ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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命懸けのお笑いバトル!戦隊パワーでハチャメチャ舞台化

 スポットライトが落ちた。三人の足元だけが白く照らされ、周囲の商店街は舞台袖みたいに黒く沈む。空席の観客席から、遅れて拍手が湧いた。拍手は温かいはずなのに、指先の温度がなくて、採点機のリズムだけが残っている。天井のスピーカーが一度、咳払いのようにノイズを挟み、あの司会者の声が戻ってきた。

 

「『命懸けのお笑いバトル』を開始いたします。ルールは単純。ウケれば安全、スベれば危険。なお、危険は現象化します」

 

「……最悪。笑いで安全を買えってこと?」

 

「はい。正しくは“突っ込みで仲間を守れ”です。皆が無事であれば、それでよいのです」

 

「よくないよ!言い方が穏やかなのに内容が地獄だよ!」

 

 目黒が叫んだ瞬間、空中のスクリーンにテロップが出た。『大声:減点(客の鼓膜に配慮)』。目黒の点数が小さく下がり、代わりに天井から巨大な値札が落ちてきた。値札の角は紙のはずなのに刃みたいに尖っている。

 

「ほら、見なさい。スベると即物理!」

 

「今のはスベってない、ルールが意地悪なんだよ!」

 

「意地悪に突っ込めばよいのです。目黒さん」

 

 竜儀が丁寧に言う。丁寧すぎて、逆に腹が立つほど落ち着いている。マリアは息を吸い、短く切った。

 

「二人とも。まず避難路の確保。次に、舞台の現象を止める。その順番よ」

 

「了解!視界クリア、避難路クリア!」

 

「言葉遊びに逃げない。動け」

 

 目黒の額の宝石が脈を打つ。赤い光がロープみたいに伸び、落下してくる値札を絡め取って床へ叩きつけた。紙が紙らしく潰れず、硬い金属音を立てる。舞台が「危険を本気で殺しに来ている」証拠だった。

 

 その時、舞台の床のラインが深紅へ染まり、中央に大きな円が浮かぶ。円の中にカードが一枚、ひらひらと舞い降りた。『お題:ツッコミは“短く”』『制限:三秒以内』『失敗:落とし穴』。文字が妙に親切で、妙に悪意がある。

 

「三秒!? 無理!漫才の呼吸が死ぬ!」

 

「死なない。短く切ればいいだけ」

 

「……短いのは、私の得意分野ではありません」

 

「あなたまで弱気にならないで」

 

 マリアが言い終える前に、床がスッと割れた。落とし穴が、ルール説明より先に働いている。目黒の足元が沈む。

 

「うわっ!」

 

 目黒が慌てて腕を振る。赤い光が舞台の縁へ伸び、辛うじて宙吊りになる。だが、吊り下げられた彼の頭上に、今度は「ツッコミ不足:追い打ち」とテロップが出て、天井から巨大な眼鏡ケースが落ちてきた。ケースが開くと、中から無数のフレームが飛び出し、輪投げのように目黒の首へ狙いを定める。

 

「おい!首はやめろ!視界じゃなくて生命だ!」

 

「今のがツッコミ。三秒以内。合格」

 

「合格って言うな!落ちる寸前なんだよ!」

 

 竜儀がゆっくり一歩前へ出た。落とし穴の縁に片膝をつき、目黒の足首を掴む。引き上げる動作は丁寧なのに、力は容赦がない。目黒が床へ戻った瞬間、フレームの群れが一斉に襲いかかるが、竜儀は掌を軽く振って“現実の重さ”でそれを止めた。フレームが空中で静止し、次いで、しおれた花みたいに落ちる。

 

「……皆さん、落ち着いてください。怪我は、よくありません」

 

「それ、敵に言って!」

 

「敵に言うのは、あなたの役目」

 

 マリアが言うと、司会の声が楽しげに割り込んだ。

 

「よろしい。次のお題。『相方を笑わせろ』。相方が笑えば加点。笑わなければ……危険を追加」

 

「最悪!笑わせないと死ぬタイプの地獄!」

 

「地獄と言い切るのはやめて。今から笑わせる側に回るの」

 

「え、俺、ボケで生きてきたけど……命がかかると胃が痛い!」

 

