ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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ブーケ乱入!丁寧すぎて乗れない(そして折れる)

 商店街の空気が、舞台の幕を下ろす代わりに、もう一段だけ硬くなった。さっきまで騒がしかった看板や垂れ幕は一度おとなしくなったのに、床に走る赤いラインだけが消えずに残っている。逃げ遅れた人がいないかを確かめるように、マリアの視線が左右へ走り、竜儀は同じ速度で深呼吸を続け、目黒は勝手に光るスクリーンを覗き込んでいた。点数が増える音が、彼には拍手に聞こえているらしい。

 

「ねえ、見て。俺、今いい感じに“良”取れたんだよ。これ、優勝ある?」

 

「あるわけないでしょ。状況を見なさい」

 

「状況なら見えてる!視界クリアだから!」

 

「視界がクリアでも頭がクリアとは限らないのよ」

 

 スピーカーがノイズを吐き、司会の声が戻る。さっきまでの軽さが薄れ、言葉だけが妙に“正しい”形で並べられた。

 

「次の課題は『突っ込みで仲間を守れ』。仲間が傷ついた時点で失格となります」

 

 言い終えた瞬間、アーケードの奥に即席の観客席が浮かんだ。空席だらけの椅子が、整列しすぎていて不気味だ。誰も座っていないのに、そこから“期待”だけがこちらへ向けられている。空の拍手が聞こえる気がして、目黒が思わず肩をすくめた。

 

「うわ、客いないのにウケを求められてる……これ、地獄じゃん」

 

「地獄でもやるの。仲間を守るのが先」

 

「はい。守ることは、幸せへ繋がります」

 

「今はその話も後」

 

 床の赤いラインがうねり、目黒の足元へ絡みつくように形を変える。ロープではない。言葉でできた縄だ。『ここでボケろ』という文字が、足首に巻きつく。目黒が顔をしかめた瞬間、天井から巨大なメガネフレームが落ちてきた。真下にいるのは避難誘導に戻ろうとした通行人だ。

 

 目黒の宝石が光る。赤い光がロープみたいに伸び、フレームを空中で受け止めた。だが、受け止めただけでは足りない。フレームは意思を持ったように回転し、輪投げの要領で人の首へ吸い寄せられる。

 

「待て待て待て、首はダメ!そこは“視界”じゃなくて“生命”だ!」

 

「そこに気づけるなら十分。引きはがしなさい!」

 

 竜儀がゆっくり手を伸ばし、フレームの回転軸を指で止めた。止めたというより、現実の重さで“落ち着かせた”。フレームが大人しくなった隙に、目黒の光がほどけるように巻き取り、通行人の方へ飛ぶ前にまとめて床へ落とす。

 

「……よし。仲間を守れ、はクリアね」

 

「今の、俺たち完全にコンビじゃん」

 

「調子に乗るな」

 

 その瞬間、空席の観客席に、花の香りが混じった。甘いのに、鋭い。アーケードの奥の影が、丁寧に形を整えるみたいに揺れる。そこから出てきた人物は、戦うために出てきたというより、“挨拶に来た”という姿勢だった。落ち着いた足取り、控えめな微笑み、こちらの距離を勝手に詰めない礼儀正しさ。

 

 ブーケだった。

 

「皆さま、お騒がせして申し訳ございません」

 

 敵の口からまず謝罪が出る状況に、目黒が固まる。竜儀は深く頷き、マリアは嫌な予感だけを強めた。

 

「ブライダンの幹部、ブーケ……よね」

 

「はい。お噂は伺っております、マリアさん。ご不安もごもっともです」

 

「不安を認めるなら帰って」

 

「それは難しいですね。ですが、無理に恐れさせたいわけでもありません」

 

 ブーケが一歩、舞台の赤いラインの内側へ入った。その瞬間、空の観客席が静かになった。拍手の気配が消える。司会の声が、ほんのわずかに詰まった。笑いの流れそのものが止められたようで、目黒の宝石の脈動も、一瞬だけ鈍る。

 

「……あれ?空気、変わった。え、何これ、客が“しらけた”みたいな」

 

「しらけたんじゃない。丁寧に“冷やされた”のよ」

 

「冷やす?花の香りなのに?」

 

「香りと温度は別」

 

 ブーケは目黒を見て、優しく頷く。その頷きが、嫌に的確で、嫌に疲れる。

 

「目黒さん。お顔に書いてあります。褒めてほしい、と」

 

「え、書いてないよ!?いや、書いてるかもしれないけど!?」

 

「はい。ですので、褒めます。先ほどの対応、とても立派でした」

 

「……え」

 

 目黒が嬉しそうに笑いかけた瞬間、マリアが低い声で釘を刺す。

 

「喜ばない。敵よ」

 

「でも褒められたら嬉しいじゃん!」

 

「嬉しいのは分かるけど、今はそれが罠になる」

 

 ブーケは動じない。むしろ、こちらの会話の温度を丁寧に測っている。

 

「仲間を守りたい。評価されたい。勝ち残りたい。皆さん、立派な願いです」

 

「……“願い”を口にしないで。あなたたちの土俵に乗る」

 

「乗せるつもりはありません。ただ、整理したいのです」

 

