ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦   作:ボルメテウスさん

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爆発せし怒り

 庁舎の灯りが、夜空に四角い白を浮かべていた。警備灯が規則正しく空を舐め、無線のノイズが風に乗って上がってくる。猛原禽次郎はその光景を、嫌というほど知っている。安全のための灯りが増えるほど、そこにいる人間の数も増える。増えるほど、落下は許されなくなる。

 

 天羽尊人――ジュウオウイーグルの背中は、迷いのない矢のように庁舎へ向かっていた。復讐心が導く軌道は真っ直ぐだ。真っ直ぐであるほど、横から引き戻すのが難しい。

 

「天羽! 止まれ!」

 

「止まれない。止まったら、奏が死んだ意味が消える」

 

 尊人の声は冷えていた。怒りで燃えているはずの芯だけが、凍っている。禽次郎は追いながら、イーグルシューター50の弦に指をかけた。狙いは身体ではない。イーグルライザーの根元、巻き付きの起点。拘束が続けば、いつか誰かが落ちる。

 

 だが尊人は、その“狙い”を読んでいた。イーグルライザーの刃が伸び、鞭のようにしなって弓へ巻き付く。金属の冷たさが装甲越しに伝わる。弓が締め上げられ、弦を引く余裕が奪われた。

 

「撃てないな」

 

「……だからって、行かせる理由にはならねぇ」

 

 禽次郎が身体をひねって拘束を緩めようとするより先に、尊人はジュウオウバスターを引き抜いた。青いキューブ――象と虎の描かれたキューブを銃口側へ。銃モード。立方体のエネルギー弾が、庁舎の上空に“角”を刻むように並ぶ。

 

 あれは牽制ではない。落とすための枠だ。空中で逃げ道を削り、最後に一撃で墜とす。その墜落がどこへ落ちるかは、誰も選べない。尊人は「俺が選ぶ」と言うだろう。だが、選べるのは“狙い”であって、落ちた先の現実ではない。

 

 地上から怒号が飛んだ。

 

「天羽ァァ! そこで止まれ! これ以上は俺が許さん!」

 

 風鳴弦十郎の声だった。庁舎の正面、警備線の手前に立っているのが見える。現場の中心に立つ男。奏が話していた「前に立つ関係者」。尊人にとっては、復讐心の的が“形”を得た瞬間だった。

 

「いたな……!」

 

 尊人の翼が一段鋭く切り替わる。狙いが定まり、迷いが消える。その迷いの消え方が、禽次郎には怖かった。迷いがない行動は、止められたときに自分を壊す。

 

「天羽、聞け!」

 

「聞く? 聞いたさ。雑誌も、噂も、隠されたままの報告も。全部、聞いた!」

 

 尊人がジュウオウバスターを構え直す。銃口が、弦十郎のいる方向へ“置かれた角”の隙間を通す形で向く。撃てば届く。届いてしまう。

 

 禽次郎は、弓を引けないまま、判断だけで先に動いた。イーグルライザーの巻き付きを無理に解こうとしない。解こうとすれば遅れる。遅れれば撃たれる。なら、別の力で“空そのもの”を歪めるしかない。

 

 拳の中、もう一つのリングが冷たく硬い主張をしていた。ダイナマン。禽次郎がいつかの戦いで手にして、それでも使う場面を選び続けてきた力。派手で、強くて、だからこそ人間に向けたくない力。

 

 だが今、撃たせないことの方が優先だった。

 

 禽次郎は息を吸い、言葉を切った。

 

「エンゲージ!」

 

 指輪が応え、装甲の上に別の輪郭が重なる。科学の熱、爆発の匂い、押し返すための推進。イーグルの機動が“鋭さ”なら、ダイナの力は“押し出し”だ。禽次郎の両手に、二本の剣が現れる。刃は派手に輝かない。代わりに、周囲の空気が妙にざわつき、温度が変わった。

 

「……何だ、それ」

 

 尊人の声に、初めて驚きが混じった。

 

「落とさねぇための、最後の手段だ」

 

 禽次郎は剣を構え、空中で一歩踏み込む。踏み込む先に地面はない。だが、空を“掴む”ように重心を決めると、身体が落ちない。次に剣を振るう軌道だけが、夜の上に描かれる。

 

「竜巻剣――!」

 

 禽次郎が振り抜いた瞬間、刃が何かを切った感触はなかった。切ったのは空気だ。刃の周囲に渦が生まれ、渦が渦を呼び、風の柱が立つ。爆発ではない。衝撃でもない。回転の圧力が、尊人の周囲の空気を“引き剥がす”ように持ち上げた。

 

 最初にほどけたのは、イーグルライザーだった。巻き付いていた刃が渦に捻じられ、弓から外へ引き剥がされる。拘束が解けるより早く、尊人の腕が引っ張られ、ジュウオウバスターの銃口が狙いから逸れる。立方体の弾が空に散り、角が崩れた。

 

「っ、何を――!」

 

 尊人が踏ん張ろうとする。獣力で姿勢を戻そうとする。だが竜巻剣の渦は、踏ん張りの“支点”を奪う。支点がないまま力を入れれば、力は自分を回す。尊人の身体が回転し、視界が流れる。鷲の視力が“当てたい一点”を見失う。見失うことが、尊人にとって一番の恐怖だった。

