ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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新たなスタートライン

 レース会場に残った熱気が、ゆっくりと冷めていく。観客のざわめきは次第に遠ざかり、破壊されたコースの向こうでは、スタッフたちが慌ただしく動き始めていた。勝負は終わった。だが、百夜陸王の意識は、まだ次の局面へと進んでいる。

 

 ゴーオンレッド――古谷靖紘は、少し離れた場所でヘルメットを外し、深く息を吐いていた。激しい戦闘の余韻が、彼の肩の上下にまだ残っている。だが、その表情には、勝利の高揚よりも、妙に落ち着いた色があった。

 

 陸王はそれを見逃さない。走り切った者だけが見せる顔だ。だが同時に、走り切ったからこそ、自分の限界を直視してしまった者の顔でもある。

 

「……正直さ」

 

 靖紘が口を開いた。声は低く、無理に張られていない。

 

「今日のレースで、はっきり分かった」

 

 彼は自分の手袋を外し、掌を見つめる。その視線は、まるで自分の中に残った熱を確かめているかのようだった。

 

「俺、まだナンバーワンじゃねぇ」

 

 陸王は、何も言わない。否定も、慰めも、ここでは不要だと分かっている。ただ、耳を傾ける。

 

「速さなら、どうにかなる。踏めばいいし、限界ならもう一段踏めばいい」

 

 靖紘は、そこで一度言葉を切った。

 

「でも……レースは違った」

 

 顔を上げ、陸王を見る。その目は真っ直ぐで、逃げがない。

 

「一人で走ってるだけじゃ、勝負にならねぇ。今日のあれは、俺一人の勝ちじゃない」

 

 陸王は、胸の奥で小さく息を吐いた。そうだ、と内心で応じる。彼自身が、最もよく分かっていることだった。

 

「進路も、タイミングも、あの怪物を“勝負の形”に引きずり出したのも……全部、お前だ」

 

 靖紘の声に、悔しさはない。ただ、事実を受け入れた静かな重みがある。

 

「俺は走る側だ。それは変わらない。たぶん、これからも」

 

 そう言ってから、彼は指輪に視線を落とした。ユニバース戦士の証。力を呼び出すための、近道。

 

「でもさ……今の俺が、これに頼り続けたら」

 

 指輪を見つめる指先が、わずかに強ばる。

 

「結局また、一人で走る事に戻る気がするんだ」

 

 陸王は、靖紘の言葉の裏にあるものを理解した。これは放棄ではない。逃避でもない。むしろ逆だ。自分の未熟さを、正面から認めた者の選択。

 

「ナンバーワンになるには、走るだけじゃ足りねぇ」

 

 靖紘は小さく笑った。

 

「信頼できるピットクルーが必要だ。仲間を集めて、レースを走り切るための場所を作る。それをやらなきゃ、同じ所で空回りする」

 

 そして、決断は早かった。

 

 靖紘は指輪を外し、迷いのない動作で陸王に差し出した。その手は、驚くほど真っ直ぐだった。

 

「だから、今はこれを持つべきじゃない」

 

 陸王は一瞬だけ、視線を指輪に落とす。重い。力そのものよりも、その選択が。

 

「この力は……走らせる側が持ってた方が、速ぇ」

 

 靖紘は、そう言ってから少しだけ言い淀んだ。

 

「お前は、奪わない。無茶もさせない。勝負の責任を、ちゃんと背負う」

 

 陸王の脳裏に、今日の戦いがよみがえる。進路を塞ぎ、速度を制御し、舞台を成立させた瞬間の連なり。

 

「だから預ける。仲間を探す間――このリングは、お前に託す」

 

 陸王は、静かに指輪を受け取った。軽い冗談で流す事もできた。だが、それはしなかった。

 

「……ずいぶん、レーサーらしい判断だね」

 

「レースだぞ」

 

 靖紘は肩をすくめる。

 

「合理的じゃなきゃ、勝てねぇ」

 

 二人の視線が交差する。そこに上下はない。ただ、役割を理解した者同士の、静かな合意があった。

 

「取り返しに来る」

 

 靖紘は言った。

 

「その時は、もっとでかい舞台でな」

 

 陸王は微笑み、指輪を握る。

 

「約束するよ」

 

 百夜陸王は、はっきりと答えた。

 

「君が戻ってくる時には、最高のレースを用意しておく」

 

 こうして、力は預けられた。

 それは別れではなく、次のナンバーワンへ向かうための、確かなスタートだった。

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