古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜 作:大塚セツナ
「待てぇぇぇ!!」
「クソ囚人がぁぁぁぁ!!」
当たり前だが、あの騒ぎのあとにコッソリ脱獄することは叶わず、俺とフィルゼは大量の看守たちにと絶賛おにごっこ中だ。
「くっ――
「――凍路《アイス・ロード》」
看守たちの足元を凍らせ、その状態でフィルゼの水槍を当てる、すると――
「うぉぉ!?」
「お、おい! こっちに来るなっ!」
「んなこと言ったって止まらな――うわぁぁぁぁ!!?」
――踏ん張りが聞かなくなり、どこまでも後退し続ける。
オマケに床が滑るせいで元の位置に戻るまでも一苦労だ。
普通に倒すことも考えたが、彼らはただ単に自分の職務に従っているだけ……無駄に被害を大きくするのも良くない。
これが、何度も囚人を追い払うことで見つけた、俺たちの正攻法だ。
「……だが、これだとイタチごっこだ。出口は一体どこだ?」
「この牢獄の地下は10階まである。私たちが囚われていたのは地下5階で、階段を二回上がったから――」
「残り3階層か」
しかし、一階一階が迷路のような複雑な構造になっていることを考えると、かなり面倒だな。
「……天井をブチ破るか?」
「おいおいおい、そんなことしたら指名手配されてしまうんじゃないかな!?」
「どうせ脱獄犯だし」
「君はただの冤罪だろ? ……私と違って」
……フィルゼの顔が、少しだけ暗くなる。
「……君は、どうして犯罪者の――君の仲間を傷つけた私を、脱獄に誘ってくれたんだい?」
「随分と今更だな」
「君の実力ならば、1人で脱獄することだってできたはずだ」
たしかに、俺単独でも脱獄は容易だった。
リルが戻ってから共に出ることもできた。
けど――
「――お前が、過去を償いたがっていたからだ」
「私が……」
「人間は間違った時、あんなことやらなければよかった、という後悔をしてしまう」
決してその気持ちが間違っているわけではない。
だが、それは『過去』を……文字通り、過ぎ去ったものに縋っているだけだ。
「だがフィルゼ。お前は過去と向き合い、それを乗り越えようとしている。――それは『未来』を捨てていない証拠だ」
「……未来、か」
「未来に希望を見出すってのは、俺も気持ちがわかるからな」
なにせ俺は、そのために千年も時を超えてきた男だからな。
「だから、そんなクヨクヨしてばかりいないで、前を向いて生きようぜ!」
「……ありがとう」
「ん? 何か言ったか?」
「ふっ、なんでもないさ!」
先ほどとは打って変わって、清々しい笑顔を見せるフィルゼ。
表情がコロコロと変わって、愉快なやつだな。
「おやおや、脱獄犯がいると聞いて様子を見にくれば――やはり君たちか」
「アラク……!」
いきなり、走っている俺たちの進路を塞ぐように、物陰からアラクが現れた。
「随分と監獄内をメチャクチャにしたようだ……これは、神も君たちを見放してしまうぞ?」
「あいにく、神とやらとは会ったことが無くてな。面識がないやつに救われようって気はないな」
「私はとうに神に見放されているだろうね……いつか会うことがあれば謝っておくよ」
「……なんとも度し難い異端者どもだ」
俺たちの軽口を聞き、ピキピキと額に血管を浮かべるアレク。
「……で、どうする気だ? お得意の神術とやらは俺には効かないぞ」
「えぇ、非常に、甚だ不愉快だがその通りだ」
「なら、怪我をしないうちにさっさと道を開けるんだな」
我ながら、随分と小悪党じみた発言だな。
「残念ながら、立場的にそうもできないので――」
アラクが、人差し指を立てながらニヤリと笑う。
この魔力の流れ――
「――伏せろ、フィルゼ!」
「――ッ!!」
フィルゼが素早く身を屈めた瞬間、壁をぶち破って影が現れる。
その影はそのまま俺へとぶつかる。
「……くっ!」
思ったよりも重い衝撃が俺の体にのしかかる。
咄嗟のことで勢いを止めきれないと思い、体を捻り、逆に影を押し込むことで軌道を逸らす。
狙いをズラされた影は、そのままアラクの近くの壁に激突し、砂埃が辺りに舞う。
「な、なんなんだい、今のは?」
「さあな、敵であることは間違いなさそうだ」
砂埃が少しずつ収まり、影の姿が見え始める。
「あれは……騎士、なのかい……?」
見え始めたソレは、視界を確保するための目元や、動きを阻害しないための関節部の隙間すらない……まさに、全身を包み込むような鎧だった。
「ククク……どうだい? 『魔導兵』の力は」
「魔導兵……?」
「全身が魔法を軽減する特殊金属の鎧でできた、最強の兵士さ」
魔法を軽減する特殊金属……これは、魔導士を殺すための兵士だな。
「ああ、最初に忠告しておくが、こいつの強さは――低級魔人に匹敵すると自負している」
「ま、魔人に……!?」
「……驚いたな」
アラクの言っていることは虚勢ではない。
あの魔導兵からは、時計台の屋上のフィルゼほどではないが、魔人化したジャックたち程度の魔力を感じる。
現代の魔法技術で、どうやってアレを作ったというのだ……?
「さあ、君たちは、ワタシの可愛い魔導兵を相手に、どこまで遊んでくれるのだね?」