壊れることを言うのではないよ!」

 

 

 こいつ……牢から出た途端、異様に元気だな。

 そんなに囚人生活が辛かったのか……。

 

 

「……ま、なんにしても、こんな場所、さっさとおさらばしなきゃな」

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