ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
夜の上空は、追うほどに狭くなる。街灯の列が密になり、ビルの高さが揃い始め、風の流れが“規則正しい壁”に切り刻まれていく。猛原禽次郎がゴジュウイーグルとして追い続けているのは、天羽尊人――ジュウオウイーグルの背中だった。逃走という言葉は似合わない。尊人の飛び方は迷いを捨てた直線で、目的地へ向かう刃の軌道に近い。
「止まれ、天羽!」
禽次郎が叫ぶと、尊人は振り向かないまま応じた。
「止まる理由がない」
その声に、怒鳴り声の熱はない。あるのは冷えた執念だ。奏の死、その周辺の“説明されない空白”に対して、尊人は復讐という名の形を与えた。形があるから進める。進めるから痛みが鈍る。鈍らせるために、今は飛んでいる。
尊人が腕を翻し、ジュウオウバスターの銃モードが火を噴いた。青いキューブ――象と虎の描かれたキューブが銃口側にセットされ、立方体のエネルギー弾が空に“角”を刻む。弾は禽次郎の左右ではなく、進路の前方に置かれる。避けるための空間そのものを削る撃ち方だ。
禽次郎はイーグルシューター50を引き絞り、矢を一本だけ放つ。矢は弾を打ち落とすのではなく、弾道を歪ませるように角を穿つ。爆ぜた光が夜気を薄く染め、破片は高度で散って消えた。地上へ落とさない選択は、戦い方そのものを縛る。禽次郎はその縛りを受け入れていた。守るべき地上がある限り、自由な空中戦など存在しない。
だが尊人は、その縛りを逆手に取ってくる。撃つ、避ける、削る。その繰り返しに、突然“違う音”が混ざった。金属が擦れる高い鳴き声のような音だ。
尊人の手に、新しい武器が生まれていた。細身の長剣――イーグルライザー。剣身は一見すると普通の刃だが、刃先の輪郭が揺らぎ、伸び縮みする気配がある。尊人はジュウオウバスターを一瞬で引き、イーグルライザーへ持ち替えた。
「……新手か」
禽次郎が警戒を強めた瞬間、尊人はわざと銃弾を一発だけ撃ち、反動の勢いに身を任せて横へ吹き飛んだ。普通なら体勢が崩れて落ちる。だが尊人は、吹き飛ぶ“衝撃”に合わせてイーグルライザーを振る。刃が伸びた。伸びた刃先が、下方の河川敷に並ぶ街路樹へ巻き付くように絡み、尊人の身体を空中で引き止めた。
まるで受け身だ。衝撃を“落下”に変えず、樹へ預けて殺している。尊人は樹の幹を軸に身体を一回転させ、勢いを減速へ変えたまま進路を変える。禽次郎の矢が追いつく前に、尊人は再び空へ跳ね戻った。
「そんな芸当が……!」
「俺は落ちない。落ちるのは、お前のほうだ」
尊人が言い放ち、イーグルライザーを振り抜く。刃がさらに伸びた。伸びた刃は鞭のようにしなり、禽次郎の足元の空気を絡め取るように迫る。禽次郎が反射的に上へ逃げると、刃は追尾するように伸び、今度は禽次郎の腕へ巻き付いた。
巻き付かれた瞬間、力が抜けたわけではない。むしろ逆だ。拘束は“落とす”ためではなく、“動けないまま落ちる方向へ”誘導するためのものだった。空中で自由を奪われたら、次に支配されるのは高度だ。高度を支配されれば、地上が危険になる。
「っ……離せ!」
禽次郎はイーグルシューター50を片手で引き絞り、矢を番える。しかし腕が絡め取られている。撃てば姿勢が崩れ、崩れた瞬間に落ちる。尊人はそれを待っている。
「撃て。撃ってみろ。お前が守りたい地上へ、破片を落としてやる」
「脅しで言ってるなら……」
「脅しじゃない。選択だ。俺は“選ぶ”。お前も選べ」
尊人の声には、怒りの熱よりも、諦めた冷たさが混じっていた。禽次郎はその冷たさを知っている。痛みが長く続くと、人は熱を失う。熱を失った代わりに、一本の理屈だけが残る。尊人の理屈は“報いが必要だ”だ。報いを求めるほど、報いを与える対象は増えていく。
