ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
都内の一角にある小さなカフェ。薄暗い照明の中、日下部雄一郎は目の前の青年――猛原禽次郎に視線を向ける。彼の目尻は深く刻まれた皺で影ができており、鋭くも疲労を滲ませていた。手元のコーヒーカップにはほとんど口をつけられず冷たくなっていた。
「……本当にいいんですか? これを俺に」
禽次郎がテーブル上に置かれた銀色のリング――ゴジュウイーグルのセンタイリングを指差しながら問いかけた。若さゆえの率直さと真剣さが入り混じった声だった。
雄一郎はわずかに眉を動かす。
「ああ。お前に預けるべきだと思った」
「でも……こんな大事なもの」
「大事だからこそだ」
雄一郎は低く呟いた。
「正直に言うと指輪争奪戦なんて、最初はよぅ分からんかった。弦十郎から話を聞いた時にも“くだらねぇ”と思っとったしな。ただ……このリングを握った瞬間、“違う”と気づいたんだ」
雄一郎は自嘲気味に笑う。「リングに選ばれたのは俺かもしれんけど……でもな、今の俺にはもう戦う意味がない」
禽次郎が黙って続きを促すように目を見つめる。
「過去のことだ。あれは……妻の誕生日だった。娘の五歳の誕生日プレゼント選びに夫婦揃って時間を潰していた午後の帰り道……空港で待っていた飛行機に乗り込んだ途端、事件が始まった。銃声。火薬の匂い。乗客たちの悲鳴……」
声がかすれながらも語り続ける。
「ハイジャック犯の要求は無謀な金額の要求と国外脱出だった。しかし操縦士が命懸けで抵抗してくれたおかげで何とか着陸に成功したものの……機体は滑走路を逸れ山岳地帯に激突した。墜落現場は炎と煙と轟音しかなかった。生き延びた人は皆無だと最初は思った……」
雄一郎の拳が震えた。
「……助かったのは奇跡だ。だが代償は大きかった。妻は即死。遺体は焼け焦げて判別できず……娘は奇跡的に見つけられた。けれど両脚を強く打っていて……病院に運ばれたとき医師から言われた。“今後一生自力で立てることはないでしょう”ってな……」
コーヒーの水面に映る自分の顔を見て呟く。
「以来五年。世界中の名医と呼ばれる奴らを巡ったよ。アメリカで再生医学を研究する博士。フランスの整形外科教授。インドの祈祷師からアフリカの秘術使いまで……どんな方法でも試すつもりだったが……誰一人首を縦に振らなかった。保険の問題じゃない。“不可能”、“神の領域だ”という回答ばかり」
それらの話を聞いている間、禽次郎にとっては、とても他人事ではなかった。
彼の話、それらは過去の自分と多く重なっていた。
「・・・そんな時に手に入れたのが、この指輪だ。まぁ本当に願いが叶うかは分からんが……それを狙ってくる輩も居る。今日も街に怪物が出ていたろ?」
『―――』
「俺は、その戦いに家族を巻き込みたくない。だからこそ、弦十郎に頼んで、指輪を託せる奴を聞いた。あいつは信頼できる。少なくとも嘘はつかん。そして、それは間違っていなかったようだ」
禽次郎は静かにうなずいた。
「了解しました。全力で護ります」
雄一郎は微かな安心感を表情に浮かべてリングを禽次郎へ手渡す。
「頼むぞ。俺も戦えない訳じゃない。ただ、娘を一人置いていくことはできない」
雄一郎がカフェを後にする姿を、禽次郎は窓越しに見送った。
年季の入った背中が夜の街に溶けていく様子はどこか孤独だった。指輪を渡された後も胸の奥に残る違和感──それは単なる荷物ではなく、一人の男の人生が重なった重みのように感じられた。
「さて……どうしたものか」
禽次郎はテーブルに肘をつき、銀色のリングを光に翳す。指輪を通して見える景色が微かに歪んでいる気がした。
ちょうどその時だった。
「あの……大丈夫ですか?」
優しい声が響く。
そこには、調が立っていた。
「おっおぉ、調っち、どうしたんだ?」
「いや、なんだか落ち込んでいる様子が見られたので」
「あははぁ、心配かけちゃったかな?その、さっき指輪を貰ったんだけど」
それと共に禽次郎は、そのセンタイリングを見つめる。
「家族の為に願いを諦めたって聞いたら、ちょっとね」
「あっ」
禽次郎の、その一言で調は納得してしまう。
彼は、自分の妻の遺言である「これからはどうか思うがままに生きて…」との言葉を受けてパーリーピーポーを志す様になった。
その為に、家族から離れて暮らしている事。
「・・・この前の戦いで、それが余計に」
それと共に、彼は手元にあるタイムレンジャーのセンタイリングを見て、その思いは余計に強くなった。
「・・・禽次郎さん」
その事情を知っている調もどこか暗かった。
そんな時。
「っ!危ない!」
その最中、禽次郎は何かを感じ、調を抱えて、その場を避けた。
それと同時に、禽次郎達に向かって、火の矢が襲い掛かる。
同時に見上げれば、そこには狩人を思われるミイラ。
この時の彼らは知らない厄災の尖兵の1人であるピルボロウが、彼らを襲っていた。
「あれは」
「分からない、ブライダンとは違うようだが、とにかく」
「避けろっ!!」
緑の閃光が空間を裂くように走った。
ピルボロウが放った火の矢とは明らかに異なる鋭利な軌道——それが夜空から一直線に降り注ぎ、敵の仮面を貫いたのだ。ミイラのような身体が痙攣し、崩れるように膝をつく。
「なっ……!?」
「これは……弓矢?」
禽次郎と調が呆然と見上げた先には、見覚えのあるシルエットがあった。
それは、まさにゴジュウイーグルの姿そのもの。
ピルボロウは肩を押さえながら闇に紛れ去った。
「……逃がしたか」
ゴジュウイーグルは低く呟きながら地上に降り立ち、ゆっくりと振り返る。
「まさか……俺と同じ姿?」
禽次郎が息を飲む。
それと共に露わになったのは。
「太志っ」
そこには、禽次郎の孫が、そこに立っていた。