ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
バイト帰りの夜道は、いつもより静かだった。正月飾りが剥がれかけたまま街灯にぶら下がり、風が吹くたびに乾いた紙の擦れる音が耳の奥を引っ掻く。制服の袖口にはまだ洗剤と揚げ物の匂いが残っていて、レジの熱とビニール袋の摩擦が指先にしつこく貼り付いている。生活の匂いだ。生きてる匂いのはずなのに、胸の奥だけが妙に冷えたままだった。
指輪の争奪戦は終盤――そう言っていいところまで来ている。残るユニバース戦士も僅か。勝ち抜いた先に、願いを叶える権利がある。誰もがそれを知って、加速していく。なのに俺だけが、どこかでブレーキを踏んだまま走っている気がした。
ポケットの中で、いくつものリングが擦れ合う。金属の冷たさがじわじわ指に移って、俺は足を止めた。勝って奪ったもの。譲り受けたもの。守るために握り潰しかけたもの。掌にひとつずつ並べると、街灯の光を鈍く返して、まるで目みたいにこっちを見返してくる。
願いがない。正確には、見つからない。望んだ瞬間に誰かの不幸に接続しそうで怖い。俺が願いを口にした途端、世界がそれを代償に変えてしまうような気がして。だから指輪を眺める仕草ばかり増える。願いを考えているふりをして、実は“願わずに済む理由”を探しているのかもしれない。
そこまで考えた瞬間、風向きが変わった。排気ガスでも煙でもない。鉄が熱を失う前の匂い。血と雨の匂いに似ていて、背筋が先に硬直した。
建物の影から赤い影が転がり出てきた。重い音。擦れる音。コンクリの上を装甲が引きずられる音が、やけに大きい。赤い戦士――恐竜みたいな意匠の鎧、ギザギザした装飾、胸元に牙のようなライン。見たことがない。知らない戦隊の匂いがする。いや、匂いというより、型が違う。俺の知っている“リングの戦士”の動き方とは違う。
「おい! 大丈夫か!」
俺が駆け寄ると、相手は首だけ動かしてこっちを見た。視線の強さはまだ死んでいない。でも、それが逆に痛々しい。助ける手を出すより早く、装甲の継ぎ目から光が漏れ、輪郭がほどけた。変身が解ける。その瞬間の空気の抜け方が妙に静かで、街の音まで薄くなった気がした。
そこにいたのは、若い女性だった。留学生っぽい雰囲気。肌は冷たく、髪は汗と雨で濡れたみたいに額に張り付いている。唇が薄く震えているのに、目だけはまっすぐだった。悔しさと誇りが同居している目だ。倒れる寸前なのに、倒れることを許していない顔。
「……っ」
「喋るな。救急――」
言いかけて、俺は息を呑んだ。彼女の指輪が、熱を失った。いや、熱を失うんじゃない。“引っ張られる”。見えない糸に縫い留められていたみたいに、リングが彼女から離れ、夜気の中へ滑り出す。金属が鳴る音はしない。代わりに、鼓膜の奥で、ぴん、と細い弦が弾けた。勝者の元へ。ルールが働いた。理屈より先に身体が理解した瞬間、背後の闇が笑った。
「いい顔だね、吠」
声が近いのに、距離が測れない。振り向いた先、街灯の下の影が、影のまま立っていた。ガリュード――クオンがいた