ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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鬼の嫉妬

 病院の廊下は本来、走る場所ではない。だが紫の瘴気が床を這い、案内板が割れ、悲鳴が反響している時点で、常識はとっくに退避していた。角乃はゴジュウユニコーンの装束のまま、避難誘導の流れを視線だけで確認し、翼の立ち位置とファイブレッドの突進ラインを同時に測った。人がいる。眠っている患者もいる。ここでの一撃は、敵だけではなく空気そのものを壊す。だから角乃は“倒し切る”より先に、“場所を制圧する”ことを優先した。敵の正体が何であれ、病院を戦場にさせないことが最初の勝ち筋になる。

 

「翼、右の通路! 看護師さんを先に、患者さんは車椅子を優先で! 先生は刃の軌道を抑えて、私は敵の足を止める!」

 

「了解した!」

 

「任せてください!」

 

 翼が短く応じ、ファイブレッドが前へ出る。紫色の三日月刀が閃き、廊下の空気が薄く裂けた。鬼面めいた顔、角のシルエット、同じような瘴気。星野が「鬼ノーワン」と呼んだのも無理はない。角乃も一瞬、その名前を受け入れかけた。過去に戦った、あの圧。直線的で、恐怖で押し潰してくる暴力。思考を止めさせるための速度。ところが、刃が振るわれた瞬間に、角乃の中で“違う”が浮かび上がった。

 

「……あの鬼は、こんな間を作らない」

 

 刃の動きが“舞っている”。早いのではない。一定の拍で、見せつけるように、溜めてから斬る。三日月刀が振り下ろされるたび、金属を叩くような乾いた響きが混ざる。カン、リン。攻撃の後に一拍。呼吸を許す隙ではなく、相手の心に言葉を差し込むための間だった。角乃は足を止めずに周囲を見た。逃げる人々の口から漏れる声が、恐怖だけではないことに気づく。

 

「見ないで……! 私、さっき、あの子に……!」

 

「なんで私だけ……! あの人ばっかり、助けられて……!」

 

「私のせいだ、私のせいで……!」

 

 悲鳴の色が違う。鬼ノーワンは恐怖を増幅する。痛みと死の予感で支配する。だがこれは、恥と嫉妬と後悔を掻き立てて、人を内側から崩すやり方だ。角乃の脳裏に、能面の般若が浮かんだ。嫉妬と怨念の象徴。鬼の皮を被っていても、核が別なら“攻め筋”も別になる。

 

「先生、下がらないで! その刃、拍がある!」

 

「拍……?」

 

「振りの間が一定! 合わせると持っていかれる!」

 

 ファイブレッドが一瞬だけ動きを変え、刃を受け止める角度をずらした。三日月刀が交差し、紫の刃風が壁の掲示物を削る。翼がその先へ一歩踏み込み、避難中の一般人を背に庇って斬撃を逸らした。角乃は敵の足元へユニコーンドリル50を向け、回転で瘴気を散らしながら間合いに入る。敵は笑うように、鬼面を傾けた。

 

「ハイクラス探偵が、病院でドリルとは。お上品な笑い話になりそうだなァ」

 

「笑わせたいなら舞台を選びな。ここは人が眠ってる」

 

「眠り? いい言葉だ。眠らせてやろう。恥の底で、嫉妬の底で、二度と目を開けぬように」

 

 その台詞は、角乃の推理を確信へ押し上げた。鬼ノーワンは人を“折る”より“壊す”。これは、人の心を抉るのが目的だ。言葉が刃と同じくらい鋭い。般若の文法だ。角乃は息を整え、あえて一拍遅れて踏み込んだ。敵の拍に乗らないために。相手の型を崩すために。

 

「翼、聞こえた? こいつ、恐怖じゃない。恥と嫉妬で人を縛る」

 

「……確かに。反応が異常だわ」

 

「先生、あいつは……鬼ノーワンじゃないんですか?」

 

「見た目は似せてる。でも違う。確かめる」

 

 角乃は“確かめる”と言った瞬間、自分の次の手が決まっていることを悟った。核を暴くには、核を叩くしかない。般若なら核は面――顔だ。だが病院で大技は撃てない。なら、掠める。欠けさせる。反応を見る。探偵の検証は、現場で完結させる。