禽次郎は、矢を撃つのをやめた。代わりに、絡み付く刃に向けて、弓身をひねり、わずかな角度で擦り付ける。エネルギーが弓の輪郭に走り、刃の巻き付きが一瞬だけ弛む。その瞬間、禽次郎は身体を回転させて拘束の方向をずらし、落下ではなく“横滑り”へ変えた。河川敷の上に移動し、地上の人が少ない方へ自分の位置を移す。落とされるなら、落ちる場所を選ぶしかない。
「……お前、痛みを知ってる顔をするな」
尊人が低く言った。禽次郎は、嘘をつかない。嘘をつけば、尊人はますます孤立する。
「知ってる。妻を亡くした」
尊人の拘束が一瞬だけ止まる。止まった直後、尊人は自分の手を強く握り直した。理解されることが、復讐の純度を下げる。純度が下がるのが怖い。
「だからって、関係者を守る理由にはならない」
「守ってるのは関係者じゃねぇ。関係ない人間だ。お前が巻き込ませないために空へ来たのは分かる。だが――空から落ちるものは、誰も選べねぇ」
禽次郎が言い切った瞬間、尊人の目の奥の濁りが揺れた。揺れた濁りは、すぐに硬く固められる。尊人はイーグルライザーを引き、今度は自分の身体を樹へ引っ掛けた。受け身ではない。加速だ。樹を支点にして反発し、禽次郎の側面へ一気に回り込む。
尊人は刃を伸ばし、禽次郎の背へ巻き付けようとする。禽次郎は背中を見せないために回転し、イーグルシューター50で刃を叩き落とす。叩き落とした瞬間、尊人はジュウオウバスターを引き抜き、青いキューブで銃モードへ戻して至近距離で立方体弾を放った。
切り替えが速い。剣で絡め、銃で押し、再び剣で縛る。拘束と射撃のループが完成している。禽次郎は防ぎながら確信した。尊人は“止めるための戦い”を許してくれない。どこかで必ず、相手に“落ちる”選択を迫る。
「弦十郎を――二課を引きずり出す。あいつらが、何を隠したのか吐かせる」
尊人は言いながら、進路を政府区画の中心へ切り替えた。煌々と灯る庁舎の明かりが近づく。警備灯が空を舐め、無線のざわめきが風に混じる。地上では封鎖が始まっていた。封鎖の中心に、弦十郎がいる。尊人がそれを知ったのは、奏の言葉と、集めた記事と、そして今の“確信”のせいだ。
「天羽! 止まれ!」
禽次郎が叫ぶと、尊人は振り向かずに答えた。
「止まれない。止まったら、奏が死んだ意味が消える」
「意味は消えねぇ。お前が生きて向き合う限り――」
「生きる? 生きてるだけで、何が戻る!」
尊人が声を荒げ、イーグルライザーを大きく振った。刃が伸び、河川敷の樹を薙ぐように巻き付き、尊人の身体をさらに前へ弾き出す。風が裂け、夜が鳴る。禽次郎は追いつきながら、地上の明かりを見た。庁舎の周囲にはまだ人がいる。封鎖が完了していない。尊人がここで何か落とせば、取り返しがつかない。
禽次郎は決めた。撃つ。撃って、止める。ただし、身体ではなく武器を止める。尊人の腕に巻き付く刃の根元へ狙いを定め、矢を番える。尊人はそれを見て、にやりとも笑わず、ただ冷たく言った。
「やってみろ。俺の復讐を折るなら、お前の手で折れ」
次の瞬間、尊人はイーグルライザーの刃を伸ばし、禽次郎の弓へ向けて巻き付けた。拘束は、今度は禽次郎の武器へ。弓を奪えば矢は撃てない。撃てなければ止められない。空中での“手詰まり”が、尊人の狙いだった。
禽次郎は弓を手放さない。手放せば地上が危ない。だが持てば拘束される。二つの翼が夜の上で絡み、庁舎の明かりが目前に迫る。
そのとき、地上から一本の怒号が空を裂いた。
「天羽ァァ! そこで止まれ! これ以上は俺が許さん!」
弦十郎の声だった。尊人の身体が、ほんの一瞬だけ硬直する。怒りに反応したのではない。関係者が“正面に立った”事実に、復讐心が呼吸を取り戻した。
禽次郎は、その一瞬を見逃さなかった。矢を放つか、言葉を放つか。どちらか一つしか選べない距離。禽次郎は弦を引き絞り、狙いを刃の根元へ定めた。