ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
角乃は鏡の前で何度も襟元を確認していた。ブルーのドレスは背中に大胆なカットアウトがあり、普段着慣れない宝石のアクセサリーが首元で重く揺れる。
「やっぱりこんな服装……落ち着かないわ」
「そうか?とても似合ってると思うけどな」
隣室から現れた翼が言った。彼女はダークレッドのタイトドレスで、肩と背中の露出が際立つが、むしろその凛とした佇まいがより気高く見せていた。
「風鳴さんはいつもこんな感じなのでしょうね」
「ライブツアーの記者会見や祝賀イベントではよく着る」
翼は手袋を嵌めながら軽く頷く。
「慣れとは恐ろしいものだ」
二人は夜の帳が下りた港湾地区へ向かう。霧雨が降り始め、石畳に滲む街灯の光が幻想的だった。
目的地“CLUB SEASHELL”は海上プラットフォームの一角にそびえる白亜の塔だった。船着き場から専用エレベーターで昇ると、空中庭園を思わせるロビーが広がる。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか」
受付の男性は微笑んだが、翼が差し出したカードキーを見た途端に恭しく腰を折った。
「風鳴様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
重厚な木製の扉が開かれると、煌びやかな光が溢れ出した。
そこは――別世界だった。
吹き抜けの天井からは巨大な巻貝型のクリスタルシャンデリアが垂れ下がり、床一面にはガラスタイルの貝殻模様が広がる。壁面には磨き上げられた螺鈿細工が螺旋を描き、照明が当たる角度によって色彩が妖しく揺らめいた。
「……すごい」
角乃は思わず息を呑む。大理石のカウンターに並ぶバーテンダーはみな蝶ネクタイを結び、客席は白い砂利を敷いた足場の上に半円形のテーブルが点在している。それぞれの卓にも小型の貝殻シェードランプが設えられ、ほのかな暖色が人々の顔を優雅に映し出していた。
翼は堂々と歩を進めながら囁いた。
「緊張しなくても大丈夫だ。私がいれば何とでもなる」
「でも……あの人たちみんなお金持ちでしょうね。ドレスコードどころの騒ぎじゃないわ」
角乃が辺りを見渡すと、見るからにVIP然とした紳士淑女が談笑する姿があった。スーツはいずれもブランド品で、指輪やネックレスは照明を反射して眩しく光る。
「確かに富裕層が多いが……」
翼は言葉を切った。前方で案内係の女性が丁寧にお辞儀をしている。
「どうやらメインホールへご案内いただけるらしい」
階段を登った先にはさらに壮大な空間が広がっていた。中央には円形のステージがあり、それを取り囲むように楕円状の観客席が配置されている。ホールの四方には巨大な貝殻彫刻が埋め込まれ、隙間から漏れるブルーライトが室内を幻想的な海底洞窟に変えていた。
「あれは……」
角乃が指さす先。ホールの最奥に鎮座するのは、まさにギャラルホルン――巻き貝の化石を模した巨大な装置だった。表面は青白く発光している。
「間違いなくギャラルホルンね。でもなぜここに?」
翼が眉をひそめながら答える。
案内係の女性が微笑みながら近づいてきた。シルバーの制服に身を包み、首元には真珠のチョーカーが控えめに輝いている。
「ご案内申し上げます。あちらをご覧になるのは初めてですか?」
翼が慎重に言葉を選んだ。
「先日噂を聞いてね。とても興味深い展示品だ」
女性は嬉しそうに頷く。「さようでございます。あれはオーナー自慢のコレクションの一つ。古生物学界では知る人ぞ知る貴重な化石だそうですわ」
角乃が小声で訊ねた。
「化石?あの光っているのは……」
「保存液を循環させていますと聞いています」
女性は得意げに解説を加えた。
「オーナーは貝類の収集家としても有名で、世界各地から珍種を集めていらっしゃいます。特に深海産の大型巻貝がお好みだとか」
角乃は思わずギャラルホルンを指さした。
「でもそれ……かなり大きいですね」
「ええ。見つけた当初は本物の化石だと信じて疑わなかったそうで、それがこんな美しい装飾になるとはとご本人も驚いていらっしゃいました」
その答えに二人は顔を見合わせた。
「つまりオーナー自身が運び込んだと?」
角乃は信じられない思いで呟いた。
「偶然とはいえ……」
翼は眉根を寄せた。
「これは我々にとっては幸運かもしれない」
女性が話を続けた。
「さて本日のご用件ですが。もしVIPルームへご興味がございましたら、追加料金にてご案内可能です。但し、ご紹介が必要になりますので―」
角乃は咄嗟にポケットを探り、翼から預かったカードキーを取り出した。
「これで可能でしょうか?」
女性の表情が僅かに変わり、即座に通信機器を取り出した。短いやり取りの後で。
「失礼致しました。承ります。どうぞこちらへ」
促されるまま二人はホール奥の螺旋階段へ導かれた。床に敷かれたパウダーブルーの絨毯が歩みを静かに飲み込む。
「この先に何があるのでしょう……」
角乃が小声で囁く。
「恐らく件の“招待制エリア”だろう。そこで依頼人の姉を見つけられるといいが……」
螺旋階段を上る途中、角乃の足が突然止まった。
「どうした?」
翼が訝しげに問う。角乃の視線は階下へ向けられていた。暗がりの向こう側――そこに一人の男が立っていた。
背丈は翼と同じくらいだが、全身から立ち昇る暴力的な気配が圧倒的だった。上下無造作に跳ねる白髪。長い睫毛が影を落とす血走った瞳。そして顔面に深々と刻まれた斜め十字の傷跡。
「知り合いか?」
翼が小声で問いかけたが返事はない。角乃の瞳孔が揺れている。
男はゆっくりと階段を登ってきた。足取りに迷いはない。その一歩ごとに黒革の靴底が硬質な音を立てる。
「よう角乃ぉ~久しぶりだなぁァ~~?」
粘着質な声がホールの静寂を裂いた。低く濁った発声。舌の上でねっとりと母音を引き伸ばす喋り方は昔と変わっていなかった。
「……荒巻先輩」
角乃の声は、彼の顔を見る事は出来なかった。