ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
次元の裂け目を抜けた先は、ひどく狭い空間だった。
コンクリートの壁。低い天井。むき出しの配管から、かすかに水滴の音が落ちている。廃ビルの一角か、使われなくなった地下倉庫か――いずれにせよ、身を潜めるには十分だが、長居する場所じゃない。
「……ここなら、ひとまず追っては来ねぇな」
紅葉さんが周囲を確認し、低く呟く。
クリスは壁に背を預け、息を整していた。戦闘の疲労はあるが、致命傷はない。
俺は、その場に立ったまま、妙な既視感に襲われていた。
狭い。
暗い。
外の音が、遠い。
――ノーワンワールド。
瓦礫の隙間に身を押し込み、息を殺して過ごしていたあの場所。
見つかれば終わりで、希望なんてどこにもなくて、それでも生き延びるために必死だった日々。
「……最悪だな」
思わず、零れた。
あの世界から戻ってきたはずなのに。
また、似た場所に立っている。
視線を動かすと、少し離れたところにクオンがいた。壁にもたれ、肩で息をしている。
さっきまで命を奪い合っていた相手と、同じ空間にいる事実が、胸をざわつかせる。
「状況を整理するぞ」
紅葉さんの声で、意識を引き戻される。
「今の敵は、あの“ガリュード”だ」
誰も否定しなかった。
あれは、クオンじゃない。
だが、クオンを殺すために作られた存在だ。
俺は拳を握りしめる。
狭い部屋の空気は重く、逃げ場はない。
けれど――
ノーワンワールドで、俺は学んだ。
狭い場所ほど、生き延びるために考えるしかないってことを。
そして、もう一度だけ、俺はクオンを見た。
――次に動く時、全部が決まる。
俺は、壁際に立ったままクオンから視線を外さなかった。
さっき助けられた? だから何だ。信じられる理由にはならない。
(……今なら、やれる)
心のどこかで、冷たい計算が動いていた。
疲弊している。武器も揃っていない。あいつは一人だ。
ここで終わらせれば、後腐れはない。これ以上、誰も傷つかない。
指に力が入る。
テガソードを呼び出そうとして――
「やめとけ、吠」
紅葉さんの声が、低く落ちた。
「……なんでだよ」
思わず、きつい声になる。
俺は振り返らずに言った。
「今まで、何度も裏切られてきた。
あいつは兄だ。でも、同時に敵だ。
ここで終わらせた方が……」
「“正しい”かもしれんな」
紅葉さんは、否定しなかった。
だから余計に、胸がざわつく。
「だが、今じゃない」
クリスが端末を操作しながら、首を振る。
「……ダメだ。外と繋がらねぇ。通信が完全に遮断されてる」
「バリア、か」
紅葉さんが即座に理解する。
「ああ。さっき見えたやつだ。
街区一帯を覆ってる。たぶん、あのガリュードの仕業だ」
俺は舌打ちした。
救援も、合流も、期待できない。
「だからこそだ」
紅葉さんが、はっきり言った。
「この場では、少しでも戦力が要る。
……クオンも含めてだ」
思わず、俺は振り向いた。
「本気で言ってんのか」
「本気だ」
迷いはなかった。
「信じろとは言わん。
背中を預けろとも言わん。
だが、“使える手”を切り捨てるほど、今は余裕がない」
紅葉さんの言葉は、現実そのものだった。
ノーワンワールドで、生き延びてきた人間の判断だ。
紅葉さんは、クオンの方を向く。
「……で、どうなんだ」
静かな声だった。
「さっき助けたのは、その気があったからか?」
一瞬、空気が張り詰める。
俺は、無意識に息を止めていた。
クオンは、少し間を置いてから、肩をすくめた。
「どうだろうな」
曖昧な答え。
否定も肯定もしない、いつもの逃げ。
「気まぐれかもしれないし、
自分が生き残るためかもしれない」
視線が、俺に向く。
「……それでも、今は“敵の敵”だろ」
胸の奥が、嫌な音を立てた。
信用できない。
許せない。
それでも――
外には、あの“もう一人のガリュード”がいる。
俺は、歯を食いしばった。
「……分かったよ」
自分でも驚くほど、声は低かった。
「今だけだ。
今だけ、手を組む」
紅葉さんが、小さくうなずく。
「それでいい」
狭い部屋の中で、俺たちは不格好な形で並び立った。
信頼も、安心もない。あるのは、迫り来る脅威だけ。
――ノーワンワールドと同じだ。
嫌になるほど、よく似てる。
だが、あの時と一つだけ違う。
今の俺には、選ぶ覚悟がある。
紅葉さんは、ゆっくりと言葉を選ぶように語り始めた。
「……吠、お前も一部は覚えてるはずだ。ノーワンワールドで、俺たちがブライダンに見つかった時のことを」
胸の奥が、ひくりと鳴る。
忘れられるわけがない。
「あの時、俺はアーイーたちを引きつけていた。逃げ道を作るためにな」
紅葉さんの声が、少しだけ低くなる。
「その隙に――久光が動いた」
俺の視界が、一気に過去へ引き戻される。
瓦礫。怒号。逃げ惑う仲間たち。
そして、俺の前に立った兄の背中。
「久光はな、吠を守るために、ノーワンに向かっていった」
――やめろ。
そう叫びたかったのに、声が出なかった。
「だが、力の差は歴然だった。久光は捕まった」
喉の奥が、締めつけられる。
「その時、お前は……」
「……“兄ちゃん”って」
思わず、俺が呟いた。
紅葉さんは、静かに頷く。
「そうだ。ただ叫ぶことしかできなかった」
あの時の無力感が、今になって胸を刺す。
「その後、お前は他の仲間に連れられて逃げた。だから、その先を知らない」
紅葉さんは続けた。
「俺は、久光を助けるためにブライダンの本拠地に向かった。
そこで見たのが……テガジューンだ」
空気が、重くなる。
「久光は、あいつから指輪を渡されていた。
俺には――無理矢理従わされているようにしか見えなかった」
その言葉に、俺は思わずクオンを見る。
クオン――久光は、顔を歪めた。
一瞬、苦しそうに息を詰め、その頬に傷が浮かび上がる。
「……っ!」
心臓が跳ねる。
身体が、勝手に前に出そうになる。
だが、数秒もしないうちに、その傷はゆっくりと消えていった。
「……今の、何だよ」
俺の声は、震えていた。
クオンは視線を逸らしたまま、答えない。
少しずつ、呼吸が落ち着く。
頭も、冷えてくる。
「……外に出たら」
俺は、はっきり言った。
「きっちりと話を聞くからな」
クオンは、口の端を歪めて笑った。
「良いよぉ。
一時休戦だねぇ、吠」
その軽い口調が、逆に重く響く。
テガジューンの呪いは、まだ残っているのか。
厄災と、本当に手を組んでいるのか。
確かめなきゃならない。
逃げちゃいけない。
――これは、戦いだ。
敵を倒すためじゃない。
兄と向き合うための、戦いだ。