 

「先生、次の斬撃、受け止めて。私は面を削る!」

 

「了解!」

 

 ファイブレッドが正面に立ち、テガソードを掌のように展開して斬撃の軌道を封じた。三日月刀がぶつかり、紫の光が跳ねる。敵は拍を崩され、わずかに苛立ったように刃を引いた。その一瞬の“間”に、角乃は踏み込んだ。ユニコーンドリル50の回転を落とし、刃としてではなく、削り取るための工具として当てる。

 

「――っ!」

 

 面の縁を、ほんの数ミリ掠めた。欠ける音は小さい。だが反応は大きかった。紫の瘴気が乱れ、敵の足が半歩ぶれる。さらに、一定だった拍が途切れた。カン、リンの規則が崩れ、刃の戻りが遅れる。周囲の悲鳴の質も、一瞬だけ戻った。恥や嫉妬の言葉が引っ込み、純粋な恐怖の息が混じる。干渉が切れた証拠だ。

 

「今の見た? 面に当てた瞬間、瘴気が乱れた!」

 

「……本当に、核が面にある」

 

「先生、こいつは――」

 

「般若だ。鬼の面を被った、怨念のノーワン」

 

 角乃が断言すると、敵は面を押さえるような仕草を見せた。鬼の仕草ではない。隠したいものを隠す、人の所作だ。そこに“怨みの自覚”が滲む。角乃の中で、過去に倒した鬼ノーワンの記憶が確定的に離れていく。あの鬼は、痛みを見せない。弱点を隠さない。隠す必要がないからだ。だがこれは、弱点が“顔”にある。だから隠す。

 

「よくも……よくも、我が面を……!」

 

「面を壊されたくないなら、病院で暴れるな」

 

「黙れ。お前たちの“綺麗事”が、一番むかつくんだよ。家族だの、守るだの、正しさだの……持ってる奴が言うなァ!」

 

 叫びと同時に、周囲の空気が再び重くなる。嫉妬が爆ぜるような圧力。角乃は一歩退き、翼とファイブレッドの位置を確認した。核が分かったなら、戦い方も決まる。拍を崩し続ける。面を狙う。ただし、病院を壊さない強度で。難しいが、これが“守る戦い”だ。

 

「翼、拍を切って! 斬撃の間を崩す!」

 

「分かった。あなたは面を」

 

「先生は正面を抑えて。私が核を削り切る」

 

「はい!」

 

 翼が間合いを詰める。彼女の剣線は最短で、余計な破壊がない。ファイブレッドは正面で受け、角乃は半拍ずらして踏み込む。敵の拍は乱れ、斬撃が鈍る。角乃はそのたび、面の縁を狙う。削る。欠けさせる。証拠を積み上げるように、弱点を露出させる。探偵の推理は、机の上では完成しない。戦場でしか確かめられない事実がある。角乃はそれを、戦う身体で理解していた。

 

「ほら、踊れない。拍が崩れてる」

 

「うるさい、うるさい、うるさい!」

 

「嫌ならやめればいい。嫉妬で人を傷つけるのを」

 

 角乃の言葉に、敵は憎悪で刃を振り抜いた。だがその一撃は、もう“舞”ではない。型を失った暴力だ。鬼面が割れかけた隙間から、紫の瘴気が漏れ、怨念の芯が露出していく。角乃は確信した。こいつは鬼ノーワンではない。倒したはずの鬼が戻ったのではない。倒した“鬼の恐怖”を材料にして、別の怨念が同じ皮を被ったのだ。だから星野は叫び、だから自分は見抜けた。過去の記憶が、罠にも、武器にもなる。

 

「先生、翼。鬼じゃないなら、手がある。核は面だ。ここで終わらせる」

 

「ええ。病院を、これ以上汚させない」

 

「僕も……生徒が眠る場所を、守ります!」

 

 三人の声が重なり、戦いの輪郭がひとつに揃う。角乃はユニコーンドリル50を構え直し、回転を最小限に制御した。削るための一撃。壊すためではなく、暴くための一撃。般若の面がどれだけ誇り高くても、欠けた瞬間に怨念の正体は露わになる。角乃はその刹那を、逃さない。

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