ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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愛の空から

 街の音は、ふだんより少しだけ上ずっていた。正月の飾りが取り切れずに残る商店街の端、銀行や公的施設が固まる区画に近づくほど、人の足取りは硬くなる。そこで、風に混じって低い羽音が続いていた。ドローンのローター音だ。ひとつではない。複数が同じ高度を保って旋回し、誰かを包囲するように円を描いている。

 

 猛原禽次郎は、その規則性を見た瞬間に足を止めた。偶然の暴走ではない。道路脇の誘導バーが不自然に倒れ、電線の保護カバーが裂けているのも目に入った。風で剥がれたにしては切り口が鋭い。ここにいる誰かが「落ちてくるもの」を計算している。

 

「危ないから下がれ! 上、見んな!」

 

 叫んだ声が喉の奥で乾いているのが分かった。通行人が反射的に足を止め、天井を仰ぐ。見上げた瞬間がいちばん危ない。禽次郎は人波の前へ出て、体で視線を遮るように立った。危険を“見せない”のも守り方だ。

 

 その直後、屋上の稜線に沿って黒い影が跳ねた。ドローンではない。人の動きだ。あり得ない速度で屋上の縁から縁へ飛び移り、着地のたびに靴底が滑らずに止まる。人の関節の柔らかさを超えた“獣”の動きだった。

 

 影がこちらへ視線を向けた。遠いはずなのに、見られた感触がある。目が合ったわけではないのに、見抜かれたと断言できる冷たさ。次の瞬間、影が手元の端末に指を滑らせると、ドローン群が一斉に高度を下げた。道路の上、ちょうど人が集まりかける位置へ落ちてくる軌道だ。

 

「……来るぞ」

 

 禽次郎は誰に向けるでもなく呟いた。拳の中で、指輪の感触が硬くなる。今ここで使えば事態は派手になる。だが使わなければ、落下物は選べない。奪われる側の感覚だけは、もう二度と増やしたくなかった。

 

 上空で、ひとつのドローンが急旋回した。意図的だ。ローターの風圧で電線が揺れ、裂けた保護カバーの内側が露出する。ショートすれば火花が落ちる。群衆はそれを知らない。恐怖は伝播するだけで、危険の場所は伝わらない。

 

「そこの二人、走れ!」

 

 禽次郎は近くの親子を押し出すように避難させ、停まっていた車のボンネットを叩いて運転手に退避を促した。理解が遅れれば事故が起きる。だからまず動かす。

 

 そのとき、背後から低く重い足音が近づいた。足音の主は迷いなく危険区域へ踏み込んでくる。振り向くより早く、禽次郎の背に圧がかかった。

 

「下がれ。ここから先は俺が預かる」

 

 風鳴弦十郎だった。乱暴な言葉の中に手順がある。避難路、落下予測、周囲の死角を瞬時に組み替える目をしていた。拳は握っているのに、殴るための拳ではない。守るために“止める”拳だ。

 

「助かる。上、操ってる奴がいる」

 

「分かってる」

 

 弦十郎が短く頷いた、その瞬間だった。屋上の影が動いた。まるで待っていたかのように、今度は真っ直ぐ弦十郎へ飛びかかる。空から落ちてくるというより、空そのものが刺さってくる。速い。禽次郎の視界に残像が焼きつく。

 

 赤い戦士が地上に降り立つ。

 

 それは禽次郎が変身しているゴジュウイーグルとどこか似た雰囲気をしていた。

 だが、そのまま変身が解除されると共に、その正体が露わになる。

 近距離で見ると、目が異様に澄んでいた。澄んでいるのに底が濁っている。獣の集中力と、人間の怨嗟が同居している。

 

「……天羽、尊人」

 

 弦十郎が名前を呼んだ。確認だ。線を引くための呼称だ。

 

「その名前で呼ぶな」

 

 尊人の声が震えた。怒鳴っていないのに震えが刃になる。尊人は弦十郎を見て、確信の色を濃くした。初対面のはずの相手に向ける視線ではない。ずっと前から、資料の上で追ってきた相手を見る目だった。

 

