古代の英雄は平穏な学園生活を送りたい〜千年後に転生した俺は古代魔法を隠しながら青春を夢見る〜 作:大塚セツナ
あのあと、俺たちはマチェットから提供された晩飯を食べ終わり、一息ついていた。
「ふー、美味かった、ごちそうさま」
「初めて食べる味だったが……実においしかったよ、ありがとう」
「お? 強盗の小僧はオークナイトの肉は初めてだったか」
「オークナイ……!?」
驚いて椅子から転げ落ちそうになるフィルゼ。
「モ、モンスターを、た、食べるのか!?」
「あん? 当たり前だろ、何言ってるんだ?」
「や、やはり私を恨んでそんなものを……!?」
どうやら、フィルゼはモンスターを食べるのは初めてらしい。
庶民の生活では、安くて美味いってことでよくあることだが……そうか、貴族にはその文化が無いのか。
「バカやろう、オークナイトの肉は、普通のオークと比べて筋肉がある分、噛み応えもジューシーさもあって人気なんだぞ?」
「こ、これが庶民の普通なのか……?」
「ま、オレの仕入れたスパイスが合わさることで、より美味くなってるがな!」
たしかに、スパイスが効いてたな。
大戦時代は、狩ったモンスターを味付けもしないで食べることもざらだったから、俺には少し濃く感じたが……それでもペロリと完食してしまった。
「……それはさておき、現状の確認をしておきたい」
「あ、ああ……」
俺が合宿してたところを捕らえられてから、監獄から脱走して、街を逃げ回り……おおよそ2日経っている。
俺とフィルゼは兵士たちに追い回され、マチェットに匿って貰っているが……いつまでも世話になるわけにもあるまい。
「さて、どうしたものか……」
「……それにしても、マチェットさんは、追われているのが私たちだって、よくわかりましたね?」
「商人の情報網をなめんな、うちのマチェット商会は、情報の速さでここまで成り上がったんだぞ?」
なるほど、いつの世も商人の噂は早い、というわけか。
「……ちなみになんだが、悪魔や魔人、という言葉に心当たりはあるか?」
「ああ、詳しい情報は出回ってないが、なんでも大昔に絶滅したモンスターみたいなやつ……って噂は聞いたことあるぜ?」
どうやら、一般には詳細までは知らされていないようだな。
国の方で存在を秘匿している……となると、大勢の生徒の前で公開した、宰相ラディールや護衛のパイス、やつらの行動は不可解だ。
「まさか、お前らガキたちにそんな眉唾もんの疑いをかけるなんて……宰相の独断らしいが、とうとうボケちまったのか?」
「宰相の、独断?」
「おう、なんでも宰相のラディール様が、国王の反対を押し切って行動を起こして、この騒ぎになったらしいぞ?」
……国としての判断ではないのか。
それが本当なら、上手くいけば、この事態を治めることもできるかもしれない。
「……国王に、直訴しにいくか」
「なっ!? しょ、正気かい!?」
フィルゼが椅子を倒して立ち上がる。
「この騒ぎの中、国王のところに行けば、捕まるのがオチだぞ!?」
「このまま逃げ続けてもどうしようもないだろ、国の外にでも亡命するのか?」
「それは……そう、だけど……」
段々と言葉を詰まらせるフィルゼ。
「そんなに不安なら、どこかに隠れるか、逃げるといい。お前の正式な釈放も、俺が頼んでみる」
「……私の場合、犯した罪は消えない。その見込みはないだろう」
「逃げてる途中で聞いた話だと、真犯人によって精神錯乱状態だったんだろ? それを引き合いに出せば、なんとかなるかもしれないだろ」
フィルゼがローブ姿の男と話している時、段々と誘惑に負けるような思考に陥っていたという。
おそらく、悪魔の魔力の影響だろう。
悪魔の魔力は、常人には抗い難い、強い魅力のようなものある。
近くにいるだけで精神が侵され、正常な判断能力が徐々に奪われることも、そう珍しいことではない。
「……わかった。君の策に乗ろうじゃないか」
「そうか、なら上手く行った時の合流場所を――」
「ただし、私も付いて行く」
「……いいのか? 無理をしなくてもいいんだぞ」
「言っただろう? 私は借りを作るのは嫌いなんだ、君にばかり動いてもらうわけにはいかないさ」
……そうだな、フィルゼはそういうやつだった。
「よし、そうと決まれば、どうやって王宮に潜入するかだが……」
「それなら、オレに任せてくれ!」
マチェットが立ち上がり、胸を叩く。
「実は、ちょうど明日の朝方、王宮に商品を品卸ろしする予定だったんだ。その荷物の中に隠れれば、すんなり行けるだろうぜ!」
「……いいのか? 巻き込んでしまうことになるぞ」
「あの時の礼をまだ返せてないんだ! これくらい手伝うぜ!」
そう言い、親指を立てニカッと笑うマチェット。
匿って貰っているというだけで、お釣りが必要だというのに……。
「……ありがとう。この恩は、いつか返させてもらう」
「へへっ、それなら、今度ウチの商品を買いに来てくれればいいさ!」
「……バッシュロック家で、貴方の店の在庫まで全て買わせてもらうとするよ」
「お、そいつはありがてぇや! 売れ残った商品の処分に困ってたところだからな! ガッハッハっ!」
バシバシと音を立てながらフィルゼの背を叩くマチェット。
王宮と取引する規模の商会ならば、バレた時のリスクは大きいことは理解しているだろうに……なんとも豪快な男だ。
「よしっ! となりゃ、荷物に隠れる場所を作らねえとな……オレはちょっくら作業してくるから、お前さん方はさっさと寝ちまいな! 奥に仮眠室があるから、好きに使ってくれ!」
そう言い残し、階段を下がって行くマチェット。
頼もしい協力者ができたものだ。
「さて、明日の朝は早い……俺たちも眠るとしよう」
「……ああ」