 

「見失うな……! 見失うな!」

 

「見失え。今は、見失う方がいい!」

 

 禽次郎は渦を一点に集めない。集めれば落とす。集めず、尊人の周囲を“輪”にして回す。輪の内側に閉じ込めて、速度だけを削る。落下ではなく、失速へ。失速させれば、制圧できる。

 

 尊人はイーグルライザーを握り直し、刃を伸ばして渦の外へ引っ掛けようとした。街路樹、電柱、庁舎の壁。何でもいい。受け身のように衝撃を和らげ、支点を得るための巻き付き。

 

 禽次郎はそれを許さない。二本の剣を交差させ、渦の輪郭を少しだけ広げた。広げることで、尊人が伸ばした刃先が“掴む前”に空気に絡め取られる。巻き付く先が、渦の中でずれていく。

 

「やめろ……! 俺は、止まれない!」

 

「止まれないなら、止める。お前が誰かを墜とす前に!」

 

 禽次郎は渦の内側へ踏み込み、最後に一度だけ剣を強く振った。渦が弾けるように収束し、尊人の手から武器だけを弾き飛ばす。イーグルライザーが回転しながら夜の外へ飛び、ジュウオウバスターが追うように外へ滑る。飛ばした先は庁舎から遠い方向、河川敷側。落ちても人がいない場所。禽次郎はそこまで計算していた。

 

「武器は奪った」

 

 禽次郎が言うと、尊人の肩が震えた。武器を奪われたからではない。復讐の“手段”を奪われたからだ。手段がないと、痛みがそのまま胸へ戻ってくる。戻ってくる痛みから逃げるために、尊人はまた翼を動かす。だが速度は出ない。渦に削られた体勢が戻らない。視界がまだ流れている。

 

 禽次郎は近づき、尊人の背中に手を伸ばした。掴むためではない。落とさないために、支えるための手だ。だが尊人は、その手を拒絶するように叫んだ。

 

「触るな! 同情するな!」

 

「同情じゃねぇ。理解だ」

 

「理解? なら、俺を止めた責任を取れ!」

 

「取る。だから、今は落ちるな!」

 

 禽次郎は尊人の腕を掴み、失速した身体を自分の高度に合わせた。二人の影が庁舎の上空で重なり、ゆっくりと“安全な方向”へ流れる。地上では弦十郎が、拳を下ろしたまま空を見上げていた。殴りたいはずだ。止めたいはずだ。だが殴れば、尊人は折れる。折れた復讐心は、別の形で暴れる。

 

 尊人は歯を食いしばり、喉の奥から言葉を絞り出した。

 

「……答えろ。何を隠してる」

 

 弦十郎が返そうとした瞬間、禽次郎が声を重ねた。短く、断定で。

 

「今は答えを迫るな。お前は今、答えを“殴って出す”顔をしてる」

 

「……!」

 

「答えが欲しいなら、生きて聞け。墜ちたら、二度と聞けねぇ」

 

 尊人の呼吸が乱れる。乱れる呼吸の中に、ほんのわずかな迷いが戻った。迷いは弱さではない。止まるための隙間だ。

 

 禽次郎は渦の残り香が消えるのを感じながら、ゆっくりと高度を下げた。庁舎から離れた屋上へ、尊人を運ぶ。地上へ直接落とさない。地上は目撃者が多い。多いほど尊人は追い詰められる。追い詰められれば、また暴れる。

 

 屋上に降り立った瞬間、尊人の膝が崩れた。戦闘で折れたのではない。復讐心が一瞬だけ行き場を失った崩れ方だ。禽次郎は手を放さず、支え続ける。

 

「……終わりか」

 

 尊人が絞るように言った。

 

「終わりじゃねぇ。ここからだ」

 

 禽次郎は言い切った。弦十郎が遅れて屋上へ上がってくる気配がする。重い足音。現場の男の足音。尊人はそれを聞いて肩を強張らせた。復讐心がまた疼く。だが武器はない。翼も乱れている。今の尊人に残っているのは、痛みと疑念だけだ。

 

 禽次郎は、その疑念を否定しないまま、先に釘を刺した。

 

「殴り合いで答えは出ねぇ。出るのは、また別の喪失だけだ」

 

 弦十郎が屋上へ現れ、尊人を見下ろした。拳は握っている。だが振り上げない。視線だけが強い。

 

「……天羽。お前が求めてるものは分かる。だが、今夜はここまでだ」

 

 尊人は唇を噛んで、視線を逸らした。屈服ではない。耐えている。耐えることで、復讐心を繋ぎ止めている。

 

 禽次郎はダイナマンのリングを握り直し、静かに息を吐いた。竜巻剣は“倒す技”ではなく、“落とさないための技”として使った。それでも、力を振るった後味は重い。救えなかった記憶が、また一枚増えたような気分になる。

 

 だが増やしたのは喪失ではない。止めたのは喪失だ。そう信じて、禽次郎は尊人の肩に手を置いた。

 

「天羽。次は言葉でやれ。お前の痛みを、武器にするな」

 

 尊人は返事をしなかった。ただ、震える呼吸の中で一度だけ、息を吸った。息を止めるのをやめた、その小さな変化だけが、この夜の決着だった。

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