 尊人の脳裏に、天羽奏の声がよぎる。笑いながら、妙に真剣に言っていた言葉だ。二課がどういう連中で、現場をどう片付け、誰が最前線で拳を振るうのか。名前までは伏せていても、特徴だけで分かると奏は言っていた。背丈、立ち方、声の圧、そして「現場の男は、誰よりも先に前へ出る」。

 

 さらに尊人は、スクラップした雑誌記事の切り抜きを思い出す。政府系の対災害特集、格闘技誌のインタビュー、曖昧にぼかされた肩書きの下に載った顔写真。そこに添えられていた名前が一致した瞬間、胸の奥で何かが決定した。彼は関係者だ。あの日の“説明されなかったこと”の中心に立っている男だ、と。

 

「お前が、関係者だってことは知ってる。奏から話は聞いてた。雑誌にも載ってた。現場で前に立つのは、お前みたいな奴だってな」

 

 弦十郎の視線が一瞬だけ揺れた。否定ではない。受け止める揺れだ。それが尊人の怒りに油を注いだ。

 

「話すべきことがあるなら、場所を変える。ここは――」

 

「黙れ!」

 

 尊人が踏み込んだ。

 

 「エンゲージ!」『ジュウオウジャー!』

 

 それと共に、再びジュウオウイーグルへと変身する。

 拳が弦十郎の顔面を狙う。躊躇がなく、弦十郎は受けた。受ける瞬間に肩を落とし、衝撃を流し、地面へ逃がす。路面が小さく割れた。割れたのは路面だけで、人は倒れない。だが、あの一撃が本気なら、次は守り切れない。

 

「やめろ!」

 

 禽次郎が間に割って入った。尊人の視線が禽次郎へ刺さる。弦十郎ではない対象へ向いた分、熱がわずかに落ちた。だが落ちたのは温度だけで、怒りの根は残る。

 

「お前も指輪か」

 

 尊人の目が、禽次郎の拳を見た。そこにある輪の存在を正確に拾う視力。変身していないのに、戦士の嗅覚がある。

 

「そうだ。だから分かる。ここでやったら巻き込む」

 

「巻き込まない。俺が選ぶ」

 

「選べねぇことがある。奪われるってのは、そういうことだ」

 

 禽次郎の声が、自分でも驚くほど低かった。喉の奥に沈めてきた痛みが、勝手に言葉へ出てしまう。尊人の表情が一瞬だけ崩れた。理解された顔ではない。“理解され得る”ことに怯える顔だった。

 

「……分かったふうな口を利くな」

 

「分かったなんて言ってねぇ」

 

「なら黙ってろ!」

 

 尊人は再び弦十郎へ向き直った。復讐の矛先を選び直した背中だった。禽次郎は背中に向かって、短く断定で言葉を投げる。

 

「お前は今、空へ逃げようとしてる」

 

 尊人の動きが止まった。否定できないから止まる。復讐は地上にいる人間を巻き込む。だから“上”へ行く。巻き込まないための逃走は、同時に止められない暴走でもある。

 

「……逃げじゃない。道だ」

 

 尊人が吐き捨てた。次の瞬間、ドローン群が一斉に上昇し、風の壁を作った。目くらまし。上空へ抜けるための煙幕。禽次郎が追おうと踏み込むが、弦十郎が肩を掴んで止める。

 

「今は市民が先だ」

 

「分かってる!」

 

 禽次郎は歯を噛みしめ、避難誘導へ戻った。守るべきものが目の前にある。だから追えない。追えないことが、いちばん腹立たしい。尊人の背中が風の向こうで小さくなっていく。復讐の方向が、空の高さへ向かうのを見送るしかない。

 

 弦十郎が空を見上げた。拳は下ろしているのに、視線は鋭いままだった。

 

「……あいつの中にあるのは、正義じゃない。痛みだ」

 

 禽次郎は頷いた。言葉にしない。言葉にすると、痛みはまた別の形で暴れる。

 

「止めるぞ」

 

 禽次郎が言った。

 

「止める」

 

 弦十郎が言った。

 

 空は、まだ静かではなかった。上で何かが始まる前兆だけが、風に混じって続いている。禽次郎は拳を握り直し、指輪の硬さを確かめた。奪われる側の痛みを知っているからこそ、奪う側にはさせない。たとえ相手が、同じ痛みを抱えていたとしても。

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