ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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怒りは隠せず

 尊人が風の壁に紛れて上空へ逃走したあと、禽次郎は市民の避難を完了させると同時に屋上へ駆け上がり、迷いなく空へ踏み出した。指輪の力が身体の重心を引き上げ、夜気が頬を裂く。遠くに散ったドローンの点列、その中心に紛れる“生き物の軌道”だけが異様に滑らかで、禽次郎の視界に引っかかった。

 

 禽次郎が高度を上げると、尊人は振り返り、短く息を吐いた。視線が合っただけで、空気が張る。獣の視力が、こちらの呼吸の癖まで拾っているようだった。

 

「来たか」

 

「止める。ここから先はやらせねぇ」

 

 言葉が届く距離まで詰めた瞬間、尊人は腕を振る。散っていたドローンが集まり、禽次郎の進路に“空の柵”を作るように旋回した。禽次郎は速度を落とさない。落とせば、衝突が起きる。衝突は破片を落とし、破片は地上の誰かを奪う。

 

 禽次郎は腰をひねり、柵の隙間へ身体を滑り込ませた。だが、隙間を通ることを見越していたかのように、尊人が先回りする。夜の空で、尊人の手が一度、何かを“引き寄せる”仕草をした。

 

 尊人の手に現れたのは、ジュウオウバスターだった。二つのキューブが付いた武器は、握っただけで重心が変わる。尊人は迷わず青いキューブ――象と虎が描かれたキューブを銃口側へセットした。

 

「……銃か」

 

 次の瞬間、ジュウオウバスターが銃モードへ切り替わり、立方体のエネルギー弾が連続で撃ち込まれる。弾はただの連射ではない。空気の層を叩き、禽次郎の進路を狭めるように“角”を作って迫る。直撃すれば落下、避けても姿勢が崩れれば落下。落下が最悪だ。

 

 禽次郎は手を伸ばし、鷲の形を模した弓矢――イーグルシューター50を呼び出した。握った瞬間、弓の輪郭が夜に浮かび、弦にエネルギーが走る。禽次郎は空中で膝を引き、重心を固定し、一本だけ矢を番えた。

 

 放った矢は、真っ直ぐではなかった。弾道は風に合わせてわずかに曲がり、迫る立方体のエネルギー弾の“角”を狙って穿つ。ひとつ、ふたつ、連続して爆ぜ、空に短い火花が散った。破片は上で消える。地上へ落ちる前に、禽次郎が高度を選んでいた。

 

「射撃で止められると思うな」

 

「撃って止めるんじゃねぇ。落とさないために削ってる」

 

 尊人は返事の代わりに、さらに射角を変えた。銃口が微妙に上を向き、弾が禽次郎の逃げ道を塞ぐ。禽次郎は矢を連射しない。連射は派手で気持ちいいが、空中では“撃つ動作”が姿勢の崩れになる。禽次郎は一本ずつ、必要な角だけを抜き、残りは回避でいなす。矢を放つたび、弓が低く鳴り、鷲の羽ばたきのように風が裂けた。

 

 それでも距離は詰まらない。尊人の視界が異常に広い。鷲の視力で禽次郎の僅かな体重移動を読み、象と虎の力で銃を安定させ、弾道を“置く”。空の上で、尊人は狩りをしている。

 

「お前は止めたいだけだろ」

 

「止めるだけで十分だ。誰かを増やさせない」

 

「増やす? もう増えたんだ。奏は――」

 

 尊人の声が一瞬だけ掠れた。その隙を禽次郎は見逃さない。禽次郎は高度を下げずに横へ滑り込み、矢を“尊人の手元”へ向けて放った。狙いは人体ではない。ジュウオウバスターのキューブ。青いキューブの固定部を掠めるように撃つ。

 

 エネルギー矢が触れ、ジュウオウバスターがわずかに跳ねた。尊人が咄嗟に握り直す。その瞬間、射撃の圧が途切れる。禽次郎は一気に詰めた。

 

「それ以上言うな。言葉にしたら、復讐が形になる」

 

「黙れ!」

 