「胃が痛いなら治せ。今すぐ」

 

 マリアのツッコミが鋭く刺さった瞬間、テロップが『切れ味:良』と出て、落とし穴が一つ塞がった。言葉が、現象を正す。この舞台は“正しいツッコミ”を求めている。つまり、マリアの言葉は武器だ。

 

 舞台袖――黒く沈んだ商店街の端に、ブーケが座り込んでいた。花の香りは薄れ、肩の力が抜けている。丁寧な顔を保とうとしているのに、目だけが疲れていた。マリアは一瞬だけ視線をそちらへ送り、迷わず一歩、舞台の外へ踏み出した。

 

「ブーケ。大丈夫?」

 

「……ご心配なく。私は敵ですから」

 

「敵でも、倒れていい理由にはならない。水、飲める?」

 

「お気遣いは……」

 

「いいから。今の私は看護係。巻き込まれた人を放っておく趣味はないの」

 

 ブーケが小さく息を呑み、そして、ほんの少しだけ肩の力を落とした。

 

「……ありがとうございます。ですが、私は、皆さまの“笑い”に、どうしても……」

 

「乗れない。それでいい。乗れないなら、乗れないまま休んで」

 

「……その言い方は、ずるいですね」

 

「ずるくて結構。生き残る方が大事よ」

 

 マリアが舞台へ戻ると同時に、司会の声が冷たくなる。

 

「審査員が席を外しました。進行を加速します」

 

「審査員じゃない。ツッコミ役よ」

 

「それが審査です」

 

 床が震えた。深紅のラインが波打ち、商店街の看板が舞台上へ吸い寄せられていく。『特売』『営業中』『閉店』が、次々と剣のように突き立ち、道を塞いだ。通行人はいない。避難はできた。だが、それでも危険は増える。危険が“観客の満足”のためだけに増えることが、いちばん腹立たしい。

 

「目黒。竜儀。二人でやる。コンビで勝つ」

 

「コンビ!? 俺、相方の名前も知らないで組んでるんだけど!」

 

「今知りなさい。暴神竜儀。丁寧で、危険で、話が長い」

 

「マリアさん、後半の評価が少々……」

 

「事実よ。だから突っ込みの的にしやすい」

 

 目黒が息を吸った。舞台人の呼吸だ。怖いのに、笑いに向かう時だけ肺が勝手に広がる。

 

「よし。俺がボケる。竜儀さんが怪力ツッコミ。マリアさんが審判……じゃなくて、命綱!」

 

「命綱で合ってる」

 

 司会の声が期待に満ちる。

 

「始めてください。『相方を笑わせろ』。制限時間は――短縮。五秒」

 

「短縮すな!」

 

「今のツッコミ、良。続けて」

 

 目黒が一歩前へ出た。額の宝石が強く光り、舞台にスポットライトがいくつも立つ。空席の観客席にまで光が走り、椅子の影が人の形に見え始める。観客を“作る”演出だ。笑いの相手がいないなら、相手を用意してしまう。危険な発想なのに、この舞台では正しい。

 

「皆さーん!視界クリアの時間です!本日のゲスト、暴神さん!この人、信仰の度数が強すぎて、現実がボヤけてます!」

 

「目黒さん。私は、現実を見ています。テガソード様の――」

 

「出た!神さまワード!はいツッコミどころ!“今は神さまより目の前の落とし穴見ろ!”」

 

 目黒が叫ぶと同時に、床が割れ、竜儀の足元に落とし穴が開いた。舞台が、ツッコミの“証明”を求める。竜儀は落ちない。落ちそうになった瞬間、足首で床を踏み抜き、逆に落とし穴を潰した。

 

「……落とし穴は、よくありません」

 

「よくないのはお前の落ち着きだよ!」

 

 目黒が突っ込む。竜儀が一瞬だけ口元を緩めた。笑いかけている――が、五秒の制限が容赦なく迫る。笑いが起きなければ、危険が追加される。

 

 そこでマリアが割って入った。

 

「竜儀、笑ってる場合じゃない。笑うならちゃんと笑いなさい。中途半端が一番点を落とす」

 

「……なるほど。笑いも、誠実であるべきなのですね」

 

「そう。その誠実さで、爆笑して」

 

「無茶言うなぁ!」

 

