ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
レース会場に足を踏み入れた瞬間、百夜陸王はわずかに目を細めた。エンジン音が残した余韻、観客のざわめき、アスファルトに染みついた熱と興奮。日本国内のサーキットはいくつも見てきたが、ここは妙に空気が張り詰めている。ただのレース前とは思えなかった。
「……なるほど。この空気。レース前にしては、少し出来すぎだね」
呟きながら、陸王は会場を見渡す。彼がここに来た理由は単純だった。ユニバース戦士が現れるという情報。確証はないが、ナンバーワンを競う舞台には、必ず歪みが生まれる。そして歪みには、力を求める存在が引き寄せられる。
観客席、ピットエリア、コース脇。自然体を装いながら、視線だけを鋭く巡らせる。探しているのは指輪だった。ユニバース戦士の証。派手なアクセサリーや記念品とは決定的に異なる、異質な輝き。
スポンサーに囲まれたレーサー、忙しなく動くスタッフ、浮き立った観客。その中に“本物”はまだ見えない。
「言わずと知れた百夜陸王。僕と会った事、周りに自慢していいよ♪」
軽口に聞こえるその言葉は、この場がすでに舞台であるという宣言でもあった。陸王自身、観客の視線が無意識に集まってきているのを感じ取っている。
「百の夜を君と共に♪ ……もっとも、今日は主役が多くなりそうだけど」
そう判断しかけた、その瞬間だった。
コース脇で爆ぜるような衝撃音。防護柵がひしゃげ、悲鳴が一斉に上がる。次の瞬間、赤と黒の閃光がアスファルトを切り裂くように駆け抜けた。
「遅ぇ……遅すぎるッ!」
響いた声は、怒号に近い。だが感情は怒りではない。純粋な侮蔑だった。
全身を覆う派手な装飾、順位を誇示する意匠、獣じみた輪郭。走るたびに数字と光が跳ね、速度そのものを誇示する存在。
「こんな会場で、まだ準備だぁ? スタートラインに立った瞬間、順位は決まってんだよ!」
レースノーワン。
その名を知らずとも、陸王には理解できた。速さという概念に取り憑かれ、競争以外を切り捨てた怪物。
「一位は俺だ。最初から、最後までな! 遅い奴は道を空けろ、邪魔なんだよ!」
観客の混乱など意に介さず、ノーワンはコースを踏み荒らす。悲鳴も怒号も、彼にとっては背景音に過ぎない。
「……なるほど」
陸王は小さく息を吐いた。相手は空気を読まないのではない。読む必要がないと、本気で信じている。
「速さを誇示するだけじゃ、舞台は成立しない。観客がいて、相手がいて、初めて勝負になるんだ」
その声に、レースノーワンが初めて視線を向けた。
「はぁ? 観客? 演出?」
歪んだ笑みが、ヘルメットの奥で浮かぶ。
「ゴール切った瞬間だけで十分だろ。遅ぇ奴らが何を見ようが、順位は変わらねぇ!」
「……そう。じゃあ、話は早いね」
陸王は肩をすくめ、軽く笑った。
「僕は罪を背負って生まれた……誰をも魅了してしまうという罪を」
その言葉は冗談めいていながら、どこか本気だった。
「だからさ。レースを壊すつもりなら、ちゃんと“勝負”にしよう。ナンバーワンを名乗るなら、全員が納得する形でね」
「納得だぁ? 必要ねぇよ!」
レースノーワンが吠える。
「俺が一位。それ以外は負け犬だ!」
「うん、そういう答えが返ってくると思ってた」
陸王は視線をコースへ向けた。壊れかけたレース会場、逃げ惑う観客、そして暴走する速さ。
混乱の中心に立つレースノーワンの背後で、甲高いエンジン音が一段、質を変えた。
それは観客の悲鳴とも、ノーワンの暴走音とも違う。制御された回転数、踏み込まれるアクセルの意志。陸王は反射的にそちらへ視線を向けた。
ピットエリアの奥から、一人の青年が姿を現す。レーシングスーツに身を包み、ヘルメットを小脇に抱えたその姿は、混乱の中にあっても異様なほど真っ直ぐだった。視線はただ一つ、コースを踏み荒らす怪物だけを捉えている。
「……ふざけんなよ」
低く、だがはっきりとした声。
青年は一歩、また一歩と前に出る。恐怖に足がすくむ様子はない。考えるよりも先に身体が前へ出ている。陸王はその動きに、妙な既視感を覚えた。
「速いから偉い? 一位だから全部正しい?」
青年――古谷靖紘は、真っ向からレースノーワンを睨みつけた。
「そんなもん、レース舐めてるだけだろ」
レースノーワンが首を傾げる。理解できないものを見る目だった。
「……あぁ? なんだお前。遅ぇ奴が口出すな」
「遅いかどうかは、走って決めりゃいい」
靖紘は笑わない。挑発でもない。ただの事実を投げつけるような口調だった。
「俺は負けず嫌いだ。負けるかもしれねぇレースでも、踏むのをやめた事は一度もない。順位がどうこう言う前に、最後まで走れよ」
その言葉に、陸王は確信する。
――この男、速さを“結果”じゃなく“姿勢”で語っている。
「一位は最初から決まってる? 違うな」
靖紘は一歩踏み出し、コースを指差した。
「スタートした瞬間から、全員が一位を目指す。それを最後までやり切った奴だけが、ナンバーワンだ」
一瞬、会場が静まり返った。
レースノーワンの動きが止まる。次の瞬間、嘲るような笑い声が響いた。
「綺麗事だ。踏み切れねぇ奴が言う言い訳だよ」
「踏み切るさ」
靖紘は迷いなく答えた。
「だから――お前みたいな“速さごっこ”に、レースを壊されるのは我慢ならねぇ」
その瞬間だった。
靖紘の手元で、金属が光を反射する。
指にはめられた指輪。装飾品とは明らかに異なる存在感。
陸王は小さく息を呑んだ。
――やっぱり、そういう事か。
ユニバース戦士。指輪を持つ者。そして、この場に現れた理由も、走る理由も、すべてが一本の線で繋がる。
「……なるほど」
陸王は口元に薄く笑みを浮かべた。
直情的で、勢い任せ。考えるより先に身体が動くタイプ。正直、扱いは難しい。だが――。
あれほど真っ直ぐに、歪んだナンバーワンを否定できる人間は、そういない。
「いいね」
陸王は一歩前に出る。視線は靖紘と、そしてレースノーワンを同時に捉えていた。
「舞台に立つ覚悟は、十分みたいだ」
靖紘が一瞬だけ、陸王を見る。その視線に迷いはない。ただ走る者の目だ。
「君が踏み続けるなら」
陸王は静かに告げた。
「僕は、そのレースを成立させる。主役が全力で走れるようにね」