 次の瞬間、舞台が変質した。床の赤いラインが白く塗り替えられ、客席の椅子が整然と並び直され、どこかの相談窓口みたいな空気になる。『ツッコミ対決』と書かれていた垂れ幕が、『ご相談受付中』に変わる。目黒は反射的にツッコミを入れようとした。

 

「おい!漫才の舞台が人生相談にすり替わってるだろ!」

 

「そうですね。人生は相談の連続です。苦しい時は、誰かに話してよいのですよ」

 

「……受け止めが丁寧すぎてツッコめない!」

 

 スクリーンが冷酷に点滅し、目黒の名前の横に「判定:不発」と出た。点数が下がる音が、拍手の裏返しみたいに響く。笑いが起きないから、舞台の現象が“正常化”しない。正常化しないから、危険だけが積み重なる。天井から落ちるフレームが増える。値札の刃が増える。通行人の避難路が削れていく。

 

「……そういうこと。ブーケは、ツッコミに乗らないんじゃない。乗らせないの」

 

「私は、乗せないつもりはありません」

 

「今の時点で乗せてない」

 

 マリアが短く切り捨てると、ブーケは少しだけ視線を落とした。ほんの一瞬。だが、それだけで“余裕”が削れているのが見えた。ブーケは察する。察するから、ふざけにくい。ふざけにくいから、舞台が暴れる。暴れれば暴れるほど、彼女はさらに察して、さらに丁寧に整えようとしてしまう。

 

 竜儀が前へ出る。いつも通り丁寧だが、圧がある。

 

「ブーケさん。あなたは優しい。だからこそ、この形式が苦しいのではありませんか」

 

「……私は」

 

「苦しいなら、無理に笑わなくてもよいのです。ですが、人が傷つくのは、よくありません」

 

 ブーケの眉が、かすかに揺れた。笑いを殺しているつもりはない。だが、結果として危険が増えている。その矛盾が、彼女の胸の奥を締めているのが分かる。目黒はそれを見て、急に真顔になった。ツッコミの舞台なのに、ここだけ空気が現実になる。

 

「……ねえ、ブーケさん。乗れないなら乗れないって言っていいよ。無理すると、もっと滑る」

 

「目黒、今のは優しさが先に出てる。いいけど、今は守るのが先」

 

「守るって、どう守るんだよ。ツッコミが効かない相手だぞ」

 

 マリアはブーケを見た。敵としてではなく、今この場で危険を増幅させてしまっている“要因”として。そして、要因は人でもある。

 

「ブーケ。あなた、ここにいるだけで場を冷やせる。それ自体は武器。でも今は、冷やすほど現象が暴走する」

 

「……そう、なのですね」

 

「そう。だから提案する。あなたは“舞台の外”に出て。今だけでいい。外で落ち着いて」

 

「私は敵です。外に出ろと言われて、素直に従う理由がありません」

 

「従えって言ってない。壊れる前に、休めって言ってる」

 

 ブーケの口元が、わずかに引きつった。丁寧な笑顔の形を保とうとして、保てなくなりかける。目黒の視界には、その歪みがやけに鮮明に映った。視界クリアという言葉が、初めて“冗談じゃない”意味を帯びる。

 

 その瞬間、司会の声が割り込んだ。今までで一番楽しそうに。

 

「素晴らしい。感情の揺れを確認。次の段階へ移行します。『命懸けの笑い』の準備を開始」

 

 床の白が、また赤へ戻り始める。今度は、赤が深い。血の色に近い。観客席がぎし、と音を立て、空席なのに“見ている”圧が増す。ブーケは一歩、後ずさった。花の香りが薄れ、代わりに、疲労の気配が漂う。笑いに乗れないのではない。乗らされるのが、怖いのだ。

 

「……申し訳ありません。少々、理解が追いつきません」

 

「追いつかなくていい。今は退いて。あなたが壊れたら、もっと面倒になる」

 

「……マリアさん。あなたは、敵にも優しいのですね」

 

「優しいんじゃない。巻き込まれたくないだけ」

 

 ブーケは、丁寧に頭を下げた。敗北の礼ではない。撤退の礼でもない。逃げ道を与えられたことへの、反射的な礼儀だ。次の瞬間、花びらのような光が舞い、ブーケの姿は舞台の外へ“押し出される”ように消えた。彼女がいなくなると同時に、空気が戻る。戻るが、良い戻り方ではない。舞台が、暴れる準備を整えただけだった。

 

「……やばい。ブーケさんが消えたのに、もっとやばい空気になってない?」

 

「なってる。さっきの冷却は、暴走の“予熱”だった」

 

「では、ここで終わらせましょう。皆が傷つかない形で」

 

「そのために、あなたの怪力が必要になるわ。目黒、あなたも。次は“ネタ”じゃなくて“命綱”になる」

 

 目黒は唾を飲み込み、額の宝石に触れた。怖いのに、舞台人の血が騒ぐ。笑いが命に繋がるなら、彼は笑いを投げるしかない。

 

「……了解。命懸けって言われたら、芸人は逃げられないんだよ。たぶん」

 

「逃げなさいよ」

 

「逃げたら、ツッコミが死ぬ!」

 

 マリアがため息を吐くより早く、天井の照明が一斉に落ち、スポットライトだけが三人を照らした。舞台が完成した合図だった。空席の観客席から、遅れて拍手が湧き上がる。拍手は温かいのに、どこか機械的で、笑いではなく“採点”の音に近い。

 

 次の本番が始まる。

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