ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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削り取っ面面

 紫の瘴気が床の継ぎ目に溜まり、蛍光灯の白さを汚すように揺れていた。廊下の奥では車椅子が急いで押され、看護師の声が擦れたまま飛び交う。角乃は視線だけで避難の流れを追った。翼が人の背中を庇う位置に立っている。星野はファイブレッドとして正面に構え、三日月刀の軌道を封じようとしていた。敵は鬼面のような顔を傾け、まるで舞台に立つ役者のように一拍置いてから刃を振る。

 

「翼、患者さんを先に奥へ! 先生は正面を抑えて、刃だけは廊下の中央に固定して!」

 

「了解したわ。あなたは無茶をしないで」

 

「無茶じゃない。検証だよ」

 

 角乃は一歩、斬線の外へ滑り、敵の呼吸と足運びを数え始めた。速さではない。溜めて、見せて、斬る。斬った後に、必ず一拍。派手さのための間ではない。周囲の心に棘を刺すための間だ。悲鳴の方向が、恐怖だけに向いていないのが耳に入った。

 

「見ないで……! 私、さっき……!」

 

「なんで私ばかり……あの人ばっかり……!」

 

 角乃は舌打ちしそうになり、飲み込んだ。過去に戦った鬼ノーワンは、もっと直線的だった。恐怖を増幅して押し潰す。こんなふうに恥や嫉妬を掻き立て、心の奥を掘り返すやり方は取らない。外見と武器が同じでも、中身が違う。違うなら、同じ勝ち筋は通らない。なら、通る勝ち筋を作るしかない。

 

「先生、その刃、拍がある。溜めの長さも戻りも一定だ。二回……三回、同じ」

 

「拍……つまり、型が決まっている?」

 

「そう。型なら、次が読める。読めるなら、罠に乗せられる」

 

 角乃は敵の斬撃を受け止めるのではなく、出させる必要があった。拍を崩してしまえば、罠は成立しない。翼の斬線管理が重要になる。翼は避難を続けつつ、敵が“見せたい軌道”を出せる位置に誘導する。危険だが、他に選択肢がない。角乃は翼の目を見て、短く頷いた。

 

「翼、お願い。いまは崩さないで。出させて、同じ型を」

 

「分かった。……あなたの読みを信じる」

 

 翼が半歩下がり、敵の斬撃が廊下の中央を通るように角度を整える。三日月刀が振り上げられ、紫の刃風が空気を鳴らした。敵は笑う。人を見下す笑いではなく、観客の心を煽る笑いだ。

 

「ほら、怯えろ。醜い顔を隠せ。羨め。悔やめ。己の浅ましさに沈め」

 

「……やっぱり鬼じゃない。般若の喋り方だ」

 

「何?」

 

「恥と嫉妬で縛る。恐怖で壊す鬼とは別物。核は面だ」

 

 角乃の確信は、次の手順へ直結した。星野に頼むのは、拘束ではなく“発動条件付きの拘束”だ。ここで銀のテガソードを万能道具にしないため、角乃は制約を明確にする。次の一拍、敵が型通りに振る瞬間だけ閉じる拘束輪。武器腕を止めれば拍の起点が潰れ、面への一撃が通る。

 

「先生、銀のテガソードで仕込める? 次の拍で閉じる拘束。対象は刀の柄じゃなくて、武器腕だ」

 

「できると思う。ただし、一拍だけだ。長くは持たない」

 

「一拍で十分。次の斬撃の“溜め”に合わせて閉じて」

 

 星野は小さく息を吸い、銀のテガソードを床近くへ滑らせた。廊下の手すり、点滴スタンドの脚、金属のワゴンの縁。目立たない場所に細い光の輪が刻まれていく。普段ならただの設備だが、今は罠の部材になる。星野の動きは無駄がなく、教師が黒板に線を引く時の正確さがあった。

 

「次の拍で閉じる。……角乃さん、合図を」

 

「私が数える。今、溜め……一拍……二拍……次が“見せ”だ」

 

 敵は、型を崩さない。崩したくないのだ。自分の怨念を、誇示するための舞として保ちたい。角乃はその心理に賭けた。挑発は短く、刺さる言葉だけを選ぶ。病院の廊下で煽るのは危険だが、ここは敵を型に縛るための一点だ。

 

「その踊り、まだ続ける? 面が欠けたら、恥が剥がれるよ」

 

「――黙れッ!」

 

 般若ノーワンが怒りで踏み込み、溜めの姿勢に入る。予測通り。次の拍で斬撃が来る。その瞬間に拘束が閉じれば、刃は止まる。止まった刃は舞を失う。舞を失った般若は、面を守れない。角乃はユニコーンドリル50の回転を落とし、削るための角度に合わせた。

 

「いま! 閉じて!」

 

「閉じる!」

 

 銀の光が輪となって締まり、武器腕を絡め取った。三日月刀が振り下ろされる寸前で止まり、紫の刃風が未完成のまま空中で崩れる。般若ノーワンの体勢が半歩遅れ、一定だった拍が途切れた。周囲の悲鳴も一瞬、言葉の棘を失う。恥と嫉妬の干渉が薄くなる。角乃はその“空白の一拍”に入り込んだ。

 

「核は面。……削る」

 

 ユニコーンドリル50の先端が、般若の面の縁を掠めた。深く穿つのではない。欠けさせる。割れ目を作る。怨念の芯がそこから漏れるように。ゴリ、と短い摩擦音がして、面の端が欠けた瞬間、瘴気が乱れた。般若ノーワンは面を押さえる仕草を見せる。鬼のように強がれない。隠したい弱点が露出した証拠だった。

 

「やめろ……! 我が面を……!」

 

「やめるのはあなた。ここは病院よ」

 

「翼、今! 斬線は最小で!」

 

「分かった!」

 

 翼が踏み込み、必要な分だけの一閃を入れた。派手な衝撃はない。だが斬線は正確で、般若ノーワンの重心だけを落とす。拘束が切れかけたところへ、角乃はもう一度だけドリルを当てた。欠けた縁を広げ、面の中心へ亀裂を走らせる。拍を作る余裕を与えない。怨念が“見せ場”を失った途端、般若はただの歪みになる。

 

「羨むな、悔やむな……! お前たちだって、きれいな顔で守るって言うだけだろうがァ!」

 

「きれいに見せたいなら、裏で人を汚すな」

 

「先生、離れて! 最後、割る!」

 

「了解! ……頼みます!」

 

 角乃は回転を一段だけ上げ、面の亀裂に先端を滑り込ませた。割るのは一瞬でいい。破壊ではなく、核の露出。般若ノーワンの面が音もなく崩れ、紫の瘴気が空中で散る。周囲の空気が軽くなり、さっきまで「見ないで」「私のせいで」と吐き出していた人々の声が、普通の呼吸へ戻っていく。

 

「・・・終わったんだな」

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