ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
商店街の奥から笑い声がした気がした。照明の明るさは変わらないのに、光の“質”だけが変わる。輪郭が硬くなり、影が伸び、アーケードの床に薄い線が引かれていく。さっきまで単なる通路だった場所が、いつの間にか「舞台」になっていた。垂れ幕の文字が勝手に並び替わり、簡単な命令だけを太字で押しつけてくる。生き残れ。勝ち残れ。ツッコめ。ひらがなの丸さが、逆に怖い。
「……嫌な空気ね。これ、誰かが“遊び”の形に偽装してる」
マリアが言った。
「つまり、試練ということでしょうか。では、落ち着いて――」
竜儀が言いかけたところで、天井のスピーカーが勝手に起動した。ノイズが一瞬だけ走り、次に、妙に丁寧な声が流れ込む。性別も年齢も曖昧な、司会者の声だった。
「只今より、No.1対決を開始いたします。本日の種目は、突っ込み対決。『正しく突っ込めた者』が勝者です」
声は淡々としているのに、言葉だけがやけに楽しげだった。
床の線が光り、三人の足元を円形に囲む。露店だった眼鏡屋の棚が、いつの間にか審査席のように整列している。透明なスクリーンが空中に浮かび、三つの名前が表示された。暴神竜儀。マリア・カデンツァヴナ・イヴ。目黒トオル――そして、目黒の名前の横にだけ赤い宝石のアイコンが点灯し、彼の額の宝石が小さく脈を打った。センタイリングとテガソードの力でユニバース戦士に“エンゲージ”する仕組みが、ここでは露骨に「競技化」されている。
「え、俺、出場者扱い?出演料出る?」
目黒が言った。
「出るわけないでしょ。集中しなさい」
マリアが言った。
「なるほど。皆で幸せになるための儀式なのですね」
竜儀が言った。
「その理解は今いらない」
マリアが言った。
空中に、リング型のマイクが降りてきた。マイクの側面には、王冠みたいな数字が刻まれている。No.1。表面はきらきらしているのに、中心の穴だけが暗い。そこから声が続いた。
「ルールは簡単。ボケが発生します。突っ込めば正常化。突っ込めなければ、現象は加速します。なお、突っ込みは“言葉”でも“行動”でも結構です。ただし、的外れは減点です」
減点という単語が、やけに軽く響いた。空気が一段、冷える。これを失敗すると、減るのは点数だけでは済まないと、身体が先に理解していた。
「……目黒、あなたの力、ここで使える?」
マリアが言った。
「使える使える!視界クリアだから!ほら、見えるよ、あそこに“ボケの予告テロップ”!」
目黒が言った。
彼が指差した先、垂れ幕の“仮”の文字が膨らみ始めていた。紙のはずの布が呼吸するように膨張し、括弧の“仮”が歯をむくみたいに尖る。次の瞬間、垂れ幕が蛇のようにしなって飛び、三人へ襲いかかった。
「来たわよ、第一問」
マリアが言った。
竜儀が一歩前に出た。立ち位置がゆっくりなのに、迷いがない。垂れ幕が顔面へ迫る。
「その“仮”は、今ここで終わりにしましょう」
竜儀が言った。
彼は垂れ幕を受け止めるのではなく、掌で軽く“押し戻した”。押し戻しただけなのに、布が跳ね返り、アーケードの柱に叩きつけられて止まる。怪力というより、現実の重さが竜儀の手に従っているようだった。
「……物理で突っ込むの、やめてくれない?採点がややこしくなる」
目黒が言った。
「文句を言う前に、あなたもやりなさい」
マリアが言った。
目黒が大げさに胸を張った。額の宝石が光り、赤い光が床を走る。宝石エネルギーが集まる時の、舞台のスポットライトみたいな眩しさだ。
「はいはい出ました!“仮”は仮じゃない!仮は仮なんだよ!……いや違う、えっと、仮のまま始めるなぁぁ!」
目黒が言った。
言い終えた瞬間、空中のスクリーンが点滅し、目黒の名前の横に「判定:微妙」と表示された。マリアが深く息を吸う。
「今のは自分で迷ってるじゃない。ツッコミは迷いを切れって言ってるの」
マリアが言った。
垂れ幕が再び動き出した。“仮”の文字が増殖している。括弧まで増える。仮(仮)(仮)。視界がうるさい。目黒が焦って眼鏡を探す仕草をしたが、当然ない。代わりに額の宝石が、じわりと熱を持つ。
「おい待て、視界クリアなのに、視界が汚い!」
目黒が言った。
「それがボケよ!」
マリアが言った。
マイクが楽しそうに鳴った。
「第二段階へ移行します。ボケの加速、開始」
