ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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夜の闇の中で

 衝撃は、終わったはずの戦いをもう一度やり直すみたいに遅れてやって来た。遥か遠くへ吹き飛ばされた身体が転がり、砂利と瓦礫を抱え込んで止まるまで、夜空はやけに澄んで見えた。工業地帯の端か、河川敷に近い空き地か。折れたフェンスが斜めに突き出し、錆びた看板が風に軋んでいる。そこでようやく、音が耳に刺さった。救急車のサイレンだ。近づいているのではない。風向きが変わっただけで、ひときわ鋭く、鼓膜の奥を引っ掻く。

 

 起き上がろうとした瞬間、身体の片側が妙に軽いことに気づいた。軽いというより、そこだけが“抜けている”。熱の重さがない。鼓動の揺れが届かない。自分の身体であるはずの場所が、借り物みたいに冷えている。胸の内側を探ると、返ってくるのは空白だった。声をかければ返るはずのものが、沈黙している。

 

「はっ?私は一体何を?うぅむ、ハニー?あれ、ハニー?もう冗談は止さないかハニー♡」

 

 声はいつもの調子で出た。甘く、軽く、飾り立てるように。だが言い終えた途端、喉の奥に砂が詰まったように息が止まった。返事がないからではない。返事がないことを、耳ではなく身体で理解してしまったからだ。半身の沈黙が、皮膚の内側から冷たく押し返してくる。冗談で済ませられる距離ではない、と骨が言っている。

 

 サイレンの高音がもう一度、強く鳴った。すると、別の音が混ざる。拍手の乾いた連なり。弦の余韻。遠くで歪んだマイクのハウリング。今ここにあるはずのない残響が、頭の内側で組み合わさって、ひとつの“箱”の輪郭を作った。あの会場だ。あの灯りだ。あの拍手だ。胸の奥で、知らない呼吸が一拍だけ混ざる。自分の思考より早く、身体が結論を急ごうとする。

 

 足りない、と。

 

 その言葉は、口に出ていないのに、舌の裏側に味だけが残った。慌てて自分の手を見た。指先が震えている。震えは恐怖ではない。飢えの残り香に近い。触れた感覚がある。刺した反動がある。引き抜いた時に、身体が軽くなったような錯覚まで、指の関節に残っている。なのに映像は戻らない。戻るのは手順だけだ。刺す、吸う、反動、静寂。その順序が、まるで誰かに教え込まれた動作のように滑らかに繋がる。

 

「えっ、まさか、この手の感覚は?」

 

 半身の空白が、急に重くなった。沈黙が、ただの沈黙ではなく、深い底へ沈み切った沈黙だと分かる。声をかけても届かないのではない。届く前に、受け取る側が眠ってしまっている。眠りという言葉がぬるく感じるほど、意識は遠い。自分の内側に“眠り続ける気配”があることが、最悪の証拠になった。

 

 サイレンが再び鳴る。今度は、あの残響と完全に重なった。胸の奥の別の呼吸が、ほんの一瞬だけ強くなる。怖いのは、怒りでも憎しみでもない。その呼吸が、罪悪感に触れても強くなることだ。動揺すればするほど、楽になる方法を囁くように、身体の奥が“吸う”方向へ傾く。救いではない。最短の麻酔だ。正気に戻った直後が、いちばん危険な窓になる。

 

「はぁ!?私がっハニーを?!返事をしてくれ!ハニー!ハニー!?あぁぁぁぁ!!」

 

 叫びは夜に散った。だが叫び終えた瞬間、足が一歩、勝手に前へ出ていた。サイレンの方向へ。ハニーを探すための一歩にも見える。けれど、もう一つの呼吸が“餌”の方角を指しているようにも感じる。その自覚が遅れて来て、背筋が凍った。自分の手首を握り潰すほど強く押さえ、膝をつく。地面に刃を突き立て、身体を固定する。半身へ触れるように胸元を押さえるが、返ってくるのは沈黙だけだ。沈黙が、遠さと同じ重さで胸を満たす。

 

 風が変わり、サイレンが少し弱まった。それに合わせて、胸の奥の別の呼吸も引く。外部の条件ひとつで、ここまで揺れる。気合で抑える類ではない。自分が近づくほど危険が増える、と理解してしまう。だが近づかなければ、何も返せない。償いも、終わらせ方も、ここで固まってしまう。

 

 立ち上がろうとして、また指先がピクリと動いた。爪の内側に、黒い脈動の名残が一瞬だけ浮かぶ。皮膚の下で、細い影が絡みつく感覚がして、すぐに消える。消えたのに、消えていないと分かる。遠いはずのサイレンが、最後に一度だけ鋭く鳴り、夜の暗がりが不自然に深く落ちた。

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