ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
商店街のアーケードに、場違いなほど派手な垂れ幕がぶら下がっていた。『近日開催!No.1ツッコミ選手権(仮)』。括弧の中の“仮”が妙に腹立たしい。人々はいつも通り買い物をしているのに、どこか落ち着かず、看板の文字を二度見しては首を傾げている。空気が、笑いを強要される直前の舞台袖みたいに張っていた。
「……嫌な予告ね。誰が“仮”のまま貼り出すの」
「しかし、皆さんの表情が硬いのは事実です。ここは一度、穏やかにお声がけを」
「穏やかにって、あなたが言うと一番危ないのよ」
マリアが肩越しに釘を刺しても、暴神竜儀はにこりともせず、ゆっくり歩調を変えない。信仰の人のマイペースは、車線変更より難しい。二人が垂れ幕の下をくぐった瞬間、通りの真ん中に小さな露店が見えた。眼鏡が、異様な数だけ並べられている。しかも全部、タグが手書きだ。『人生用』『恋愛用』『戦闘用(※責任確認中)』。
「いらっしゃいませぇぇぇ!本日のおすすめは、“現実が見えすぎる”クリアレンズ!あなたの人生、度、合ってますかぁっ!」
店主の青年は小柄で、妙に身振りが大きい。眼鏡をかけたり外したりしながら、客の顔を覗き込んでは勝手に頷く。目黒トオル――名札にはそう書いてあるのに、本人は名札を指で弾きながら、まるで舞台のセンターマイクに立っている顔をしていた。
「ちょっと。営業はいいから聞かせて。あの垂れ幕、あなたが出したの?」
「垂れ幕は“前説”です!前説があると、笑いは生き残れる!いやぁ、あなた、ツッコミ顔ですね!目力が“訂正”って言ってる!」
「顔で役を決めないで」
「はい出ましたぁ!その一言、ツッコミの基本!訂正!抑制!愛!」
竜儀が真面目に一歩進む。
「あなたが目黒さんですね。素晴らしい品揃えです。視界を整えることは、心を整えること。テガソード様も――」
「神さま来店!?うわ、神さま用フレームあります!これ、“信仰の度数”が強い方向けで!」
「話を広げないで」
マリアが額を押さえた瞬間だった。露店の奥、眼鏡ケースの隙間から、金属が触れ合う乾いた音がした。カチン、と。次いで、指輪がひとつ、勝手に跳ね上がる。薄い光が灯り、まるで「見つけた」とでも言うように、目黒の鼻先でふわりと止まった。
「え、なにこれ。……え、俺の顔、そんなに“指輪向き”?」
「触らないで。危険かもしれない」
「危険……?危険って、舞台の香りがする……!」
目黒が指輪に手を伸ばす。止める間もなく、光が掌に吸い込まれ、商店街の照明が一瞬だけ明滅した。垂れ幕の“仮”の文字が、なぜか誇らしげに揺れる。
「……竜儀、下がって」
「いえ。ここは私が――」
指輪が鳴った。言葉ではなく、合図のような音。目黒が咳払いをし、急に姿勢を正す。さっきまでの軽薄さが、舞台人の“本番前の静けさ”に切り替わる。
「……エンゲージ」
光が弾けた。額のあたりに宝石のような煌めきが走り、赤いラインが全身を縁取っていく。見慣れない戦士の姿――しかし、どこか懐かしい“古いヒーローの匂い”がする。目黒は一度だけ自分の手を見て、次にマリアの方へ向き直った。
「どう?このフォーム。視界、クリア?」
「……褒めてほしいなら、まず周りを見なさい」
言われた通り、目黒が振り向いた瞬間、垂れ幕の支柱がギシ、と嫌な音を立てて傾いた。通行人が息を呑む。マリアが踏み出すより早く、目黒の腕が伸びた。赤いロープ状の光が走り、支柱をぐるりと縛り上げる。落ちかけた垂れ幕が、寸前で止まった。
「セーフ!命拾い!これぞ“バカでも生き残る”装備!」
「今のはバカじゃなくて、たまたま反射神経が良かっただけよ」
「え、今のツッコミ、痛い!でも気持ちいい!俺、いけるかもしれない!」
竜儀が頷く。妙に感心している。
「素晴らしい。人を守るための反射は、尊いのです」
「ありがとうございます!え、でも……俺、守ったの垂れ幕だけじゃない?いや守ったよ、笑いの未来を!」
「話を戻すわよ。あなた、戦う覚悟はある?」
「戦う?もちろん!俺は――視界クリアNo.1!人の迷いを、レンズで切る!」
「……切るな。余計に刺さる」
その時、商店街のスピーカーが勝手に雑音を吐いた。誰も触れていないのに、マイクチェックのようなハウリングが走り、通りの全員が同時に肩をすくめる。垂れ幕の文字が、今度ははっきりと“更新”される。『No.1ツッコミ対決、まもなく開幕』。仮のまま、勝手に本番へ進もうとしている。
「……最悪ね。誰が仕切ってるのよ」
マリアが吐き捨てると、目黒は逆に目を輝かせた。舞台に呼ばれた役者の顔だ。
「来た!俺の時代!ツッコミで生き残るって、そういうことでしょ!」
竜儀は静かに、しかし確信に満ちた声で言った。
「皆が傷つかない形で終わらせましょう。テガソード様の幸せのために」
「信仰は後でいい。まずは――この“本番”を止めるわ」
商店街の奥、見えない誰かが笑ったような気配がして、空気が一段だけ冷えた。まだ姿のない敵の影が、照明の下で伸びていく。目黒の指先が、無意識に眼鏡の位置を直す仕草をした。今、彼は眼鏡をかけていない。それでも“見えてしまう”何かが、近づいていた。