床の線が赤くなり、垂れ幕だけではなく、商店街の看板まで暴れ始めた。『本日特売』が『本日絶叫』に変わり、値札が刃物のように飛ぶ。露店の眼鏡フレームが勝手に回転し、輪投げの要領で人の首に飛びつこうとする。
「避難を!後ろの人、下がって!」
マリアが言った。
マリアの声はよく通る。通るのに、叫びにならない。落ち着かせる力がある。通行人がハッと我に返り、走り出す。だが、避難導線の先に、眼鏡の輪が転がっている。踏めば転ぶ。
目黒が動いた。赤いロープ状の光が伸び、輪を一つずつ絡め取る。あの時の支柱を縛った光だ。ロープは舞台のカーテンみたいに動き、輪を束ねて端へ寄せた。
「見たか!これが視界クリアの整理整頓ツッコミ!」
目黒が言った。
「今のはいい。ようやく“役に立つボケ”になってきたわ」
マリアが言った。
スクリーンが反応し、目黒の点数が少し上がった。次に、竜儀の点数が妙に跳ねた。彼は何も言っていないのに、点数が上がっている。
「……あなた、今何したの?」
マリアが言った。
「何もしておりません。ですが、皆さんが落ち着いたのでしたら、それは良いことです」
竜儀が言った。
「採点が一番不穏なのよ」
マリアが言った。
司会の声が続く。
「続いて、第三問。『的外れツッコミ』が発生します。気をつけてください」
嫌な予告だった。次の瞬間、床の線がぐにゃりと歪み、三人の立っている位置が“漫才の立ち位置”みたいに勝手に決められる。目黒がセンター、竜儀が左、マリアが右。マイクが降りてきて、目黒の口元にぴたりと寄る。
「え、俺センター?これ、相方の立ち位置、合ってる?」
目黒が言った。
「合ってるわけないでしょ。罠よ、罠」
マリアが言った。
目黒の背後で、巨大な矢印が出現した。矢印の先には「ここでツッコめ」と書かれている。指示が露骨すぎて、逆に信用できない。
「ほら、ここでツッコめって言ってる!親切!」
目黒が言った。
「親切な敵なんていない!」
マリアが言った。
竜儀が一歩、ゆっくり前に出た。矢印の先に立ち、矢印そのものを見上げる。
「なるほど。ここでツッコめ、というのは……ここで『誰かを傷つけない形』を選べ、という意味かもしれません」
竜儀が言った。
「深読みを始めないで!」
マリアが言った。
矢印が怒ったように震え、文字が変わった。「ここでツッコめ」が「ここで黙れ」に変わる。命令が二転三転し、目黒の頭が追いつかない。彼は反射的に眼鏡を直す仕草をして、直すものがなくて空振りした。
「くっ……!俺の視界!指示が多いと視界が濁る!」
目黒が言った。
「だったら“指示にツッコめ”!一つにしろって言ってるの!」
マリアが言った。
目黒が息を吸う。舞台人の癖で、ここで“決め”に行こうとする空気が出た。だが、決める前に、竜儀がぽつりと、丁寧に言った。
「目黒さん。あなたは、ボケる人です。だからこそ、今は“正しく受け止める”のが良いでしょう」
竜儀が言った。
「え、急に優しいこと言う!……いや、待て、受け止めたら負けるやつだこれ!」
目黒が言った。
「そう。受け止めるんじゃない。“受け流す”の」
マリアが言った。
目黒は頷き、矢印に向かって叫んだ。
「指示がブレてんだよ!黙れって言うなら、最初から黙れって言え!ツッコミのタイミングを奪うな!」
目黒が言った。
矢印が、スッと消えた。床の歪みが戻り、勝手に決められていた立ち位置が解けていく。空中のスクリーンが点灯し、今度ははっきり「判定:良」と出た。点数が大きく跳ね、目黒が思わず笑った。
「今の……刺さった?俺のツッコミ、刺さった?」
目黒が言った。
「刺さった。だから次は調子に乗らないで」
マリアが言った。
司会の声が、少しだけ低くなった。
「お見事。では、決勝進出条件を提示します。次の課題は――『突っ込みで、仲間を守れ』」
仲間を守れ、の言い方が、急に“遊びじゃない”温度になる。マリアは眉をひそめた。竜儀は落ち着いている。目黒は、笑っているのに目が泳いでいる。舞台が面白くなるほど、舞台の外が危険になるタイプのゲームだ。
「……これ、ただの勝負じゃない。負けたら、街が壊れる」
マリアが言った。
「そうですね。ですが、勝てば守れます」
竜儀が言った。
「勝てば、俺のツッコミがNo.1……ってこと?え、最高じゃん」
目黒が言った。
「最高なのは、全員無事に帰ること」
マリアが言った。
商店街の奥で、誰かがため息をついたような気配がした。笑いを楽しんでいた司会者が、別の“気配”に一瞬だけ言葉を詰まらせたようにも聞こえる。まだ姿は見えない。だが、次の乱入者が近い。空気が、丁寧に整えられていく感触がした。