ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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兄弟の物語

 瓦礫の間を抜け、俺と紅葉さんはクリスと合流した。

 戦いが終わった直後だというのに、胸の奥のざわつきは消えない。

 

「……紅葉さん」

 俺は、一歩だけ前に出て――クオンと向き合おうとした。

 

 その瞬間だった。

 

 閃光。

 

 視界が白く裂け、次の瞬間、身体が宙を舞う。

 遅れて、痛みが来た。

 

「――っ!?」

 

 地面を転がりながら理解する。

 斬られた。

 

 顔を上げた先で、クオンが立っていた。

 テガジューンの切先を、迷いなくこちらへ向けて。

 

「……僕が本気で君たちに救いを求めているとでも思ったか!?」

 

 声は冷たく、そして歪んでいた。

 

「……お前の願いは、ここで潰える」

 

「何故なんだ……! 久光!!」

 

 紅葉さんの叫びが、夜に響く。

 その声に、クオンは一瞬だけ顔を歪め――次の瞬間、嗤った。

 

「フフフ……」

 

 低く、濁った笑い。

 

「俺はな……アンタが昔から大っ嫌いなんだよ!!」

 

 感情が、堰を切ったように噴き出す。

 

「いつも正しい顔で! 間違いなくて!

 俺たちを“導いてるつもり”でよぉッ!!!」

 

 怒号と共に、クオンが踏み込む。

 避ける暇もない。

 

「紅葉さん――!!」

 

 俺が叫ぶより早く、テガジューンの刃が、紅葉さんの身体を深く斬り裂いた。

 

 衝撃音。

 紅葉さんの巨体が、力を失って崩れ落ちる。

 

「……っ、紅葉……さん……」

 

 膝をつきながら、それでも前を向こうとする紅葉さんを、

 クオンは冷ややかに見下ろしていた。

 

 俺の喉が、張り付いたように動かない。

 信じたくなかった現実が、目の前で形になっていく。

 

 ――一時休戦なんて、最初から存在しなかった。

 ――兄は、もう戻らないのか。

 

 胸の奥で、何かが音を立てて壊れた。

 

 それでも俺は、歯を食いしばる。

 

 ここで倒れるわけにはいかない。

 紅葉さんを、クリスを、

 そして――この男を。

 

 俺は、震える拳を握り締め、

 再び、立ち上がった。

 

 「アハハ……! 俺の勝ちだ、紅葉」

 

 乾いた笑い声が、瓦礫の隙間に残響する。

 

「クオン……テメェ……!!」

 

 俺の叫びを、クオンは愉快そうに聞き流した。肩をすくめ、まるで当然の結論だと言わんばかりに口を開く。

 

「ハハハ……! 僕を見くびるなよ、吠。コイツは勝手に勘違いしてたみたいだけどね、この力は――」

 

 クオンは自分の胸を、テガジューンの装甲を叩いた。

 

「自ら求めたものだ」

 

 その言葉と同時に、俺ははっきりと悟ってしまった。

 こいつの中にあったのは、誰かに強制された悲劇なんかじゃない。

 

 ――救ってくれなかった人間への、底知れない怒り。

 ――大切なものを、また誰かに奪われるかもしれないという恐怖。

 

 それらが絡まり合い、クオンは迷わなかった。

 差し出された手を、拒まなかった。

 テガジューンとの契約を、自分の意志で選び取った。

 

 こうして――

 クオンという一人の男が、生まれた。

 

「……お前らなんかに、救われてたまるか……」

 

 吐き捨てるようにそう言い残し、クオンは踵を返す。

 その背中越しに、崩れ落ちた紅葉さんが見えた。もう、意識はない。

 

「待て……!」

 

 伸ばした手は、空を掴むだけだった。

 

 クオンは振り返らない。

 闇の向こうへ、迷いなく歩いていく。

 

 残されたのは、静まり返った戦場と、胸を締めつける痛みだけ。

 

 俺は歯を食いしばり、紅葉さんの傍へ駆け寄った。

 

「……くそ……」

 

 拳が震える。

 怒りか、悔しさか、それとも――まだ消えきらない希望か。

 

 兄は、敵になった。

 それでも。

 

 ――必ず、決着をつける。

 

 紅葉さんを守れなかった後悔と、それでも信じてしまう自分を抱えたまま、俺は、闇の奥へ消えた背中を睨み続けていた。

 

 「何をしているんだ!早く、病院に連れて行かないと!」

 

 「そぅだった!」

 

 それと共に、2人は紅葉を連れて、その場を去って行く。

 

 病院の天井は、やけに白かった。

 消毒液の匂いが鼻につくたび、現実に引き戻される。

 

 ベッドの上で目を覚ました紅葉さんは、身体中に包帯を巻かれていた。それでも、俺の顔を見ると、無理やり口角を上げてみせる。

 

「……そんな顔すんなよ、吠」

 

 その声は弱っているのに、不思議と落ち着いていた。

 俺は唇を噛み、視線を逸らす。

 

 恩人を傷つけられたこと。

 幼馴染みの響が斬られたこと。

 そして――心のどこかで「戻れる」と信じていた兄に、はっきり裏切られたこと。

 

 怒りと悲しみが、胸の中でぐちゃぐちゃに絡まっていた。

 

 紅葉さんは、そんな俺を見透かしたように、静かに話し始めた。

 

「俺な……久光にやられた時、思ったんだよ」

 

 そこで一度、息を整える。

 

「アイツの目……どこか苦しそうだった。憎しみだけじゃねえ。追い詰められた獣みたいな目だった」

 

 俺は、思わず顔を上げた。

 

「本当の家族みたいだと思ってた。吠も、久光も……あの頃の笑顔を、もう一度見たいってな」

 

 それは、怒りでも、絶望でもなかった。

 ましてや失望なんかじゃない。

 

 願いだった。

 

 紅葉さんは、ゆっくりと俺に視線を向ける。

 

「……だからよ。久光を救えるのは――」

 

 その言葉が、胸に重く落ちる。

 

「吠、お前だけかもしれねえ」

 

 諭すようで、託すような声だった。

 

 俺は答えられなかった。

 簡単に「任せろ」なんて言えなかった。

 

 でも、逃げることも出来なかった。

 

 兄を止めたい。

 救いたい。

 それでも、もう一度裏切られるかもしれない。

 

 それでも――。

 

「……俺は」

 

 震える声で、絞り出す。

 

「逃げねえ。もう一度、クオンと兄ちゃんと向き合う」

 

 紅葉さんは、安心したように、ほんの少し笑った。

 

 その笑顔を見た瞬間、俺は悟った。

 

 この戦いは、

 正義とか、敵味方とか、そんな単純な話じゃない。

 

 ――兄弟の、物語なんだ。

 

 俺は拳を握り締め、心の奥で誓った。

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