 目黒が叫んだ瞬間、司会の声が楽しげに弾んだ。

 

「審査。マリアのツッコミ、加点。目黒の叫び、減点。危険、追加」

 

 天井から、巨大な「ダメ出し」ハンマーが落ちてきた。観客席の方から振り下ろされ、舞台を叩き潰そうとする。ハンマーの頭には『もっとウケろ』と書いてある。笑いを要求する暴力が、形になった。

 

「来たわね。これが“命懸け”の正体」

 

「俺の胃が死ぬ!」

 

「胃が死ぬのは、まだ早いです」

 

「優しいこと言ってる場合じゃない!」

 

 目黒が光のロープを伸ばし、ハンマーの柄を絡め取って軌道を逸らす。しかし重い。引っ張られる。足がずれる。舞台が、スベりを“重力”に変えている。竜儀が横から踏み込み、柄を片手で掴んだ。掴んだだけで、ハンマーの動きが止まる。

 

「……重いですね」

 

「当たり前だよ!ダメ出しは重いんだよ!人生で一番重いんだよ!」

 

 目黒が叫ぶ。マリアが即座に突っ込んだ。

 

「上手いこと言ってる暇があるなら支えなさい!」

 

 その一言が“正しい”。テロップが『切り返し:良』と出て、重力が一瞬だけ軽くなる。目黒は息を吸い直し、竜儀を見た。ここで勝つには、二人が噛み合うしかない。

 

「竜儀さん!怪力ツッコミ、見せ場だ!そのハンマー、突っ込んで折れ!」

 

「折る、ですか。壊すのは……」

 

「壊すんじゃない!“正す”んだよ!」

 

 竜儀が頷いた。信仰の人の頷きは、決断が遅いのに揺るがない。彼はハンマーを上へ持ち上げ、観客席へ向けてそっと置くように押し返した。暴力を暴力で跳ね返すのではなく、無理やり“舞台の外”へ戻す。ハンマーは空席の椅子に突き刺さり、そこで動かなくなった。観客席の影が一瞬だけ揺れ、機械的な拍手が、ほんの少しだけ“笑い”に近い温度を帯びる。

 

「……今の、ツッコミじゃなくて、お片付けじゃない?」

 

「片付けも突っ込みよ。間違ったものを、元の場所へ戻す」

 

「それ、名言っぽく言うな!俺が弱く見えるだろ!」

 

「弱くない。あなたは、よく動いている。ですが、叫びは減点です」

 

「減点のツッコミまで丁寧にするな!」

 

 竜儀の口元が、今度ははっきり緩んだ。笑いだ。派手ではないが、確かに笑った。五秒の制限の中で、必要なだけ笑った。

 

 テロップが『相方笑い:達成』と点灯し、舞台の危険が一段だけ引いた。落とし穴が塞がり、看板の刃が鈍り、観客席の圧が少し和らぐ。目黒はその変化を肌で感じ、思わず笑ってしまう。

 

「うわ、マジで笑いが命綱だ……!俺、今、芸人で良かったかもしれない!」

 

「その調子で次も行く。まだ終わってない」

 

「次も?まだあるの?」

 

 司会の声が嬉しそうに言った。

 

「はい。次のお題。『二人で最大級のスベりを回避せよ』。失敗した場合、舞台は崩壊します」

 

「最悪!スベったら終わりじゃん!」

 

「終わらせません。皆が傷つかない形で」

 

「その丁寧さ、今だけは頼もしい……!」

 

 マリアは一度だけ、舞台袖を見た。ブーケが壁にもたれ、呼吸を整えている。まだ折れている。けれど壊れてはいない。ここで終わらせれば、誰も壊れずに済む。そのために必要なのは、正しいツッコミと、正しい無茶だ。

 

「二人とも。次は“最大級のスベり”が来る。だから先に言っとく。スベったら私が殴る」

 

「言い方が暴力!」

 

「ツッコミは時に暴力。命を守るなら、なおさら」

 

 スポットライトがさらに白くなる。舞台が、次の地獄を用意している。目黒は笑いながら、喉の奥で震えていた。竜儀は穏やかな顔のまま、拳を握り直した。観客席の影が、ひとつ、ふたつと濃くなる。拍手の音が、今度ははっきりと“要求”に変わっていく。

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