ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVS戦姫絶唱シンフォギア ユニバース大戦 作:ボルメテウスさん
夜間救急の待合室は、昼間よりもずっと静かだった。
蛍光灯の白い光が床に反射して、消毒液の匂いが鼻の奥に残る。処置室の向こうから、機械の動く音と、誰かの足音がかすかに聞こえてきた。
さっきまで、あそこに――血まみれの赤い戦士が運び込まれていった。
俺となつめは、長椅子に並んで座っていた。
なつめは、膝の上で両手を組んだまま、ずっと処置室の扉を見つめている。指先に力が入って白くなっているのに、本人は気づいていないみたいだった。
「……あの人、助かるよね」
小さな声で、なつめが言った。
「大丈夫だと思う」
そう答えながら、俺自身がその言葉を信じきれていないのが分かった。
しばらく、何も話さない時間が続いた。
やがて、なつめがぽつりと口を開く。
「ね、吠さん……僕、昔、災害に巻き込まれたことがあるんだ」
意外な話だったけど、俺は何も言わず、続きを待った。
「避難所だったけど……人が多すぎて……みんな泣いてて……誰も声、出せなくて……」
なつめは胸に手を当てる。
「その時ね、明るい声の人が来たんだ。すごく大きな声じゃないのに、不思議と、ちゃんと聞こえて……」
胸の奥で、何かが引っかかる。
「その人、僕のそばにしゃがんで、ずっと言ってた」
なつめは、少しだけ表情を柔らかくして、当時の声を真似るように言った。
「『大丈夫だよ。ね、ちゃんと息できてる。……ほら、一緒に、ゆっくり吸って、吐いて』って」
なつめは無意識に深呼吸してみせる。
……ああ。
その言い方を、俺は知っていた。
「それだけでね……本当に、苦しくなくなったんだ」
俺も、つられて息を整えていた。
「それで……周りの人が、その人のこと、呼んでて」
「……なんて」
「『立花さん、こっちもお願いします!』って……」
その瞬間、頭の中で、いくつもの記憶が一気につながった。
明るい声。
呼吸に寄り添う癖。
現場で自然に前に出る立ち方。
そして――その名前。
俺は、ゆっくりとなつめの方を向いた。
「……なつめ」
「なに?」
「それ、多分……俺の幼馴染だ」
なつめが目を見開く。
「え……?」
「立花響。……子どもの頃に一緒にいたやつだ」
なつめはしばらく言葉を失って、それから小さく息を吐いた。
「……やっぱり……」
「やっぱり?」
「吠さんが話してた人……元気で、前に出て、誰かのそばに立つ人……あの人と、同じだった」
なつめは胸の前で手を握る。
「僕……その人に、お礼が言いたい」
「直接言えばいい」
「……無理」
首を振って、少し照れたように笑う。
「言葉じゃ、足りない」
そして、静かに言った。
「だってね……あの時、助かったの、歌だったから。……あの人の声と一緒に聞こえた歌で、僕……生きようって思えた」
俺は黙って聞いていた。
「だから……歌で返したい。助けてもらったお礼。あの人に、ちゃんと届けたい」
少し間を置いて、なつめは別のことを口にした。
「……それとね、吠さん」
「ん?」
「今日だけじゃないんだ。吠さんに、助けてもらったの」
驚いて、思わず顔を向けた。
「前にも……コンビニで、吠さんが傷だらけになってた夜」
喉が、かすかに鳴る。
「あの時……僕、すごく怖くて……でも、吠さん、何も言わずに、ずっと立ってて……」
なつめの声は震えていた。
「その時、僕……“この人が守ってくれたんだ”って、ずっと思ってた」
そして、はっきり言う。
「今日も……また、そうだった」
名前も知らない戦士を、俺が助けに行ったこと。
……そんなふうに、見られていたなんて。
「当たり前だろ」
そう言うと、なつめは首を振った。
「当たり前じゃない。……吠さん、僕を二度、助けてくれた」
一度目は、あの時のコンビニ。
二度目は、俺がゴジュウウルフへとなった時。
「それに……響さんの話、吠さんがしてくれたから……僕、自分の夢、決められた」
まっすぐ、俺を見る。
「だからね」
少し照れながら、でもはっきり言った。
「吠さんが戦うなら……僕、力、貸すよ」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
願いが見つからなくて、ただ戦ってきた俺が。
知らないうちに、誰かの願いを叶えていたなんて。
「……そんなつもり、なかった」
「でも、そうなんだよ」
なつめは優しく言う。
「だから今度は、僕が吠さんを支える番」
処置室の向こうで、機械音が止まった。
俺はゆっくり立ち上がって、短く言った。
「……ありがとう」
それしか、言えなかった。