ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
喫茶テガソードの里は、正月飾りでやけに景気が良かった。入口には獅子舞の置物、カウンターには鏡餅、壁には「謹賀新年」と達筆な札。ところが店の真ん中、テーブルの上に置かれた木箱だけが不穏だった。墨ででかでかと「懺悔BOX」と書かれ、横には小さく「No.1懺悔室」と札が添えられている。今日は戦いの相談ではない。戦いの裏側を、笑って吐き出す日だ。
「ようこそ、ゴジュウジャーNo.1懺悔室へ。言わずと知れた百夜陸王。僕と会ったこと、周りに自慢していいよ♪」
朗らかに言い切ってから、陸王は箱を軽く叩いた。
「はい、拍手。……は不要だね。今日は反省会だから」
「反省会にしては店の飾りが浮かれてるな」
禽次郎が視線だけで一通り見回すと、竜儀が腕を組んで頷いた。
「正月は勢いだろ。やるなら派手にやれ」
「派手にやったら後で請求書が来るんだよ」
角乃が即座に刺す。可愛い顔に似合わない現実感が、最初の一言から濃い。吠は椅子に深く座り、静かに箱を見つめた。視線の奥に「嫌な予感」がある。
「読者からのはがきで裏話が公開される、って言ったの誰だっけ」
「吠くん、僕だよ。百の夜を君と共に。……でも安心して。今日は“懺悔”なんだから。自分で言えば罪は軽くなる」
「それ、法律じゃなくて宗教の理屈だろ」
禽次郎が淡々とツッコミを入れ、陸王が軽く肩をすくめる。
「では一通目。ペンネーム『テガソード常連』さん」
陸王は箱からはがきを引き抜き、読む前に一度だけ咳払いをした。演出過多だが、本人は真面目だ。
「『ゴジュウジャーの連載は最初から考えてたのに、クロス先で迷いまくってたって本当ですか? シンフォギア以外にも候補があったとか。結局、過去に連載していた“特典シリーズ”の経験があったから、運用しやすい方に逃げたんじゃないですか? 迷いNo.1を自覚してください』」
テーブルの空気が一拍止まった。真っ先に吠が目を伏せ、角乃が「ほら来た」と言わんばかりに口角を上げ、竜儀は笑いそうで堪えている。
「逃げた、って言い方が刺さるな」
禽次郎がカードを指で叩く。
「でも因果関係としては筋が通ってる。選択肢が多いほど決断は遅れるし、過去に運用経験があるフォーマットに引っ張られるのは自然だ」
「自然、で片付けるのやめてくれ。僕が“迷った”みたいじゃないか」
陸王が不服そうに言うが、角乃が即座に重ねる。
「迷ってないなら即決してたでしょ。シンフォギア、って」
「……候補が複数あったのは事実だよ」
吠が小さく手を挙げた。こういう時、変に隠さないのが吠の悪癖でもあり、強みでもある。
「ゴジュウジャーで何かやりたい、は先にあった。けど、世界観の相性とか、戦い方の文法とか、読者の期待とか……考えるほど増えていってさ。決め手が無かった」
「そこで特典シリーズの経験が刺さった、と」
禽次郎が促すと、吠は頷いた。
「うん。特典シリーズって、戦隊の力を持った転生者が、別世界で暴れる転生者と戦うって形だったから、世界のルールが混ざっても話が壊れにくかった。シンフォギアは戦い方が違うけど、違うからこそ“混線させる技術”が活きると思った」
「つまり、迷った末に“慣れてる地雷原”を選んだわけだ」
角乃の言い方が悪い。吠が黙り、陸王が笑って取りなす。
「結果として連載が決まって、今こうして正月に懺悔室をやってる。迷いNo.1でも、成果No.1なら問題なし」
「成果の話は、本人が言うと胡散臭い」
禽次郎の冷静な一撃で、竜儀がついに吹いた。
「じゃあ二通目だ。早く読め」
陸王が二通目を引く。ペンネーム『転生受付窓口』。
「『特典シリーズって結局、“スーパー戦隊の力で転生者が転生者を殴る”シリーズですよね。今回もその焼き直しですか? 違いをNo.1分かりやすく説明してください』」
「焼き直しって言うな」
角乃が即座に噛みついた。プライドの高さがこういう場面で分かりやすい。
「別物だよ。少なくとも、今回の軸は“ゴジュウジャー”ってチームがいる。それと、シンフォギアは転生者じゃない。彼女たちは、歌って戦って、その代償を背負ってる。そこが違う」