 尊人は青いキューブを引き抜き、今度は赤いキューブ――鷲、サメ、ライオンが描かれたキューブを銃口側へ差し替えた。切り替えは一瞬。刃が伸び、ジュウオウバスターは剣モードへ変貌する。夜の空に伸びた刃は、ひと振りで気流を切り裂き、禽次郎の身体を“落とす方向”へ押しやった。

 

 禽次郎は弓を盾にするのではなく、弓身で刃の軌道をいなした。金属とエネルギーが擦れる鈍い音が響き、衝撃が腕から肩へ抜ける。いなした勢いで、禽次郎はイーグルシューター50の弦を引き絞り、ほぼ零距離で矢を放つ。矢は尊人の胸ではなく、足元の空気へ打ち込まれ、爆ぜる風圧で距離を作った。落ちない距離、でも踏み込めない距離。空中戦の距離感は、地上の格闘とは別物だった。

 

「剣で切れば終わると思うな」

 

「終わらせるためじゃない。弦十郎を――関係者を引きずり出す」

 

 尊人が剣を構え、直進してくる。直線は最速だ。禽次郎は真正面から受ければ押し切られると判断し、矢を一発、尊人の進行方向へ置いた。矢は尊人を狙わない。尊人が通る“未来の点”を狙う。爆ぜた風が、尊人の突進をわずかに上へ逸らす。

 

 逸れた一瞬に、禽次郎は下へ潜った。視界を切る。尊人の獣力は強いが、怒りが濃くなるほど、視線は一点に縛られる。禽次郎はその縛りを利用し、弓を横に振って尊人の腕を叩き、剣の軌道を外へ逃がした。外へ逃がす――地上へ向けないために。

 

「やめろ。復讐で空を汚すな」

 

「汚れてるのは最初からだ!」

 

 尊人が叫び、剣を振り下ろす。禽次郎は矢を番えたまま、振り下ろしの“下”へ滑り込むように回り、尊人の背に回った。背中は無防備だが、そこを撃って終わりにはしない。禽次郎は矢を放たず、声だけを投げた。

 

「僕も、愛してた奴を亡くした。だから分かる。復讐は、息を止める」

 

 尊人の動きが一瞬止まる。止まった直後、止まったことを許せないように、尊人は剣を払って振り向く。刃先が禽次郎の頬を掠め、冷たい痛みが走った。

 

「分かったふうに言うな!」

 

「分かってねぇ。分かりたいから止めるんだ!」

 

 禽次郎は矢を放った。今度は尊人の身体ではない。ジュウオウバスターの赤いキューブ、その差し込み部へ。矢は固定部を打ち、刃の伸びが一瞬だけ揺らぐ。尊人が握り直す。握り直す、その“ほんの半拍”で剣の圧が抜けた。

 

 禽次郎は抜けた圧を逃さず、尊人の手首を掴む……寸前で、掴まずに離れた。掴めば、落とし合いになる。落とし合いは地上に落ちる。禽次郎は掴まない代わりに、身体を寄せ、肩で尊人を押した。押す方向は上。地上から遠ざける方向。尊人の復讐が地上へ落ちないように。

 

 尊人は空中で体勢を立て直し、ジュウオウバスターを銃モードへ戻そうと青いキューブへ指をかけた。禽次郎は、その指の動きを見て矢を構える。矢は撃つためではない。切り替えを“躊躇させる”ためだ。

 

「次に撃ったら、俺はお前の武器を壊す」

 

「壊せるならやってみろ」

 

「壊したくねぇ。だが、落とさせもしねぇ」

 

 言い切った禽次郎の背後で、遠い通信が混じった。弦十郎の声が、夜気を裂いて届く。

 

「猛原、下は俺が抑える! お前は落とすな、落ちるな!」

 

 禽次郎は短く応え、尊人を見た。尊人の目の底の濁りは、怒りではない。喪失そのものだ。その喪失が銃と剣を切り替えながら、空に形を作っている。

 

 尊人は踵を返し、政府区画の方角へ飛び始めた。逃走ではない、と尊人は言うだろう。道だ、と。禽次郎は追う。矢を番えたまま、追う。落とさないために、そして、尊人が復讐に飲まれて誰かを落とす前に。

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