「違いは“キャラの生き方の文法”だな」
禽次郎がまとめる。
「特典シリーズは『転生者の能力と倫理の衝突』が中心になりやすい。だから対立が“同属性”になりがちで、説明も戦術も内輪に寄る。今回は、ゴジュウジャーのセンタイリングというギミックに対して、シンフォギアの戦いは“感情と歌”がエンジンだ。そこで噛み合わない部分がドラマになる」
「つまり、焼き直しじゃなくて“別ジャンル同士の摩擦”を狙った……って言えば格好いいよね」
陸王が締めると、角乃が小さく鼻で笑った。
「格好いいこと言っても、最後は現場が回らないと意味ないけど」
その言葉に、吠が苦笑する。現場の回し方――それが、次のはがきに繋がる。
「三通目。ペンネーム『リング鑑定士』さん」
陸王が読み上げた瞬間、吠の肩がぴくりと動いた。嫌な予感が、確信に変わったらしい。
「『吠が持ってるセンタイリングのラインナップ、過去作の“使いやすいやつ”の影響入ってません? 特にルパパト。あれ、特典シリーズ一作目の主人公が変身してたから、思い入れで入れたでしょ? リング選定・忖度No.1を認めてください』」
角乃が笑う寸前で止めた。禽次郎は「来たな」とだけ目で言い、竜儀が面白そうに吠を覗き込む。
「ルパパト、刺さったな。吠」
「……刺さるっていうか、正確すぎる」
吠は観念したように言う。言い訳を探すより、先に認めた方が早いと判断した顔だった。
「ルパパトは、特典シリーズ一作目の主人公が変身してた。だから、頭の中に“動かし方の成功例”が残ってる。戦い方も、役割も、物語の転がし方も。リングの力として扱うとき、説明しやすいし、展開も組みやすい。……それは確かに、過去の経験に引っ張られてる」
「ほら言った。忖度じゃない、経験値だ」
禽次郎が淡々と補足する。
「人は過去の成功体験を再利用する。これは戦術でも構成でも同じだ。重要なのは、その選定が“今の物語に適合するか”であって、思い入れ自体は悪ではない」
「でも読者は“思い入れで便利枠入れた”って見抜くよ」
角乃が容赦なく刺すと、吠が少しだけ顔をしかめる。
「見抜かれてもいい。だって、ルパパトがいると――“二つで一つ”の価値観が話を作るから。No.1って単独で決まるものじゃない、ってテーマに繋げやすい」
吠の言葉に、竜儀が頷く。
「なるほど。単独No.1じゃなく、組んでNo.1。正月向きだな」
「正月向きで誤魔化すな」
角乃が言うと、陸王が手を叩いたふりをして笑う。
「ここでNo.1判定。『リング鑑定士』さんの指摘は当たり。吠くんは――“経験値引力No.1”。過去作の成功を、今に引き寄せた罪」
「罪って言うなよ……」
吠がぼそりと抗議すると、禽次郎が即座に追い打ちをかける。
「罪というより、仕様だ。問題は次だ。チームで動くと出番が薄くなるって話、そこにこの“リングの便利さ”が絡むと、さらに偏りが出る。だから今の連載形式になった――って因果までセットで語れると綺麗だ」
陸王が、満足げに頷いた。
「いいね、禽次郎。懺悔がただの暴露で終わらず、“だから今こうなってる”に繋がる。懺悔室、成立」
角乃は腕を組んだまま、少しだけ視線を逸らす。ハイクラスの顔を保っているが、内心は「次のはがきで自分が燃える」未来を計算している顔だった。竜儀は箱を覗き込み、楽しそうに言う。
「次、俺に来い。俺の懺悔は派手だぞ」
「派手な懺悔は修理費も派手になる」
角乃の即答に、店内が笑いに包まれた。重い戦いの裏側で、彼らが息をするための時間が、ここには確かにある。特典シリーズの経験も、ルパパトの思い入れも、迷いの時間も、全部が一本の線で繋がって、今の『ユニバース大戦』という形になった。なら、その線の先にある次のはがきも、きっと“笑える因果”になって帰ってくる。
陸王が懺悔BOXに手を伸ばし、四通目を引き抜いたところで、吠が小さく呟く。
「……お願いだから、バイトの話は来ないでくれ」
「それ、角乃に言え」
禽次郎の声に、角乃の目が細くなった。正月の喫茶店で、次の火種が静かに育っていく。